【散文】 重たい反射



 悲しみを感じることはできても、悲しみを纏うことができない。
 容易に「本当」などと抜かすくせして、とことん本当に弱い。
 現実の事だ。

 こんな夜に手を伸ばす現代作家がいる。
 彼女は今も、この世界のどこかで、息をしている。

 彼女に手足を縛られ、硬い髪を撫でられ、強く鬼頭を握られる。
 雨雲のような両腕に抱きしめられる間、お利口にも僕の性器は反応し、その癖涙を流し、
 ああと喘ぎ、ああと叫ぶ。
 怖くて、ああ気持ちよくて、「今」が怖くて、本当に、本当に気持ちがよくて、
 がくがくと震わす身体から染みる、奇妙な煙に酔いしれる。

 あなたになら、なりたい。
 それがどんなにいばらの道でも、
 僕は僕よりも、あなたをやりたい。

 その快楽を人は「嘘」だという。
 分かった顔で、「素敵」だと言う。
 困ったように「私には難しい」と笑う。
 西の空が、とても綺麗です。
 会いたい。どこにいますか。

 意気揚々とレジに並んでいた自分を、あの頃に抱いていた見通しを、
 心から気の毒に思う。
 それでも、ご機嫌に搔き集めてしまった。
 かき集めてしまった。
 本棚は手軽じゃない。
 それでも悲しみは纏えず。
 度を越えてただ、可哀相なだけ。

 昔の小説家は、僕には難しい。
 「傑作は褪せない」だなんて、お門違いも甚だしい。
 ちゃんと分かる言葉で、わかりやすく書けバカ。

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