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South/iSland物語

SP篇外伝

NEO’s Story written by Purple ~Fairly Tale~

┗▶ CONTENTS ◀┛ in the European Continent
1, It’s a Everyday life.
2,  Chef ~the royal family~
3, Rapunzel
4,  Prince : my friend
5,  Dance dance
6,  Last days
7,  Farewell
・・・ to be continued

1, It’s a Everyday life.
ここに流されてきてから、もう1ヶ月も経ちました。もう年も明けてここで新年も迎えました。今度は4人とも一緒だったので、ぼくは良かったと思っています。
「おーい!大助ー!そこの上着取ってくれー」
白は今、銃士隊に入隊しているので、朝から訓練に出かけて夕方に帰って来ます。白本人は給料が良いからなー、と言っています。
あ、行っちゃった・・・。
 えーと、朱ッピーは護衛隊に入隊して、白と同じように出かけて行っています。ネオさんは王立図書館で一生懸命バイトしながら勉強しています。みんな楽しそうで良いなあ。
 ところで、僕たちは今どこにいるのでしょう。実はよく分からないんだよね。なんとなく、ぼくらの島の西地区の雰囲気に似てるね。城壁に守られた、都市の中は赤レンガ造りの家が規則正しく立ち並んで、文化の都という感じだよ。ぼくらが住んでいるのはその城壁の少し外の方で、小さな家を借りて、ぼくが、家賃替わりに週3回、城壁の中の大家さんの所で働いています。大家さんはとってもいい老紳士だよ。なんてったって、冬の雪になりきれなかった、冷たい雨の中ふらふらと歩いていたぼくたち4人を全員、引き取ってくれたんだもん。たまたま馬車で通りかかっただけだったのに。それに、結構お金持ちらしく、豪邸に住んでいるんだけど、土地もたくさん持っているみたい。ぼくらが住んでいる所も畑付きで、農作業もしているよ。その中で一番、主な仕事は食事を作ること。本気で料理人として雇う、という話もあったんだけど、元の料理人の人もいるからそれは遠慮させてもらいました。
「ごちそうさまです。じゃあ、ボクも行ってきますね」
「あ、朱ッピー!僕も一緒に行くよ。いってきまーす」
「朱ッピー、あ、ネオさんもいってらっしゃい」
 朝御飯も食べ終わって、みんな出勤しちゃったね。ぼくは今日は休みの日だから、食事の片付けとかしないといけないや。そうそう、大家さんがお昼に来なさいって行ってたなー、なんだろう。よーし、午前中に仕事を終わらせちゃおうっと。
 それから、片付けして、掃除をして、雑草取りをして・・・意外と忙しいな。
  
2,  Chef ~the royal family~
「こんにちはー」
雪のうっすらと積もった通りから、大きな門をくぐって、豪邸の中へ入っていく。本当に何から何まで豪華な家だ。
「おうおう、紫(Purple)君、よく来たのう。いやいや、今日はいい話があるのじゃよ」
「え?いい話?です・・・か?」
なんだろう?また料理人の話かな?もしかして給料アップ?
「実はのう、王がおぬしの料理を食べてみたいと言ってきたのじゃよ!それでのう、今度、城に出向いて、料理の腕を振るって欲しいそうじゃ。名誉なことじゃよ!もう返事はしておいたからのう。王は明日にでもと言っておったのじゃが、おぬしも準備の時間が欲しいじゃろから、来週と決めてきたぞ。良かったのう」
「えー!」
そ、そんな無理だよ、王様の食事を作るだなんて、どうしようー!
(やればいいじゃねーかよ!)
だー、今まで眠ってたくせして、なんだよー!他人事だと思って!
(まあ。オレ様が作るわけじゃねーからな)
ぼくの半身。前のとこ(黄王国)にいた時に、しばらくぼくと別れていたんだけど、取
り戻しちゃった。別れた半身に出会うまで、全然気付かなかったけど、・・・とんでもないヤツがぼくの中にはいたもんだ。好きな物は宝石と「女」。もちろん、みんな、このことだけは知らない。それにしても、こっちに来てから、やけに大人しいと思っていたんだけど・・・。
「どうしたのじゃ?よいな。食材は、わしに言ってくれ、何でもそろえてみせるからのう!」
や、やばいよー!すっかりやる気になってるよー!
「わ、わかりました・・・」
「よし、それじゃあ、来週まで仕事は休んでよいぞ、そうじゃ、うちの書庫の本も読んでみたらよい」
「・・・ありがとうございます」

 あーぼくってどうして、こう、はっきり断れないんだろう。押しが弱いと言うか、
(頼まれたら、断れないんだろ、特に女の頼みは!)
「違うよ!それはDarkだろ」
とりあえず、いろいろな本を引っ張り出してきたけど・・・字が読めない。
(えーなになに、ふむふむ、へー)
「な、何、Dark読めるの?」
(当たり前じゃねーか!こんなの楽勝!)
実はすごい人だったりして・・・。
 というわけで、ぼくの半身の翻訳に沿って、ぼくはいろいろな料理を作っては、大家さ
んの家族の人たちに味見をしてもらった。ちなみに、ぼくは泊り込みで料理の研究をさせ
てもらっている。料理を作る度に絶賛を受けるのだが・・・。不本意なのは
(オレの手を借りているのが気に入らないって?)
そう。よくわかってるじゃない。
 はー・・・どうしよっかなー。時々、朱ッピーも手伝いに来てくれるし、ネオも料理書を
持って来てくれるし、白は味見に来てくれる。みんなの手を借りて考えてるんだけど、ど
うも、これといったのがわいて来ないんだよね・・・。自分でも、食材を調達に行ったり、
いろいろな料理を食べさせてもらったけれどまだ、納得がいかないというかなんというか。
・・・。
(自信がない、だろ!)
いいよ!もう・・・。

「残念ながら、今回は不採用じゃそうじゃ」
「はーそうですか・・・」目がうるうるしてきた。がんばったんだけど、なあー。
「惜しいとこまでは行ったんじゃがのう・・・、どうも・・・」
そこで言葉を切ってしまった。何か事情があったんだろうな。
(どうも、枢機卿が気に食わなかったみたい、そう言いたかったんだろうな)
この声は、ぼくには聞こえてこなかった。
「しかし、王子はとても気に入っておったのう!これからも、遊びに来てくれとおっしゃっておったぞ」
「そうですか・・・ありがとうございます!」

王子様か・・・。
(オマエそっくりな王子様だったな)
え?何が?
(全部だよ、ぜ・ん・ぶ!)
そう・・かな。
(あれが後継ぎじゃあ、かわいそうに・・)
どういう意味だよ!

雪の降りしきる中、家に帰ると就職祝い改め、残念会の用意が出来ていて、みんながぼくを慰めてくれた。
「まあ、いいじゃねーか!役所勤めなんてするよりは、のびのびとしてた方がいいぜ!」
「こういうこともあるってことでしょう。いい経験になりましたね」
「まあまあ、大助の料理の腕は、僕たちがよーく知ってるよ!」
「そうだぜ、これで、大助の料理がまた、毎日食えるじゃん!」

3, Rapunzel
 冬の寒さもやっと和らぎだした、ある日、いつものように仕事をしに大家さんのお屋敷に行って、市場まで買い物に出かけたぼくは、その少女に出会った。服はボロボロであちこちつぎはぎがしてあるし、顔にも汚れがついていて、どこかの下働きの娘という感じだった。エプロンというか、前掛けみたいなのをつけていて、手には籠も持っているけれども、両手に抱えきれないほどの荷物を持っていて、籠の意味がなくなっていた。たぶん、ぼくと同じように買い物に来ていたのだろう。そこへ、
「あっ!危ないっ!」
ドカラッ、ドカラッ!!
暴れ馬がこっちに向かってくる!?このままじゃ、あの子にぶつかるっ!あんなに荷物を持ってたら・・・
考えるまでもなく、体が反応していた。彼女までの距離はまだ2メートルほどある。エーイ!!間に合えー!走り出したぼくは彼女を横抱きにして大きくジャンプしていた。
暴れ馬はそのまま、ぼくたちのすぐ後ろをかすめて行った。ジャンプした勢いで、彼女の荷物が飛んでしまったが、あのままだったら、今ごろ馬に蹴り殺されている所だった。
「だいじょうぶ?」
そっとぼくは、腕の中の少女に声をかけた。
「もしもーし、起きてくださーい」
どうやら、さっきので、気を失ってしまったらしい。それにしても危なかった。あと数瞬遅れていたら・・・。その時初めて、その少女の顔をまじまじと見た。
急に胸が高鳴り、体中が熱くなってきた。そして、次の瞬間、ぼくはもうすっかり別人に「変わって」いた。そう。ぼくの半身、Darkへと。そこには、さっきまでとは打って変わって、ハンサムな青年が立っていた。こちらを見ていた人は驚いたかもしれないが、暴れ馬の騒ぎで、誰も気付かなかったようだ。というより、自分が一番驚いた。
その青年が少女をそっと地面に下ろすと目を覚ました。
「あなた?誰?あ、もしかして、助けてくださったの?」
目の前の少女はまだ混乱しているようだ。それはそうだろう。目の前にいきなり見知らぬ男性が・・・しかも、10人が10人カッコいいといいそうな・・・
「そんなとこかな」
「ごめんなさい、荷物が多くて・・・」
何とか起き上がろうとする。そして、荷物を一生懸命集めている。
「大丈夫かい?オレが半分、持ってやろう?」
そういいながら、半ば強引に荷物を受け取る。
「ごめんなさい、ホントにごめんなさい!」
「いいって、さ、立てるかい」
そういってそっと手を差し出す仕草はキザっぽいが、妙に似合っている。
「・・はい」
ああ、少女の心は、飢えた狼に食べられてしまったのでした。
(誰が、「飢えた狼」だ!)
あ、ごめん聞こえてた?でもぼくが助けたんだからね。
(いいって、後はオレに任せろよ!)
何を張り切っているんだか・・・。それにぼくは仕事がまだ終わってないんだよ。
そうこうしている内に、少女の雇い主の家に着いたようだ。
(おいっ!大家んとこの隣に着いたぜ。こりゃいいや!)
ええっ!!となりっ!・・・最悪だー
「あの。助けて下さって、ありがとうございました!」
満面の笑顔で少女は答えてくれた。
「いやいや、どうってことねーぜ。そんじゃ、元気でな!おっと、オレはDarkって言うんだ」
「あっ、あたしはラプンツェル(Rapunzel)っていうの。ホントにありがとうございますっ!」
またまた、はじけるような笑いを残して、その子はお屋敷の中に入っていった。
(やばいっ!?)えっ?
Darkの胸がドキドキしているのが分かる。そうして、ぼくらは大助に戻っていた。
「どうなってんだよー!ぼくのカラダー!?」

4,  Prince : my friend
あれから、ぼくは週に1,2回、王子様に呼び出されて、話し相手として通うようになっていた。今日も大分暖かくなった日差しを受けながら、お城に出かけていった。
「こんにちは,王子様」
「おー待ちわびたよー!僕の今一番の楽しみはダイスケと会うことなんだよ」
「そ,そんな,王子様の周りには,いろいろな方がいらっしゃいます。その人たちに比べたら,ぼくなんか」
「そんなことはないよ。ダイスケのしてくれる,遠い国の話はとっても面白いもん!大臣たちの話より,よっぽど。ところで今日も前の続きを聞かせてくれるんだろう?」
「ええ,でもその前に今日は,ちょっと面白いことをしようと・・・」
「おもしろいこと?」
「えっと・・・」そう言いながら,今日背負ってきたリュックを開けて,何かを探している。
「じゃーん!!」
そう言って取り出したのは二人分のエプロンだった。
「うん?何?今日はご馳走してくれるの?」
「いえいえ,今日は王子様も一緒に作ってもらいます!」


で,今日遊びに行って,聞いてきた話はというと。どうやら,舞踏会が行われて,そこで,王子は婚約者を探さなければならないらしい。舞踏会まであと1ヶ月以上あるのだが,なんとも急な話だよね。
そして、お城からの帰り道、ぼくはまたその少女を見てしまった。
「やあ。こんにちは。お嬢さん!」
「あっ,Darkさんでしたよね?この間はありがとうございました」
「どうってことないよ。毎日,買い物?」
「ええ。住み込みだから,お休みはないの」
「そりゃーすごいな!」
「でもね,住む場所があるだけ,ありがたいのよ」
「そう・・・だな」
「うん?」
「舞踏会の貼紙らしいんだけど,なんて書いてあるのか分からなくって・・・えへへ」
「ああ,今度の舞踏会は王子様の婚約者を決めるんだよ。それで,国中の女性を招待いたしますってことらしいんだよ」
「ホント!あーあ,あたしもキレイなドレスがあったらなー。あ,でも,踊り方とか全然知らないや!あははっ!」
「教えてやるぜ」
「えっ?」
Darkの頭の中では何かがひらめいたようである。
「もうっ!冗談が上手いんだからっ!」
「オレ?シンデレラにカボチャの馬車をプレゼントする,お節介な魔法使いってとこかな?」
ウソだー!大怪盗のくせして!!
(大助,この娘のドレス姿,見たくないのかよ?)
う・・・
(な,だったら協力しろ!)
「あ,オレ,用事思い出しちまった。しまったなあ,ラプンツェルさん,君と離れるのはつらいけど,じゃあ,また!」
「ええ,また逢えると良いわね!」

(衣装は・・・盗むか?)
ダメだって!
初春の眠たくなるような陽気の中でボーっとしていると外に出ているDarkが話し掛けてきた。
(クツは?)
(馬車は?)
(踊りは?)
なんだよ!一個も用意できないじゃんか!
(まあ待て)
ドンッ!
何かぶつかってしまったようだ。春眠暁を覚えず,だっけ。
「おっと,大丈夫かい?おばちゃん?」
「ごめんなさいねー。急にめまいがしちゃったもんだから・・・年かねー」
「ほんとにだいじょうぶ?うん?」
Darkの目におばさんの脱げてしまった片一方の靴が映った。
「おばちゃん,はい,靴」
「あら,ありがとうねー」
「おばちゃん,いい靴履いてるんだね」
「解かるかい?うちの旦那が造ったんだよ」
「へーおばちゃんち,靴屋?」
「ええ,今は夫婦で細々とやってるんだけど,昔,王様の靴だって造ったことがあるんだからね」
「スッゲー!!今から見に行って良い?おばちゃん?」
「ええ、ええ、いいわよ」最初,驚いたような表情をしたけど快く承諾してくれた。
Dark!!何,考えて・・・
(『こびとの靴屋』ってあるだろ)
はぁ?
(あれをやんだヨ)
ちょっと待って,靴造れるの?
(オレ様の辞書に不可能の文字はない!)

「『今夜12時シンデレラのドレスを盗みに参ります。怪盗Dark』っと」
本当にやるの?
(もちろん!)
でもなー王子様のいるお城に盗みに入るのは良心が痛むなあ。
(ちょうどいいじゃねーかよ,せっかく王子が教えてくれたんだぜ!)
僕らはこれから何を盗みに行くのかというと・・・
 昼間。いつものように王子様の所に遊びに行った時のことだった。
「この前,ダイスケ,舞踏会の話をしたよね」
「はい。?」どうしてこの話が出たのか良くわからなかったけど,うなずいてみせた。
「実は,この城には『シンデレラのドレス』があるんだ!」
「シンデレラのドレス?あのおとぎ話の?」
「すごいだろ!代々王家に伝わっていてね,選ばれた女性しかこれを着ることはできないっていう言い伝えがあるんだ。ちなみに,母上が結婚式の時に着ようとした時はダメだったらしいんだ」
「選ばれた女性って?」
「さあ」
「さあって知らないの?」
「古い言い伝えでね,僕には読めない字で書かれてるんだ」
「へー。すごいですね。どんな女の人が着れるのだろうなあ」
「僕はそのドレスの着れるヒトと結婚するのが夢だったんだ。だけど,今度の舞踏会までには叶いそうにないや」
「王子様はそのドレスを見たことがあるんですか?」
「ある・・・何回か見せてもらったことがあるよ。でも大切に保管してあって,見るのは結構,難しいんだ」
というわけで,えー,不本意ながら『Cinderella's Dress』を盗ませていただきます。
ああっ,なんか犯罪行為に手を染めていっているような・・・。

 王子様から招待状を渡された。わざわざぼくみたいな庶民を招待するなんてしないんだろうけれど,王子様はぜひ来て欲しいと言っていた。
「第一着る服もありませんし」そう言って断ろうとしたら
「大丈夫,君の大家さんにはもう言ってある。ぜひに,と言ってたよ。だから,当日は大家さんの馬車で来るといいよ。それに大家さんは毎年招待してるんだし」
「でも,これ,ペアって・・・」
「それは,君の友達を紹介してくれよ」
「心配いらないって。君は僕の親友なんだから」
という風に,簡単に説得されてしまった。特に最後の「親友」という言葉が強く響いた。

「ペアかー」
(ちょうどいいじゃねーか!)
「いくない」
(あの娘は誘わないって言うのか?そうはさせねーぞ!)
「ネオさん。あの・・・」
「大助!聞いてくれよ!僕さー舞踏会に行くことになったんだ」
「え゛!」
「図書館長の代理で行けって命令でさー。やばいよなー,踊れないのにさ。ははは」

「朱ッピー。あのさ・・・」
「あ,その日は用事があるので,すみませんが他の人に頼んで下さい」

「白―!」
「オレ,その舞踏会の警備だぜ。やってらんねーよな」

全員ダメだった・・・。
(諦めろっ!なっ!)
嬉しそうに言うなー!

5,  Dance dance
とうとう舞踏会当日が来てしまった。春のルテティア市内は,王と王妃が息子のために催す舞踏会のことで,湧きかえっていた。もうすっかり草花が碧く繁りだしている。
ルテティアの宮殿ではもう十日も前から,この盛典のために万端の準備が進められ,宮殿内だけではなく宮殿外でも王の一行を出迎えるために道路を特別に整備し,燭台で明かりを灯すようにしたり,パレードの用意をしたりしている。また,二百人の楽隊が招聘されパレードを華やかな音楽で盛り上げる。
午前十時,近衛旗手アン・マスが二人の士分と数人の射手を従えて,市の書記長アンニュイに,宮殿の各門,各室房の鍵を受け取りにきた。これを委託されると,この時からアン・マスが各門及び通路の警護の任につくという順序だった。
十一時に,近衛隊長のエスプリ・ド・コー卿が百人の射手を率いて到着,それぞれ持ち場を固めた。その後,二組の近衛護衛士が現れる。一組は国人の護衛隊,もう一組は外国人からなる護衛隊である。この護衛士の人員はアペリティフ卿所属と,アン・ドノミ侯配下からと半々に混じっていた。
午後三時,盛大なパレードによって,暖かい陽射しを受けて,晴れやかに王御一行が全市民に迎えられる。ゆっくりと市内を周り,宮殿へ発駕が告げられる。市の参事たちは,式服に着替え王のお迎えに出た。正面入り口で迎えて,市長がうやうやしく来駕を愛でる歓迎の挨拶を述べる。
夕刻六時には,そろそろ招待された人々が到着し始めた。いずれも大広間に招待される。
そしてその一時間後,いよいよ,着替えをすませた正装の王が現れた。そして,開会の御言葉を賜わった。正装の王の隣には王妃と王子が,そしてその後にはバイア・バルサ伯,ヴィエナ公,枢機卿レジームなどの貴人が従っていた。それから,衣装に着替えるために王,王妃と王子は別室に下がった。
王の開会の挨拶とともに,音楽がゆったりと鳴らされ,舞踏会は始まりを迎えた。
その中には舞踏用の服を優雅(?)に着こなした紫の姿,そして,窮屈な正装に身を固めたネオの姿もあった。

 舞踏会。最初にまず,全員参加のゆったりとして曲が流れ出した。そのあと徐々に盛り上がりやすい曲を選曲していった。間に王と王妃の踊りの披露や宮廷音楽家たちの演奏や,踊りを上手な人だけが選ばれての踊りもあった。
(さて,そろそろだな)
「ホントにやるの?」
(ああ、もちろん!)
宴も盛会のうちに時間が経ち,そろそろフィナーレという感じになってきたところで行動を開始しようとした。その時だった。
「パッパーン!」
銃声のような音が会場全体に鳴り響いた。
(ここだ!)

一瞬,全ての音が消えたのでした。すると,どこからかバイオリンの音色がして参りました。初めはいぶかしげな表情をしておりました貴族の方々も,その華麗な音色にしだいに穏やかな顔になり,誰かが「何かの催し物だろう」と言い始めると,みなその演奏に耳を傾けだたのでした。バイオリン弾きの若い男はやがて人々の間をぬって,王子様の前に現れました。そして一曲を弾き終わるとおもむろに,
「これより,皇太子殿下にわたくしめから御贈り物がございます」
と告げますと同時に満場の拍手が起こりました。
「ほう,それは嬉しいことです。それで,贈り物とは何でしょうか」
と王子様もその挨拶に応じましたところ,
「あちらをご覧下さい」
そう言って,バイオリンで楽しげにリズムを取りながら大仰に頭を下げ,人々に道を開けてもらいました。その向こうからこれも若い男が手を引いて,一人の淡いクリーム色のドレスに身を包んだ娘を連れて参りました。その時,その娘の美しさに,人々は感嘆のため息を漏らしました。王子様の前に娘が着きますと,バイオリン弾きの男はこう言いました。
「申し訳御座いません。『Cinderella's Dress』を盗み出したのは,このわたくしなので御座います」
「シンデレラ・・・」
「そうで御座います。わたくし,怪盗の身なれど,皇太子殿下とこちらの女性の夢を僭越ながら叶えて差し上げたいと思ったところでした」
「僕の夢・・・僕の夢は・・・・・・だが,僕は一人にしか語ったことはないはず・・・」
王子様はびっくりしてしまいました。
「そして,こちらの女性の夢は『一度でいいから舞踏会で踊ること』で御座います。さあ,ラプンツェルお嬢さん」
そう言って,バイオリン弾きはゆったりと脇に寄り,その娘を前に進ませました。
「わたしと踊っていただけますか?」
ラプンツェルと呼ばれた娘がそう微笑むと,王子様は
「ええ,喜んで」
と笑顔でうなずいたのでした。王子様はそっと,ラプンツェルの手を取って広間の中央に歩みました。そして,二人は見つめ合ったまま,バイオリン弾きの奏でる優雅な音楽にあわせて美しく,静かに踊り始めました。
幸せな気持ちに包まれたその美しいダンスは,人々の心にいつまでも残ったのだそうですよ。

6,Last Days
 さて,読者の皆さんは二点ばかり気になったことがおありでしょう。
① あの銃声は何だったのか?
ラプンツェルはなぜ,あの場に現れたのか?
 まずは①番から,歴史の裏舞台を見ていきましょう――。

「ちえー,舞踏会の警護なんてつまんないぜ,オレも美味い食いもんとか食いたいぜ」
この言葉遣い,そう,今日警備員として開会から立ちっ放しの白である。ここは会場のちょうど二階席にあたる部分なのだ。どうしてこんな所にいるのかというと,先程まで,真面目に仕事をしていたのだが,さすがに退屈してきた。そういうわけで,そっと上司の目を盗んでサボっているのである。
確か,この扉の向こうから,下の会場が見えるんだったよな。これも警護警護っと。
そう考えながら,扉を開けると,そこには・・・
「なんだオメーら!!何してやがる!」
そこには鉄砲を構えた男がいたのだ。
誰かを狙っている!
そう感じた白は,思うより早くその男に飛びついていた。
そのときに,振り返った男が思わず,引き金を引いてしまった。
「パッパーン!」
派手に銃声が鳴り響いた。
やっべー・・・。
あまり大きな音を立てたら,危険だということが,皆にわかってしまうではないか。そんなことをしたら,大混乱が起きるかもしれない。階下には貴族のように偉い人もたくさんいる。
 何とか,その男を気絶させた。だが,仲間がいるかもしれないと,急いで周りに目を向ける。白の目に映ったのは
「朱ッピー・・・・・・」
「白ですか・・・・・・」
二人とも同じような当惑の表情を浮かべている。
「その方を黙って渡してくれませんか」
朱はそう告げた。
朱がここにいるということは,この狙撃手は近衛護衛士。枢機卿の直属部隊―枢機卿の手の者か。
そう考えた白は
「それはできねーや」
と短く簡潔に答えた。白は近衛銃士隊である。こちらは王直属と言って良い。つまり,二人は制服を着ておれば,敵同士ということになってしまう。
「そうですか・・・」
朱は仕方ないという表情で剣を抜いた。
「いつかは勝負してーと思ってたが,よりによって今日か」
白も剣を抜いて正面から飛び込んだ。白は以前の所の王都常安で喧嘩屋をしていたから決闘は得意中の得意である。対して,朱は護衛隊に入隊してから訓練は受けてきただけである。すぐに,片がつくはずだった。
 しかし,予想に反して朱は実践慣れしているようだった。白の剣を自分の身に当らないようにかわしながら,白の呼吸の緩んだ隙を見ては反撃してくるのだった。しだいに白の気がじれてきて,手先が乱れてくる。そこで朱がさらに攻撃を強くする。こうなったらと,力づくで猛烈に突いたが,朱はそれもかわし,白の体勢が崩れたところを見逃さずに突いてきた。白は脇腹の下辺りを浅く刺され,床に手を付いてしまった。朱の突きの瞬間に後ろに跳んだのだが間に合わなかったのである。
「おい,そこ,何をしている!私闘は厳禁だぞ!」
 そこに銃声を聞きつけた他の銃士たちの声が聞こえてきた。
「勝負はまた,いつか・・・」
そう言って,狙撃手を担いで朱は走り去っていった。

「Darkさんは確かにここって言ったわよね?」
市内の公園の昼下がり。冷たく,暗い雪の季節は去り,これからは暖かく明るい花の季節がやってくる。市民の心は自然と陽気になり,冬の間,閉じこもっていた人々も,やっと外に出て,散歩をしたり,買い物をしたりして太陽の光を身体一杯に感じている。
「あのう・・・」
そこに現れたのはいつもよりいい服を着て,少し変装した紫だった。
「はい?どなた?」
ラプンツェルはいつもどおりの笑顔で聞き返した。
「ラプンツェルさんですよね?えーと,Darkさんの友達のパープルといいます」
「あら,じゃあ,今日は・・・」
「Darkさんに頼まれたんです。あなたにダンスを教えて欲しいって」
「そうだったの!いい先生を連れてくるって言ってたけど,あなたがそうなの?」
「どうもすみません,ぼくみたいなので・・・」
ひたすら恐縮して謝っている紫を見て,表情を和らげながら
「そんなこと言ってないわよ。ただ,先生っていうから,ほら,もっと年の人を想像しちゃっててね」
と言って,紫まで笑わせた。
そうしてダンスのレッスンを始めたのだが,ラプンツェルはとても・・・上手だった。
「あの,ラプンツェルさん。とても踊りが上手いけれど,どこかで習ったの?」
「うーん。よくわからないのよね。なんとなく踊っているだけなのよ。昔,どこかで踊ったことがあるのかもしれないけれど・・・」
「自分でもわからないのか・・・でも,それだけ踊れたら,全然恥ずかしくないよ」
「うん!あたし,踊ったり歌ったりするの大好きっ!」
そういった彼女の笑顔を見てしまって,ぼくはもう止められなかった。
「あ,ちょっとごめん!!」
そう言って走り出した。
「どうしたのかしら?」
首をかしげるその少女の元に戻ってきたのは
「Darkさん!いつからいたの?もしかして,あたしが踊るの見てた?」
「いやいや,今来たばっかだよ。惜しかったなあ・・・もうちょっと早く来たら,見れたのになあ」
とても悔しそうな顔をして悔しがって見せると
「やだあ,Darkさんったら・・・あははは!」
知らず知らずのうちにDarkも一緒になって笑っていた。
それから,紫とラプンツェルは仕事の合間を縫って休憩の間に少しだけ市内の公園で毎日,二人,踊った。

「明日,午後七時,パープルが馬車で迎えに行くからいつもの公園で待ってて」
舞踏会の前日,市場に買い物に来ていたラプンツェルはDarkにそう告げられた。

そして,午後七時の鐘と同時に馬車のひづめの音が聞こえてきた。そして,紫がお辞儀をして,ラプンツェルを迎え入れた。
実は,舞踏会場に行っているのは・・・
「キュウー?ダイスキ?」
なのだ。その名もWITHと言う。Darkがバイト?している靴屋で飼われていたのを見つけたのだ。紫には分からなかったが,Darkの方はピーンと来たらしい。すぐにWITHという名前が頭に浮かんだ。ただのウサギではなく,なんと魔力を持ったウサギだったわけで,そのうちの一つである,変身能力を今回は使っている。今回は,と言ったのは前回は『Cinderella's Dress』を盗む時にDarkの翼として大いに働き警備員を思うままに翻弄したのだった。しかし,難点が一つあって,言葉がまだ,練習中で上手くないのだ。
「ラプンツェルさん,はい,これが招待状。ぼくがペアで招待されたからなんだけど」
「すっごーい!でも,あたしなんかが行っていいのかな?」
「大丈夫。国中の女性を招待してるんだから」
 ついでに言うと,この馬車は大家さんに借りてきた物なのだ。とりあえず,会場に入るために,ラプンツェルには男用の衣装を渡した。
「?」
「ドレスは,クライマックスでばーんと見せよう,だってさ!」
そう,ラプンツェルにスポットライトを当てるためにDarkが何か企んでいるのだった。
二人の男性として,悠々と会場に入って男装のラプンツェルを貴族の子女ということにして衣装室に連れて行き,着替えをさせた。なんてったって王子様の招待状があるから,それを見せれば一発OKだった。そこは彼女にとって変幻の場となった。衣装係の女性たちがラプンツェルの姿を少しずつ変えていく。ドレスは『Cinderella's Dress』であるが,Darkの思った通り,魔法など感じず,すんなりと腕を通すことができたようだ。そして,衣装室から出てきた彼女は,この世のものとは思えないような美しさと気高さを持っていた。それに,その天与の笑顔は少しも失われてはいなかった。
ラプンツェルを鮮やかに変身させ終えた紫・・・いや,もうDarkに変わっている,は急いで会場に戻って,WITHと入れ替わった。
そして,後は読者もご存知の通りである。

7,Farewell
 いくら春と言っても深夜ともなると,まだ冷える。
 大家さんは酔っ払って,自分の友達と一緒にどこか行ってしまった。そのために一人,ゆっくりと帰路を歩いていた。かえって,一人の方がよかったかもしれない。先程から涙が止まらない。それが,自分の涙なのか,もう一人の自分のものなのか,はっきりとしなかった。時おり吹く,冷たい風に身を縮めポケットに手を入れて,草木の揺れる音を聴く。そして,顔を上げて空いっぱいに広がる星空を見る。
 踊り終えた,ラプンツェルの別れの言葉は
「貴方に全ての幸せがありますように」
『 I wish you every happiness.』
だった。そして,Darkは自然な動作で彼女の手を取り口づけをした。
「これでお別れです。貴女に会えてよかったぜ」
『 I must say good-bye now.I’m happy to meet you.』
「ありがとう!」
『 Thank you very much!』
「さようなら!」
『 Good-bye!』
そう言って颯爽と,会場を後にしたまではヨカッタのだが・・・・・・。

ふと,ぷーんと焦げ臭い匂いに気付いた。何かが焼けるような臭い・・・。
「火事だ!」
涙を拭い走り出す。火事の現場は木造三階建ての小さな宿屋だった。しかし,そこから出てきた人物に驚かされた。
「白!どうしたんだ!それにその包帯・・・」
そこには胸に包帯をした白の姿があった。しかも,背中に一人の武士らしき青年を担いでいる。
「話は後だ,中にもう三人オレの仲間がいるんだ!一人担いで来た!」
「うん!手伝うよ!」
そう言って白の後について三階まで駆け上がった。火は一階の調理場から出て,その建物全体に回ろうとしている。三階もかなり煙が迫って来ているようだ。
三人か・・・二人で担ぐのはちょっときついな・・・
紫がそうつぶやくと
「何のこれしき!!」
白がとても体格のいい二人の青年を担ごうとする。しかし,胸の傷が痛むのかすぐに膝を付いてしまった。そうこうしている内に今度は火が迫ってくる。
「無茶すんなよ!」
聞きなれた声がして振り向くとそこには,ネオが立っていた。
「ネオさん!」二人が声を合わせて名前を呼ぶ。
「二人がこの中に入ってくのを見てね」そして,白から一人を受け取ると「馬車から飛び降りて,お前たちを追ったってわけ」と説明した。
「うわ,酒くさー!」
「わりい,酒に酔っ払って,この様だぜ」
「そういうことだったんだ」
紫もうなずく。三人がそれぞれ荷物を担いでいるようなものだから,かなり遅い進行になってしまった。火が,炎に変わって襲い掛かってくる――!
と,急にガクンと地面が揺れた。階段が壊れた・・・・・・!自由落下状態になって三人は落ちて行った。落ちる時に三人は朱の姿を見たような気がした。
あそこは二階?・・・・・・なんであんな所に?
思う間もなく,彼らは一階に隕石の落下の衝撃と共に叩きつけられていた。そして,三人は三つの荷物を,そこで消火をしていた人たちに任せて,また階段を上ろうとした。しかし,今しがた壊してしまったので使えない。
「WITH!」
紫は空の使い魔に呼びかけた。すぐにウサギがやって来て紫が頭に触れると翼に変わった。
「二人とも,ぼくにつかまって!」
当惑する二人を急かして,一気に二階まで飛び上がった。
「朱ッピー!」と呼びかけたが,返事がない。しかし,すぐに見つかった。慎重に床を踏んで近づく。床が抜けませんように・・・
「何やってんだよ,早く逃げるぞ!」
白が大声で叫んだ。しかしそれには答えず,弱くこう言った。
「この火はボク達が点けたんですよ」
「そんなの関係あるかよ!」
「お前,死ぬ気か・・・」
ネオが了解したという声で聞くと
「・・・ええ。ボクらは暗殺に失敗した。白たちに・・・こんなことをしなければならなかった・・・・・・」
自分を責める調子で言葉を更に続ける。
「知るかよ!」
「でもボクは・・・・・・白を傷つけてしまいました」
「オレが弱かった,お前が強かった。それだけだろ!!」
「でも,ボクは・・・・・・」
「オレたちは兄弟だろー!」
「・・・しかし・・・」
「朱ッピー。帰ってきていいんだよ」
紫が優しく付け加えた。
「帰ろう。僕たちの家に・・・」
みんな,その場で涙を流しながら立っている。
「帰るぞ!早くしやがれ」
最後は涙声になってしまった。
炎の勢いが強くなってきました。熱風が伝わってきます。もう建物全体を呑み込んでしまった火は,次第に家の形を壊しにかかっていました。真っ黒に焼け焦げた木々。今にも崩れそうな柱。崩れゆく壁の音。
それから,光の柱が四人を包み,やがて,細く細くなっていきました。そして,そこには彼らの姿は残っておりませんでした。彼らがこの世界で見られることは,もうありませんでした。

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