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South/iSland物語

SP篇

バンちゃん「『ネオの周りは相変わらずだった。』というわけにも、ねぇ、いかないんよ。」
ガン(以下ちゃん略)「わかるわかる」
バン「そろそろネオの謎解きを始めないといけんし」
ガン「そうそう」
バン「まだ、烈光店とSP社は出逢ってもおらんし」
ガン「んむんむ」
バン「要するに出番がない、と」
ハク「ボクは暴れたッスよ」
バン「お前だけね・・・ちょっと待て。わしのマンジュウが・・・ない」
ガン「まんじゅう怖いまんじゅう怖い」
ハク「というわけでボクらは烈光養殖ですが、ここからはSP篇どうぞ!」
バン「え・・・」
ガン「ステ恋物語の続篇でーす」


~プロローグ~ 災い
/夢はしばしば現世を映し出す/
同じ二階建てのアパートが四軒、並んでいる。一階と二階に一家族ずつ、最高八家族が住むことができ、今は七家族が暮らしている。部屋は台所、リビング、和室と物置に使える小部屋が一つ、あとはトイレとバスルームである。
二階に住んでいる新婚夫婦の家。実は、一階にするか二階にするかでひともめあった。夫の方は何かあった時、一階の方が逃げやすいと主張し、妻の方は二階の方が好きだと言い、結局、世の常で妻が強かった。
昨夜来、夫の仕事仲間が訪ねて来て、二人で飲み続けていた。新妻は明日はたまの休みなんだからと、不平を言っていた。それでも、夫のよく知った友だちなので最初はつまみをみつくろってくれていたが、十一時くらいになるとふて寝してしまった。明け方近くになってやっと寝静まったようだった。
「おい!起きるさ」
「・・・うーん・・・」
「『うーん』じゃないさ」
「ねぇ、起きた?ネオさん」
「まだ、寝てるさ。飲んだからなー」
「どうしちゃったのかしら?」
「まぁ、男には飲みたい時があるさね」
「ほえ。」
バラバラバラッ!?
「ヘリ?こんなところで?・・・近っ!」
続いて聞こえてきたのは何だったか・・・?
見えない敵にマシンガンを・・・。
ガラスの破片が舞い上がる。ソファーが木の屑に変わって・・。
「伏せろーメーナリー!?」
目の前のドアを蹴破ってメーナリーを小脇に抱えたまま、階段から下へと転げ落ちた。
「きゃあー」
メーナリーは悲鳴を残して気絶してしまっていたようだ。
次に眼を開けた時の光景は、まるで地震に遭った後のようだった。そして彼女は次の瞬間に最悪の状況を想像した。
「・・・ん。ステくんステくんステくん・・・・・・」
メーナリーはここでちょっと自分のおしりの下を見てみた。
「ネオさん!」気絶している?

バラバラバラッ!?
うん、久しぶりに飲みすぎた。頭イタイ・・・。
「伏せろーメーナリー!?」聞き慣れたヒトの声?この叫びに目を覚まし、ついでに身体が勝手に反応して、ステに続いてドアを飛び出していた。
あっ、と我に返った時にはもう遅く、メーナリーを抱えたステより一足早く、空中に浮き、階段を滑り落ちていた。
この出来事を知っているのは気絶して本人しかわからないわけだが・・・・・・。

「うーーん、窓がなくなって寒いさ・・・うーーん重いさ」
眼が・・・覚めた。
「・・・メーナリー」
重いのはこいつのせいか。自分がどこにいるかはわからないが、とりあえず、二人とも生きているらしいと、安心した。―オレっちの家はえらい風通しが良くなってるだろうなー。真冬さ―
「いーやーん。外は寒いけどぉ、病室はあついねぇ~」
「バーンか?何やってるさ?」
「なにって、お見舞いに決まって・・・」
「ほえ?」
すると寝ぼけた感じでメーナリーも顔を上げた。
「ステくん!!起きて・・・」
ひとしきりメーナリーの泣き声が続いたあと、ステはそばに座っているネオに気付いた。
「ネオ・・・おまえどうやって助かったさ?」
「ステさんのおかげで」よく見るとネオも傷だらけである。
ステ入院の報告はSP社にも衝撃が走った。病院には警察がひっきりなしにお見舞いに来ていて、なかなかゆっくりできなかった。さいわい、ステもネオも怪我の方はたいしたことないようだったので、一日検査をした後はすぐに退院できるそうだ。

~1話~ 火

次の日の午前中、ステは検査ばかり受けさせられて、「何だか、ついでにあちこち見てもらおう」というメーナリーの陰謀じゃないかと考えていた。ちなみに、メーナリーは家があんななので、病院に泊まって、朝、家に帰っていったようだ。必要なものがあるとか言って。寒いし。
「よおー、ステ!元気そうじゃな!」
「社長!来てくれたんすか?」
まず、社長とナイトが並んで病室に入ってきて、続いて三つ子が現れた。
「よっ!」
「どうも」
「失礼しまッス」
一番元気そうに入ってきたのが白。ぶっきらぼうに入ってきて、見回しているのが朱ッピー、礼儀正しく入ってきて頭を下げているのが紫大助だ。
「あんさーあんさー、病院のご飯って美味い?」
「・・・」
「白、そればっかりッスよ」
突然にぎやかになったので、他の患者さんに迷惑になっていないか、ステははっと周りを見回したものである。社長は何やらメーナリーと話をしているようだ。
「ステさん、大変だね」
三つ子が言い争っている間にナイトが置いてあった丸椅子に腰掛けて、話し掛けてきたのだ。
「ん、ああ、まあ・・・」
「今日はほら、例の」
「例の?今日、何日だったさ?」
「東港に見学に行く日。ステさんもメンバーだったでしょうが。午後からはネオ君が代わるって、もう退院手続きしているよ。ステさんも今日退院だって言うから、その前に弱ったあなたを見ておこうって、あいつらが言い出してね」
「あの、アホ三人・・・」
「元気になったら、じっくりこらしめてやってよ。じゃあ、ごゆっくり。社長そろそろお時間が」
「おい、ナイト。午前はどうだったさ?」
「すみません、午後から私も行く所があって」
「あ、それで、ネオと交代するさ?」
「ええ。では失礼するよ。お大事に」
そう言いながら立ち上がると、三つ子もそれぞれ思い思いのあいさつをステと交わして出て行った。
「げんきでねー!」
「おだいじに」
「早く帰ってくるッス」
最後に残った社長が「まあ、奥さんの言うことをよく聞いて、ゆっくり休むといいよ」と言い残して去っていった。
・・・あわただしいこった・・・。
「あっという間に行ってしまったわね」
いつの間に現れたのかその、妻がすぐそこに来ていた。時どき気配が感じさせない妻であるが、この時は心の声が聞こえたのかと思うほどであった。

『・・・タンカー火災の現場です。上空のヘリから確認できただけでも、タンカー一隻の炎が次々に燃え移り、ただいま漁船、七隻が燃え上がっております。なお炎上したタンカーは東港に乗り上げ、そのまま五十メートルほどでしょうか、陸を進み市場と漁協の本部に激突したということです。さらに火は燃え広がり・・・
代わって近くの病院及び医療施設には重軽傷者が次々と運び込まれ・・・
以下の方の死亡が確認されております。くり返しお伝えします。東地区東港で起きました石油タンカーの爆発事故での被害状況は・・・。」

~2話~ 訪れ

「マジかよぉ」
「冗談じゃないですよ」
最初に見たのはバーンと紅であった。昼ご飯を食べ終わって二人がテレビを見ていると、信じられない事故が報じられていた。そして、その現場には社長たちが行っていることに気付き、呆然と呟いていた。
プルルルルッ!
電話の音にはっと我に返って、紅が隣の部屋に行くと、坊がもう電話に出ていた。
「社っ長!よ、よかった・・・。みんな無事・・・?」
紅には一瞬、坊の表情が曇ったようにみえたが。
「はい。はい。いえ、まだナイトからは何も。ええ、わかりました。私が電話で連絡をしておきます。はい。ジムさんとアスさんを迎えに行かせます。ええと、東地区病院ですね」
ガチャッ。
「あの・・・社長からだったんですよね」
恐る恐る尋ねてみるが、坊は落ち着いた表情で静かにこう告げるだけであった。
「紅。バーンと手分けしてみんなを呼んできてくれんかのう。Dr.だけは先に」
「・・・はい」
坊の顔を見ると、ひと言、それしか答えられなかった。そして急いで全員を呼びに行った。呼ばれてまず、食堂に戻ってきたのはジムとアスだった。まだ、近くの作業小屋にいたのですぐだったのだ。しかし坊の硬い表情を見て口をつぐんだ。テレビは点けっぱなしで画面には燃え上がるタンカーが映っていた。なんとなく紅から話を聞いていたが、改めて坊から聞くと不明な部分までわかってしまった。事情を聞いてすぐに二人は乗用車に乗って出て行った。

紅とバーンが一番遠くの畑まで行っていたストーンを連れて戻ると、もう、それで、全員だった。
「社長とネオは無事だそうじゃ・・・」
そこで坊が止めてしまったので、先に来ていたれっぱが残りを引き継いだ。
「Dr.さんは、さっき、ナイトから電話をもらって出て行ったでござる。ジムさんとアスさんには現場と社長のところに行ってもらってるでござる」
「あの、ネオさんと三つ子は・・・?」
一番何も知らないストーンが聞くと
「・・・見つからないみたいじゃ」
という予想通りの言葉が返ってきた。
「まあ、死体が見つかるよりはいいじゃんよぉ」
「アホ」
言うより早く紅からゲンコツが飛んでいる。
「おま、おまえなあ年下のくせして何すんだよぉ!」
「一つしか違いませんし、今のは神のお告げですよ」
「痛いもんは痛い!」
「まあまあ、二人とも、ね、喧嘩はやめて、みんな、きっと見つかるから」
・・・ストーンは二人が「最悪の事態」というのを恐れているように感じられた。だからこそ、誰かに「きっと大丈夫だ」と言って欲しかったと思った。
「じっとなんかしてらんねぇよ!」
「火事じゃどうしようもないでしょう」
「なに、すましてやがんだ!心配じゃねえのかよぉ!!」
バーンは今にも殴りかかりそうである。
プルルルルッ!
坊「はいもしもし・・・おうジムさん見つかったのか!?」
ジ「いえ。・・・いちおう、今から戻ります。詳しい話は後でしますので」
坊「そうか・・・。寒い中ごくろうさん」
れ「温かい飲物でも用意しておくでござるか」
ピンポーン!
訪問者ゲタ帽子
ゲ「こんばんわー!おじゃましまーす!」
坊「だれじゃろうか?こんな遅くに・・・」
坊を制してれっぱが玄関に向かった。
そこに立っていたのは大きめのフェルト帽を深々とかぶって、目まで隠している。背は普通、裸足に半ズボン、外套を着ている。いつのまにか中に入って椅子に腰掛け、煙草をふかしている。
れ「どちらさまでございますか?」
ゲ「まあ、ええやんか、それよりも、みんなを集めたってんか?」
れ「だから、どちらさまでございますか」
ゲ「ネオを知る者や。今回の爆破事件について話させてもらうで」
れ「ネオ・・・?待つでござる。一体何のことやら・・・」
訪問者は上を向きながら煙草の紫煙を吹く。そのときに帽子に隠された瞳が見えたような気がした。その瞳には・・・。
坊「全員揃えようかのう」
れ「坊・・・いいでござるか」
ゲ「君らネオのこと、あんま知らんやろ。図星か。そうやろそうやろ」
絶句してしまった二人は、質問をしてみることにした。
坊「ネオと事故とは関係があるのかのう?」
ゲ「おおありや。そして、これから始まることにも」
れ「待つでござる、これから始まることって・・・」
坊「分かりました。社員を集めましょう」
そう言って、慌ただしく坊は部屋を出て行って、れっぱと訪問者だけ残った。全員集まったところで突然こう切り出した。
ゲ「そや、家族も目の届くとこにおった方がええな。うん。ステっちゅうヤツがおったやろ、君らん家もそうならんとは言い切れへん」
皆「・・・」
ゲ「はようせんと、始まってまうで。この世の終わりが」独り言。
坊「よし。二手に分かれよう、れっぱ、先に行っててくれるかのう。ジムさんとアスさんを待たなければならんし、それに、おらはもっと彼の話が聞きたいのじゃ。お願いできんかのう」
れ「坊・・・しかし・・・あの者の言いなりになるのは危険でござる」
坊「言いなりになるわけではない。話は聞く。後は自分たちで決める」
れ「そこまで考えているのだったら。では紅とバーンを借りていこう」
坊「うむ、無茶はするな。」

坊「さて、さっきの話の続きを聞かせてもらえんかのう」
ゲ「続き?」
坊「信用できんからのう、その話だけでは」
ゲ「ふーん、せやけど、ちゃあんと家族は迎えに行くんやね」
坊「何か、起こるのじゃろう、いや違う、もう起こっている」
ゲ「ほな急いだ方がええんやないか?」
坊「ストーン、一人で留守番を頼むが、いいかのう?」
す「ええ、ボクは大丈夫ですよ」
坊「では行こうかのう・・・なんと呼んだらよいかのう」
ゲ「わいかー?ロキ・・・でどうや?」
坊「一緒に来てもらえるかのう。すぐ、そこじゃけど」

~3話~ 救う之一 Plan A 坊とロキ

坊の家は
坊「ただいまー、ヨーン?準備できたかのう?」
「あらあら、もうなの?いきなり電話してきて。とりあえず、着替えとかは詰めておいたのよ」
坊「なら、車に乗っけて、車の中でちゃんと説明はするから」
「いつもいつも説明は後なんだから。もう!さっきも後でとかなんとか言いながら」
文句は言いながら、テキパキと準備を済ませて出て来た。
坊「今のところは何もないのう」
後ろの席にヨンを乗せて車をスタートさせながら、助手席のロキに話し掛けると
「後ろ」
ロキがそう呟くと遠ざかりつつあった坊の自宅が燃え上がっていた。急ブレーキをかけて、振り返る。
「始まってもうたわ。言うとくけどな。ええか?わいは全てを知ってるわけやないからな」
「我が家が・・・」
「あなた」
坊とヨンはただ炎を見詰めることしかできなかった。自失状態から戻った坊はもう一度エンジンをかけ直して
坊「一つ質問していいかのう。知らなかったらいいがのう・・・。ネオはまだ生きているのかのう?」
ロキは一つ頷く。
坊「三つ子も?」
また頷く。ホッと息を吐き出して安堵の表情を見せる。
坊「早く社に戻ろう。みんなに知らせてあげねば」
「社長と副社長の家は?どないするんや」
坊「それだったら、大丈夫じゃ」
「行っても無駄やで。もう手遅れやから」
坊「だから。奥さん達は社長の病院に行ってもらっておる。おらが先に電話かけたからのう」
「あんさん・・・。敵に回したないなー」
誉められたのかどうかはさておき、坊は家がもったいないのうと、ずっと悲しんでいた。
そのころ、れっぱたちは・・・まだ着いてもいなかった・・・。

~4話~ 救う之二 Plan B れっぱとバーンと紅
車を運転することになったれっぱは、後部座席に乗り込んだバーンに質問攻めにあっていた。まずは一部を・・・・・・。
「ねぇ、れっぱ兄ぃ。あの人はさぁ、ホントのこと言ってんのかなぁ?」
「さあ今はわからないでござるな」
「今はってことは、あとでわかるってことぉ?」
「そうでござる。きっと本当のことがわかる時が来る」
「ふーん・・・・・・あ、れっぱ兄ぃはさあ、彼女とかいないのぉ?」
キ、キキーン。ガン。ガタン・・・・・・ブルルルル。
「あっぶないなぁ。気をつけてよぉ、れっぱ兄ぃ」
「君がそんな話をするからでござるよ」
「わははははは・・・おっかしい~~」
「な、何がでござるか?」
クスクスクス。「十分動揺してましたね。バーンはそれを言いたいそうです。」クスクス。
会話に割って入ってきたのはバーンと一緒に後部座席に大人しく座っていた紅であった。車に乗る前から乗ってからも、不機嫌が顔と態度に表れていた紅だが、やっと笑ったようだ。それを見て、ムッとしていたれっぱの顔が緩んだ。どうやら怒りは引いてホッと安心したみたいだ。

車は順調に進みもうすぐでステが入院している病院に着くという所に来た。ここでもう一つ・・・・・・。
「班長(ここではステのこと)はさぁ、立派だよなぁ」
「どうした、バーン?変なモンでも食ったのか?」
「なんで、そう言うかなぁ~!!俺は真剣なのにぃ」
「おっ、真面目な話だったのでござるか。拙者も紅君と同じことを考えていたでござるよ」
「ああ!れっぱ兄ぃまで・・・・・・ひどぉ」
「ははは。うそでござるよ。ところで、ステとメーナリーさんは元気にしてたでござるのか?君はお見舞いに行ったはずでござったな」
バックミラーを見ながられっぱはバーンに言う。
「そうそう。行ったよぉ。何かねぇ、もお幸せに満ちあふれてたぁ。熱い熱い」
キキーン。ガゴ。ガシャ、ゴトッ・・・・・・ブルルルルル。
バーン落ちた?(バサッ)

「あらっ、いらっしゃーい。どうしたの?こんな遅くに」
看護婦さんに「今日は遅いのでお帰りください」と言われ、とりあえず自動販売機のあるところへと向かっていた三人組はメーナリーに声を掛けられた。
「メーナリーさん」「メーナリーちゃんだぁ」「メーナリーさん?」
「どうしたの?ステさんのお見舞い?んーそれだとしても遅い時間ねぇ。あっ、バーン君、この前はありがとう。お花キレイだったわ」
「いえ。喜んでもらえてよかったぁ」
何故だ?この二人の間には“ほんわかのほほん”の空気が漂っているような気が・・・・・・。今は確か緊迫していたはずなのに。それに気付いたのはれっぱだった。
「あの、メーナリーさん」
「ほえ?」
「・・・お話しなければいけないことがあるでござる。どう言えばいいか分からんでござるが・・・・・・緊急時大発生なのでござる。で、ステの容態は?」
「ほえ?ステさんなら『明日退院』ってお医者様が言ってたわ。んーキンキュージタイってとっても大変なの?」
ガクッ!×3
「あら、どうしたの?」
三人は同じことを思っていた。この人は“天然ボケ”なのかと・・・・・・。
「いえ、きっと説明が足りなかったんでしょう。ねっれっぱ兄」
「そうでござるな・・・では」
ここかられっぱによる“説明会”が始まった。まず、ステとメーナリーに魔の手が迫っていること。そしてネオに関わっている人たちも同じように危険があり、それによって、港区で火事に遭ったと。さらにネオと三つ子が行方不明になったことや、謎のゲタ帽子が会社を訪ねて来て今も一緒に活動していること。れっぱはできるだけ分かりやすいように話を進めた。
「さてこちらのチームは後、紅君の用事が残っているでござるな。ステは明日退院というし・・・・・・何かいい案はないでござるか?」

時間はちょっと流れて、一同はチホを迎えに・・・
「よしっ、着いたでござるよ。紅君さあ、いってらっしゃい」
「は!?」
何も言わなくても、言いたいことが伝わってくるこの空気。
「もう、怒ることないじゃん。ねぇーれっぱ兄ぃ」
「そうそう。落ち着いてよおーく考えるでござる。もし拙者とバーンで連れてくるにしても絶対チホさんはここに来ないでござるよ。紅君、だからこそチホさんは首を縦に振って来てくれるでござる。さあ、だから行くでござる!拙者たちはここで待っておくから」
しばしの沈黙の後、紅がやっと口を開いた。
「・・・しょうがないなあ。行けばいいんだろう!そんじゃ、バーン行ってくる」
ガチャッと後部座席のドアを開けて外へ出た紅は、すたすたと歩いていった。
少し歩いたところで紅は思っていた。“チホの住んでるトコってどこだったかな?しまったー、れっぱ兄に聞いてくれば良かった・・・”
ジャーカジャーカジャーカジャ。ジャージャ、ジャージャジャーカジャ―――
「ん?あっ俺の携帯か。今ごろ誰かな?・・・はい。どちら様?」
さあ、誰でしょうか?物語は進むでしょうか?
「感激!紅さんが電話してくれたなんて」
「・・・・・・そう」
「そうなの!絶・対・な・の」
チホの荷物を両手に持った(持たされた?)紅は“そんなモンかな”と思いながら、首を傾げた。隣ではチホの力説がまだまだ続いている。
「ねぇ、紅さん。」
「ん?」
チホの甘くて可愛い声を無視しながら紅は何かに集中していた。
「紅さん!あたしとこのまま駆け落ちしない?」
「・・・・・・」
「ねえったらー」
「なに?」
「か・け・お・ち、あたしとしない?」
ばさっとものすごく大きい音をたてて、チホのかばんが紅の手から落ちた。
「・・・・・・しません」
そそくさと落としたものを拾いながら、紅はぼそっと呟いた。
「あーあ、しまった・・・・・・」
また、紅はぼそっと呟いた。そして前より低い声で・・・。
「メール、間違って送った」
と言った。次の瞬間、紅の顔面に何かが飛んできた。

「おっかえりぃー!あっれぇーどうしたの、そのアザ?」
やたらに明るい声を出しながら、バーンは車のドアを開けた。
「や、何でもない。ただちょっと・・・・・・な。あっ、れっぱ兄、トランクの鍵開けてもらえませんか?」
バーンはにやにや、と顔に笑みを浮かべながら、
「ふーん」
と呟いた。何やらいたずら心が出てきたらしい。紅を見つめているチホに、早速耳打ちを始めた。
「よしっ、終わり。と」
荷物を全部入れ終えた紅は、いつものように後部座席に座った。しかし、何かが違う・・・・・・。
「えへっ。紅さんの横に座れるなんて、あたし幸せ者!」
「・・・なんで、チホが横・・・に?」
素早く周りを見回すと、前に座っている二人が笑いを噛み殺している。
「お前か。バーン」
低い声で言うと、紅は勢いよくバーンの後頭部を殴った。
「っう。いったぁーい」
「これぐらいがいいんだ、お前には。絶対」
「ひどぉー。折角、夜のドライブを楽しんでもらおうと・・・」
「何だってー!殴るぞ」
「もう、殴ってるってぇー、卑怯者。れっぱ兄ぃー助けてぇ」
最初から笑っていたれっぱは既に腹を抑えていた。それでもれっぱは紅に手招きをした。紅がれっぱの方に顔を寄せると小声で言った。
「そんなに拒絶するなでござる。チホちゃんが泣くでござる」
はっと紅がチホの方を見ると、チホは下を向いていた。
「少しの間でござる。その間に何かが起きたら君が守るでござるよ」
「・・・・・・わかりましたよ。れっぱ兄は優しいですね・・・・・・」
どこが?とれっぱが首を傾げると、紅は大人しく席に座った。まだバーンがニタニタと笑っている。

~5話~ 長い日
坊たちが帰るとちょうど、同時にれっぱたちが帰ってきたところだった。ジムとアスもまだ起きて待っていた。食堂にとりあえず全員、集まってもらうと。
「ほな始めよかー」
と言う声で独演会が始まった。
「まず、確認したいのはのう、ネオは生きているということで良いかのう?」
「どうぞ」
言いながら柱時計を見る。時計の針は
「今からあんさんたちにはちいっと働いてもらいたいんや」
「ネオたちのために?」
「せやな」
話が全く分からないという顔のジム、アスと帰ってきたナイト。なんとなく分かってきた坊とれっぱ。少し分かりかけている紅。分かっているのかどうか分からない、ストーン。何も考えていないバーン。あとはもう眠ったが、ヨンとチホもいる。

れ「あと二日・・・。」
バ「二日かぁ・・・つまらなぁい」
紅「バーンにはそれだけでいいんですよ」
「そろそろ助っ人も来る頃やし、人質としてわいがここに残ってもエエで」
ス「話も聞きたいよね」
―――話し合い中―――
バ「オレオレオレオレ、オレ行きたーい!」
れ「では拙者も行くでござるか」
「二人でいいかのう」
「ええで、ええで。ほなあんさん達は準備をしたら、外で車が待ってるさかい、行ってきーや」
バ「はぁーい、いってきまーす」
れ「行って来るでござる」

「残りはどうするのかのう?」
「謎解きを楽しんだらエエやんか。ま、今日はゆっくり寝ててもエエよ。まだやから」
「ではおらたちは寝るかのう」
皆「え!?」
みんなが驚いたひと言だった。
紅「な、なに言ってるんですか?」
ジ「そ、そうですよ」
ア「オイ達はまだ何も聞いてないでゴワス」
「聞いて、オラたちに何ができるのかのう」
皆「そんな・・・」
「無料聞きはいかんでー」
「そういうことだのう」
「だからどういう・・・」
「ロキ殿も疲れた、眠い。今日はここに泊まる、これで良いかのう?」
「そう。あ、ついでに飯もつけといてくれんか?」
「はいはい。さて、オラたちも寝るとしよう」
坊以外は呆れて物が言えなかった。何を言い出すのかと思えば・・・。
こうして、長い長い一日をやっと終えることにしたのだった。

~6話~ 翔ぶ之一
「なんじゃ・・・この車は?」
「タイムマシンっぽいよぉ」
「そんな・・・」
興奮しきっているバーンはほっといて車に近寄ると、
「あーら?あなた達ね?
「案内役、でござるか」やけに若い女でござるな、と言いかけてやめた。
「さ、早く乗って!」
「ねぇ、これってさぁ

「ねぇ、この車・・・浮いてるよぉ」
「わー前からトレーラーが・・・なんで右側走って・・・でござる。」
プシー
「車から外には出られないから」
「で、なんでぇ」
「いいから。見てなよ」
「は・・・ウチの会社に戻ってきた?でござるな」
「なぁんだ」
「はじまるよ」
と、言い終わらないうちに、家の周りに人が集まってきた。黒い布で顔を覆い、上半身も下半身も黒一色で統一した十人前後の集団が取り囲んでいった。先ほどまで点いていた家の電灯が一斉に消えた。と思うと黒ずくめの人達が玄関と勝手口のドアをこじ開けたり、窓を開けたりして、数人を残して中に侵入していく。しばしの沈黙。その後、数分してすぐに出てきた。
「さて、会社に入ってみるか・・・あと五分・・三十・・五秒」
「・・・」
「何を見せられるでござるか」
「悪夢。早く行けよ。あと五分」
「悪夢・・・。」
れっぱとバーンは車から降りると、毎日するように玄関を開けた。ただ急ぎ足で。しん、と静まり返っている。さっき、みんなで話をしたばかりだったのに。れっぱは覚悟を決めて、みんながいた食堂に続く戸を開けようとした。しかし、何かが引っかかって開かない。そこで思いっきり押してみる。すると、何かが倒れたような音がした。
「・・・あ・・・」
その人の顔を確かめると坊だった。折り重なる死体。床に広がる血。見覚えのある顔ばかり。必死の形相。驚きの表情。諦めの顔。
見てはいけないものを見てしまったような気がした。れっぱは呆然としてただ、涙の流れるにまかせて、泣いていた。
バーンが力が抜けたように急にがっくり、膝をついて大声で泣き出した。哭泣。もうどうすることもできないのだろうか。
「・・・うっうっ・・・くっ・・・なんで・・・なんでだよぉ・・・・・・」
言葉にならない叫びが聞こえてくる。
「そこ。よく見なよ」
「・・・拙者と・・・」
「おれ?・・・」
「あんたらの死体だろ。さ、時間がない。つぎ、行こ」
「なに言って・・・。」
「早く!」
訳がわからないまま、急かされるようにしてその場を離れ、さっさと車に乗り込む。すると、突然、会社が燃え出した。そのようなことにはおかまいなしに、車のエンジンをかけている。
「まだ中に・・・誰か・・・」
「いるかもしれない?あるのは死体だけ。しかもご丁寧に火葬までしてくれるんだから、有り難いこと」
皮肉っぽくそう告げると、一気にアクセルを踏み込む。まだ、この数分間の出来事が理解出来ていない二人の泣いているのだか、寝ぼけているのだか分からない顔を交互に見回した後、
「自己紹介が遅れたな。わたしはリラ。この車は時空相移転機。空陸両用・・」
と、落ち着いて自己紹介を始めた。あまりの落ち着きようなのでれっぱは、
「そんなことはどうでも良いでござる!それよりも!さっきのは何!?」
と、とうとう怒り出してしまった。
「まあまあ、名前がないとお互い困るっしょ?さっさと、名乗ったらどう?」
「・・・烈破。と、こっちはバーンナイト・・・」
目を泣き腫らしたバーンはずっと黙りこくっている。
「で、聞きたいことは?」
「だから・・・さっきのは」
「これから訪れる一未来」
「一・・・未来」
れっぱがすぐ答える。
「やっぱり」
「でも、未来はまだきまっていない。さってと、着くよ。バーンも元気出せ!」
~7話~ 眠り
・・・とにかく疲れたのう。寮の大きな風呂も久しぶりだ。どうしたものかのう。これから・・・。そういえば我が家が吹き飛んだんじゃ。もうすぐクリスマスだと言うに、オラたちは一体・・・。
 風呂から上がった坊は手早く服を着て、さっきの客間に戻ってきた。しかし、いろいろあり過ぎて目が冴えてきてしまったのだ。
 仕方ないのう・・・そう考えながら、事務所に移って、ここ数日間でたまった仕事を片付けることにした。かなり寒くなってきているので、普段着の上にセーターやコートなど羽織り、ありったけの厚着をして一旦外に出た。
 あちゃー、ストーブに火を入れんと・・・。
事務所に入ってみたが、いつもの暖かい空気ではなく、暗闇でしかもひんやりとした誰もいない空間が待っていた。仕方なく電気をつけて、マッチを探して来てストーブに火をつけた。温もるのにはまだ時間がかかるだろう。
せっかく暖かくなってきた頃、静かに眠りに落ちてしまっていた。知らないうちに疲れがたまっていたのだろう。
「おう。坊殿、寝とるがな」
様子を見に来た、アスは机にうつ伏せになって寝ている坊を見つけると、隣の部屋のベッドに運んで布団を掛けてあげる。

コトコトコト・・・トントントンッ。ブ・・・・ク。
味噌汁。野菜を切る音。お湯の沸く音。
「おはようございます」
ストーンが起きてくると食堂には味噌汁の匂いが漂っていた。台所を覗いてみると、坊の妻のヨンが既に起きて朝ご飯の支度に取り掛かっている。
「ねー坊さんどこで寝てるか知らない?」
昨日は部屋の主人がいない001号の部屋をヨンとチホが使った。てっきり、坊は002号で寝たものとばかり思っていたが、違ったらしい。

「警察の方が10時ごろに見えるって、おっしゃってたわよね」
「そうだったのう・・・」
「おはようございますぅー。あーヨンさん、あたしも手伝いますー」
チホも身だしなみを整えてから現れた。やけに張り切っているけれど、紅もチホから料理が上手とは聞いていない。
「あのねヨンさん。お料理って何とかなるよねー?あたし、やったことないの。えへっ!」
なんとも可愛らしい笑顔を振りまきながら、さらっと言うチホ。
「・・・そうよ!今から一生懸命練習すれば、きっとうまくなるわ。さっ朝御飯にしましょ!」
そう言えば別棟で寝ているはずのロキはどうしているのだろうか。
「ロキ殿なら、まだぐっすり寝てたがのう」
ドンドンドンッ!
「こちらビショップ・R・ガンタンクさんがお勤めの会社ですよね?」
「私はガンタンクの妻ですが。どちらさまで?」
「警察の者ですが・・・やはりこちらにいらっしゃる?」
「ええ、夫も一緒に」
「よかった・・・。あの、ご自宅が爆破されたことについては」
「知っておりますわ」
「それでですね。ご夫妻の姿が見えないと近所の方たちが騒いでいましてね、こうして探しておった所なんですよ」
「それは、申し訳ありませんでした。あ、どうぞお上がりになって下さい。夫も呼んで参りますので」

「ふー。いやはや、警察と話するのはどうも、肩が凝るのう」
「お疲れさま、はい、コーヒー」
「ああ。」
「それより坊さん?机の上にこんなものが置いてたわよ」
「なに?」
そうして、封筒を手渡すと
「なになの?」
「しもうた・・・」
「今日はクリスマス・パーティーじゃった」
「クリスマスにはまだ間があるわよ?」
「主催者がこの日しかホテルが取れなかったとか何とかで、って社長とDr.さんが言っておった。今年は何周年記念とかで、全員分、招待状が送って来ておるんじゃった」
「奥さーん!すんまへん、茶ぁーもらえまへんか?」
「はいはーい」
「ロキ殿?起きたのか」
「ええ、今、朝御飯よ」
そう言うとパタパタと音をさせて出て行ってしまった。

後からゆっくりと食堂に行ってみると
「なんや?それ」
「どれ?」
「手に持っとんのや」
「ああ。パーティーの招待状だが、今日なんじゃ」
「エエナー!わいも行きたいわ。・・・もしかせんでも・・・行かへんつもりか?」
「みなを待たねば・・・」
「さよかー。残念残念っ」
ヨン「ねえ、こんな時だけど・・・行ってみたら」
「・・・むう」
ヨン「こんな時だからこそ・・・」
「あっはっはっは!!」
ヨン「何?真剣なのよ」
坊はどうやら笑いが止まらないようだ。
―そうかそうか。別にじっとしている義理は無いわけか―
「支度しろ!行くぞ!」
「何人か留守番に残して、動けるものは行こう。全員ご招待なんじゃから」
「わたしも?」
「人が少ないからのう。ふむ、ロキ殿も来てもらおうかのう」
「うまい食いモン出るんやったら、行くわ!」
~8話~ 翔ぶ之二
「今度はどこでござるか?」
「火事・・・みたいね」
「バーン早く消すでござる!」
「おぉ!」
「いいけど、ネオを探すんじゃなかったの?いるはずよ。まだ・・・」
「探すでござるよ」
「どうやってぇ?」
れっぱは「えーと」と言いながら周囲に目を向けてみる。火事の方角には大きな門が聳え立っている、壁でぐるりと囲っている内側の方から火の手が上がっているみたいだ。
「中華街にこんな門があったよねぇ?」
少しづつ近づくに連れて門自体が真っ赤な炎を上げて燃えていることが分かってきた。
「うわぁ・・・」
バーンも声を失ってしまうくらいの大きな炎である。
「その門から離れて!!」
突然リラが叫んだ。
「早く逃げてっ!」
門の扉が開き出した。それと同時に強烈な力で引っ張られるのを感じた。
「吸い込まれる?」
れっぱがふと感じたのは間違いではなかった。
リラは急いで車に乗ってエンジンを掛ける。
「のって!!はやく!!」
そう言ってドアを開けたまま二人の方に猛スピードで向かってくる。車のドアに手を伸ばす。
「もうちょっと!」
「だめ!マシンごと吸い込まれるわっ!」
すると何を考えたのかれっぱがバーンの後ろに回ってその背中をぐっと押した。
「届けえーーー」
バーンが右手で車のドアの取っ手を掴み、左手でれっぱの手を取る。
「もうだめえー!!!」
リラはアクセルを思い切り踏み込んだ・・・。

「危なかったわね」
「い、いっ一体、・・・あ、あれは・・・なに!?」
「ござる、もう汗だくだよぉ!」
「あれ?時空のヒズミみたいなもの」
「?」
「ちょっと、遅かったのね」
「え・・・。」
彼らはいつになったらネオたちに追い着くのだろうか・・・。

~9話~ 単に
「ステくん・・・?どこ?・・・行っちゃったの?」
ステ退院の日。病院のベッドは既に空であった。メーナリーは、初めトイレかと思って待っていたが、いつまで経っても帰ってこないので、探してみた。
いない。
かくれんぼ?そんなわけないかー。ベッドの下も調べてみたがいなかった。ただ、着替えの入ったカバンがなくなっていた。
「ステくん・・・」
「こんにちは。お迎えに来ました」
「ふにゃ?」
要領を得ない様子でポーっと首をちょっと傾げて、考え込んでいたが、
「あー・・・昨日の、えーーー・・・?」
「紅です」
「紅さんの恋人のチホです。はじめまして」
「はにゃ!はじめまして、メーナリーといいます。ステくんの妻をやってます」
「よっ!」
「にゃっ!ナイトさんも来てたのね」
「こいつだけだと話がわからないだろうと、思いまして。それで、ステさんに頼まれてきたんですけど」
「なんだあーふひー。びっくりしちゃったっ!」

「新聞に赤丸が入っている」
「Eastern Museum!」
「わたしが車を運転するからっ」

「――次は西本町ー西本町ー」
車窓からは、降り始めた雪が白綿の舞を見せている。電車のアナウンスが聞こえてきて、パッと目を覚まして、荷物を確認して黒のジーンズのお尻のポケットを探る。そして、財布を取り出して切符を出す。駅のホームに降り立つと、北風が身にしみる。電車の中は暖かかった・・・。コートを着ると、急ぎ足で階段を上って改札をくぐる。改装工事の続く西本町駅の、その北口から出ると、バスの停留所に急ぐ。
「ふぃー、やっぱり体がきついさー」
退院したばっかりで、とかではなく、煙草を何日も吸っていないから、ただ単に・・・きつい。
 待つまでもなく、すぐにバスは来た。路線をもう一度確かめて、満員近いバスに乗り込んだが、運良く座ることは出来た。窓際の一人席。窓の外を眺めてみると、この国随一の文化街が、次から次へと通り過ぎていく。古めかしい建物が多いが、その古風さを全く感じさせず、今は別名、芸術の都と呼ばれるほどの華やかさをみせる。高いビルや、無味乾燥な鉄筋コンクリートの建物など、全く見当たらない。高さも、色もよく調和のとれた街の景観である。
 バスに乗っていたのは、十分ほどだった。
「うーさみー!」
外の風がとても冷たい。降り始めた雪が少しづつ積もりそうである。このままホワイトクリスマスもいいかなと思ったりもする。煙草を吸っているわけでもないのに息が真っ白だ。子供の頃、吸う真似をして遊んだのを思い出して、息を吐いてみた。子ども心にかっこいいと思っていたような気がする。
「早いとこ美術館に行くさ」
足早に歩き出したその後ろを・・・。
 石畳の広い道を真直ぐ歩いて、博物館を通り過ぎて、彼が足を止めたのは石造りの豪勢な美術館。元は城の一部だったが、その後、王立美術館として改装され、現在のEastern Art Museumにいたっている。門のところに大きな看板が出ている。中世の美術展が開催されているようだ。博物館との共催となっていて、どちらでも充分に鑑賞できる。
 入り口から順路どおりに足を運ぶ。彼は西地区出身なので、無料で入場できたのだ。しかし、ほとんどの絵を飛ばして先へ先へと進む。と、一つの絵画のところで立ち止まった。
「あった・・・」
それは『ルテティオの舞踏会』と題名は書かれていた。
「・・・ネオ・・・」

「で、オレっちに何か用?」
そう言って振り向くと黒コートの男が一人立っている。中に着ているのは黒のタートルネックのセーター、パンツも黒だ。館内の時計はもうすぐ五時を指そうとしている。
「もうすぐ、閉館時間ですね。・・・外、出ましょうか?」
「・・・」
彼が答えないでいると、黒コートの男がサングラスを外して、微笑んだ。
「あなたには、死体でここから出ることをお勧めしますよ」
「そう?」
突然大きな力で後ろから張り倒され、硬質の床面に頭を押さえつけられる。と彼が今立っていた空間を銃弾が通り過ぎていった。銃を撃ったのは目の前の男。
「助かったー」
「馬鹿者!!ボサッとするな!!?」
「・・・クソ親父!何してるさ!?」
「張り込み中だ!!」
ステの父親は五十歳。まだまだ現役の刑事だ。
「久しぶりに大暴れ出来そうだな」
と呟いたのは父の方であり、ステがやっと顔を上げると黒服の男が五人に増えていた。体つきはバラバラだが、みな、何か格闘慣れしたという、雰囲気がある。
「おめえ、二人行けっか?」
「問・題・無し!・・いやあった。武器が無い!」
「ほらよっ、使え!」
と渡されたのは警棒一本だった。
「親父の担いでる、その、デッカイ棒は?まさかこの中でそんなもんぶん回す気じゃねーよな?」
「これはオレのだ!やらんぞっ!」
「いらんわ!」
この親子の再会から会話まで、ほんの数秒の間だったが、二人とも五人の男たちには隙無く視線を送っていた。そして、すぐ二手に分かれ、館内を駆け出すと、ステは出口へ、父は入口へと走る。
この時点でステの追跡者は二人になっている。最初声をかけてきた男は追って来ていない。ステを追って来た一人の方は痩身短躯で両手には鉤爪をはめた者、もう一人は痩身長躯で背中に刀らしきものを提げている。一気に美術館から外に出て、石畳を走り抜け隣の芝生の広場へ入ると、ステは向き直った。真っ暗になる前に決着をつけたい。相手は黒ずくめ、闇に溶け込まれると分が悪い。一人?まだ大きい方は追い着いてこないのだろうか。
まず小さい方が飛び掛ってきた。警棒で鉤爪をはらう。夕焼けの空に金属音が響きわたる。身軽な相手なので。
斬!られた・・・。
そして振り返ると彼の父の姿が見えた。相手は二人とも地面に倒れ伏している。一人は筋骨隆々、もう一人は肉付きのいい太っちょだが父は機嫌よく棍棒を振り回している。

紅「だから、次を左ですって!」
メ「ほえ?つぎ・・つぎつぎ?」
紅「あーもう通り過ぎ・・・」
チ「もどってもどって!メーナリーさん!」
メ「はあい」
紅「いいです。危ないから、次の信号で左に行ってください」

衝撃のあった後、しっかりと、紅にしがみつきながらチホは尋ねた。
「なになの!?」
それに答えずに急ブレーキで止まった車から、メーナリーが降りる。つられて紅とチホも降りてくる。

「・・・オレっちの・・・車?」
よくは見えなかったが、鮮やかな青色の軽自動車が跳ね飛ばしたらしい。
急ブレーキの音が響いて、ステの眼の前に停車した。
「ど・・・。」
「ステくんッ!!」
聞きなれた声がした。・・・後は覚えていない。

~10話~ 翔ぶ之三
「また、火事かよぉ・・・」
「一足遅れ」
±二時間に加えて、五キロ四方とは、かなりアバウトな設定
~11話~ 祭り
キャスト紹介


えぴそーど①高層ビルのパーティー会場にて(中地区にて)
「結構、いいホテルやんけ」
「そうだのう」
坊の運転する車から降り立ったのは隣からヨン、後ろからはストーン、そして、ロキである。アスとジムには仕方なく留守番を頼んできた。駐車場に車を停めるとホテルの中に入り、パーティー会場へと急ぐ。エレベータの?階のボタンを押して乗り込む。十時から受け付けだったが、もう十一時になろうとしている。
「まずい!始まってしまうわい」
正装した格好で階上のホールへ走りこむと、ちょうどあいさつが始まろうと言うところだった。
「えーこの度、このように大勢の方々にお集まりいただき
「ありゃりゃ・・・斯波原さんの挨拶が始まってる」
「偉い方なの?」
「おらも名前は覚えているんだが・・・」
「?」
「どこかの会長か何かだったと思うんだが・・・」
「?」
「ただやたらに挨拶が長いということしか覚えておらぬ」
「・・・そう」

開会のあいさつをたっぷりと三十分もした斯波原会長がこちらに近づいてきた。どうやら坊のことを覚えていたらしい。近くでみると会長は身長が高く、角張った顔に四角の眼鏡をかけて、鼻の下にひげを生やしていて、まだ会長としては若いといった感じを受ける。今日は薄茶色の高級スーツで身を固めている。そして、やっぱり、長い長い話が始まった。ロキは最初からあちこちのテーブルを回って、料理を食べまくっていたが、いつの間にかストーンまでいなくなっている。
「逃げたな・・・」

「坊さん呼んでるわよ」
ヨンに言われてはじめて気付いた。なにやら自分の名前を呼ぶ声がする。
「はいはーい」
「お客様。ビショップ様でしょうか?」
斯波原会長の長い演説もまったく終わる気配のしないところへ、やっと助け舟が現れた、と坊は思った。ボーイが何か用件を持ってきたのだ。斯波原会長の話を聞くよりは絶対ましだろうとこの時は思った。
「ええ」
「申し訳ありません、お客様にお電話がかかっておりますが」
「はいはい」
「ご案内いたします」
「斯波原会長、申し訳ありません。少々電話をかけて参ります。」
「うむ、それは仕方ない。どうぞ」
後をヨンに頼んでその場を離れた。

ホテルのこの階のカウンターの電話のところに着くと、そこで待っていたのは朝の刑事だった。
「どうも、すみません、お話を伺いたくて」
「では、あなたが私を呼び出した・・・」
「どうも」
坊は一つため息をついて、隣の喫茶店に招き入れる。座席に着くと二人分、コーヒーを注文して刑事の方に話を促す。今度は落ち着いて刑事を観察してみると、いろんなことに気付いた。刑事は歳は三十くらい。背は高くもなく低くもなく。無精ひげが生えてきている。髪の毛は短く刈りそろえられているが、無精ひげと、きちんと整えられた頭を見ると、どうも不釣合いな印象だ。朝は部下の若い男を連れていたが、今は一人だ。
「実はですね、調べていたら妙なことに気がつきまして」
ああ、それでひげを剃る暇もないってことか、と思いながら、坊は答えた。
「妙、ですか?」
「ええ、お宅の会社。大変でしょう。たった二日間で事件が起こりすぎです」
「そうですね」
「一昨日のステイメンさん宅の銃撃事件、昨日の港区のタンカー火災、そして、お宅の爆破事件」
「いやいや、不幸の連続でして」
「私はですね・・・」
「早く解決してくださいね」
「それはわかっております。私はですね・・・」
「私たちの近くにいれば、まだ事件に出くわすんじゃないかと・・・そういうことでしょ?」
「よく、おわかりで」
「もう、事件起こしたみたいですよ。」
「・・・」
「この店内にいる人たちは・・・あなたのお仲間じゃないですよね?」
「いえ・・・一人は俺の部下だが・・・」
口調が、打ち解けてきたのか、やや和らいでいる。そのまま辺りをきょろきょろと見回すが、異様な雰囲気に気付いたらしい。というより、自分達に集中する視線に気付いたのだ。
『逃げろ』
その刑事が手帳に走り書きをして、坊に渡した。もう片方の手では何やら携帯電話を操作している。
「しかし、狙われているのは、たぶんおら達の方・・・」
「いいえ。市民を守るのは警察の義務ですから」
小声でそういって、片手で坊を入口の方へと突き飛ばし、もう片方の手には拳銃を手にして叫んだ。
「(部下の名前)!そいつらみんな敵だ!」
坊は転がりながら、店内から脱出しようと急いだ。
~12話~ 急ぐ
③&④
紅、チホ,メーナリーは重傷のステ父を病院に連れて行く(メーナリーの車で)。
ステは急いでパーティー会場へと向かう(ステ父の車⇒〔各種の武器が満載〕で)。
何もなければいいが・・・。
~13話~ 逢う 
坊を追おうと立ち上がった男たちは全部で六人。刑事二人がとっさに、引き金を絞る。店の中には幸い、客は坊たち以外いなかったが、銃撃戦が始まって、店員達は皆、その場にうずくまってしまった。店内に警報機が鳴り響く。坊はと言うと、姿勢を低く保ちながら、何とか店から出たところだった。急いでみんなに知らせようとパーティー会場へ急ぐ。ガラス張りの廊下を走っていると、向こう側からさっきのボーイが駆けて来る。
まさか何事かあったのでは・・・と思っていると、やはり坊に用事があるようだ。
「お客様!」
「どうした!?」
坊は次の瞬間、信じられない光景を目にした。ボーイの体が光と爆音を上げ爆発したのだ。
爆風が、ガラスを吹き飛ばし、階全体が爆音に揺れた。炎と煙が充満する。
このビルの吹き抜け部分、廊下のガラスに遮られた向こう側は、そのまま一階ホールまで、見渡すことが出来るようになっている。坊はそこに宙吊りになっていた。いや正確には宙吊りにされていた。
「起きるさ!」
気絶していた坊の目を覚まさせようとしているのは・・・。

エレベータから降りたステは、ボーイの背中に何か時限爆弾のようなものが着けられているのを目撃した。しかも、そのボーイが向かっていく先に、坊がいるではないか!とっさに地上十四階から窓を破って外にダイビングしていた。ロープはしっかり柱に固定したあとに。ステは右の脇には坊を抱え、左手ではロープを握って体を支えている。
「一体どうなってるさ!」
坊は依然として目を開けない。
爆発によって,その階は自動的に封鎖される。炎上によって防火シャッターが閉じたのだ。エレベーターも止まってしまった。助けが来る見込みもほとんどなくなってしまった。
~14話~ 赤り
パーティー会場では不思議なことが起きていた。遠くから銃声のような音が聞こえてきたと思ったら、突然、照明が落ちたのだ。急なことだったので、暗闇の中で女性の「キャー」という甲高い声が聞こえた。
「ストーン君どこかしら?」
ストーンを探していたヨンは、ただでさえ人が多いのに、今度は真っ暗になったので余計に分からなくなってしまった。
しかし、いくら待っても、照明が点く気配がない。少しずつ焦れてきた客が、出口に向かう音や、ボーイなどに尋ねる声がする。しかし、まだホテル側の説明もない。
「ぎゃっ」
すると、どこかで、誰かの叫び声がひときわ高く響いた。それは何かに押しつぶされたような声だった。と、明かりがともった。みな一斉にその声がした方を見ると。そこには、首を噛み切られた、一人の男性の死体が血まみれになって転がっていた。
「きゃぁぁぁー!!!」
近くにいた連れの女性らしい人が悲鳴をあげる。
なにか獣にでも、狩られたような痕・・・。
しかし、すぐにまた、暗闇に戻る。一瞬の静寂の後、大混乱になった人々が叫び声を上げて、出口へと一心に走り出す。やはり、出口付近は混雑してもみくちゃになっている。ヨンは一瞬だけ明るくなった時に、死体の側にストーンの姿を見つけ出していた。
「ストーン君!」
そして、皆が走り出す前に、ストーンの手を取っていた。がすぐに、混雑に呑み込まれて、
「ストーン君!」離れてしまった。
人々が会場から出ようともがいている、ちょうどその時、どこかで、爆音が鳴り響き、階が揺れた。そして少しずつ、煙と炎が流れ込んできたために、戻ろうとする人と、進もうとする人でごった返しになってしまった。しかも、その暗黒の世界で、人間狩りがされているようだ。照明が点滅して、その度ごとに照らし出される死体が次々と増えていくのだ。
・・・やっぱり僕たちが狙われている・・・とストーンが思ったように、その何かはストーンとヨンめがけて飛びかかってきている。行く手は炎と煙に阻まれ、後ろには何かがいる。ガタガタ足は震えているし、歯もガチガチ言っている。どうしようもないほど、恐怖感が迫ってきている。今度こそ自分かもしれない。次に電灯が点いた時、死体になって転がっているのは自分かも知れない。
また悲鳴が上がった。
カチッ!とうとう、明かりが点いた時、そこに浮かび上がったのは、ヨンが腕を押さえて倒れているところだった。
・・・ヨンの白い肌。真っ白なドレス。真っ赤な血。絨毯の紅。
そして、暗闇が戻る。
ストーンは何も考えず、ヨンの元に急いで走った。抱き上げると、ヌルッとした、血の感触が伝わってきた。ぞっとした。背筋が一気に凍りついた。・・・まだ息がある・・・。そのことを確かめると、傷口を探り、自分のハンカチで止血をしようとしたが、なかなか、暗闇のため上手くいかない。まだ身体も震えている。
次に明かりが点くのはいつだろうか。どこだ。
落ち着け、落ち着け!どこかにいるはずだ。絶対にいる。・・・少しでいいから、震えよ、止まれ!
とりあえず、まだ意識を失っているヨンを安全なところに避難させることにした。ストーンは一度この広いホール内を見回す。他の人たちはホールの四角の方に身を寄せ合っている。すすり泣きの声が聞こえてくる。今まで、自分のことしか考えていなかったが、初めて周囲の状況がわかった。煙が流れ込まないように、誰かが出口を閉じたらしいことにも気付いた。何を思ったか、白いテーブルクロスを思いっきり引っ張る。上に乗っていた料理や食器が派手に落ちる音がした。テーブルに傷ついたヨンを載せて、足についている車輪を転がして、その扉にテーブルを横付けする。そして、テーブルの下にヨンを隠す。背後の心配は一応、これでなくなった。続いて三方をまた、テーブルで取り囲むように積み重ねる。ストーンの手にはナイフとフォークが何本も握られている。
これでどうにかなるとは思えないけれど・・・。
頼りない、唯一の武器を手にストーンはその何かを待った。
冴え渡ったストーンの耳に、遠くの銃声が聞こえてきた。
~15話~ 絶つ
手が千切れそうさ・・・。足の傷も開きかかっているし、さっきのジャンプで・・・。
ステの腕にも限界が近づいていた。
と、坊の重みがなくなって、ふっと軽くなった。
「坊!」
無意識のうちに手を放してしまった!!
完全にそう思い込んで、ステも気を失った。
「大助・・・?」
だんだんと薄れる意識の下、最後に瞳に映ったのは、あの気弱そうな少年の笑顔ではなかったか。
「大丈夫ッス」
背中に黒い翼を持った、紫がステと坊を救いに帰って来た。
「大助?」
瞳を覚ました坊の前にはあの頼りない少年が立っていた。
「おぬしが助けてくれたのかの?」
「いえ・・・」
困ったような笑顔を浮かべながら
「ボ、ボクじゃなっ!・・・」
必死に否定するのはいつも通りだった。こっそりと感謝しながら周りを見回すと、傍らには、確か、あの爆発から救ってくれたステが倒れている。
―こんなに怪我しておるのに、ようおらを助けたのう―
坊はまだフラフラする頭をしっかりさせようと、今すべきことを考えた。
―そうじゃ、ホールに戻るとこじゃった。―
「大助。ステは頼むぞ。おらはちょっと行って来る」
走ってパーティー会場まで行き、その扉の前にたどり着いた。そして、目の前の豪華な扉を開けるとそこには・・・彼の妻が目を閉じて倒れていた。白い服がいくらか赤く染まっている・・・。
「・・・なんじゃ・・・」
―いや嘘じゃろ。そんなことが起こるわけが・・・。―
心臓の鼓動が一気に早く大きくなって、耳に聞こえてくる。いつしか、彼の耳にはその音だけしか届いていなかった。そうして、眼の前の一点だけを見つめている。
―こわい―
「ヨーン!」
あとは何も考えず抱きしめていた。真剣にただそのひとだけを。
 どこかで、大きな爆発がした。そんな気がした。
~16話~ 望み
最初、「何か」が天井を走る音を聞いた。次に、確かに「何か」が降りて来る気配がした。そして、太い腕のようなものが伸びてくる。眼が暗闇に慣れてきたからか、おぼろげにその「何か」を感じた。ストーンはその方向に思いっきり、ナイフとフォークを突き出した。明らかに「何か」の感触が当って、ホール中に咆哮が轟いた。そして急に電灯が点滅を繰り返しだした。そこに浮かび上がってきたのは、体長3メートルはあろうかという虎に似た獣の巨大な体。丸太のような左前足がストーンの胸の方に伸びて、爪が刺さっている。しかし、その得体の知れない獣の両目にもストーンのナイフとフォークが刺さっている。
ストーンの体がゆっくりと、前のめりに落ちる。
獣は哭き叫びながら、前足をやたらめったらに振り回し、ストーンのいなくなった空間を引っ掻き回す。さらに床に転がり、痛みの元を取り除こうとする。
ブツッ!
 その獣と、ストーンのちょうど間に突如として現れた、一人の赤髪の青年。少し振り向いて、気を失って倒れているストーンに声を掛ける。
「・・・ストーン。後は任せろ」
マントを翻して、腰に提げている剣を抜くと、一閃。
獣の首がごろりと落ち、首を失った胴体も動くことを、止めた。
その時、どこかで爆発音が轟いた。
17話 翔ぶ④
朱と白はリラ,れっぱ,バーン〔タイムマシン〕に連れられて会社に帰ってきていた。そして,ジムとアスのいる会社で合流する。
~18話~ 轟く
坊を逃がしたあと銃撃戦を繰り広げていた刑事とその部下は、黒服の男たちをその喫茶店に釘付けにしていた。数の上では二対六でかなり不利だったのだが、確実に敵の数を減らしていた。しかも携帯電話で応援を呼ぶ余裕さえも見せていた。出口に向かって移動しながら、大分時間を稼いだが、まだ、応援が来るのにあと5分くらいはかかりそうだ。もう一踏ん張りというところだろうか。
いや、実際に警察はもう、すぐ、下の玄関ホール前まで来ていた。そして、それから、4分38秒後、現場に到着したのだ。
―全ては手遅れだった―
轟音をたてて、喫茶店は粉々に破壊されてしまっていた。
その前に、黒服の男の一人が「!待って下さ・・・」と言う声を発していたのが聞こえただろうか。
店員は皆無事だった。あとで、警察に聞かれて、殉職した二人の刑事が、計画的に一人一人逃がしていったおかげだと、一様に答えた。そして、ひたすら感謝の言葉のみが聞かれた。
爆発音がが響いてきた後、すぐに警察が到着して、パーティーに出席していた人たちも、速やかに避難させた。ホテルから連絡を受けていた、消防、救急もすぐに到着して、消火や非難の作業を行なった。そして、すぐに病院へと怪我人を搬送していった。
~19話~ 集う
ステは「よお!大助、ネオ・・・よー帰った」とだけ言い残してすぐに救急車に乗せられていってしまった。
坊はヨンが運ばれる救急車に共に乗り込んで行ってしまった。幸い、ヨンの怪我は、致命傷と言うほどではないと聞かされ、少し安心していた。
・・・久しぶりの賑やかな雰囲気を味わいながら、パトカー、救急車、消防車で込み合っている正面玄関をすり抜ける。
「ネオさーん!」
紫大助の元気な声がした。
「ストーンさんも大丈夫みたいっスよ!」
彼はにっこり笑って頷いて見せた。
「あっと、携帯、預かってきたんだった。もしもし?あっボク、ボクだよ大助ッス」
様々なサイレンの音がしていたので片耳を押さえながら、大声で叫んでいる。
「?ネオさんですか?はいっス!元気ッス!・・・ネオさんに換わります?」
電話を換わると、ひとしきり笑顔になったり苦笑いになったりしていたが、電話が終わると、
「はやく帰って来いってよ!」
と紫大助に言って、駐車場の方へ向かって歩き出した。空を赤く染めた、太陽が最後の光を残して今にも消えようとしていた。
第一幕のエピローグ

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