見出し画像

South/iSland物語

SP篇

えぴそーど① ステ恋物語
「おーい!ステ、何やっとんねん!」
「へ・・・な、何って、何も・・・」
「それが問題なんや。あんさん、今日、夜番やで!」
「あー・・・」
「給料から引いとくな」
どこから現れたのか社長がステの真後ろに立っていた。
「しゃ、社長!申し訳ありません。」
社長の去った後もステイメンは気合いの入っていない様子。
「どないしたん?」
「なんも」
「気のない返事やなー、どないしたん?」
「なんも」
「おもろないなー。ステ。」
「なんも」
「さっきから同じやなー。ほんまに変や!」
最後にステイメンの、はぁーというため息が聞こえてくる。

じゅうおうは首をかしげながら、客間に入っていくと
「おっ、じゅうおう、ステは見っかった?」
みると、いつもの三人組が畳の上でふざけて暴れているところだ。机は端の方に立てかけている。バーンナイトがはくりゅうちゃんの上に乗っかって、ガンタンクがカウントを取っている。
「ガンちゃんやないかー、なんやおそろいで何やっとんねや。もう風呂入ったんか。」
「ボクたちはまだっスよ。」
はくりゅうちゃんが押しつぶされながらも答えるのを聞きながら、部屋を見渡して三人以外に誰もいないことに気付いた。
「今は誰らが風呂や?」
「たいちょー達ではないかのう。どうかしたかのう、じゅうおう。」
と、バーンナイトが3カウントのコールを聞いて、ガッツポーズを取りながら答える。
「そや!ステの様子が変なんや。なんや、ボーとしとるし、今日は夜番を忘れとったし。」
「うーん・・・変。」×3
「まさか!」
「なんや、バンちゃん?」
「先週の日曜日にのう、ステが暇そうだったから一緒に買い出しに行ったのだがのう、変だったのは帰り道じゃ。ずっとボーとしてて、心ここにあらずって感じだったのう。」
一同黙って何か考えている様子。
「もしかして・・・」
となにやら真剣な表情になってはくりゅうちゃんがそろそろと話し出すので、
「なんじゃ?はくちゃん?」
とじゅうおうも真剣に聞いてみると
「財布を落っことしちゃったんじゃないっスか。」
「それでお金がなくて、借金して、首が回らないとか。」
ガンタンクが身を乗り出して言うと
「あー、そのために毎晩、泥棒に入ってて昼間は疲れてる、と。」
「なんでやねん!!真面目にやらんかい!」
こうなってくると、何がなんだか分からなくなってしまう。そもそもこの三人組に話をしたのがいけなかった。そう思ってもあとの祭り。彼らの暴走はもう止まらなくなってしまっていた。話がどんどんそれて行く中、そろーと部屋の中に入ってきた影が一つ。
「ところでどこで買い物したでござるか?」
「どわぁー!いつからそこにおったんや!?」
なんと、そこにいたのはお風呂上りで、タオルを頭にかぶった格好のれっくうであった。
「お風呂あがったでござるよー。」
とへらへら笑いながら、畳に腰を下ろし、
「あっ、はくちゃん、拙者にも麦茶を一杯いただけるでござるか。風呂上がりはのどが渇くでござるよ。じゃあ、話を続けるでござる。」
れっくうの登場でやっと本来の話に戻れると、ホッとするじゅうおうであったが、三人組がいると、いつもこんな調子だ、と少々あきれ気味でもあった。そんなじゅうおうはほっといて四人は先週の買い物の話に移っていた。
「先週は確か、肉屋の『三本ハム』と、あっ定食屋にも行ったのう。」
「なんで定食屋に行ってんだよ。」
「まあ、それはよいでござるよ。」
と、れっくうはガンタンクのツッコミを抑えながら、
「他に行った場所は?」
と冷静に質問している。ガンタンクは、オレも定食屋に行きたかったのになぁ、とまだ未練があるようだが・・・
「えっとー、あとは・・・、そうそう、先週、お米が切れそうだったから、米屋にも寄ったのう。うん、それだけだのう、先週は。」
「米屋か・・・。さっぱり分からないでござるな。」
全く原因となる出来事が考え付かず、五人とも考え込んでいると、パタパタといういくつかの足音が聞こえてきた。それぞれ思考に入っていたので、足音にびっくりしたが、れっくうが落ち着いて、みんなに提案をした。
「明日は買い出しの日でござるな。そのときにステも誘ってみたらいいでござる。もし、ステが一人でどこかに行くようなら、後をつけて見るでござるよ。」
そう言うのを聞いて、残りの四人は頷いていると、戸を開けて、隊長(白龍)が顔を出した。
「何やってんだ?風呂あがったぞ。早く入ってしまえよ。」
「あっ、あんちゃん!よーし、バンちゃん、お風呂でもう一勝負するっス。」
はくりゅうちゃんが動揺しつつも、何とかごまかして三人組は、お風呂へと走っていった。
「なんじゃ?」
隊長はわけがわからないといった感じで首をかしげながら、座布団を隅っこから持ってきて腰を下ろした。
「たいちょー、丼村屋のあんまん、食うか?」
と片手にビールを持ちながら、武者頑駄無(むしゃ)が呼びかけたので、考えるのはやめて、しばし風呂上りの一杯を楽しむことにした。

「はあー…。」
さっきから、十秒に一回はため息をついている。外に出ると、吐く息が白い。サザンアイランドとはいえ、冬は冷えるのだ。真夜中になると、0度近くまで下がる。夜番の当番になっているほかの二人は懐中電灯を持って見回りに行っていて、ステイメンは一人宿直室にあるモニターを見ている。ここまで寒くなってくると、宿直室にもストーブを持ってきて、その上にやかんを乗せて、暖を取っている。お湯が沸騰して、シュンシュンと温かそうな音を湯気と共に立てている。その上、ステイメンは毛布を押入れから出してきて、それにくるまっている。ただ、目はモニターを向いているのだが、彼の心は全く違うところを見ていた。最近、彼は寝ても覚めてもその状態にあって、仕事が全く手につかないのだ。社長に叱られた時も、その時は、いけない、しっかりしないと、と思ったのだが、そんなことをすっかり忘れさせてしまうほど、彼の心は一つのことしか考えていない。


朝は早い
 一班①②は二班②から
引き継ぎ。
(湖、池へ行き、魚、網の点検。)
  試験用水槽の点検。
  えさ 朝食

  えさ
昼食
見張り、点検など
畑仕事(一班②)
夕方
  夕食
  畑仕事(一班②)終了

  二班(①)は夜番
この他に
  出荷・修理・雑用などなど 
 
閑話休題
家族構成№Ⅰ【社長・副社長】<家族・名前を考えよう>
烈光頑駄無 妻( 夕姫 )長男(ビクトリー)長女(菊華)次男(ゴッド丸)
SPウルトラレイカー 妻(ホロン)
キングエクスカイザー 妻(真尋)長女(4歳)長男(3歳)
ガーディオン(医者さん)妻(エレン)

ティータイム(Tea Time)
たいちょー・・・丼村屋のアンマンが好き!(肉まんも!)
お酒が好きな人。・・・たいちょー*クラウン*将軍*むしゃ*キング*社長*せーんむ
閑話休題
 家族構成No.Ⅱ【専務以下】
 サンダーバロン(専務)妻(故人)長女(既婚)
 ゴッドマックス(顧問)妻(フローラ)長男(6歳)
坊(専務)妻(ヨン)
 ステ(総合班長)妻(メーナリー)
 烈破(副班長)
 暗密将軍(総合班長)妻( )
 ジムさん新婚 妻( )

えぴそーど①続き
 見回りに出ていたクラウンとマーキュリアスは初め何が起きたのか分からなかった。それまで聞こえていた水車の回る音が聞こえなくなり、辺りは突然、静寂に包まれた。その上、電灯の明かりが消え、真っ暗になってしまっていた。しかし、突然のことだったので、二人は自分たちの置かれた状況を把握するのに時間がかかってしまった。そして、やっと思いついたというようなクラウンの声が響いた。
「大変だ、停電だ…!!」
「げ、こんなときに懐中電灯、電池が切れてるよ!」
絶望的といったマーキュリアスの声がそれに重なった。

 彼はいつのまにか、夢の世界へと引き込まれてしまっていたようだ。宿直室でモニターを見ているうちに、ふっと意識が消えてしまいそのまま夢の中へ落ちていってしまった。すると突然、そこから、猛烈な勢いで現実に引き戻そうとする力に襲われた。
「……ーーーッ、ビーー……。」
(何をするんだよ、今いいところなのに…)
「……ビーーーーッ、…ビーーーーッ。……。」
「??」
 彼もまた、自分が今何をしているのか思いつくまで時間があった。そして、目が少しずつ覚めてくると、それが、水車が止まっていることを知らせるブザーだということに気が付いた。それと共に、部屋の明かりが消えて、真っ暗になっていることにもようやく気付いた。もしかして、停電か?そこまでたどり着くまで、なんと長い時間がかかっただろう。ほんの数秒の間だったが、彼にとっては長い長い時間に感じられていた。すると、ドアを開ける音がして、続いて荒々しく宿直室の戸が開かれ、と同時に聞き慣れた声がした。
「ステイメン、停電だ、おい、起きてるか?」
「あ、クラウンさん、ん?マーキュリーさんも一緒か。」
「そうだよ、私もいるのだよ。それより、懐中電灯はあるかい、私たちのは電池が切れてしまってね。」
「あ、今、持ってきます。アタッタッ。」
暗闇の中で突然動いたものだから、何かにつまづいたようである。それでも、何とか懐中電灯を探し出して、明かりをつけた。そして、念のためロウソクも出して、火をつけた。懐中電灯の電池も交換して、何とか三つ光を確保した。よく見ると、クラウンもマーキュリアスも二人ともひどく汚れている。暗闇を急いで来たものだから、あちこちでぶつけたり、こけたりしてしまったのだ。それには構わず、クラウンは携帯電話で、社長に電話をかけながら、てきぱきと指示を出している。
「マーキュリーは南電(南島電力会社)に連絡してみてくれ。ステイメンは、発電機室に行って動かす準備をしといてくれ、懐中電灯は持ってっていいから。」
「了解(ラジャー)。」×2
ステイメンは上着を着ると、発電機室の鍵を持って走って外に出て行った。マーキュリーは南島電力会社に電話を入れている。
「あれ?電話に出ないな、社長。もしもーし。マーキュリーそっちはどうだ?」
「朝まで待たないと無理みたいですね。」
「あ、そっちの携帯は通じるんだな。さすがに、午前1時じゃ辛いか。よし、おれはこれから社長の家に行って…いや、マーキュリー、行ってくれるか?」
「ええ、わかりました。」
「おれは、ステイメンの所に行って来るから。よろしく!!」

ステイメンは白い息を吐きながら走って、発電機室に着いた。鍵を開けようとして、手袋をして来なかったことに気付いて、今さら後悔しながら、なんとか中に入った。小屋のような建物の中に、発電機が二台備えてある。一台は太陽光発電ができて、しかも、昼間に発電した分を充電しておけるという優れもの。もう一台は、ディーゼルエンジンで発電するものである。太陽光発電が止まった時のために、ディーゼルも用意しているのだ。ステイメンは太陽光発電の方に歩み寄り、ハッチを開けて、中のレバーを下に引いて、発電機をスタンバイモードにした。そして、社長に習った通りの手順で、次々とスイッチを入れていこうとしたが、寒さで、手がかじかんで思うように押せない。それでも何とか、最後の手順まで終えた。最後のスイッチは、班長・副班長以上でないと押せない(知らない)のでそこで手を止めた。そして、念のため、ディーゼルの方も作動させる準備をすることにした。この頃は寒いので、エンジンがかかりにくいのだ。ちょうどそこへ息を切らせたクラウンが到着した。
「ステイメン、やってくれたか?よしよし、後はおれだな。」
クラウンは一班の副班長であるのだ。スイッチを押すと、発電機がグオオーンという大きな音を立てて、動き出した。水車の音が聞こえてくるのを確認してから、
「あと、八時間ぐらいしか持たないなあ。」
と計器を睨みながら、クラウンが呟いた。
「ステイメン、とりあえず、池の様子を見てきてくれ。おれは、湖の様子を見てくるから、たのむな。」
「はい。あの、大丈夫かな。オレが居眠りしてたせいで、気づくのが遅れてしまって・・・。」
「おれ達も、電池が切れてなきゃなぁ、ははは、まあまずは魚の様子を見てからだよ。」
「そうですね、じゃあいってきます。」
ホッとした様子で、ステイメンが走り去っていく。クラウンは、あいつこの頃変だよな、と思いながら懐中電灯を照らして、湖のほうへ歩いていった。

「いやあ、すまんすまん。わたしの携帯、どこにやったかと思っていたら、洗濯物の中だったよ。で、停電したって、どんな状況だい?」
上着を取ってきて、パジャマの上から羽織って、烈光社長は玄関まで出てきた。
「南電は朝にならないと来れないそうですね。発電機は、ステイメンとクラウンさんが動かしに行ってます。魚の様子ですが、えっと、慌てていて、あと、いろいろあって見て来ていません。すみません。」
烈光はぼろぼろなマーキュリアスの格好を見て、自転車をこいでここまで来たわりにはひどく疲れているし、一体何が起きたのだろうか?首をかしげながら、
「よし、わかった、わたしもこれからそっちに行こう。魚も気になるしな。マーキュリーはウチで少し休んでいくといいよ、妻に温かいコーヒーをいれてもらおう。」
と言うと、奥に引っ込んで、身支度をしながら、妻の名を呼んでいる。マーキュリアスはホッとして体から力が抜けていくと同時に、意識が遠ざかっていくのを感じながら、その場に倒れ込んでしまった。

 クラウンは自転車をこいで湖に行く途中、白龍たいちょーの携帯に電話を入れていた。
携帯電話の時計は午前1時23分という表示が出ていた。緊急事態ということもあるが、人手が足りていないことも考えてのことでもあった。それと、社長が来た時に、宿直室に誰もいないのはまずいと思ったのだ。また、白龍たいちょーは妻子持ちではないと言うことも理由の一つでもある。(社長、副社長、顧問、総合班長(将軍)、そして、武者が妻子持ちである。)
「もしもし、たいちょー?うん、そう、停電!え、おれ?今、湖に向かってる。それでさ、宿直室のほう頼むわ。うん、悪いな。」

 その頃、ステイメンは真夜中の林道を自転車で駆けて池に向かっていた。落ち葉が積もっているので、その上を走るとサアーッと落ち葉が舞い音を立てる。枯草はきれいに刈られていて、道の端のあちこちにこんもりと小さな枯草の山が出来上がっている。これで焼きイモをしようと誰かが言っていたような気がするのだが、今のステイメンには思い出すような余裕もない。空を見上げると木々の間から、月が見えることもあるのだが、今夜はその月も見えない。その代わり、懐中電灯で足下を照らして先を急いでいる。と、
「ズズッ。」
急いでいたのでカーブを曲がりきれず、そしてまた、地面が落ち葉で覆われていて滑りやすかったため、彼は道を外れて林の中へ突っ込んで、坂から転がり落ちてしまった。
「しまった!」
の「た」を口に出して言うか言わないかのうちに、頭をぶつけてそのまま気を失ってしまった・・・

「あ、れ、ステイメンのやつは帰って来ていないのか。」
「おお、クラウン。ステイメンなら、まだ来てないみたいだけど・・・。」
「そ・・・か・・・。」
「あいつは今どこに行ってるんだい?」
「池のほうに、行かせた。」
「なら、すぐ戻ってくるさ。それより魚はどうやった?」
「ああ、水車も動き出して、異常なしだ。まあ、太陽が出てきてから、もう一回行くつもりだがな。一時はどうなるかと思ったよ。」
「おまえ、電話の声、かなり焦ってたもんな。あはははは。」
「笑い事じゃねーよ。」
ここは、宿直室である。クラウンは見回りを済ませて、一度戻ってきたのだ。夜中にたたき起こされた、隊長はやや眠そうであるが、どこから持ってきたのか、ランプに火をつけ、椅子に腰掛けて、ゆったりとコーヒーを飲んでいる。隊長とクラウンは同い年ということもあって、気軽に冗談を言い合える仲だ。
「あ、クラウンはん、おかえりやす、魚は大丈夫どすか?それよりその格好はどうしたどすか?」
奥の部屋から、ヤカンを持って寒そうにしながら、巨砲(ガンキャノン)が出てきた。
「あれ、先生。どうしたの。いや、まあこれは、色々あってなぁ・・・。」
そう答えながら、クラウンは恥ずかしそうに頭をかいている。それを見つつ、隊長は答えて言った。
「人手が要りそうだったから、一応先生も呼んどいたんだよ。でも、なんとかなったみたいだな。そうそう、マーキュリーは社長の家で倒れちまったってさ。すごく疲れてるみたいで、今はぐっすり眠ってるってさ。そんで、今、社長がこっちに向かってるってよ。」
巨砲の持ってきた服に着替えながら、本当に驚いたという様子で、クラウンは聞いている。それから、ヤカンに入れてあったホットミルクをついでもらって、それを飲みながら、ふーと息を吐いた。温かいミルクが、冷え切った体を中の方からゆっくりと温めてくれる。しばらく談笑をしていたが、いつのまにか、クラウンは眠りに落ちてしまっていた。
「あらら、眠っちまった。」
「布団を出しましょうか。」
隊長は、頼む、と言いながら、三人分のカップを片付けてからクラウンを背負って隣の仮眠室に連れて行くことにした。ふと、腕時計を見ると、もうすでに2時半を回っている。ステイメンはやけに遅いな、と考えながら、クラウンにとってはひどい夜になったもんだとしみじみと思っていた。しかし、長い長い夜はまだ終わっていなかったのである。
 
 社長は会社に着くと、宿直室から小さな光が漏れているのに気付いた。
まだ停電が続いているんだな。そう思うと、急がずにはいられなかった。小走りにその光の方向へ行く。それにしても、マーキュリーが倒れるとは、一体何が起きているんだと不安が胸をよぎる。戸を開けようとノブに手をかけると、ちょうど誰かがそこから出てくるところだった。その人物は少々慌て気味であったので、さらに社長を不安にさせた。
「社長!ちょうどよかった、今、ステイメンを探しに行くところなんです。」
「白龍君、ステイメンがどうかしたのかね。」
隊長は、よかった、という表情をしながら事情を説明する。この社長は困ったときによく現れてくれる。そして、必ず何とかしてくれるような雰囲気があり、皆から信頼されている。隊長も社長が現れたことで、落ち着きを取り戻してきた。そうして最後に、いつまでたってもステイメンが帰って来ないことを告げた。

「帰ってきていない?」
社長も驚いている。それでも、冷静になろうと、深呼吸をして、
「とりあえず、巨砲は寮のステイメンの部屋を見てきてな。白龍君は発電機室の方へ行ってみて。わたしは池の方へ探しに行くことにします。見つけたら、携帯に連絡することにしよう。見つからなかった場合は、20分後に、ここに集合ということで、いいね。それと、巨砲は寮に行ったら、誰かに事情を話して、宿直室に来てくれるよう頼んでくれませんか。」
と、だいたいの指示を出して、それぞれ外へ出て行った。

 約20分後、宿直室には隊長と巨砲、そして巨砲に起こされた獣王が集まって来ていた。
「なんや、マーキュリーとクラウンはんは倒れとりますし、ステ君は行方不明やろ、しかも社長までいなくならはったやて?」
「社長はまだ帰っていないってだけだ。まあ、あと5分くらいしたら探しに行こうと思ってる。」
「社長はんは時間を守らないような人ではないどすー。」
獣王には一応説明したのだが、いい夢を見ていたところをたたき起こされたので機嫌が悪そうだ。それでもいやいや起きてきて、宿直室の椅子に腰掛けてお茶を飲んでいる。巨砲はさっきから社長の携帯電話に連絡を入れているが応答はない。隊長は落ち着かない様子で立ったままコーヒーをブラックで飲んでいる。コーヒーを飲まなくても緊張と不安で頭は冴えているのだが、何か飲んでいないと気分が落ち着かないのだ。
そうして、時計を見ながら隊長は決断を下した。
「よし、社長とステイメンを捜しに行くか。」
「よっしゃー、ほな行こかー!」
とやたらと元気な獣王の声が響いた。巨砲(ガンキャノン)は魚が心配なので、宿直室に残ることにした。時計の針はもう3時を回っていた。
 外に出ると、まだ辺りは夜の闇が支配していた。そして、二人の心には不安が膨らんでいくのだった。事の起こりは真夜中の停電だったはずだ。それが次から次へと事件が起きて行方不明者まで出してしまった。ステイメンとはいえ、今日の寒さの中ではただではすまないだろう。それだけでも大変なのに、社長までいなくなってしまった。暗闇の中で人を探すということは、意外と難しいものである。昼間なら見つかりそうなところでも、夜の闇に覆われると、それだけで見つからなくなってしまう。見えていたものが見えなくな
る。見えるはずのものが見えない。しかもまだ、電気は復旧していないので懐中電灯の明かりだけが頼りである。
 そんな頼りない明かりで足下を照らして、周りを見渡しながら、二人は池へ向かって進んでいた。もちろん大声でステイメンと社長の名前を呼びながらである。
「おーい!ステイメーン、しゃっちょうー!」 
二人の声は、すぐに林のシーンとした静かさへと吸い込まれてしまう。まだ枯葉の残っている木々が冬の冷たい風に吹かれて、ざわざわという音を立てる。それと共に枯葉もぱらぱらと舞い落ちてくる。一体ここで何が起きているのだろうか、という気持ちになってくる。そのうち二人は何も見つけることができず、池にたどり着いてしまった。思い出したように、隊長は社長の携帯に電話を入れてみる。出ない。すると、獣王の声がした。
「たいちょー、社長の車があったでー!」
隊長はそちらに近づいて、車の中を覗き込んだ。しかし、そこには誰の姿もなく、ただ、携帯電話がむなしく鳴っているだけだった。
「携帯、置きっぱなしでどこ、行きよったんやろか?」
「そうだな、意外と近くにいるかもしれないぞ。」
と隊長は期待を込めて、自分を納得させるようにうなずいた。二人でしばらく辺りを探していると、隊長の弟と武者マークツーが軽トラックで応援に現れた。白龍Ⅱが運転席から顔を出しながら、
「兄さん、社長とステイメンがいなくなったんですって?」
と聞いた。続いて、マークツーが車を降りて事情を説明した。
「今、巨砲先生が起こしに来てくれたんですよ。それで、先生は今、キングさんに連絡を取っているところです。」
「ウチの班(2班)は寝かしてやってる?」
「ええ、明日朝が早いから、起こさないでやってくれって先生が言っていました。」
「そうか。」 
と隊長は息をついた。
「兄さん、こっちにくる途中で、社長の上着を見つけたんですけど・・・。」
「ど、どこで。」
非常に驚いたという顔で、隊長と獣王は声をあげていた。
「え、だから、来る途中の木につり下げていましたよ。」
「そこだー!!!」
そう叫んで、そこまで引き返すことにした。急いで、二人は軽トラックの荷台に乗ってもと来た道を帰った。
 現場に着いた二人は驚いた。なぜこんな所が発見できなかったのだろうと思ったのだ。とにかくそこから林の中に入ってみることにした。マークツーだけそこに残し、三人で土手を降りていく。しばらく行くと獣王が何かにつまずいて声をあげた。
「どうした、じゅうおう?」
「なんや、こいは?あっ、たっ、た、たいちょー、自転車や、ステイメンの自転車やで!!」 
「なに!」
残りの二人が集まってきた。が、しかし、ステイメンの姿は見えなかった。
「どういうことでしょうか。」
と白龍Ⅱが当然の疑問を口に出した。三人が押し黙った、その時である。小さな声が聞こえてきたのは。
「この声は・・・?」
「社長の声や!」
「まだ、坂の下の方から聞こえてきますね。」
「この下は何でっか?」
「確か、川が流れてたはずだけど・・・そんなとこまで行ってんのか!」
隊長が今夜何度目かの驚きを表現すると、
「行きましょう。」
と白龍Ⅱが言って、三人は坂を下りだした。木の枝が刺さりそうになるのを慎重によけながら、ようやく、社長の声が、はっきりと聞こえるところまでやって来た。
「しゃっちょうー!」と大声で呼んでみると、答えが帰ってきた。
「ここだ、ここ!助かったよ。」
見ると、ステイメンを背中におぶっている。三人は駆け寄りながら、
「社長!大丈夫ですか!ステイメンは?」
と聞くと、社長は「ああ、ステイメンがケガをしてる。今は気を失ってるだけだ。」とだけ答えて、崩れるように倒れ込んでしまった。
「社長!」
三人とも叫んで、社長を支えようとした。よく見ると、社長も洋服のあちこちを破いてしまっていて、ケガだらけである。ステイメンも、似たような格好である。隊長はステイメンに自分の上着を着せてあげながら
「おれは、ステイメンをおぶっていくから、おまえたちは社長を頼む。」
と言って、坂を登りだした。

坂の上にはマークツーのほかに、2班の皆がそろって来ていた。当然、社長とステイメンの姿を見て、大騒ぎになる。隊長は皆の声に答えながら、
「待て待て、これから、二人を病院に連れて行くから、大丈夫だ、大丈夫だって!」
と言って、軽トラックに乗ろうとした。
「わたくしが、運転しましょう。隊長も疲れているでしょう。」
乗用車の中から、ジムさんが出てきて声をかけた。
「あ、車、持ってきてくれましたか。」
と隊長は頭を下げる。見ると、ワゴン車の中から、キング副社長も出てくる。
「病院の方にも連絡を入れておきましたから。」
と言って、ジムJrとキングがステイメンを抱えて車に乗せる。続いて、社長も乗せた。ここまで来て、やっと隊長はホッとひと安心することができた。すると、どっと疲れが体を襲ってきた。だいたい、夜中にたたき起こされたので疲れが取りきれていなかったのだ。その上、ここまでずっと二人を捜していた。もう、全社員が起きてきて、仕事を始める時間なのである。疲れるわけである。
後日、隊長は時計を見て、午前5時半というのを確認したことまでは覚えていたのだが、その後、どうやって寮の自分の部屋に戻ったかはどうしても思い出せなかった。
 
 その後どうなったかというと、キングが会社に残っててきぱきと指示を出していた。現在残っているのは二班だけである。そこで、二班を二手に分けて池と湖の様子を見に行か
せた。一班は壊滅的である。一夜で、クラウンとマーキュリアスは倒れ、ステイメンは病院行き。さらに、白龍Ⅱと獣王は体力を使いきっている上に、ケガだらけであり、隊長と一緒に手当てをしてもらっている。マークツーは、軽トラックと宿直室を往復して、がんばってくれたので、先に寮に帰した。8人のうち6人が今、いない。ジムJrは、病院に行っている。大変な夜になったもんだ。とキングはため息を一つついた。今、サンダーバロン専務とゴッドマックス顧問は出張中である。よって、キングが先頭に立つことになっているのだ。しかも、二班は、班長不在であり、大変である。
 やっと日の出の時間である。長い長い夜が終わる。
 将軍と武者も出勤してきて、巨砲から話を聞いて驚いている。巨砲にとっても大変な夜だったのだ。社長とステイメンが発見されてからは、社長の家に電話をかけ、専務と顧問にも連絡を入れた。病院にも連絡をしておいた。また、一人でずっと番をしていた。それらの疲労で、もうかなり眠そうである。二班の他の皆は元気一杯仕事をしているのだが、とてもそんな元気はないといった表情で話をしている。と、いつのまにか、うとうととしてしまっていたようだ。将軍が、温かいお茶を入れてくれているところだった。 
「ありがとやす。」
と言いながら、今日は休みをもらおうと考えていた。
 

 朝の光が差してきてもなかなか気温は上がらず、忙しく働く者たちの息は白い。早くから騒いだものだから、とてもお腹をすかせていた。のだが・・・・・・朝ご飯を作ることは、皆すっかり忘れてしまっていた・・・。絶叫が会社中にこだました。
その一時間後、電気は復旧した。

≪えぴそーど①その後のあらすじ≫
 武者さんの運転で、買い出しに行くことになったやんちゃ坊主三人組は街に出てきた。
 そこで、バーンナイトは美しいお嬢さんにステイメンのことを尋ねられる。何のことやら分からない、バーンナイトは親切にステイメンが入院したことを教えてやる。★入院することになったステイメンは、毎日が退屈で仕方がない。そんなある日、ステイメンのところに、一人のお嬢様風の娘が見舞いに訪れる。バーンナイトに尋ねていた、あのお嬢さんだった。★ステイメンは街に買い出しに来たときお嬢さんと知り合った。正確には、お嬢さんと道端でぶつかってしまったのだが。そのあと、ステイメンはお嬢さんの荷物を持って家まで送り届けてあげた。それから、二日に一回、ステイメンは自分から買い出しについて行って、途中で抜け出してはお嬢さんと話をした。その時に、バーンナイトと一緒にいたところをお嬢さんは覚えていたのだ。★それから、お嬢さんは毎日見舞いに来てくれるようになった。お花を持って来てくれたり、果物を持って来てくれたりした。そして、話をしたり、冗談を言ったりして、ステイメンが退屈にならないように接してくれるのだった。★あっという間に、暦はめくれ、退院の日が近づいてきた・・・・・・。★これにて長い長いえぴそーど①を完結することができるのか?作者も困りどころの完結編。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?