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#9 分からなくなっちゃいました

前回の続き。


「お腹膨れてるせいなのかなんなのか分からないけど緊張しますね」

「うん」

恋人は座椅子に座って横を向き、
僕に背を向けたまま話し始めた。


「一日一緒に過ごして、
 自分の気持ちが分からなくなっちゃいました」

「だってあなた絶対幸せにしてくれるし」

「温度差があるっていうのは最初からずっと思ってたんですけど」

「●●さんが言ってることも分かるんですよ」(会いたいとか好きって言ってほしいということ)

「でも仕事でそれどころじゃなくて
 嘘ついて言いたくないし」

「だからつらい思いさせてるなって
 申し訳ないなって思って
 全部やめたいって思っちゃったんです」


僕は後ろから恋人を抱き締めた。


「つらい思いさせてごめんね
 つらかったよね。ごめんね」

「仕方ないよ
 自分の心を守るための行動だったんだよ」

「あなたが仕事で余裕ないのも分かってる
 全部やめたいって思うのも分かる」

「〇〇ちゃんは前に
 俺のことを『価値観の近しい人』って
 言ってくれたんだけど」

「でも、いつか違うところが見つかるよって
 その時どうするかだねって話してた」

「ようやく、違うところが見つかったんだよ」



「俺だって『返信早いの珍しいね』
 なんて言っちゃったし」

「〇〇ちゃんは
 『いいタイミングで再会できましたね』
 って言ってたけど」

「俺はまだ〇〇ちゃんを受け容れられるほど
 大人じゃなかったって思った」

「でも今回のことで少しだけ大人になったよ」

「だから、俺が大人になるのを
 見守ってくれたら嬉しい」

「何が正解なのか分からないけれど、
 手探りでやっていきませんか」


恋人は泣いている。
体を僕に預けている。


「自分めんどくさい…」

「自分だったらこんな人別れてます」

「友達に言ったら『そんな彼氏いないよ?』
 って言うと思います」

「大学時代ならよかったんです
 恋愛脳でいられたから
 何も考えなくてよかったから
 でも今は仕事があるから

「やっぱり仕事やめるしかないですね」

「7割くらい仕事のせいだと思ってます」



「K(友達)も言ってたんですよ
 会ったら仲直りするかもよって」

「仲直りってか
 そもそも喧嘩してないんですけどね笑」


「話してたらお腹空いてきちゃいました」


気づけば18時半くらいになっていた。


「そうだね、少し空いてきたね
 〇〇ちゃん何食べたいの?」

「……お好み焼きですかね
 また割引券があるんですよ」

「俺ご飯食べに行くけど、
 〇〇ちゃんも来たかったら連れていくよ」

「ずるい言い方ですね」

「じゃあ一緒についてきて」



「あなただってずるいよ
 会うの気まずいですか?って
 俺の気持ちで決めようとして、
 あなたの気持ちは教えてくれないんだから…」

「ずるいと分かってて言いました」


出かける準備をする。
家を出る時に恋人が言った。

「ちなみに今日の服装、とても好みです」

「ほんと?」

「自分が着たいと思うくらいです」

君が好きそうな服だと思った。
君がいなかったら買ってない。

車に乗って道頓堀へ向かった。


続く。

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