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あおいろの日記

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水槽とクレマチスの楽曲を聴いたあとに読んだり、読んだあとに聴いたりする用
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くいとめて、トゥエンティ

くいとめて、トゥエンティ

『そこでずっと何してるの?』

「わかんないよ。こっちが聞きたい。」

はたちを過ぎたあたりから繰り返しつづけているこんな答えも、そろそろ期限切れだなと情けなくなる。

部屋の角っちょで不健康に青い光を浴び、ちっちゃい液晶の中で完結する理想にふけるわたしの手を、濁った青がすり抜けていったりする。

『なにこれ?』

「あーそれ、たぶん涙。」

『涙?』

「うん。さっきここで。」

『泣いたの?』

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アポイント・フェア

アポイント・フェア

ふと目に止まった新聞の運勢欄に、『辰年のひとは燻ったきもちを持つ時機かもしれないが、立ち止まりすぎるといよいよ本当に好機を逃すぞ(超要約)』みたいな脅しに近いことが書いてあったので、わたしはそれを、『とにかく歩け!』って意味だととってひたすらに歩いてみることにした。

歩くということは、まず初めに立ち上がらなければいけない。

最近はちょっと座りすぎていておしりが四角くぺちゃんこになっていたんだけ

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しゃにかまえて、夏

しゃにかまえて、夏

かねてから公言しているとおり、わたしは夏のことを異様にきらっている。

今ここで夏の悪口を言えるだけ言ってみなさいと指示されたら、他人にブレーキを踏んでもらわないと止まれなくなるくらいのものすごい勢いでしゃべり出すじぶんの姿が容易に想像できる。

だけどまあ無粋な悪口ってダサいし、どうせなら粋なやつを言いたいなと思っていて、でもそれは町田康を読むなどしながらまだ勉強している途中だから(町田康のわる

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瞬足!2023

瞬足!2023

大量の他人が歩く駅のホームに紛れているとき突然、愛のような奇妙な感傷にいっしゅんだけ心をとらわれることがある。

そのあいだは、だれもかれも次の乗り換えに遅れませんようにと願って、まただれもかれもこの先ずっと苦しいきもちにならないようにと守りたくなる。

その一時的な感情を通りすぎたら、またすぐに、自分に対して向ける愛だけでいっぱいいっぱいになったりする。

恋はわからないけど愛は分かるのかもしれ

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ベンズ・ムーン

ベンズ・ムーン

ベランダから空みたら、満月が4つあった。

そういえば月の単位って、“つ”で良いのかな?と思って、隣で一緒に月見をしていた君に聞いたら

『月は通常は数えませんが、』

という前置きをされた。

月を数えない!?信じられない。

「どういうこと?君って、月を数えたことないの?」

『特には。』

「でもいま4つあるし…。こういう時とかってさ。」

『例えば、空に浮かぶ月とそれが水面に映った様を見て

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