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am8「Scala」が描き切る2021年の世界線 ~大比良瑞希 × カワムラユキ + チューヤン

普遍性と新規性を融合した作風で無二の存在感を放つam8(エーエム・エイト)。9月29日(水)に各種デジタル・プラットフォームでリリースされたシングル『Scala ft. 大比良瑞希+KIKI TAM』は、ベース・ミュージック以降のビート感覚に陰影を刻む、深淵な音世界が魅力だ。それもそのはず。タイトルにある通り、ボーカルを務めるのは実力派シンガー・ソングライターの大比良瑞希、広東語ラップを披露するのは香港からKIKI TAMと、盤石の布陣。しかも才人カワムラユキが日本語詞のペンを執ったのだから、これ以上無いコラボレーションと言える。10月20日(水)には7インチ・バイナルとしても発売される本作について、大比良とカワムラのコメントを中心に、KIKI TAM周りのプロデュースを担当したチューヤン、そしてam8の発言も交えて制作を振り返ろう。              
                                     聞き手:Alfa Beta Records Press                    注)チューヤンは香港よりオンラインにて参加。


“表裏一体”をいかに歌で表現するか

●「Scala」の作詞にあたって、何かエピソードはありますか?

カワムラ 自分が今、感じていることをありのままに綴りました。最初に、香港の現状とか昨今の世界情勢について感じることを軸にしたい、というお話をいただきましたよね。そのテーマと向き合うときに、取り繕ったりデフォルメしたりするのではなく、自分が日本、そして東京の渋谷に住んでいて感じることを情勢と照らし合わせながら綴ってみようと思って。

チューヤン 僕は詞の意味を紐解くために、いろんなソフトを使ったんです。その後、テキストの状態でも見せてもらって“やっぱりそういうことだったのか”って。深いというか、心の隅の狭いところ、奥のところに届く素晴らしい詞だなと。カワムラさん、天才じゃないですか。

●大比良さんは、KIKI TAMさんの広東語ラップをどう感じますか?

大比良 そもそも私は、日本語ではない言語の音楽が好きなんです。英詞はオーソドックスですけど、フランス語だったり、いろんな言語が持つ日本語には無いリズムとかが好きなので、まずはコラボレーションできたのがうれしいですね。特にKIKIさんのボーカルは“ラップと歌の間の音程感”というか、ちょっと宙ぶらりんな雰囲気がするのに心地良くて、中毒性がある。トラックに対してのリズム感もすごくハマっていて、曲がよりカッコよくなったと思います。会えなかったし、お話もできなかったけれど、よろしくお伝えください。

am8 カワムラさんの詞とKIKIさんの詞のミクスチャーは、あれこれすり合わせしたわけじゃないんですが、僕たち的にもすんなり行ったというか。奇跡だったのかもしれません。

チューヤン 瑞希さんが歌う詞に関しては、全部KIKIさんに説明していたんです。もし2人が同じようなことを歌っていたら、それはコラボじゃないと思うから。でも同じ“テーマ”について東京と香港の双方から語るのであれば、本当のコラボですよね。                                

【Scala ft. 大比良瑞希+KIKI TAM】


●楽曲としての「Scala」は、どのような印象ですか?

カワムラ am8は、1stアルバムの『iDoM』で既に、確固たる世界を確立していたと思うんです。例えばHANAさんの歌う「Hatsukoi」とか、1stにしてものすごい名曲ですよね。サウンドにしても流行りを追いかけているというよりは、本当に好きなものを追求している感じがして。完成された世界観だったので、アルバム表題曲のリメイク版(編注:「iDoM -full ver.- ft.XAI」)はあったにせよ、こんなにすぐ新しい曲ができるとは思っていなかったんです。そして、その曲がもっとキャッチーでポップな方向に行くのかと思いきや、am8という象徴を通して感じていたディープな音世界でちょっと驚きました。例えるならポーティスヘッドみたいな。

大比良 ポーティスヘッド、それ私も思いました。初めて聴かせてもらったときにメロディとアレンジ、サウンドの世界観がすごく洋楽的に感じられて、自分の好みである反面、ここに日本語が乗ったらどうなるんだろう?って。想像できなかったんですけど、ユキさんの詞が合わさって、楽曲としてより強くなったと思います。ただシンガーとしては、時代的にも個人的にも、ちょっと窮屈になっているタイミングで刺さってくるような世界観だったり、メッセージ性を感じたので、それをいかに歌で表現するかに悩みました。弱さと強さ、退廃と前進……そういう表裏一体を含んでいるように思えて、どう表現できるだろうと。凍てつく夜明け前、みたいな情景を浮かべて歌ったりもしました。そして最終的に“声色の温度を少し下げてみてはどうか”というリテイクを経て、やっと完成しましたね。

【Portishead - Glory Box】


鼻歌デモから共有していたことの強さ

am8 実は、いったん録り終えたにもかかわらず、2回目をお願いしてしまい……。そもそも大比良さんに依頼したのは、HANAさんやXAIさんとは違うエモーショナルな粘りというか濃さを求めていたからで、最初の歌入れのときはすごく良いなと思っていたんです。しかし時間を置いて聴き返してみたら、気持ちの上では表裏一体のはずなのに、その一方が強く出過ぎているというか。グッと入り込んでいるバランス感、みたいなものがアンバランスに聴こえてしまって。

大比良 ウェットな感じでしたよね。

am8 そう。生に対する未練があるような声に聴こえたんですが、どちらかと言うと“死んでしまったけど本当はもう少し生きていたかったんだよね”って言えるようなクールさが欲しかったんです。それで、無理を承知でリテイクをお願いすることにして。

カワムラ 私もお話を聞いて納得しましたし、大比良瑞希という作詞家であり作曲家であり、シンガーとしても秀でた存在が、am8のサウンドと私の詞に真剣に向き合って表現してくださっていたので、やっぱり最高の仕上がりにしたいじゃないですか。何度も向き合うam8の姿も素晴らしく、後悔の無い、悔いの無いものができたのではないかと思います。

大比良 全部がスムーズに行くわけではなくて、最後まで直感や違和感を拾い上げて完成させたいですもんね。制作にはちょっと言い出しにくいことも多々出てくるけど、お互い妥協せず言い合える関係って一番大事だなと思います。

カワムラ それに、今回は慣れないことだらけでしたから。こういう状況もあるしね。ちなみに私、リリックがどんなふうにメロディへ乗るか鼻歌で録ってam8に送ったんですけど、それって個人的にすごく恥ずかしいことで。しかもかなり難しいし、この曲。でも、下手なりに歌って渡すのが一番早いと思ったので、送ってみたら瑞希ちゃんにもシェアされていたという(笑)。初対面で全裸を見られたくらいの恥ずかしさでしたね。ただ、そこを知ってもらえたのもあって、たった数カ月でこれだけ素晴らしい作品に仕上がったんだろうなと。感無量ですね。ライブでやったりするときに、あえてレコーディングにおけるテイク1のようなニュアンスで歌ってくれてもいいのかなって、想像までしています。

大比良 楽曲へのアプローチをいろいろトライできたので面白い経験でしたし、録りながらリズムやメロディをちょっと変えたりとか実験的な場面もあったので、楽しかったです。

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七尾旅人が作った2人の関係

●お二方は、どのようなアーティストに影響を受けてきたのでしょう?

カワムラ DJとしてはイビサ島のホセ・パディーヤ、作詞家としては安井かずみ先生、プロデューサーとしてはマルコム・マクラーレンですね。

大比良 私が最も影響されたのは、ファイスト(FEIST)というカナダの女性シンガーです。GUILDの大きなセミアコを抱えて指弾きしながら歌ったり、バンってたたいたりするんですけど、そういうのを女性がやっているのを初めて見て、エレキギターの概念が変わって。ファイストを知ってからギターが楽しくなったし、私とギターの関係性を変えてくれた人でもあります。ボーカルについても、肩の力を抜いて歌うというのを学びました。ブースに入ると“ばっちり歌わなきゃ”ってなるけど、ファイストの声は家で歌っているような感じでパッケージされていて、すごく良いなと。一生好きだと思います。

カワムラ 瑞希ちゃんとラジオ番組でお会いしたとき、ファイストの「ビタースウィート・メロディーズ」をいつかカバーしてほしいと言った記憶があります。あの曲、すごく瑞希ちゃんっぽいと思うんですよ。

●カワムラさんと大比良さんには、これまでも接点があったのですか?

カワムラ もちろん大比良瑞希ちゃんの存在は知っていたんですけど、知り合ったのはここ2年くらいかな。私、七尾旅人っていう親友がおりまして、彼が何年かぶりにふらっと渋谷花魁(カワムラが運営するDJバー)に来てくれた日があったんです。私はジム帰りか何かで、ちょっと店に寄っただけだったんですが、その日は旅人が瑞希ちゃんのライブにゲスト出演する日で。“この後、本番なんだけど来ない?”って言われたので、付いて行ったんです。それで楽屋で瑞希ちゃんと会って、共通の友人も居たことからあっという間に仲良くなったんですけど、すぐコロナ禍になっちゃって。

大比良 2019年7月1日ですね。今では考えられないくらい、会場の中は密な日でしたね。

●「Scala」は、デジタルのほか7インチ・バイナルでもリリースされます。お二方の初めて買ったレコードや大切な一枚を教えてください。

カワムラ 初めての一枚と言えば、私は父に『CAT'S EYE』のレコードを買ってもらったのが最初で。父は数年前に亡くなってしまったので、今はそのレコードを遺品として飾っていますね。

大比良 私は一時期、代々木にあったMUSIC BARで週に1回ほどセレクターをやっていて、日によっては9時間くらいかけっぱなしだったんです。それこそ一回入ると、100枚近くセレクトしてかけていました。お客さんが少ない時間帯はブロッサム・ディアリーをかけて1人で楽しんだり、カーティス・メイフィールドやライ・クーダーを挟んで、夜が更けてくるとエリカ・バドゥにマッシヴ・アタック、たまにロックに寄り道したりとか。毎回楽しかったですね。

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●今回「Scala」のプロジェクトに参加してみて、あらためてam8にどのような印象を持ちましたか?

カワムラ am8は2021年の国内音楽シーンにおいて、とてもミステリアスな、そしてとても純粋な猫ちゃんだと思うんですよね。私も大比良さんも猫を飼っていまして、これで無事に良い3匹目が我々の仲間に入ってくれたのかな?なんて思います。私と大比良さんが犬を飼っていたら、このコラボは無かったかもしれません。今後もかわいい猫ちゃんでいてくださいね。

大比良 “謎のノスタルジック・アーバン”みたいなイメージです。今の曲って、メロディにしてもループっぽく作られていたり、かと思えば覚えづらいものも多い気がするんですけど、am8の音楽には主軸となるメロディがあると思う。歌謡曲的な要素なのかもしれませんが、そこが歌いたくなるところというか、沁みますよね。他方、サウンドにはアーバンな温度を感じるので、両者のバランスが個人的にすごく好きなんです。

am8 最後に、現在取り組んでいる活動や今後のリリース情報について教えてください。

カワムラ 毎週、金曜日20時にblock.fm、日曜日26時にbayfmでレギュラー番組を持っています。am8や瑞希ちゃんの曲も、よくかけさせてもらっています。bayfmは、その日のお題があって選曲するんですけど、結構アーバンな感じにまとめているので、am8や瑞希ちゃんの曲もいち早くかけさせてもらっていますね。

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<大比良瑞希 LIVE情報>                        〇hanadagumi presents 〜ひみつのじかん
出演:大比良瑞希 × NEMNE
日程 / 場所:2021.10.6(水) / 下北沢440
開場 18:30 / 開演 19:00
440web:( http://440.tokyo/events/2021-1006-19/ )

○青山 月見ル君想フ17周年記念公演『HONEBONE × 大比良瑞希』
出演:ONEBONE × 大比良瑞希
日程 / 場所:2021.10.28(木) / 【観覧+配信】青山 月見ル君想フ
開場 / 18:00 開演・配信開始 / 18:30     https://www.moonromantic.com/post/211028

<カワムラユキ  Radio info.>


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