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#8 相合傘

前回の続き。


10分程で駅前のミュージアムに着いた。
適当な駐車場に車を停める。
雨が少し強まっていた。

「傘差さないとね」

「私傘持ってないです」

「ちょっと待ってて」

僕は外に出て助手席側に回って傘を差した。
恋人がドアを開ける。
そのまま君の斜め後ろに立って、君の頭上に傘を差して歩く。

「足濡れちゃうよ」

「私サンダルだから大丈夫ですよ」

「むしろサンダルだから濡れたら寒いよ」

そんなことを話しながら横断歩道を渡る。

「執事みたいですね笑」

「そんな大したもんじゃないよ笑」

ごく自然と相合傘をしてしまった。


館内に着く。
ここにも宝石がたくさんあった。
こちらは残念ながら撮影禁止。

「ここもいいですね!」

「さっきのところとはまた違った視点で見られるね」

原石の採取方法、加工工程がよく分かる。
理解しやすいように順を追って説明してくれる展示に好感を覚えた。

誕生石が綺麗に並べられている。
職人が宝石に意匠を凝らした作品も展示されていた。

「今の仕事に関係ありますね。
 私はもっと早く来るべきでしたね笑」

この時の僕は何も感じていなかったが、
君が今まで誰ともここに来ていなくてよかったなと感じた。君とこの場所を楽しめたから。
元彼との思い出が残るこの町に、僕との思い出も重なっていく。


楽しんだ僕らは家に帰ることにした。
15分程走って君のアパートに到着した。

「あの、ちょっと掃除機かけてもいいですか?」

「いいよ。俺コンビニで待ってるね」

君は僕を家に上げないつもりだったろうな。

すぐ近くのコンビニで待つ。
トイレの鏡で少し顔の手入れをする。
やがて君から連絡が来た。

「終わりました!お待たせしました🙏」


アパートに戻る。
君の部屋の前に立つ。
インターホンを押す。
少し不安になる。

ほどなくして恋人がドアを開けてくれた。
君の顔が見える。

「お邪魔します」

入るのもこれが最後かもな。
君はいつも通り座椅子に座っている。

「あ、こたつ布団がない。
 これがないだけで部屋が広く見えるね」

「そうなんですよ〜」

何気ない話をする。
僕はいつものように手洗いうがいをして、
君のそばに座った。
時刻は17時。


とうとう話が始まる。


続く。

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