月を読む -2-

絶え間ない川瀬のせせらぎに早起きの鳥のさえずりが唱和し始めた。古の木々で深く包まれた岩場も遅れてきた朝の光が漏れ入るのを待ちかねていたようだった。本流から分かれて音も立てずに巨岩を伝う流れは急に支えを失って小さな滝となっていた。巨岩の腹は川の本流に長い年月をかけて深々とえぐられていたからだ。その洞と小滝は格好の水浴び場を成していた。しかしこの早暁にここを訪れるものはごく限られていた。気配を読むのに長け足音を立てずに素早く走るツクヨミでなければ夜通しの無聊で荒ぶるあやかしの獣たちの餌食になるばかりだからだ。

ツクヨミは天を仰いだ。凍るようなせせらぎが顔にふりそそいで跳ねた。水の流れは青白くほっそりとしたツクヨミの裸身のあらゆる起伏を伝っていた。濡れた黒髪は背中を過ぎて膝の近くまで垂れていた。髪に微かな朝日が照り返した。ツクヨミは命そのものを洗うように冷たい飛沫に身を任せていた。冷えた滴がアマテラスのからだから感染った甘く粘り気のある熱を洗い流す気がした。ツクヨミは両手のひらで顔をこすりそのまま額の髪をかきあげた。牝の匂いはまだ残っていた。

「ほしいの、あなたが、もっと」

岩戸の隙間から漏れ入る弱々しい曙光が二人の影を踊らせた。曲技のように交わりながら姉神は陰処だけではなく喉や菊座にも命を注げと甘く狂おしく訴えた。

「御居処にして、いじめて」

子をなさぬ目合いという禁忌を犯す興奮は姉神から伝染した狂気とともにツクヨミの心を食い破った。牝鹿のように高々と白尻をかかげたアマテラスは自ら尻たぼをかき開き上ずった声音でツクヨミの魔羅をせがんだ。湯気が立つほど赤く腫れ上がった居処は乳呑児のくちびるのように濡れてひくひくと蠢きツクヨミを誘った。

「姉様」

ツクヨミは不当なまでにみだらな女の振る舞いに細い眉を怒らせて挑みかかった。女神はツクヨミの魔羅を蕩けた尻穴で咥え込むと半ば白眼をむいて細腰を跳ね上げた。背を折れそうなまでに反らせて奥の奥まで容赦なく男神を吸い上げて絶叫した。

「いいっ、深いのっ」

女神の貪欲なふるまいに弱まった曙光がさらに揺らいだ。二人は深い絆を結んだまま正面に向き合い直し再び胸を合わせてくちびるをむさぼった。突き出された貝の脚のような二つの舌は互いの頭部をかみ砕かんとする蛟のようにもつれ合った。女が闇雲に咬んだ肩の辺りが疼いた。ツクヨミは我知らず摩羅に手を伸ばし女の柔肉の名残を確かめようとした。

「おまえもここを知っていたか」

暁の神がしかける幻戯ではありえない野太い声だった。ツクヨミははっと振り向いた。兄神スサノオが流れを堰いて渦を巻かせる巨岩の平たい頂上に腰を下ろしていた。幅広い肩に筋肉を盛り上がらせてうずくまる姿は巨大な拳のようだった。突然のできごとにツクヨミは思わず甲高い声を上げた。

「兄さま」

ツクヨミと目が合うと男神は頬骨を高くして邪気無く破顔した。からだの強張りが解け胸が暖かくなった。ツクヨミは兄神のこの笑顔が好きだった。

「アマテラスの気まぐれのせいでえらい目にあった」

スサノオは空を振り仰いで伸びをしながら言葉を放った。そういった仕草でも言葉には英気と凛然とした力があった。ツクヨミは自分がかかわったことを欠片も漂わせずに顔に流れを浴びせながら応えた。

「夜明けが訪れぬとは前代未聞です」

スサノオの涼し気な視線が下りてきて自らの裸身を舐めているのがよく分かった。ツクヨミは頬に血が上らぬように注意しながら水流に手のひらを沿わせて肩から胸の辺りをぬぐった。

「何が癪に障ったか岩戸に入って締め切りおった」

スサノオは再び視線をツクヨミから二人を取り囲む木々へと移した。ぼやくような口ぶりだが何か含みがある。ツクヨミは気を抜かなかった。
「女の月のせいか?」
スサノオの眼は再びツクヨミをとらえた。細めた眼に邪意がある。露骨なあてこすりだ。ツクヨミは無視した。

「これまでさようなことは」
「であるな」

スサノオが武芸達者らしい隙のない動きで立ち上がり、威嚇するように腕を組んで腰だめの姿勢を整えた。腕から胸までは隆とした筋肉がはち切れんばかりに盛り上がるが腰はきりりと締まりしなやかに伸びた脚が地を踏みしめていた。自信と自尊に満ち溢れた丈夫の姿はツクヨミの胸のうちを確かに波打たせた。ツクヨミは我知らず視線を逸らした。スサノオの股間にすでに男の力の凝縮が突き上げているのが短衣の上からもはっきり分かったからだ。ツクヨミは胸を打つ仄かな鈍痛を振り払おうと向き直り、再び凍るような水にからだを打たせた。

「危ういな」

突然の気配にあっと振り向くと男神はすでにツクヨミの背後を取っていた。拒む間もなくツクヨミは後ろから抱きすくめられた。腰に太い腕ががっちりと回っていた。ツクヨミの胸に怖れとは異なるものが衝き上げた。

「そなたのしわざか」

男神の太い指がツクヨミの顎をつまんだ。ただ添えられただけの指からツクヨミは逃れられなかった。そのまま振り向かされたツクヨミの頬に男神の熱い息がかかった。すぐさま男神の分厚い舌がツクヨミのくちびるから押し入った。活魚のように跳ねる男神の舌はツクヨミの舌を巻きとって桜貝のような口腔を犯しまわった。突然吹き荒れた甘い官能の烈風に生来冷徹なツクヨミの精神もたじろいだ。それでも男神の傍若無人な攻めをなんとか受け止めて切り返し、抱かれたままながら凍るような口調で男神を切り捨てた。

「戯れを、おやめください」
「見たものがいる」

弟神の勢いに圧されたかややはぐらかすような口調になってはいたが言葉そのものは一気に核心に迫っていた。踊らされてはならぬ、ツクヨミはさらに身構えた。男神がその武張った風采とは裏腹にきわめて弁舌巧みなのは周知だった。

「何のことか分かりませぬ」
「そなたとアマテラスをな。睦まじさよりも妙なる笛の音に酔ったと」

ツクヨミは絶句した。頬が強張るのが自分でもわかった。地つきの神々は高天原の神々が地をむやみに汚すのを嫌って目を光らせていた。しかし何か穢れらしきことを見出したときは直接それを排撃するだけでわざわざ高天原と口を利いてまでして告発などはしなかった。荒ぶる山神の眷属がこれほど早くスサノオの手に墜ちたとはツクヨミもうかがい知らなかった。男神はたたみかけた。

「まあ恋はよいのだ、一向構わぬ。ただあれの気まぐれを煽るのはいかん」

ツクヨミは顔色を失っていた。スサノオはその機を見逃さなかった。

「あっ」

スサノオの指が素早くからだを伝った。その指先が胸を這い腹を降り柔らかな腰骨へと至るとツクヨミは男神の言葉に動転して忘れていた興奮がまだ渦巻いているのに気づいた。スサノオの掌がゆっくりと腰骨を包むなめらかな肌をさすっていた。その手が背に回ったときに官能の道筋を辿られていることを知ったツクヨミは小さく喘いでしまった。骨太ながらも繊細に蠢く指は背を下っていらめく尾の名残へとたどりついた。男神の指先が円を描いた。それはすでに愛撫だった。ツクヨミは野性の焔が一気に燃え上がるのを止められなかった。男神の腕を振りほどく力は失われていた。

「アマテラスはこれに惚れたか」

熱い囁きが耳を襲った。ツクヨミは男神の眼が肩越しにそこを指しているのを知っていた。その間も男神の指先は静かにツクヨミの尾骨の辺りをなぞっていた。ツクヨミは昂ぶっていた。頑是なくきりきりと立ち上がった自分のものを恥じた。懸命にかぶりを振るしかなかった。すでに頬から耳まで真っ赤に染まっていた。傍からはからだつきまでもがまろやかに変わったように見えだろう。眼をやや潤ませてかぶりを振る姿が男神を奮い立たせた。

「知りませぬ」
「立派なおのこ神じゃ」
「戯言を」
「そう恥じるものではない」

スサノオの掌が戸渡の勇ましい肉の膨らみから陰嚢をたどってそこで止まった。そこだけはむっちりと腫れ上がった筋肉は押さえられるほどに反発してスサノオの手を押し返した。同時に官能の強い波動をツクヨミに送り込んだ。ツクヨミは膝から力が抜けるのを感じた。

「あっ」

崩れ落ちそうになるのに抗ってツクヨミは激しくからだをよじった。その結果ツクヨミの頬はスサノオの胸に押しつけられた。乾草の香りが強い。勃起が強まっているのが分かった。

「よき肉置きだ」

手のひらはあおぐように動いてツクヨミの若い勲をひな鳥をつかむようにやさしく包んだ。羽毛のように柔らかくなめらかな包皮の奥に鋼の屹立があった。ツクヨミは眼を閉じて喘いだ。声にほんのりと甘みがあった。

「あ、兄様」
「佳きあたりよ」
「い、いけませぬ」

男神の逞しい手指は花びらを愛でるように優しくしかし躊躇いのない力強さも伴ってツクヨミの生木を撫でさすった。ツクヨミの若い肉は押されれば健やかに跳ね返してきた。行きつ戻りつする手は行き切れば指先が巧みに奥の院にふれ、戻れば肉厚の掌が生木の茎を揉んだ。頭をスサノオの胸に預けたツクヨミは目を閉じた。歯を食いしばって迫り上がってくる快感を必死に押しとどめた。
そのとき電撃がからだを貫いた。ツクヨミは弓のように背中を反らせた。

「はあっ」

稚児の扱いに慣れた男神のもう一方の手先が容赦なく弟神の桜蕾のような乳首を二度三度とかすめたのだった。羽毛のように軽やかなふれあいが繰り返されてツクヨミにひそむ女の性が沸騰し始めた。

「ああっ、ゆ、許して」
「許さぬ」
「あっ、いやっ」

指先がそよぐたびにツクヨミの薄桃色の乳首は色濃さを増し種のように固まっていった。スサノオは手練れらしく固まった乳首をつまんで揉み上げた。

「あっ、だめっ」

苦し紛れにツクヨミは男神の胸に押しつけた頭を迫上がらせた。そして男神の肩に頭を預けると後ろ手で木によじ登るように男神の首にすがった。ツクヨミは自ら裸体を捩じって無残な磔となっていた。背けた顔が燃えそうに紅潮しそれを後れ毛が凄絶に彩った。男神の両手は休まず動いて弟神の秘孔を辿っては責め続けた。戯れは隠しだてを許さないいたぶりとなった。ツクヨミはつややかな紅唇を噛み締めて無慈悲な愛の責め苦に耐えた。血潮がからだを駆け巡り青白かった肌にいくつも緋牡丹の文様が浮かび上がっていた。からだを反らせるたびに健やかな男の生木は兄神の手の中で力を得て硬く引き締まった。右手の扱きが激しくなった。葉脈を浮き上がらせて太さを増した生木は男神の握力にも耐えてはみ出さんばかりに膨れ上がった。ツクヨミの胸にどうしようもない物狂おしさが嵩を増して突き上げた。あまりの辛さに大きく息をもらしたときツクヨミは男神としての矜持が砕け散ったことに気づいた。ツクヨミは女になっていた。

「あっ、兄様、切のうございます」

ツクヨミは兄神の手技の軍門に下った。力なくかぶりを振りながらささやいた言葉には蹂躙される女特有の諦めとそこから始まる快楽への期待を込めた科があった。見開いた眼は潤み切り、まつ毛が一瞬のうちに濃くなって目尻を掃いた。頬は透き通るほどに青ざめてくちびるに朱が集まった。

「どうした」
「熱いのです、ああ辛い」
「佳いか」
「… はい」
ツクヨミは眼を伏せ消え入るようにつぶやいた。

「どうする」
「ああ、そんな、兄様です、火を点けたのは」

凄絶な眼差しで訴える言葉は鳩尾に差し込まれた刃のように冷たく、哀願とも泣訴とも勅命とも取れた。

「… もうくださいませ」
「摩羅か」
「いやっ、恥ずかしい」

ツクヨミは頬を燃え上がらせ、からだをよじってくちびるをねだった。その面差しに男の嗜虐心をかき立てる無残な薄微笑みが浮かんでいた。寄る辺なく稚くも見える表情とは裏腹にその舌の動きはスサノオが驚くほどに積極的だった。無残な降参は瞬く間に淫らな挑発に取って代わっていた。凛々しくも猛々しかった美少年は甚振られ捻じ伏せられて花開かされ、艶冶な女娼となりかけていた。

「色が満ちたか」
「兄様が、貴方がしたのです」
「尻を弄られてか」
「ああっ、いわないで、みじめだわ」

主導権を取られぬようにきつい言霊をぶつけるスサノオだったが、不遜な物言いとは裏腹に、一たび交合わうことを受け入れた女特有のツクヨミの物怖じしない大胆さに舌を巻いていた。まったく恐るべき弟神よ、母神も大変な気まぐれをしてくれたものだ。ツクヨミがイザナミの浮気で生まれた子であることは兄弟の間では知られたことだった。イザナミは子どもたちに、ある日目の前に美しく輝く白鳥が降り立ち柔らかな羽に抱かれているうちにツクヨミを授かったと笑い声を上げながら話したものだ。それが土地神の化身なのか異教の神なのかは誰にもわからなかった。

男神はいつしか戯を終えて弟神をしっかりと抱きしめていた。そして弟神の中で激しく吹き荒れた性の嵐が一時凪ぐまでじっと動かなかった。弟神は自分の体内の騒めきが収まるのと同時に兄神の暖かさに気づいた。それはゆっくりと安らぎへと変わっていった。ツクヨミは逞しい腕に抱かれたままからだの向きを変えて兄神と向き合った。兄神は常ならば自分すらもたじろがせるほど冷たく険高い弟神の面差しに得も言われぬ柔らかみを見た。かすかに開いたくちびるの露を蓄えたような
艶めきが兄神を奮い立たせた。小さく鼻を鳴らしてツクヨミは兄神に三度口づけをせがんだ。その眼にはすでに妖しい光が満ち満ちていた。

静かな抱擁と互いの腕や胸や髪への愛撫を続けながら二人は手をつないだまま川の畔へと移った。愛の褥探しが始まっていた。木陰には苔と落葉が紡ぎ上げて朝日が暖めた天然の寝床がいくつもあった。二人はどちらからともなくそこに腰を下ろして口を吸い合い、互いの体のつくりを確かめるようにふれあった。
横たわり柔らかな苔に抱かれたツクヨミは目の前に立った兄神を見上げた。スサノオはツクヨミの心を蕩かす笑顔を浮かべつつ肩から胸へと手のひらを閃かせた。狩衣は剥がれ落ちるように消え裸体が剥き出しになった。逞しい胸板に続く鋼のように平たい腹は美しい白和毛でおおわれ、その純白の叢から巨大な新芽のように肉の剣が突き上げていた。半身獣であるスサノオの陽物は異形だった。その一つは肉色の茎にある巨大な瘤だった。数多の神々がひとたびスサノオの寵を得ると決して裏切らなかったのはこの陽物の力でもあった。

「これで手懐けたのね」

ツクヨミは膝をついて迫る男神の魔羅を指でなぞりつつ呟いた。

「土地神の皇は女でな」

ツクヨミは黙ってゆっくりと巨根の形を確かめている。

「さまざまに非を責め理を説いたが、閨に伴った後は常日頃満たされぬ渇きを訴えて何度もしがみついてきたわ」
「嫌、他の女の話は」

ツクヨミはそう吐き捨てるとさっと起き直った。きりりと引き締めた眉とこめかみに流れそうなほど切れ上がった眼に怒りが燃えていた。しかし頬は朱に染まりくちびるの艶めきはいささかも衰えていない。ほう、勘気か、スサノオは冷徹で静かな弟神のうちにある女の性の猛々しさを意外に思った。それを和らげようとしたのかスサノオは白桃のような頬に手を差し伸べた。ツクヨミのまなざしは兄神の掌の暖かみに一気に溶けた。目尻であふれた滴がぷるぷると震えていた。うすいくちびるが開き、わななきそして閉じた。読唇にも長けたスサノオだったがその言葉は弟神にはっきりと言わせたかった。スサノオは問いかけるように眉を上げてツクヨミを見た。

「何と」

ツクヨミの眉が寄った。やや顔を背けて眼を閉じると頬に差した朱が深まった。おろしたまつげは頬を掃くほど長く濃かった。

「何と申した」

ツクヨミはスサノオの胸にからだを預けた。そして耳元でささやいた。

「抱いて」

スサノオは満足げにうなずいた。ツクヨミはスサノオに背中を向けて座り直しそのままうつ伏せに苔の褥に伏した。

「ほしいの」

こちらを向いて指をくわえながら尻を揺らすさまは夜道に人を勾引かす最下等の地神ですら見せないほど淫らだった。陰処はすでに蜜を滴らせていた。男にしてはふくよかすぎるが女というには厚みの足りない白尻の狭間が濡れていた。男神の手練れの悪戯でツクヨミの女が花咲いていた。半陰陽である弟神は月の満ち欠けだけではなく強い情動の変化によっても性を入れ換えるのであった。さきほどまでのスサノオの入念な愛撫で牡孔はぼってりと血を充めて牝孔と同じ男を惹きつける芳馨を放った。スサノオは唸り声を絞り出して青白いからだを蔓草のようにくねらせる弟神におおいかぶさった。

それは苛酷な蹂躙と見えた。穢れを知らぬ娘の脂の足らない青白いからだを土色の無毛の熊のようなものが押しつぶしていた。そして真白い和毛でおおわれたその巨大な尻が餅を打つ杵のように少女の腰に打ちつけられていた。鳥はさえずりを止めていた。周りの誰もがこの二人の神々の交合を固唾をのんで見守っていたようだった。か細くたなびく笛の音は少年神のほっそりとした喉から止むことなく漏れる喘ぎだった。その旋律はすでに詩情ある序奏を終えて不穏な転調をしていた。

「あぁ、兄様」
「ううむ、いい肉置きだ」
「ああ、つらい、つらいわ」

端正な顔を歪める少女からは苦悶の言葉とともに得も言われぬ熱く甘い息が迸っていた。遊び女のような口調は女の悦びがツクヨミのからだに行き渡り始めたことを示していた。攻められるほどに肌は桃色を帯び始め腰はしなやかに動いて男神に追随した。

「つらいの」
「今によくなる」
「ああ、兄さま」

兄神が攻めた。弟神はそれを受け入れ受け止めてうねりを成して返した。弟神は痺れる疼痛を訴えながらも無意識のうちにその若々しい女陰で猛る魔羅を蜜に包んで揉み扱いていた。

「うむ、むむ、むぅ」
「兄さま、責めて、ああっ、いい」
「感じるのか」
「… 切ない、切のうございます」
「かわいいやつだ」
「兄さま、兄さまのものです、もっと責めて」

スサノオは獣の剛力を溜め込んだ半身に早や細かな痺れを覚えていた。性技と淫靡な振る舞いを駆使して男身を猛らせ煽り立てる淫獣アマテラスですらここまでスサノオを追い込むことはなかった。女神は初めはどんなに権高く振る舞おうと最後はスサノオの男力にねじ伏せられて悔し涙を喜悦の迸りへと変えて野獣の太魔羅を頬ずりした。しかし今、か細い男神の矜持を打ち砕きつつ屈服させているはずのスサノオが悦楽の妖術の虜になりかけていた。スサノオはアマテラスの陽の力とは異なる陰の力を思い知らされていた。
今や、圧倒的な体格差にもかかわらず、主導権は明らかにツクヨミの側の薄腰のうねりにあった。濃厚な乳清にまみれた獣の男根はツクヨミのしなやかな薄肉に揉みしだかれた。幼女の無数の舌がからみつくような雄膣の蠕きに男神はたまらず唸った。弟神の冷ややかに吸いつく肌と魔性の毒霧のような吐息がスサノオをさらに揺るがせた。男神は怒憤に突き上げられて歯を噛んだ。自らの獣性を巧みに矯まねば甘い麻薬の言霊を操る半陰陽の魔の手に堕ちかねなかった。

「ああ、すごい、兄様、大きい」
「いいか」
「すごくいい、陰処がとけそう」
「淫らな」

スサノオは上体を起こして突き出す方向を変えた。ここまでの交わりでツクヨミの反応を感じ取りその望むところをつかんで巧みに摩羅でこすりあげていた。怪異な形の摩羅が役目を果たした。ツクヨミは苔をつかんで必死のかぶりを振った。いや、必死の形相にしどけなきとろみを付け加えて男神の辰巳上がりを煽っていた。

「あ、兄様、そこ、そこいいっ」

二つ目の亀頭というべき陽物の突起がツクヨミの秘孔に食い込み愛の鐘を激しく打ち鳴らしたのは確かだった。ツクヨミは自分が女になっていることを自覚していた。女になったんだわ、女の喜びを極めるのだわ、ああ、なぶって、逞しい男で、わたしの陰処をもっとなぶって、すりあげて、ツクヨミは心からせがんだ。

「ううっ、ああ、いやっ、そこ」
「好きか、どうだ」
「いいっ、もっとしてっ」
「無類の好きものよ」

スサノオは眼をぎらつかせながら微笑み、えぐるような動きで腰を遣った。ツクヨミも追いすがるように尻を突き上げた。欲望の毒に侵されながらも二人のからだだけは機械の如き正確な運動を続けていた。肉色の摩羅は白濁した乳清でまだらになっていた。肩越しに振り返る弟神の頬は深紅に染まり瞳は邪淫に酔って潤み切っていた。桜桃のようなくちびるからは欲望のおめきが滴り落ちた。

「ああっ、あっ、もう、だめっ」
「忘れよ、何もかも、ただ摩羅を味わえ」
「あ、兄様、兄様」

ツクヨミは苦しい姿勢で懸命に首をひねってくちびるを求めた。スサノオの肉厚の舌がツクヨミを襲って吐息をすべてむさぼった。舌を吸われたツクヨミは心から力が抜けてゆくのを感じていた。

「んんぅ、ああ」
「いいか」
「いい、いいの」
「佳きことだ」
「あ、兄様、また」
「おうおう、気を遣るか」

スサノオはすっかり勝手を知って腰の動きを緩やかに深くした。

「兄様、いや、もっと突いて」
「こうか」

再び肉の轆轤が激しく回った。巨獣の腰が大きく跳ねた。

「あ、だめっ」
「そうれ、遣れ」

スサノオの声がツクヨミの耳元に低く響いた。息が熱かった。

「兄様、もう」

眉を吊り上げ背を丸めてスサノオは猛然と動いた。肉の盛り上がったこめかみから汗が滴っていた。ツクヨミのからだが絞られたように伸びあがった。

「ああっ、いいっ、いくっ、いくぅ」

ツクヨミの甲高い悲鳴が空気を粘らせ重くした。何羽かの鳥のふりほどくような必死の羽ばたきが応えた。二人のからだの放つ熱に耐えられなくなったのだろう。景色までもが一瞬煮えたぎって赤く染まったようだった。焦熱に喘ぐツクヨミの胸を甘露が満たした。同時に尻の腑から衝き上がる牝の悦びが脈打ちながら命の精を押し上げた。ツクヨミの背筋を鳥肌が走り抜けた。

「んんんぅ、で、出るぅ、出ちゃう」

苦悶したツクヨミはからだをねじ切らんばかりにひねった。そしてまた一つ一つ大きな鼓動がからだを貫いたと同時に若い細身の刀身から牡の必死の悦びが迸った。熱いそれは刀身を包んでいたスサノオの手にあふれた。続けて二度三度、兄神の手中で健やかに膨れ上がったそれは勢いよく精を噴き上げた。

「いやぁぁ」

後れ毛も凄絶に桃色に上気した頬を背けながらツクヨミは達し切ったからだを震わせていた。魔羅に縋りつくように背を反らして持ち上げた腰を兄神が力強く支えていた。そのまま弟神は浜に打ち上げられた勇魚のように痙攣した。そして兄神が抱いたからだを柔らかな苔の褥にそっと下すと弟神は肩で息をしながらも切なげに兄神を見つめた。

「もっと抱いて」

幾度となく帰天させられるうちに若き男神は兄神の愛妾となり切って逞しい胸でさめざめと泣いた。

続く






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