South/iSland物語

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ながい・・・ながい・・・ゆめをみていたのだろうか・・・
なんでだよ。いつも一緒だったじゃないか。
厳しい旅だった。何度も立ち止まりそうになった。そこでやめようと思った。
ああ,そうだ,この頃から,僕は記憶をなくしていたのだ。
深い深い森の中で・・・

後編
1話 看
2話 逃
3話 謎
4話 眠
5話 助
6話 楠
7話 遊
8話 銃
9話 集

列車大破!!班を再編成

1話 看
「看護婦さん?」
ステが目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。
「ステ,目が覚めたでござるか?」れっぱが傍らに座っている。
「オレっち・・一体?」起き上がってみると,痛みがない!
「体中メッタ刺しにされて落ちてました」
「落ちてましたー!」目の前に,今,口を開いた人たちがいるはずだが,
「あーた達,看護婦さん?にしてはどう見ても・・・」立っている二人の女性を見比べて
「お遊戯会か,学芸会って感じでござるな」どう見ても,座っているれっぱより,立っている女の子の方が背が低いし,顔も幼い。そして,れっぱは苦笑している。
「どういうことさ?」
「まあ,ネオを捕まえてった連中の病院ってとこでござるなあ」
「・・・なんで」
そういいながら自分の体を見てみるとあちらこちらに,包帯が巻かれている。
「拙者たちは生かされたらしい」
「・・・?」
「わからんでござるか?」
「うーーーむ」
「頭使わせて悪かったでござるよ・・・とほほ」
「で・・・?」
「ネオはまだ無事でござる!」
「オレっち達は人質?・・・と」
「まあ,そういうことかのう。後は子ども達が何とかしてくれるでござろう」
「ガキどもは一緒じゃないのか?」
「ここにはいないみたいでござるよ」
二人の会話が途切れると看護婦さんたちがやっと割り込めたというように説明を始めた。
「ここは地下,十三階。不吉な不吉な十三階。」
「十三階は病院には無いのー」
「無いのに有るの?」
「無いけど有るの!」
「何言ってるさ?」
「ああ,もう行って良いでござるよ。後は拙者が」
「そうですか?」
「そうですかー・ちぇー」
そういいながら,素直に病室の外に出て行く。それを確かめてかられっぱは口を開いた。
「あの二人の話を聞いていると,頭が痛くなるのでござるよ」
としみじみと語ったものである。れっぱは先に目を覚まして,あの二人の謎かけ・謎解きの会話を真剣に,一時間以上聞かされたので。要点をまとめると
・ここは大学附属病院らしい。
・地下十三階。つまりは極秘事項・重要参考人扱いになってること。
・この国は建物の高さが三階までと制限されていること。(景観保全のため)
・そのためこの病院は地下深くに作られていること。(それでも十三階という深さは異例らしい)
・光は屋上のソーラーパネルで集めた日光を利用していること。
などであった。まとめたはずだが,それでもステには充分頭の痛い話だったらしく,またすぐに寝込んでしまった。

2話 逃
十日後・・・。
「おはよー?」
「おはよー!」
「なによー?」
「なに伝染ってるでござるか」
ドンガラガッシャーン。なんとかベッドの上で体勢を整えるとベッドの下から現れたのは
「・・・!れっぱ!いつからそこにいるさ!」
「さっきかなあ」
おろろーんとした顔のれっぱだった。
「話があるそうでござる」
「話?」
「話があるのー」
「だれが?」とステが、まさかこのガキ二人じゃないよな、という表情で尋ねた。
「・・・」
無言でれっぱが指差した先には二人しかいなかった・・・。あーあー
「やっぱりコイツラかよ!」
と突っ込んでみたもののおとなしくベッドに腰掛けて話を聞くことにした。れっぱもどこからか椅子を引っ張り出してきて、そこに座った。

「何の話さ?」
当然,ステがわけがわからないという顔をした。
「まあまあ。聞けば分かりますー」
「まあまあ。聞かないと分かりませんー」
「どうぞ続けるでござる」
れっぱが仕切りなおしという感じで,二人に先を続けさせた。

「アナタたちはこっちの人間ではありませんねー。二人のことは上には全治一か月の重傷って報告したのー」
「重傷でしたー」
「でも二週間で治しちゃいましたー」
「というわけでー」
「それ以上は言わねー方がいい」
どこからか見知らぬ男の声がしてきた。病室のドアを開けて,立っていたのは二人の男女。どちらも黒いスーツに白いシャツ,サングラスを掛けている。表情は見てとれないが,ステやれっぱよりは若いらしい。今度は女性のほうが話し掛けてきた。
「お話中とは知らず失礼しました。わたくしどもは,警察の者で、クサカと申します。こちらはカマクラ。あなた方,お二人にはわたくし達と一緒に来ていただきます」
ステとれっぱはお互いに顔を見合わせて,
「だってさ」
「行くでござるか・・・・・・」
二人ともお手上げのポーズをして見せた。
差し出された服を大人しく着て、二人はまたお手上げのポーズを見せた。
「何で和服でござるか?」
「歩きにくいだろ。患者用のそれ!しかも目立つ。そんなの着てるヤツ、誰もいねー」
黒男カマクラにそう言われたが、どうも納得いかないよう。
「適当な服がなかっただけですから、妙に理屈付けはせずともよいです。」
黒女クサカにすっぱり言い切られてしまうと、二人とも、あっそ、という感じである。
「また、犯罪者というわけでもないので、手錠は掛けませんがくれぐれも逃げ出したりはせぬよう」
「もし間違って銃殺ということもあり得るからな」
「また、外には車が二台用意しておりますので、別々にお乗り下さいませ」
「警官が一台に四人ずつっていうわけ」
と交互に念を押されると、どうも逃げることを前提として言われているような気がしてくる。
とりあえず、エレベータで一階まで上がった。そこまでは静かだった。エレベータの扉がすうっと開く。
「ったく、おしゃべりな警官さんさー」
「まあな。さっ着いたぞ」
そう言って、まず、ステと黒男カマクラが箱から出ようとすると目の前には・・・。
「医者さん?」
ステの足が止まった。
カマクラも目の前の男性に目を向ける。
(白衣に眼鏡。ここの医者か?)
一瞬の隙だった。突然、目の前の医者が、右手で箱の中に向かって缶詰のようなものを投げ込んできた。その缶詰が煙を吹き上げながらクサカにぶつかる。その間にカマクラを左手でエレベータの箱に押し込んで、とっさに13階のボタンを押す。ステがれっぱを引っぱり出すと同時に扉が閉まる。
そのまま、医者さんらしき人に連れられて、病院のロビーを一気に駆け抜けると、ちょうどいいタイミングで、後ろのドアを開けたままの救急車が目の前に急ブレーキをかけて止まる。ひとっ跳びで三人は乗り込んだ。
「・・・医者さんでござるか?」
呼吸を整えるとやっとれっぱはこう尋ねることができた。
しかし、答えは返って来ずに、代わりに医者さんの仮面を外したのだった。
「むらさき!?」

3話 眠
「おはよう。今日は気分が良さそうね」
メイド姿の女性が、窓を開けると、そよ風が吹いてきて白い薄手のカーテンをはためかせた。そして、女性が点滴を新しい物に取り換えたり、包帯を結び直したりしている。依然、ベッドに横たわった彼は両目を閉じたままだ。額の周りは包帯でがっちり固められ、両腕にもギブスがはめられている。

4話 謎
「行方がわからんようなったんは、坊はんだけやな」
列車爆発事件から一週間。偵察に出していた者たちの報告を自宅電話で聞いていた。玄関にはゲタが脱ぎ捨てられている。暗いままの部屋。テレビが無造作に点けられている。その前には新聞が、ここ一週間分を雑に並べている。そばには先程まで鳴りっ放しだった電話が、引き寄せたままだ。彼はその前にあぐらをかいて床に直に座っている。帽子を手でくるくると回しながら考え事をしているようだ。
近所にはぽつぽつとしか家がない。この家もそうだが、どれも古民家という雰囲気だ。とんでもない田舎のようなこの村だが、実は首都から十分足らずの郊外の農村だ。しかし、こういった場所だからこそ、近所に呼ばれて食事をご馳走してもらったり、いろいろな物をもらったりあげたり、という交流が盛んなのだ。こうして走り回って「偵察」をしてくれているのも、実は、村出身の子供や若者たちが大半を占めている。
「死体が見つからんッちゅうことは生きてるんやろけど・・・」

5話 助
そしてこの人は・・・?
いきなり捕まってるし。紫―。
「楽勝楽勝」
と手錠足枷を外し,紫は今度はカチャカチャと独房の鍵を開け始めた。
「さってと,どうしよっかなー」
と辺りをきょろきょろと見回したが,右も左も真っ暗なのだ。

「ふぁささふぁふぁふぁださあふぁさふぁさふぁさふぁさあああださ」
「何で悪魔が・・・」
「あああ・・・」
この地区を守る三等兵は皆一斉にその方角の空を見上げた。
「通っていいかしら?」
「あぐあぐ」
顔を真っ青にしながら門番の兵がうなずいた。何十年ぶりかの悪魔の訪問。兵の一人がすぐに上官に報告を入れようと受話器に手を伸ばした。
「もうっ!!紫君ったらどこに行ったのよー!!」
悪魔の正体は・・・。

 銀河鉄道の終点“櫻咲”から徒歩五分のアパートの一室に彼らはいた。実はここ、ゲタ帽子たちのアジトなのだそうだ。そこのテレビでは一昨日の「事故」の続報が次々と伝えられてくる。
「しっかし,おれ達さぁよく助かったよねぇ」
一人で大きなソファーを占領しながら大きく伸びをして見せた。彼がそんな仕草をするとまるで猫のように見えるから面白い。
「バーン君は寝てただけじゃないですか」
もう一人の人物はそれを見ながら近くの椅子に優雅に腰かける。
「そういうクレナイだってチホちゃんに助けられてんじゃんかよぉ」
バーンがたまにはからかってやれと、口を出すと、奥の台所から声がした。
「ええ、あたしと紅さんは一・心・同・体なのよー。紅さんに何かあっても、あたしには分かるんだからー。ねー」
そう言って現れたのは、可愛いエプロンをした十三、四歳くらいの美しいというよりはかわいい感じの女の子である。
「へぇ。そうなのぉ」
「違います」
紅の口調は普段よりも更に冷たい。が、やや遠慮が含まれている。まあ、命の恩人に対して冷たくできるほど恩知らずではないらしい。
「もぉー照れちゃって!きゃー」
お盆の上のカップが三つ、カチャカチャと悲鳴を立てるのが聞こえた。
「はーい、くれないさんっ◎カプチーノにしてみましたっ!はいっ、バーん君にはカフェ・オ・レ。それじゃあ、しばらく変わるねっ!くれないさん・おやすみー」
変わるというのは、えーと、つまりですね、チホの中には一人、居候がいまして、ゲタ帽子の仲間らしいんですが、この人、今、幽閉中らしいんですわ。んでもって、魂魄を半分だけ飛ばして、自分になるたけ波長が近い人に、住まわしてもらっている。とそういうわけです。体を借りるわけだから、それだけエネルギーもいる。だから、どちらかが表に出ている間は、もう一方は寝た状態にあるそうです。ちなみに体も変身できるらしいのですが、それをすると、曰く「もたない」のだそうです。
「おひさしぶりね」
「助けてくれてありがとぉねぇ」
「一応、助けてもらったのですからお礼だけは言っておきます。有り難うございます」
「そうそう、紅君・謙虚でよろしい」
と言いながら胸をそらして偉そうにするのだが、背が足りないので、愉快に見える。見た目子どもだから仕方がないのだが。元の身長は173㎝あったそうだから、そのための癖だろうか。
「これから僕たちはどうすればいいんですか?こんな所にいたって、どうしようもない」
「今から話すんじゃないの!せっかちね」
「せっかちと言われても、時間がないとおっしゃったのはあなたたちですよ」
「うるさいわねー、もう。少しは黙って話を聞きなさい」
口調はきついが、表情はどちらかと言ったら、楽しそうにしている。
「まずは免許を取ってもらうわ」
「なんの?」
「銃と剣の携帯許可免許」
「銃!?」
「当たり前でしょ!あんたたち、素手でどうしようって言うのよ!」
「それはそうですけど・・・」
「しかも大急ぎで!遅くっても今週中ね」
「ええ!?」
「少し待ってください。そんな簡単に言いますけど・・・」
「大丈夫よ、当てはあるもん!」
「当てぇ?」
「しかし・・・」
「いいから、行くわよ。ついてらっしゃい!」

6話 楠 
アジトから徒歩十分、駅を挟んで反対側の喫茶店に彼らはいた。そこには「しをん」という看板が出ていたが・・・
「あ、あのぉ準備中って」
「ふん、何が準備中よ。いつもは開けっぱなしのくせして」
といいながらチホ?は堂々と中に入ろうとしている。
「いらっしゃいま・・・」
「お邪魔するわよ!クスノキいるんでしょ?」
「あ、あの・・・申し訳ありませんがまだ準備中でして・・・」
中から出てきたのはバーンより背は高いが紅ほどではないという、まあ、見たところ普通の少年。[外見未定]
「何寝ぼけたこと言ってんのよ!」
と、チホ?に言われて小さく恐縮してしまっている。
「えっと、どちら様で・・・」
としどろもどろな応対をしていると、奥からこの店の主人らしき女性が出てきた。こちらは女性にしてはかなり身長があるが、スラリとした感じを与える。見た目25、6歳といったところだろうか。
「あらー。ちーちゃんじゃないの!聞いてはいたけどホントに小っちゃくなっちゃったのねー」
「うっさいわねー。体は軟禁されちゃってんだから仕方ないでしょうが。それよりも○○○こそ、何よその顔。またどうせ二日酔いなんでしょ」
「もしもーし」
先程クスノキとよばれた少年が二人に呼びかけている。
「何だか感動の再会と言うよりは、宿命のライバルって感じだよねぇ」
とバーンがしみじみと呟くとチホ?の方から抗議の声が上がった。
「だれとだれがライバルですって、少なくともワタシはこんなの・・・」
「こんなのって言ったわねー。ちーちゃん。私に何か頼み事があるんじゃなかったのかしら?」
「そうそう。うっかり忘れるとこだったわ。アンタと不毛な会話をしにきたわけじゃなくってよ」
「そんなこと言っていいのかしら。まあ、いいけど・・・。ちーちゃん、先月分の支払いまだなのよね・・・」
一瞬チホ?は頭を抱えて考え込む仕草をしたがすぐに
「・・・払うわよ!わかったわよ!」
「クスノキ君!請求書持ってきてくれる」
「はい。わかりました」
ぱたぱたと靴音を残してクスノキが奥に下がると、○○○と呼ばれた女性が今度はバーンと紅の方に初めて向いた。
「で、今日は・・・そちらのお二人さん。まだ名前聞いてなかったわよね」
「バーンでぇーすっ!」
両手を振り上げんばかりの勢いでバーンがあいさつをする。
「元気がいいわね。で、そっちの美形君は?」
「紅です」
と美形と呼ばれたことには何の反応も見せずに、紅は丁寧に頭を下げた。
「ふーん。二人ともこっちの人ではないようね」
「へぇー。分かるぅ?」
「私にはわかるのよ。心配しないでね。みんながみんな分かるわけじゃないから」
「よかったぁ。ねークレナイ」
先程から難しい顔をしていた紅が、そのままの表情で頷いた。
「ええ。そうですね」
「それで・・今日はどういった御用かしら?」
「この子たちに銃と剣を教えてやってくれない?」
「何の悪だくみかしら?」
そう言いながら、○○○が紅とバーンの顔をのぞき込む。
「友達を・・迎えに行くんです」
紅が答えると、バーンも続けた。
「良い友達なんだけど、一人でどっか行っちゃって、なかなか帰ってこないんだよねぇ」
「この国が彼の古里かもしれなくっても?」
そう言えばネオの実家はどこだったろうか。ネオはあまり自分のことを語らなかった。話すのはいつも、医者さんにお世話になったということばかりだった。もしかしたら語れなかったのでは・・・。
「・・・えぅ」
「ネオさんの・・・」
「でもでもっ・・ネオさんは帰って来るんだよぉ!」
「そうですね、何のあいさつもなしにというのは許せませんしね」
何だか強引に理由を付けたみたいだが、二人の中では何とか「言い訳」ができたみたいだった。
「いいカオできるじゃないの。理由はめちゃくちゃだけど、いいわ、仮契約ってことにしておきましょ。で、支払いは?」
いいながら女主人はチホ?の方を振り向いた。チホ?はにっこり、ほほ笑んで
「いい子たちでしょ。ね、だからさー」
精一杯、値切るためのお願いをした。
「いいわよ。けどね、ちーちゃん、安くはならないわよ」
「なによ!アンタ!せっかく頭を下げてるっていうのに!」
言いつつ、頭を下げているのは紅とバーンだけだったりもするのだが・・・。
「この守銭奴!金の亡者!ホンットに金にはガメツイんだからっ!」
「仕方ないでしょー。私だって生活がかかってるの。あとついでに、クスノキ君の命も」
「イノチかいっ!」
電卓と契約書を持ってきていたクスノキが間髪入れずに突っ込みを入れるがこれは無視されてしまったようだ。

7話 遊―Game start―
「ところで誰が教えてくれるんですか・・・?」
紅が当然の疑問をやっと口にすることができた。
「お店の看板、ちゃんと見なかったの?」
とチホ?が契約書(仮)に渋々サインをしながら顔を上げて聞く。
「確か『しをん』と・・」
「おばか。その前よ」
「はいはいはーぁい!」
「はいっ!バーン君」
「ゲーム!」
「おばか!!喫茶まで読みなさい!」
漢字が読めなかったことはいいのかな、と思いながら紅は呟いた。
「ゲーム喫茶・・・?」
「そ。仮想現実だけど。」
「ヴァーチャル・リアリティ?」
と漢字ではなくて、カタカナで呟いたのは、やっぱりバーンである。
 そして、チホ?紅、バーンの三人はクスノキの案内で奥のゲーム用の部屋に通された。女主人は二日酔いでダウンしてしまったそうで、どうやら、チホ?はやっと安心できたようである。とりあえず、取扱説明書を読まされ、一通り説明は受けた。というところで、もう酸素不足の金魚状態なのがバーンであった。目で、早く始めようよぉ、と訴えている。
「承知しました。では」
そう言ってクスノキは傍らの電子辞書くらいの小さなパソコンに何やら打ち込んでいく。そしてカウンター・テーブルの下から指輪のセットを取り出し、二人に渡した。
「親指から順にゲーム開始と終了、次が一時停止、リセット、ロード(記憶)、オプションの画面に行く指輪です。忘れないで下さいね。死にますから」
「へ?」
「は?」
「さ。ここであんたたちには特訓しておいてもらうわ。その間、ワタシは休んでるから、がんばるのよ」
「何ですか、それは?」
「あんたたち助けるので、疲れたのよ。気が利かない子たちね」
そう告げると、チホ?はさっさと帰る用意をしだした。
「そうそう、あんたたち。はい!部屋のカギね。無くすんじゃないわよ」
と言い捨てると、二人の方へポーンと鍵を投げて渡した。それを、紅が片手で受け止めたのを確認すると、あまり長居はしたくないと言わんばかりに、逃げ帰っていった。
「Game Start ?」
「本当にゲームっぽいやぁー」わくわく
一時間後・・・。
「し、死にそう~」
二人は完全に疲れ切ってゲームから帰ってきた。

8話 銃
ヴォヴォヴォッヴォヴォッ・・・オートバイの低い排気音が近づいて来て、『しをん』の前で止まった。
ガランカラン!と客が入店してきたことを示す鐘の音がしたので、クスノキは顔を挙げてあいさつをした。
「いらっしゃいま・・・」
どうも最近、彼は絶句することが多いようだ。接客としてはあるまじき行為。しかし、彼を攻めるのは酷というものだろう。なんと言っても、客が悪すぎた。ライフル銃を持ってフルフェイスのヘルメットをかぶった男が、クスノキのほうに銃口を向けながら入店してきたのだ。
「いちめいさまですねー」
ガチャッ!安全装置を外す音が響くと。
「奥にガキが二人来ているだろう」
「あー来ていますよ。隣んちのマー坊とてっちんが!」
クスノキが冗談にもならない冗談を言いながら、警報装置に手を伸ばすと
「ふざけないほうガ、身のためデス」
カウンターに座っていた男も拳銃をクスノキに突きつけた。すると更に反対側のカウンターからも声がかかった。
「そうやで。ソイツなあ、ごっつ気い短いサカイ、ホンマんこと喋りい。」
冷や汗を流しながら、そっと周囲を見回すと、今度は団体席に座っていた男たち三人がおもむろにこちら側を向いた。
一、二、三、四、五・・・合計六名、全員!銃!
「客全員かいっ!」
と突っ込みを入れておいたが、どうやら時間稼ぎにもならないらしい。
「さっきから何を気にしてる?」
ヘルメットの男が多少イライラしながら尋ねると、その声の後を追うように
ガーン!!?
二番目の男がカウンターテーブルの上から引き金を引いた。銃弾は板を突き抜けて、警報装置を破壊し、そのままクスノキの左足を貫通した。
「!?あっつっ!・・・」
立っていられずに倒れこむ。
「キチッと忠告しとったやんかー・気い短いってな」
関西弁の男がそう言っていると、もう団体席の男たちは奥の扉へと進んで、ノブに手を掛けようとしている。
と、突然、ガラスが割れる轟音と共に、さっきまでクスノキが立っていたガラスケースの後ろから、○○○さんが赤バットを持って、文字通り、飛び込んできた。そのままカウンターの上に着地して、クスノキを撃った男をバットで吹き飛ばした。続いてあっけに取られている関西弁男の横っ面をはたいた。
「待たせたわね。クスノキ!」
「どっから現れるんですか!」
「説明は後よ。まずはこいつをやっつけてから!」
今度はヘルメット男と対決するらしい。勇ましいこって。
そのころ、奥の扉の方。三人の男が、ガラスの音に反応して振り返った所を、バーンと紅の二人に、後ろからのされていた。二人とも、手には一応、申し訳程度にそれぞれゴルフクラブと木刀を持っている。
「クスノキくん!!!」
大声で叫ぶが返事がまだない。
「貴様らー!?」
「二人とも、クスノキを任せるわね。」
○○○はそう言って、片方の手で「待て」の合図をした。
「わかりました」
紅はとりあえず冷静に戻って、クスノキに駆け寄った。

9話 集―Hospitalization―
「で、どこに行くでござるか?」
「ユキナちゃんが運転してるとは思わなかったサー」
「正確にはユキナさん、体を借りている方の。医者が紫君だとも気付かなかったでござろう?」
「そっちこそ・・・」
ステとれっぱの二人が救急車の中で不毛な言い合いを始めそうになるのを、はらはらしながら紫は見ている。
「トンネルに入ったら、車の変装を手伝ってください。」
「なにするさ?」
「フィルムをはがして、回転灯を外すだけですけど」
見ると工具入れやら、武器入れのような物も積み込んであるようだ。
「物騒なもんさ」
途中、買い物を済ませ、車は更に田舎道を進んでいく。とうとう峠の頂上まで上りきった。大分、夜も更けてきて辺りは暗くなってきた。と同時に、元いた世界では季節は冬だったが、こちらはやっと秋の終わりという様子だ。30分くらいでユキナさんが眠ってユキナちゃんに戻ったため、ステが交代した。後部座席で紫とユキナちゃんが眠っているので、助手席にはれっぱがいる。二人で交互に、地図にある目的地まで急いだ。
停車してステが休憩している時だった。車の屋根にぶつかる幾つかの鈍い音がしたのは。
ひとつ、ふたつ・・・。
と思うと、突然。
鋭く長い爪が金属を破く音。
屋根に亀裂が入る。
素早くステが警棒を、れっぱが刀を手に後部のドアを蹴り開けて外に転がり出る。その間に紫は車のエンジンをかけて、ライトを点ける。
浮かび上がった二つの影。まさしく悪魔。人間のシルエットに蝙蝠のような翼。
 二人とも目の前の光景が信じられないという表情をしながらも、善戦したが相手は夜目が効く。なんと言っても悪魔。暗闇こそが生きる世界。無言で的確にその長い爪で襲ってくる。とうとう二人とも足を傷つけられ動けなくなってしまった。
「うぐわっ」
短い悲鳴を置いて、すぐに二匹(二人?)の悪魔は車の両側から、運転席のドアをこじ開けにかかった。最初に紫が引きずり出される。力強い腕に掴まれ、抵抗をして両手両足を振ったが、全く悪魔には当らず傍らに投げ捨てられてしまった。
それは、また突然だった。助手席側にいた悪魔の首が何の前触れもなく、すとん、と落ちた。後から出て来たのはもちろんユキナ。
「ザコか」
そう言って、もう一匹の悪魔のほうへ目を向ける。双眸に宿る危険な光。刹那、もう一匹も仲間と同じ運命を辿っていた。紫が顔を上げるとユキナの左手には刀が握られていた。
「気を抜き過ぎだ」
そう言ったのはユキナではなかった。いつの間にか現れたのか、ユキナの背後にもう一つ人影がある。そして、紫はその翼に見覚えがあった。彼らを列車内で襲った、蒼い髪の男。ぷうまと呼ばれる男だが、そこまではまだ知らないことだった。しかし、十分危険な人物だとは察しが付いた。
「逃げて、ユキナさん!」
紫がこう叫ぶまで、実はまばたき半瞬くらいだったが、既にぷうまはユキナの首を後ろから掴んで、腕に力をこめて宙に吊り下げている。
「うっうっ」
苦しそうにユキナが喉から声を絞り出す。しかし、そのまま緩やかに、上昇。
バサッという羽音を残して、高く高く舞い上がる天使。
そして急降下。
あっという間に、ユキナは車の屋根に叩きつけられてしまっていた。轟音を残して、また静寂が戻る。
傲然と地上に降りた天使は、ゆったりと羽根をたたむ。
 しかし、次に彼は信じられない光景に直面する。頬を目一杯殴られて、地面に体ごと叩きつけられていたのだ。殴られた痛みよりも、自分がなぜ地面に手を突いているのか、そちらの方がショックだったようだ。殴った人間がいるはずの方向には誰もいず、車の屋根に上って、女の子に声をかけている青年が目に入った。
「誰だ?」
衝撃でしばし混乱していた脳だったが、すぐに答えは出た。奴が敵だと。一気に飛び上がって、腕に翼を巻きつけて、大筒を作り、弾丸を装填する。まばゆいばかりの光を放ちながら標的に向かって。
 紫→Darkモードの紫は頭上の光をはっと見上げた。あの光だ、とすぐに気付いたが、ユキナをかばったため逃げ遅れた。右肩から背中にかけて、もろに喰らってしまった。続いて車が爆発。二人とも吹き飛ばされてしまった。結果的には、吹き飛ばされた草むらが二人を隠してくれた。
 悪夢はこうして去っていった。

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