見出し画像

South/iSland物語

SP篇外伝

Neo’s Story Written by
~ The end of the Sky island ~
Chapter 3【第3章】
1,Endless World
2,Capture
3,Time
4,Star – spangled
5,Joker
6,Forget – me – not
7,Being Over

1,Endless World
「あんまり、はじっこまで、行くでねーぞ!ホントにあの世に逝っちまうでな」
「どわぁ――!」
え?さっきまでいたところと違う!と思ったネオはハクが崖から落ちそうになっているのに気付いた。
「ハク!」
「危ないなあ・・・」ネオは辛うじて,ハクの腰をつかんで引き戻した。ホッとため息をついて,周囲を見回す。と・・・
「朱ッピー!ダイスケ!止まれー!!」
四人全員無事なのはいいが,あと少しで,永遠に会えなくなるところだった。あの世では会えるかも知れないが。
「じゃから言ったじゃろ。こげには地の果てっちゅうもんがあっど」
声のする方を全員で見ると,羊飼いらしい老人と,幼い男の子が羊を引き連れて草原の上に立っていた。

「つまりこういういみさ」
「おまえは黙ってな,難しい話は,ねーちゃんがすっから。」
「いーじゃんかよ。あ,ねーちゃん,独り占めするつもりだにゃー!」
「じゃあ、あんたもここにいな!じーちゃんはどうする?こいつらの話も聞きたい?」
「Endless Worldには地の果てはないのよね?」
「なに、そのエンドレス・ワールドっていうのは?」
「あなたたちの住んでる所,つまり地上のことよ!チキュウって言った方が良かった?」
地球には地の果てはない。それはなぜか。答えは簡単である。
「わかった!地球は丸いから!」紫ダイスケが声を挙げた。
「だから、endless,果てしない世界・・・ですか」
「そう言われればそうだよね」
つまり果てまで行ったつもりが,実は,元の場所に戻ってきてしまう。だから,世界一周ということも出来る。世界一往復とは言わないで,一周と言うわけである。しかし,ここにはそれがある。どうして?宙に浮いているから。なるほど,下に雲が見える。
「って納得できるかー!」思わず叫んだのはハクだ。
空気が薄い,雨が降らない,宙に浮く。何でこんな所で生活できるの?全てが非現実だ。
「朱ッピー,難しい話は任せるよ」
ネオは途中で話を遮って,弱々しく言った。
「ネオさん、弱気ですね」
「オレもお手上げだ,任す」
「ダイスケは?」
「ぼくも自信ないなあ・・・」
ここまでネオが話し役をしていたが,ここからは朱ッピーに選手交代することにした。
この島も,高度が一定というわけではない。年単位で上昇と下降を繰り返している。よって,2年に一度高度が最も低くなる時が来る。最下降期と地球の出っ張り,つまり山脈が重なった時,移住,交流が行われる。しかし,それは60年に一度合うかどうかという確率である。移住,交流とはもちろん,人々の交流が主であった。何十年も同じ共同体内で暮らしていると、どうしても「血が濃く」なっていってしまう。つまり,周りが親戚ばかりになってしまうということである。そこで,交流を行い,人民を交換することによって生き長らえてきた。しかし,その交流がここ200年ほど,できなくなっているという。原因は分からない。ただ,このままじっとしていたら,いずれ彼らは滅んでしまう。そこで,彼らは,脱出用の乗り物を考え出した。しかし,地上に行ったら,それっきりなので,結果はわからないという。それでも,滅亡を座して待つよりは,わずかな生き残る可能性にかけてみようという人々が,ここ最近後を絶たないという。そこに,突然地上からの訪問者である。
「オレたちは珍しい生き物ってとこか」
「いいえ,それ以上に貴重な存在なの」
「要するに,ここに来る方法が分かれば,脱出する方法も分かるということなんですね」「そうなの。」もしかしたら,ここを抜け出す方法がわかるかもしれないという,望みを持って。
「しかし残念ながら,どうやってここに来たのか,全然記憶がないんですよね」
「そ。こっちが聞きたいくらいだぜ」
宙に浮いている謎については,やがて分かった。まず、この島を包む薄い層,これは引力の反対の力,斥力を持つ層なのだそうだ。次に,この島の中心部には奇石がある。その名は「漂う石(Floating Stone)」。空中を漂うことの出来る石なのだ。雨が降らないことについては,眼下の雲を採集して,水に変えて、使うそうだ。まるで,雲の井戸のようだ。このように高度な技術があるのに,なぜ,ここを脱出できないのか不思議だった。理由はおそらく,この狭い空間で生活しているために,移動手段の発達が見られなかったことと,外に出るという行為を今まで考えつかなかったということが挙げられるそうだ。
「脱出方法がわからないんだったら,思い出すまで,家にいたらいいわよ」そう言ってから「でも政府,特に精機兵に知られたらことね」と付け加えた。
「どうしてですか?」
「いいわね,ラズリ。このことは内緒ね」このときは少女―名はラピスといった,ちなみに祖父の名前はラオコーン―は姉の表情に変わっていた。結局,朱ッピーの質問には答えてくれなかった。
こうして,4人はしばらく居候することになったのである。
2,Capture                                                                                                                                                                                                                                                                                  
コツッ,コツッ。
「はーい,どなた?・・・キャッ!」
ラピスが戸を開けてみると,そこには精機兵の一個師隊が居並んでいた。
「はい,どのようなご用件でしょうか?」
「この家に,果人(果てしない世界の人)が来ておろう。その者たちをこちらに引き渡し
てもらおう」
有無を言わさない表情で語っている。これは逆らうのは危険だ。けれど・・・
「あ~いいよ,いいよ。オレ達のことなんだろ」
後ろを振り向くと,ハクとダイスケとネオがにこやかに笑っている。目が心配するな,と語っている。
「でも・・・」
「いいって、な、みんな」
ネオが力強くうなずいた。ダイスケも,小さくうなずく。そうして,兵士の方に振り返った。
「わかりました。どうぞ」
三人は大人しく外に出てきた。すると,
「ウム?もう一人いなかったか?」
「いいえ,オレ達は知りませんぜ」
「そうか。嘘をつくと承知せんぞ」
と言いながら,ハクたちの表情を探るように見ている。
「知りません」
「知らない」
しかし,何も読み取れなかったらしく,諦めたように仮の方を向いた。
「われわれは,無償で民の物を奪ったりはしない。これは少しばかりの礼だ。取っておけ!」
そう言って,小さな包みをラピスに渡して三人を受け取った。三人は黙って手を振っていた。
「バイバイ」

兵士達が見えなくなるとラピスはその場に崩れ落ちた。目からは涙が流れ出ていた。
「うっ,うっ・・・ごめんなさい・・・」
あの時,兵士に何をされようが,嘘を突き通すつもりだったのに・・・「ここにはいません」と。でも,三人の笑顔を見ると・・・逆らえなかった。ふと,机の上に目を向けると,なにやら書置きがしてあった。
「朱ッピーのことは知らんふりだぜ!」
簡単な殴り書きだ。あの人たちはどうして,こんなに強いのだろう。
「タダイマー!ねーちゃん,朱ッピーといっぱい遊んでもらっちゃった!ねーねー!」
「どうしたのですか?」
涙で目の赤いラピスを見て不思議に思って朱ッピーは尋ねた。
「うっ・・・連れて行かれた」
「はい?」
「三人が・・・」
それだけで通じた。三人が連れて行かれた・・・。どこに?誰に?どうして?
「セイキヘイのおじちゃんたち?」
その疑問には,ラズリが答えた。
「どうしてあんたが知ってるのよ!」
「だって,ぼくが教えてあげたんだよ」
「なんてっ?」
「昨日ね,ぼくんちに知らないお兄ちゃんが来たんだよって」
「なんでそんなことを言ったの!このことは内緒って言ったでしょ!」
そういえばこの子は精機兵に憧れて,毎日遊びに行っているんだった。なんてことだろう。
「大丈夫です」
朱ッピーは拳を握りしめながら強く,答えた。次第に眼の光が戻ってきていた。まるで自分自身を奮い立たせようとしているかのようだ。

「何でああも簡単に捕まるかなあ」
「ネオさんも一緒にうなずいてたじゃんか」
「あれは,オマエが何か考えがありそうだったから・・・」
「そうだよ」
「ダイスケまで、なんだ~」
「まさか,何の考えもなし・・・」
「んなことあるかー!オレ様のこの・・・」
「ニワトリ頭?」
「ダイスケぇ~!なぐるぞ!」
「もう殴ってるじゃんかよー」
この心温まる光景は,実は牢屋の中で繰り広げられているのだが,三人とも手足にかせを付けられて,同じ所に投げ込まれていた。何でこんな目に遭っているかというと・・・

「・・・」
「だから,知らんと言ったら知らん!」
「どうしても,ここへやってきた方法を言わぬというのか!」
「知ってたらこっちが教えて欲しいぜ」
吐き捨てるようにハクが答えると・・・この通り,牢屋の中に放り込まれたのだ。

「あの時もうちょっと違う言い方があったと思うんだけどな」
「ダイスケ,何か他に言い方があったっていうのかよ」
「まあまあ。・・・こういうの得意だったよな?」
ネオが自分の手首についている手かせを上げて見せた。
「う・・・ん。楽勝」
と言いながら,ダイスケが手かせを続いて,足かせを外して見せる。
「人に言えない特技だよな」
ハクが自分のを外してもらいながら,うんうんうなずいている。
「外すのやめよっかなー?はいっ全員外したー!」
「この牢屋も開けられる?」
「もう開けたよ!」
あっという間に手かせ足かせ,そして牢屋の鍵を全て外し終わった。神業のようにすばやく,鮮やかだった。
「せっかく本陣深く入り込んだんだから,ついでにこの島の脱出方法も盗んじゃおうとそういう魂胆だったんだね」
「泥棒みたく言うなー!これはオレ様の立派な・・・」
「ニワトリ頭?」
「あのなー」
ネオは呆れた様子でトコトコ牢屋の外に出て歩きだす。と・・・もう兵士達がこちらに向かってくる。
「おいっ!急げっ!」
ドッと一気に加速して逃げ出した。何であいつら,あんなに早く気付いたんだ?ずっと見張っていたわけじゃないのに。
ザザッ!という音に振り向くとハクが回れ右をしている。
「ここはオレに任せろい!」
「ハクっ!」二人で声をそろえて呼んだがもう兵士達が迫ってきていた。
「行けー!」
まだまだ走り続ける。何度角を曲がっただろう。
「ダイスケ!オマエ道を覚えてんのか?」
「うん。だいたいだけど」
彼のこの能力は何なんだろう。そういえばよく知らない。朱ッピーはあれで結構魔法を使えるし,ハクは暴れん坊だし,自分はよく分からない変身を繰り返している。
―――そういえば僕は一体,何者だったのだろう?
「ダイスケっ,先に行けっ!僕が食い止める。」
もうそこまで兵士が来ている!
「絶対助けに来るよ!」
「おう!」
そう言って僕らは別れた。

「ちょっと質問いいかな?兵隊さん」
「・・・」
「あなたたち,本当に人間?」
「・・・」
「違うでしょ」
「・・・」
「足の速さもおかしい。それに,僕らが逃げたのに気付いたのも。もっと変なのは・・・少しくらい息を切らせてよ。人間なら」
僕が逃げながらずっと観察をしていた所,全く顔色は変わらないし汗もかかない。ということはどういうことか・・・。答えは
「 You are Robot aren’t you ? 」
「 Non, Marionette. 」「 No, Puppet. 」
「マリオネット?」
「・・・」
「てことは、手加減しないでいいんだな?」
沈黙を肯定と受け止めて,ネオは力を解放した。全てを解き放つ。全ての呪縛を・・・。
ドンッ!?
その変身を自由に出来るようになったのはいつのことだったか。真紅の髪。深紅の瞳。そして,体中にあふれる熱い血液。体の周りに起こる風雷。
「ふー。行くか!」
言葉遣いまで変わっている。拳を繰り出す。本来なら岩をも砕く一撃のはずだが,その兵士は受け止めた・・・。
「こりゃーいいや!」
いよいよ,やる気が出てきた。本気を出したらどうなるのか,ようやく試すことができる。
左手。相手の顔面めがけて,思いっきり行く。これはどうせ読まれてる。けど手ごたえ十分!本命は右手でみぞおちを狙って下から振り上げる。ガッと鈍い音がして兵士が前のめりになる。それをそのまま背負い投げの要領で地面に叩きつけた。その間,数瞬。あっという間の出来事だった。
 だが,次の瞬間に起きた出来事は何が起きたか分からなかった。
 まずふわっと宙に浮いた感覚があって,次に,引力に引かれるまま,下降。
 つまり,床が抜けたのであった・・・。Good-Bye !

紫は階段を下っていたはずだった。そして,目の前に扉が現れ,それを開けるとそこは塔の屋上だった。なぜだと思う暇もない。後ろから兵士達が追って来るのが見える。手すりまで走った。5階建てくらい?下は森だろうか。青々と木が繁っている。
―――どうする―――
(どうするんだよ)
「こうする」そう言って,高い高い塔の上から飛び降りた。後には兵士達の驚きの表情が残っていた。            
(ダイスケ?)
「WITH・・・」
さっきからずっと使い魔の名前を呼びかけているが,なかなか答えてくれない。だいたいこの世界に来ているかどうかも怪しい。まあ,思いつきで飛び降りてしまったわけだからどうしようもないのだが。そろそろ来てくれないと。このまま落ち続けるとたとえWITHが来たとしても間に合わず,地面にたたきつけられてしまう。それよりも驚くべきことは普通の人間だったら,あの高さから飛び降りた時点で気を失っていてもおかしくないはずなのだ。
ぐんぐん落下速度が加速していく。
「来いぃ!!」もう間に合わない!
「キュゥー!?」
バサッ!?
来た!全力を振り絞って懸命に上昇しようとするがもう森に突っ込んでいた。
危ない!そう思ったときには,すごい勢いで木の枝や葉っぱが体に当たってきた。かなり太い枝も衝撃で折れたようだ。
バキバキッ!ザザッ!ザザザザッ!ドザッ!
必死で枝に捕まろうとするがそれも叶わず,地面に・・・水?
ザッッパッーーーンッ!!!
水面にWITHも一緒にしたたか叩きつけられて気を失ってしまった。深い森の中で・・・。

 その数分前・・・ハクは・・・
ドンッッ!?
「ぐはっ!!」
意識が混濁する。危ない状態だ。だが何よりも状況が良ろしくない。何発か入ったパンチも手ごたえ十分だったのに,全く効いていないのだった。それどころか,自分がしたたか拳を喰らって地面に這いつくばっているのだった。ハクの予想では,兵士達がそうなるはずだった。しかし,現実は正反対となってしまっている。

「う・・・ぐ・・・。」
嘔吐感が残っている。頭がくらくらする。意識がまだはっきりしない。
「気付いたか」
「アンタ誰?」
顔を上げて見ると,見知らぬ人物が座禅を組んでいる。その前に白は転がされている。もちろん手かせ足かせが付けられている。そのために,上手く起き上がることが出来ず,もぞもぞと動いただけだった。
「ここは牢屋の中である。おぬし,名は?」
「オレは白ってんだ。アンタは?」
「儂(わし)は巨刹じゃ。寺の僧じゃった」
「和尚さん?」
「そんなところじゃ。それにしても,おぬし,薬を飲まされたのに,よく口が動くもんじゃな」
どうりで,頭がさっきから上手く働かないと思った。
「和尚さんは何したんだ?」
「なぬ?」
「何かしたから,捕まったんだろ」
「儂か・・・儂は何もしなかったから捕まったのじゃよ」
「なーんだそんなことか」
「それよりもおぬし,見ない顔じゃがどこの生まれじゃ?」
「オレ?ああ・・・果人だよ。地上から来たの」
「ほう、どうやってじゃな?嘘をつくでないぞ。今,『果てしない世界』との交流は絶たれているはずじゃ」
「うーん,それがどうやって来たのか,全っ然,記憶がないんだよなー。イヤー困った困った」
「ホレ,見てみい,来た方法がわからんとは話にならんわい」
「おっさん,疑ってるなー!ところでさあ,動きづれーんだ,この鉄外してくんない」
「なぜ,儂に頼むのじゃ?」
「だって,壊れた鉄が散らばってるじゃんか。おっさんがやったんだろ。なあ,オレに教えてくれよ,その技」
巨刹はその言葉を聞いてしばらく瞳を凝らしてハクを見ていたが,やがて無言でハクの鉄の手かせ足かせを破壊してみせた。
3,Time
「朱ッピー。ごめんなさい」
先程から,ずっとラピスは朱に向かってそう繰り返していた。もう一日中そうだ。
「そんなに謝らないでください」
「でも,わたしたちのせいで・・・」
「大丈夫です。ネオさんは強いですし,ハクはともかくダイスケ君はあれでもしっかりしてますから。あとはボク次第ということでしょうね」
「え?」
「ボクだけ何もしないわけにはいきませんからね」
「もしかして,助けに行くって言うの?無理よ!あそこには精機兵もいるし,天空神の治めている領内深くに行かないといけないし」
「ではまず,その天空神について聞かせてください」
「今のGodはこの危機を必ず打ち破るといって当選したの」
「当選?ですか」
「ええ,Godはみんなの中から選ばれるのよ」
民主主義ですね。つくづく遅れているのか進んでいるのかよくわからない島ですね。
「最近そのGodについてある噂が流れているの。『Godは飛行艇を建造中だ』ってね」
そこへちょうど,ラオコーンがラズリを連れて帰って来た。
「その続きはわしに話させてくれんかのう。ラピス,わしゃ,ちいっと朱君と話したいんじゃが,よいかのう」
「・・・わかった」そう言ってラピスはしぶしぶ,ラズリを連れて別の部屋に行った。
「続きを話すかのう。Godはそれで脱出する『選ばれし人』を選定中というのじゃ」
「おじいさん?」
「それにはある一定額の金が必要じゃとな」
「世も末ですね・・・」
「さっきラズリにこんなのが届いておった」そう言って,はがきのような紙切れを取り出した。
「召集令状じゃ」ほっと,ため息をつくように言った。
「何の?」朱が重ねて尋ねると,ラオコーンは書かれている文字を読み上げた。
『貴殿を飛行艇【Angel’s Wing】の乗員と認めた。一週間後,役員が迎えに行くので同道されたし。神祇官特別審査会』
「一週間後・・・」朱がうめくようにやっと声を絞り出した。
「わしは別によいのじゃ。もうこんな歳じゃからなあ・・・しかしのう,ラピスが可哀相なんじゃよ」
「どうして,ラズリだけ・・・」
「君の仲間を政府に売らせたのじゃ」
「そんな・・・」
「今ラズリが持っとる金があれば,ラピスも行けるんじゃ」
「どうして,僕にそんな話を・・・」
するとラオコーンは姿勢を正してこう言った。
「朱君。君も行ってくれんか。ラピスのために・・・あと一週間しかないんじゃ・・・」
「・・・」
「す,すまぬ。この通りじゃ!」泣きながら,頭を床に打ち付けてそう頼んだ。自分のしているこの頼みの理不尽さもわかった上で,顔は苦悶にゆがんでいる。
その表情を見て,ふうっと一つ息を吐いて朱は答えた。
「困りましたね。ボクはこれからみんなを助けに行かないといけないんですよね。したがって、その政府に乗り込むつもりでした。でも,それも必要なくなりましたね。政府に捕まれば,彼らが勝手にそこに運んでくれるんですし,その方が楽そうですね」
ラオコーンは顔を上げて最初は困った表情をしたが,やがて目をいっぱいに開けてもう一度
「すまない!」
と謝った。そして,一つ付け加えた。「四天王には気を付けるのじゃよ」。四天王は今は三人しかいない。一人は引退してしまったそうだ。だがそれでも,危険だ,と語った。
「最後に一つだけ約束をしてくれますか?」
「うむ?」
「みんな生きて下さい」
その日の未明,ラオコーンの通報で朱は政府に連れて行かれ,換わりにまた,小さな包みが残された。
さよなら。

暗い・・・どこまでも真っ暗。暗闇・・・永遠の暗黒。永遠?
灯り・・・どこからか近付いて来る・・・太陽の日光。未来?
歩き続けた。どこまでも,どこまでも。でも,もういいか。『そんなぁ』
泣き続けた。いつまでも、いつまでも。微かに残った記憶。『元気でね』
記憶?どうして僕には記憶がないの?無いの。ナンデナイノ!
記憶?消されたモノは記憶だけなの?だ・け。ケサレタノカ?
気が付くと,僕の手にはこの闇の中で唯一,輝きを放つ剣が握られていた。

「できれば,この力は使いたくなかったんですよね。しかたないですね。でも,あの三人はもう逃げてしまったみたいだ。ハクはまた捕まった見たいですけど。一体何をしているんだか・・・」
朱は,一人牢屋の中で目をつぶって三人の動きを追っていた。これも,朱が高熱を出して眠っている間に身に付いた能力だ。これ以外にもいろいろとあるのだが,今まではどうにかして,使わないですむように努めてきた。しかし,それもそろそろお終いのようだ。
「始めますか。少々乱暴ですけれど・・・」そう言っておもむろに鍵を取り出すと
「疾!」鍵は杖へと変わった。
「疾!」もう一度そう言って,エネルギーの塊の球を牢屋の壁にぶつけた。あっという間に牢屋は破られた。
「まずはハクを・・・え?」突然,ハクの反応が消えた!
「そんなことが・・・」
4,Star – spangled
「おや,もう精機兵が動き出したのでしょうか?」
呆然としていた朱ではあったがすぐに自分を取り戻して,とりあえず,一番近い紫の所に行くことにした。しかし,もう精機兵が来ている。まあ,これだけ派手にぶっ壊せば当然であろうが。
「生身の人間じゃないようですね・・・」
ハクの見抜けなかったことにすぐに気付く辺りが,兄弟の頭の違いというところか。
「疾!」エネルギー弾を放って,一気に「壊す」。人でないと解かると全く容赦しない。順調に紫の飛び降りた所へと向かう。朱も,紫の感じた違和感を感じていた。階段を下っているのにこの変な感じは何だろう。そして,扉を開けるとそこはやはり屋上なのだった。これがGodの力・・・ですか。
屋上には,半獣半人の者が待っていた。二本足で立ち,毛むくじゃらの体は熊よりも大きく,背中には翼が生えている。しかし,しっかりと鎧を着込み,左手には長柄の斧,左の腰には青龍刀を佩いている。そして,茶褐色の毛で覆われた頭には角が生え,口からは立派な牙が見えている。
「よく来たものじゃ。吾が名は四天王が一人,獅子王である。以後見知り置きを。といっても,貴公には以後はないがな」
非常に大音量で話す声は,まるでライオンの吼えるようであった。しかも腰の刀をガシャッと鳴らす様は武将,しかも,大将クラスであった。
朱の感想は簡単なもので『美女と野獣』の野獣ですね,というものだけだった。無論争うつもりはなく,すぐに消えるつもりだった。しかし,突然何かの呪縛によって魔法が使えなくなっていた。
「困りましたね」
さすがに少しは焦りだしたが,さして良い策はなさそうである。
「吾輩ものう,杖一本のガキを相手に金剛斧と青龍刀を振るうのもどうかと思うのじゃ。だが,これも命令じゃて」
そう言って,気持ちの悪い笑みを口元に浮かべて,斧を振りかざした。精神が異常をきたしているのかも知れない,それとも心に病みを抱えているのだろうか。ニタニタと笑いながら振り回す。しかしその手元は少しも狂う様子がない。
「ぐはっ!」護衛隊で鍛えた朱が懸命にかわしても何発かもらってしまった。
「ぐわあー」胸,腕や足から血を流しながら必死に逃げ回る。
少しづつ,朱の動きに切れがなくなってきた。
「これで終わりかのう?くくくっ」
目の前に獅子王が立った。そろそろ限界らしい。もう息が切れて何も考えられなくなってきた。その時だった。
「諦めるな!朱ッピー!」
声が聞こえたのです。ボクの意識はもう消えかかろうとしていました。真っ赤に染まっていたボクの目に映ったのは・・・

「主は何者じゃあ!」
「 My name is Neo.Nice to meet you.」
片方の手に握った星を散りばめたような剣を獅子王に向けながら名乗った。
「ああん?わ,吾輩の,邪魔をするな」
「僕は朱を返してもらいに来ただけだから」
朱に手を伸ばして慎重に担ぐ。そして,そのまま歩き去ろうとする。
「ふんぬ!」
斧が空気を切り裂いてネオに襲い掛かった。どんな太い大木でさえ折れそうなその一撃をネオは剣で受け止めた。しかも片手で。ネオに全く傷をつけられないまま,斧は止まっている。
「では,失礼」
「それはできない相談だな」
今度は空から声がかかった。そこには背中に翼を生やした『人』の姿がある。
「まだ,いたのか」はあっとため息をつきながら顔をそちらに向けて,
「あんたは?」と聞いた。
「私は四天王の一人,隼王だ。その者は脱獄者なのだろう?だったら,正規の手続きをしてもらおう」
「じゃあ,正規の手続きをして捕まえたのか?」
このひと言で隼王は止まってしまった。その一瞬のスキを見逃さず,ネオは朱を担いだまま塔から飛び降りた。
「まて!」
落ちたはずの二人を抱えて飛んでいくのは,紫だった。
「・・・なぜ君が?」
5,Joker
「危機一髪だったなあ」
「ぼくが飛んでこなかったらどうするつもりだったの?」
「・・・」
「考えてなかったの!もう,ハクみたいなこと言わないで下さいよ」
「わりいわりい」
ネオには引っかかることがあった。ハクについてである。彼の気配が消えたり,出て来たりしていた。あれはどういうことを示しているんだ?
「剣星天」
「その剣の名前?どこで見つけたの?」
「ああ・・・」
もう空家に下りて朱の手当てを終わらせてから,ネオは紫と別れてからのことを語った。
地下に落ちてしまったネオは地下迷路をずっと彷徨っていた。そして,疲れきってもう動けなくなった時,記憶がよみがえった。これまで積み重ねた,と言ってもほんの数年分の記憶であるが,思い出しているうちに夢を見ていたらしい。その中で,この旅の初めに出会った名のない女の声が聞こえてきた。『名前を呼んで』と。その声のするほうへ歩くうちに眩しく光る一角に出た。しかし,その場所が光っているのではなく,岩に無数に刺さっている剣が光っているのだった。そのうちの一本に心引かれて,無意識に名前を呼んだ。それがこの剣だったというわけであった。
「不思議だね」
「ああ。それにしても久しぶりに真昼の太陽を見たよ。お腹も減ったなあ。そうだ,朱ッピーはまだ目を覚まさないのか」
「うん。ちゃんとお医者さんに診せることができればいいんだけど」
「その必要はありませんよ」
「朱ッピー!!」
「だいじょうぶか!!」
「大丈夫じゃありませんよ。でも,これぐらいなら・・・っ」
苦痛で表情がゆがむ。それでもいつもの調子は保っているのは大したものだ。
「どれどれ,診せて御覧なさい」
「どわぁー!!だれー?」突然背後に立ったおじいさんに驚いて,二人とも後ずさりしてしまった。
「失礼じゃな,ここはワタシの家じゃよ」
「?」
「ごめんなさい,てっきり空家かと」
「礼儀正しい小僧じゃな。しかしあとの二人は何じゃ。挨拶くらいせんか」
「ごめんなさい」ネオは姿勢を正して謝った。
「もう一人はどうしたのじゃ?」
「師匠・・・じゃないですか?」
「朱ッピー,知り合い?」けげんそうに紫が聞くと
「何じゃ,ワタシは知らんぞ」
「そんなはずはありません。ボクは,ボクはクウヤ師匠を間違うはずがありません」
「いかにも,ワタシはクウヤじゃが・・・」
そして,朱は自分の体験を語った。高熱を発して夢の中で出会った少年の話。
「少年?このおじいさんはどう見ても少年には見えないよ」
と紫が口を挟んだが,同一人物だ,と言い張った。そして,夢の中で修行をしていたことを,今まで誰にも話さなかったことを語った。
 そもそもの始まりは白龍の家に向かう途中に出会った老人からであった。
 そして
 最後に
語り終わるとそのが現れて,薬を調合して飲ませ,また傷口に薬を塗ってくれた。そして,おもむろに口を開いた時,もう日が暮れかけていた。
「それは多分,この時代から先(未来)の話じゃろうな」
「未来に少年になってるの?」
「そうではないわ。夢の中に現れたのは映像のみじゃろう。じゃったら,自分の好きな姿を映し出せるわい」
「未来って言うのは?」
「ワタシはこやつのことは本当に知らん。じゃがこやつは師匠と呼ぶ。ヒントは今のワタシはまだこやつに出会うてはおらぬということじゃて」
「そっかー」
感心して来ているのは紫だけであって,ネオはもうスースーと静かな寝息を立てて眠っている。朱も自分の話を聞いてもらい,すっきりしたのか,眠りに入っていった。やがて,紫も大きな欠伸をしてから眠りについた。
「ワタシのことも聞かず呑気なものじゃ。まあ,未来の弟子を危険な目にさらすわけにはいかんがのう」
彼の現在の名は空哉といった。昔,四天王の一人で,今は引退しているのであった・・・。

 ネオは大きな伸びをして,小屋の外に出てみた。まだ朝日が差しているだけだが,もう暖かい。確か,季節は夏だった。地下にいたので寒かったの何の・・・。昨日は結局話を最後まで聞けなかったな。さて,これからどうするか。朱のケガが治るまでどうせ,ここを動けないだろう。朱の話によれば飛行艇が動くのはもう五日後らしいし。そういえば,腹が減ったなあ。ひとところに思考の先を向けることのできないネオであった。昨日まで起きた出来事も整理し終わっていないし,それに解からないことが多すぎる。すると後からもう二人外に出てきた。
「ネオさん,昨日はありがとうございます」
「朱,朱ッピー!!!なんで,もう起きてるんだよ!」
「いえ,重傷だったはずなんですけど,今日になったら元気になっていまして」
「止めたのに,動き出しちゃったんだよ」紫も心配そうに答える。
「そ,そんなバカな・・・ちょっと見せてみろ」そう言って服を脱がせようとするが
「ちょ,ちょっと待ってくださいよ!」
「バカやろう!あんなケガがたった,いちんちで治るはずが・・・治ってる・・・」
「師匠の薬のおかげでしょう」
「んなアホな・・・」まだ信じられないという表情をしている。
「それにしても,ネオさん。変わりましたね」
「?なんのことだ?」
「言葉遣いもですけど,ハクに似てきましたよ」
「そうか?」
本人は心外だという顔をしている。そこへ,どこからか帰ってきた師匠が告げた。
「おぬし達,飛行艇が出発するまで,うちで修行していくがよい。今のままでは四天王には勝てぬぞ。親友を探しにもう一度,White=Castleに行くのじゃろ」
「あそこはホワイトキャッスルというんですか。もちろん行きます」
「そこにきっと白がいる」
「よろしい。さて,ここにはワタシの結界が張ってある。思う存分暴れてよいぞ。と言っても,魔法の素質があるのはそこの兄弟だけのようだがのう」
「ダイスケも?で僕は?」
「おぬしは紫殿と一緒に体を鍛えてくるのじゃ。五日しかないからのう,特別メニューじゃ。ほれ!」
そう言って小屋の戸を叩くと扉の向こうには別世界が広がっている。
「瞬間移動というヤツじゃな。飯の時には帰って来るのじゃよ」
「そんなのができるんだったら,この技を使って助けに行けば・・・」
機嫌の悪いネオが言うと
「あそこにはな,Godの結界が張っておるんじゃ。ワタシでも近づくこともできんわい。さて,朱,おぬしはワタシと一緒に来るのじゃ。一ついいものを教えてやる」
「はい!」
こうして,三人はそれぞれの修行に取り組むことになったのだった。

「おいおい,なんだよここは・・・」
「重力がハンパじゃないみたい・・・」
「だー!歩くだけで体力使うなあ」
「まあ,体を鍛えろと言ってたしね」
「それに,なんだ?この砂漠は!暑―!」
外も暑くて,半袖だったが,この世界はもっと暑いようだ。
「ねえ,ネオさん・・・」
「なんだ?ダイスケ」
「太陽が,二つある・・・」
空を見上げて紫がつぶやいた・・・・・・。

修行四日目。師匠はやっと大技を見せた。それまでは,いろいろとテストをして,朱の能力を試していたようだった。その試験の結果,教えることを決心したらしい。
「どうじゃ?この技は。破壊力がすさまじいじゃろ」
「師匠・・・この技は一体?」
朱の目の前の丘にぽっかり大きな円形の穴が開いている。吹き飛ばしたと言う感じだ。
「極大呪文,九曲じゃ」
そう名前を教え,原理と動作を説明した。片手で炎系の「烈焔」をもう片方の手で氷系の「寒氷」を同時に出す。そして,全く正反対のこの呪文を一つにするために,両手を合わせ,その後,弓矢の要領で左手を真直ぐ突き出し,右手を引く。一杯に引いたら,離す。
「どうじゃ,やってみるか?」
「一発で成功させますよ」
「なまいきな・・・」
しかし,朱は有言実行,見事に成功させて見せた。だが・・・
「おぬしは炎系の呪文が得意なのじゃな」
炎が強すぎて腕が焦げている。すぐに,冷やしに行かせてから,一人になると
「たくましい,才能じゃのう・・・ほっほっほ」
そう嬉しそうに微笑んだ。
「じゃが,Godを倒せるかどうか・・・まあ,あとの二人しだいという所じゃのう」
久しぶりに,楽しみを見つけた,という表情をした隠居の老人はつぶやいた。

「ありがとうございましたっ!!」×3
飛行艇出発予定日。修行がギリギリで終わった三人は師匠にお礼を言ってホワイト・キャッスルに向けて出発をした。相変わらず,ギラギラと太陽は照りつけている。様々な花が太陽の光をうけて,嬉しそうに咲き誇っている。いざ出陣!!
 ネオは背中に剣星天を担いでいる。紫はクウヤに持って行けと言われたフェンシングの剣を腰に下げている。朱は既に鍵を杖に変えて手に持っている。堂々とした出陣である。

三人はまず,ホワイト・キャッスルの入り口の門の前で立ち止まっていた。作戦を立てようと,朱が言い出したのだが,ネオは,正面突破を主張して聞かない。と黙って事の成り行きを見守っていた紫がふと何か思い当たったように口を開いた。
「ねえ,相手はGodなんだから,たぶんどこから進入しても同じだと思うよ」
「ダイスケー!いいこと言うじゃないかー」
というわけで,ド派手に門を打ち破って突入した三人であったが,どちらに行ったらよいのやら,この広い宮殿内のどこを探したらよいのやらさっぱりわからないのだ。朱がハクの反応が消えたと言っていたのは本当のことらしい。
「どうするの?」
「そうだなー」
紫とネオが困り顔で聞くと,上空を見上げていた朱がやっと口を開いた。
「どうやら,空に道案内がいるみたいですよ」
「え?」
「隼人・・・」

先日・・・深い森の中に落ちた紫は・・・
「なんだお前は?」
「へ?」
紫はその声で目を覚ました。体が濡れてる・・・。
「空から降ってきたように見えたが,飛べぬのに飛んだのか?」
「は?」
「私のテリトリーに落ちてきて,なんのあいさつも無しか?」
そういえば,森に落ちたような・・・。
「ひ!ごめんなさい!えっと,紫ダイスケです」
「ふむ,礼儀はしっかりしているみたいだな」
「ごめんなさい,あなたのテリトリーだとは知らなくて」
「まあ,良い。ここは森海というところだ。しかし,空を飛ぶヒトを久しぶりに見たぞ」
「あ,WITH!どこっ?」そういえば来てくれたんだっけ。
「このウサギのことか?」気絶している水嫌いのWITHを渡されて,
「あー、ありがとうございます!」
そう言って初めて顔を上げてその人物をしっかりと見た。
「羽?」背中に翼が生えている・・・。
「おお,私は四天王の隼人という者じゃ」
「四天王?」WITHを受け取りながら尋ねた。
「それよりも,ずぶ濡れではないか。私の家に来い」
「ごめんなさい」
隼人と名乗る壮年の武人の家のイロリで服を乾かしながら,聞いた話によるとGod配下の重臣である四天王は皆,空を飛べる力があるそうだ。しかし四人の内で現在,健在なのは竜王と獅子王とこの隼王(通称隼人)だけで,最後の一人,空哉は高齢のため引退し隠居しているそうだ。しかも,獅子王も病のため瀕死であり,今は危篤状態だという噂もあるそうだ。
「どうしたんですか?隼人さん」
「召集だ」今まで,柔らかい調子で話していた隼王の顔が急に厳しい表情に変わった。
「出動ですか?」紫もその緊張した雰囲気に気付いてこう尋ねた。
「ゆっくりして行ってくれ,すぐ帰る」そう言い残して,空へと飛びたった。
「隼王様!いらっしゃいますか?どうやら,また脱獄者が出た模様です。出動願います」
部下のそういう声が頭上で響いた。
「うむ,わかっている。」
羽ばたきが少しずつ遠ざかっていった。
「脱獄者だって,もしかして・・・」嫌な予感がして紫は言った。
(そのもしかしてかもな)もう一人の彼も同意した。
「よし,行こう。WITH!」彼もまた,大空へと羽ばたいた。

っている。いざ出陣!!
 ネオは背中に剣星天を担いでいる。紫はクウヤに持って行けと言われたフェンシングの剣を腰に下げている。朱は既に鍵を杖に変えて手に持っている。堂々とした出陣である。

三人はまず,ホワイト・キャッスルの入り口の門の前で立ち止まっていた。作戦を立てようと,朱が言い出したのだが,ネオは,正面突破を主張して聞かない。と黙って事の成り行きを見守っていた紫がふと何か思い当たったように口を開いた。
「ねえ,相手はGodなんだから,たぶんどこから進入しても同じだと思うよ」
「ダイスケー!いいこと言うじゃないかー」
というわけで,ド派手に門を打ち破って突入した三人であったが,どちらに行ったらよいのやら,この広い宮殿内のどこを探したらよいのやらさっぱりわからないのだ。朱がハクの反応が消えたと言っていたのは本当のことらしい。
「どうするの?」
「そうだなー」
紫とネオが困り顔で聞くと,上空を見上げていた朱がやっと口を開いた。
「どうやら,空に道案内がいるみたいですよ」
「え?」
「隼人・・・」

先日・・・深い森の中に落ちた紫は・・・
「なんだお前は?」
「へ?」
紫はその声で目を覚ました。体が濡れてる・・・。
「空から降ってきたように見えたが,飛べぬのに飛んだのか?」
「は?」
「私のテリトリーに落ちてきて,なんのあいさつも無しか?」
そういえば,森に落ちたような・・・。
「ひ!ごめんなさい!えっと,紫ダイスケです」
「ふむ,礼儀はしっかりしているみたいだな」
「ごめんなさい,あなたのテリトリーだとは知らなくて」
「まあ,良い。ここは森海というところだ。しかし,空を飛ぶヒトを久しぶりに見たぞ」
「あ,WITH!どこっ?」そういえば来てくれたんだっけ。
「このウサギのことか?」気絶している水嫌いのWITHを渡されて,
「あー、ありがとうございます!」
そう言って初めて顔を上げてその人物をしっかりと見た。
「羽?」背中に翼が生えている・・・。
「おお,私は四天王の隼人という者じゃ」
「四天王?」WITHを受け取りながら尋ねた。
「それよりも,ずぶ濡れではないか。私の家に来い」
「ごめんなさい」
隼人と名乗る壮年の武人の家のイロリで服を乾かしながら,聞いた話によるとGod配下の重臣である四天王は皆,空を飛べる力があるそうだ。しかし四人の内で現在,健在なのは竜王と獅子王とこの隼王(通称隼人)だけで,最後の一人,空哉は高齢のため引退し隠居しているそうだ。しかも,獅子王も病のため瀕死であり,今は危篤状態だという噂もあるそうだ。
「どうしたんですか?隼人さん」
「召集だ」今まで,柔らかい調子で話していた隼王の顔が急に厳しい表情に変わった。
「出動ですか?」紫もその緊張した雰囲気に気付いてこう尋ねた。
「ゆっくりして行ってくれ,すぐ帰る」そう言い残して,空へと飛びたった。
「隼王様!いらっしゃいますか?どうやら,また脱獄者が出た模様です。出動願います」
部下のそういう声が頭上で響いた。
「うむ,わかっている。」
羽ばたきが少しずつ遠ざかっていった。
「脱獄者だって,もしかして・・・」嫌な予感がして紫は言った。
(そのもしかしてかもな)もう一人の彼も同意した。
「よし,行こう。WITH!」彼もまた,大空へと羽ばたいた。

「行け」
空の案内者はそう言って行き先を指差す。
「二人とも、先に行ってて。」
そう言って紫だけ残る。ネオも朱も無言で頷くと先に進むことにした。そうして、二人になると、紫が先に話し掛けた。
「隼人さん・・・やっぱりここにいたんだ・・・。隼人さん、この前はお世話になりました。きちんとしたお礼もできなくて・・・」
「風よ」
そう言うと、突然、暴風が荒れ狂ったように巻き起こった。
「・・・隼人さん?」

走り抜けていくネオたちの目の前にいたのは坊主頭で、体格がかなりいい大柄な男だった。
「今度はオレの番かな?」
ネオが目を輝かしながら、一歩前に出た。
「朱ッピーしか白の居場所が分からないんだからな。」
そう言うとネオは刀を抜いて構えをとった。
「儂は竜王巨刹。四天王の一人じゃー」
「四天王・・・」
「だが,儂は,本気を出してもおぬしには勝てそうもないわい。ほっほ」
「はあ?」
「・・・うむ。やらねばならぬそうじゃの」上空を見上げて何かに語りかけてから,そう告げた。
「儂の120%でお相手いたそう」
巨刹はそういうと,背中の大きな刀を降ろしてから,
「雷よ」と一つ唱えてから「変身」が始まった。人間の体が一度,巨大化すると,ドラゴンをかたどった。その後であった。急に光に包まれると,みるみる縮んで,元のサイズに戻っていく。そしてそこに現れたのは・・・まぎれもなく魔人だった。

体が・・壊れていきおるわい120%はやはりきつかったかのう
 
「ボクにとってはリベンジですね」
「ほう、・・・ま・またおぬし・・・か」
「よかった。獅子王さん,あなたに少し聞きたいことがあったんですよね」
「わ・吾輩にか?聞きたきことあらば,吾輩に勝ってからにするが良い」
「そうですね。でも忘れない内に言って置きますよ」
「・・・」
「ハクを返してください」
「おおお。吾輩が喰ったガキか」

「あなたがハクを喰らうたのではありません」
「真実は逆だったのです」
「ハクにあなたの魂魄を喰らわせたのです」
「そして,魂のケンカをさせたのでしょう」
「ハクの反応が出たり消えたりしたのは,ハクの魂が隙を見て,体を取り戻そうとしていたのですよ」
「もう一度言います。ハクを返してください」
「これは,師匠が夢の中でくれた封印の鍵。ハク,目を覚ましてくださいよ」

「やめろ!朱っピー!そいつは違う!」
「師・・・匠?」
「師匠がGod?・・・」
「ふふふ・・・正確には前のGodじゃ、わかったかの?」
「わかりません。どうしても。ボクは何を信じたら良いのでしょうか」
6,Forget – me – not
「雨よ,世の汚れを清めたまえ」
「風よ,世の塵を払いたまえ」
「炎よ,世の埃を燃やしたまえ」
「雷よ,世の闇を照らしたまえ」
「神よ,・・・・・・・・・・・」
「隼人・・・一体何を」

「余は不死なり」
「では老いた体を捨て,若い体へと移らせてもらうとしよう」
「余はこれより,新しい肉体を得る」
「待てよ・・・まさか・・・」

「余は何を為した・・・」
「涙・・・?」
「この娘の心が流れ込んできた・・・?」
「まだ,心は残っているのか」

「なぜ心に病みを抱えるのか」
「それはなあ,ここが痛むからだよ」

「ネオよ,最期に良い事を教えてやろう・・・」「余はお前の『失われし記憶』である」「余は別人になりたかったのじゃ」「幾年,旅をしたであろうか・・・」「何度生まれ変わったであろうか」「力を持たぬ余の,唯一の生きる手段であったのだ」「お前の記憶は元通りとなろう」「お前の記憶が残っていると困る者がおるからの」「だが完全に消すことはできんかった」「お前はそれほどに危険な存在であったのだ」「もう余は『God』でいる必要がなくなった」「今,空島を崩壊す」「簡単じゃよ。『漂う石(Floating Stone)』を壊せばよい」「いやいや,『漂う石』は余の復活と引き換えに壊れる予定であったのじゃ」「ネオよ・・・お前に会えて・・・・」
7,Being Over
鳥が・・・バサバサッと大きな音を立てて,次々と島から離れていく。
「ダイスケ!ダイスケ!何見てるんだ?島の人を呼びに行くぞ!」
空を見上げていた紫に声をかけて,ネオも走り出そうとしている。
「ダイスケ君,ちょっと待ってください。ボクが魔法で呼びかけてみますから」
「待て,おぬし達がしても,みんな分からないだろう。私にさせてくれぬか」
「隼人さん・・・わかりました。お願いします」
そして朱が残り少ない力で魔法を島全体にかけた。
「島民の皆さん落ち着いて聞いてください。私は隼王です。これから,この島は崩れてしまいます。でも,安心してください。皆さんには飛行艇で避難してもらいます。これから言う地点に集合して下さい。・・・」

「これで終わりですか?」
「なんとか全員乗ることができたみたいだね」
「しかし,かなり崩れてきてるぜ」
「ハク!大丈夫なの?」
「よう,記憶は途切れ途切れだがな・・・なんとか生き返ったってとこだぜ。あれ?ネオさんは?」
「隼人と一緒に最後の見回りに行ってますよ。あっ,ネオさんは帰って来ましたね」
ネオもハクに気づいて走り寄って来た。
「よお,ハク!元気そうだな!そうだ,お前も来い!ラオコーンじいさんを説得するんだ。どうしても,ここに残るって聞かないんだ。ラピスとラズリが今,がんばってるんだけどな」

「おじいちゃん,早く!」
「うーむむ」
「おじいちゃん、おじいちゃん」

「そんなの関係ない!」
「見ろよ,アンタを待ってる孫がいるぜ」
「生きてるんだから」
「いいじゃないか」
「生きてりゃ,何かいいことがあるだろ」


to be
continued

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?