月を読む -3-

アマテラスは平伏する二人に眼を遣った。月明りが蒼く満ちる風のない晩、高床はぼんやりと燈明を照り返している。床に直にひれ伏す半裸の踊女と隆々たる体躯の男には夜の冷気が沁みているはずだった。礼盤に楽座し脇息に頬杖をついたアマテラスは固まったように身じろぎしない二人の姿を満足げに眺めた。その頬に仄かな笑みが浮かんでいた。神姫も夜気の中で身につけているのはしなやかな腰を覆う薄物だけだった。貝殻を寄せた御統のみが上衣だ。少女のように薄い乳房は結って垂らした濃い御髪の影に隠れていた。

「大儀であったな」

アマテラスの声に二人はさらに平伏して床に貼りついた。透き通る声音ににじむかすかな険が屋内の冷気を強めたようだった。夜の鳥が低く啼いた。アマテラスはその音色を味わうかのように庭先に耳を向けた。

「悪戯の度が過ぎたの」

そうつぶやくとアマテラスは男に向けて含みのある流し目をくれた。それは怒気ではなく鳩尾をえぐるような刃のような艶気に満ちていた。男は大きなからだをさらに縮めて床に貼りついた。鞭のようにしなる視線が音を立てて背中の筋肉を叩いたようだった。男はまっすぐに床を見据えて吠えた。

「過分な振る舞いをお許しくだされますよう」
「蒸し返すな、わらわもな、さすがに面映ゆい」

アマテラスはクスクスと笑った。ウズメにしてもタヂカラにしても平素からそばに仕えているとはいえ姫の身に直に手をかけるような挙に出たのは初めてだった。姫も成人して以降その身を側女と愛人以外の他人にふれさせたことはなかった。
二人が呼び出されたのは深夜になってからだった。早暁からの騒動は昼前には下賤の口にも上っていたが夕刻にはそれも収まっていた。アマテラスの奇矯な振る舞いには誰しもが慣れっこになっていたからだ。夜の帳が降りる頃には宮も通常の営みを取り戻していた。燈明が艶やかに灯されて神々を祀る社を漆黒の闇から幻のように浮かび上がらせていた。二人は案内人もないままに歩廊を巡り諫めとはいえ勘気を買ったことを確信して不安に苛まれながら足早にアマテラスの居室に赴いた。思いのほか穏やかなアマテラスのさまに二人は胸をなでおろしたが、それでもこの姫君には気を許せなかった。心持ちが落ちつけば落ちついたで気まぐれな戯れ心が芽生える質であることは知られていた。

二人の懸念は中った。慣れぬ謝罪に濁った空気の居心地の悪さを打ち消すかのようにアマテラスは奇妙な思い付きを口にした。もっとも照れ隠しというにはあまりにその表情は冷たく整っていた。

「ウズメよ、あの舞はみごとじゃったぞ。ま一度ここで舞うてみるや」

ウズメがさらに平伏する番だった。急場を凌ぐためとはいえ豊穣を祈って納める舞を猥らで褻の極まったものに色づけするなど本来ならば許されぬこと、それを再び披露するなどウズメには思いもよらなかった。

「畏れ多きこと。ご勘如くださいますよう」
「いやそう固辞くなるものではない。夜長の戯れと思ってな」

アマテラスが隠し紐を引くと篝火を掲げた側女らがすべるように部屋に入ってきた。左右のそでと奥に三つの篝火を配すると広間は俄か作りの舞台となった。側女たちが影を大きく揺らして退くと部屋は再びひっそりとした。松明のはぜる音のみが響いた。ウズメが小さく息をついたのは誰の耳にも届かなかった。アマテラスは伸び伸びとこの時間を楽しんでいる。

「さ、座興じゃ」

ウズメは覚悟決めて立ち上がると背筋を伸ばし、深々と一礼した。頭を上げると下目で見降ろす視線を決めて肘を張り指を合わせて印を結んだ。浅葱の空に雲が浮かぶような模様が染められた膝までの腰布、臍の見える丈の短い袖なしの胴衣は豊かな乳房で押し上げられている。木彫り細工の御統が手首と胸元に揺れている。その時だった。引き絞られた空気の塊のようなものがウズメのこめかみを打った。縁の闇を貫いて届いた甲高い笙の調べであった。空を切り裂く調べを追って鼓が打ち鳴らされた。深い坑を穿つような音に床板が震えた。アマテラスに仕える影神の楽師によるものだった。笙の音色に引き絞られた空気をときほぐすように両手で円を描いて掲げたウズメは調べに合わせて片足でくるりくるりと廻った。正面に向き直ると短い上衣はすでに消え失せ素肌に細工物だけが纏わりついていた。回るたびにきらめくのは白肌に浮かぶ汗の照り返しだった。調子を取りつつ指先で空を軽やかに切り取るウズメにつられて二重三重にまかれた御統が乳房とともに健やかに踊った。小柄なはずのウズメが驚くほど大きくなった。松明を照り返す木壁に影が大きく波打った。足を広げて上体を前に倒すとアマテラスの視線をとらえて垂らした乳房をこれ見よがしに揺らして挑発した。ウズメの眼に邪な光が生まれくちびるからは朱色の舌が何度ものぞいた。そして再び風を巻くように翻ると天から垂れた見えない綱を登るようにからだを長く短く蠕動させた。一度アマテラスに背を向けて右腕を水平に一閃させて大きく見得を切りつつ振り返ると腰布も消えていた。素裸のからだに灯りの作る陰影が複雑な文様を描いていた。ウズメは直立して両手を天にかざし自らが一本の綱となったようにからだをうねらせた。

アマテラスが手を上げると舞台奥から棒状のものが投げ込まれた。ウズメはそれを宙でしっかと受け止めた。一振りの小剣だった。ウズメはきれいに剃られた陰処を晒ししながら腰を落としゆっくりと胡座の姿勢を整えた。ウズメは両手で大きく掲げた小剣を胸元に下ろしそこで柄を握り直すと切っ先を自らのからだに向けた。切っ先を縦横に振って大きく十字を切ると今度は光る先端を外に向けて柄をゆっくりと股座へと降ろしていった。ウズメは胡座を解いて両足を大きく開いた尻座りになるとともに腕を伸ばして切っ先でゆっくりと円を描いた。切っ先が宙に見えない切れ目を刻むとともにウズメのからだは後ろに仰け反っていった。からだは尾骨の一点だけでみごとに均衡して微動だにしない。正面からは大きく開いた足の間に剣が突き立つ格好になった。その柄は剥き出しになった女の陰処に迫っていた。目を凝らせば女は濡れそぼっていた。柄が突き刺さるその一瞬だけきりりと締まっていたウズメの口がうっすらと開いて吐息が漏れ出たようだった。ウズメは祈るように眼を閉じて両脚を真横に一文字になるようにさらに開いた。剣の刺さったウズメのからだが美しい十字を成した。柄を両手で握ったウズメはゆっくりと手淫を始めた。あごを胸に押しつけた顔から強烈な上眼がアマテラスをとらえていた。口角が上がり蛇のような舌が突き上げられてくちびるをちろちろと拭った。ひとしきり偽男と戯れたウズメは剣から手を放すと両脇から自らの乳房を持ち上げた。剣は陰処に咥え込まれたままだ。ウズメの長い舌が自らの乳頭を舐っていた。うん、うん、という鼻息が響いた。男女を問わずひたすらに情を煽るウズメの振る舞いに息を呑んでいたタヂカラは目の奥が熱くなってくるのを感じた。やがてウズメは後ろ手を突くと膝を立ててからだを持ち上げた。そして腰をうねらせた。柄をしっかと捉まれた剣の切っ先は床を叩いて調子を取り始めた。そのまま腹を宙に向けて反り返るとウズメは一匹の雌蜘蛛になった。ウズメは奇怪な姿のまま舞台を跳び回った。そして奇声を一声上げると逆手を床についた海老反りの軽業のまま腰を跳ね上げた。放たれた小剣がくるくると宙を舞った。そして落ちてきた剣の柄をしっかと握ったのは直立して少年のような面差しで眼をきらめかせたウズメであった。
アマテラスの眼が輝いているのを確かめるとウズメは切っ先を天に向けて剣を握り直した。そして拝むように剣を掲げたままゆっくりと腕を降ろした。剣は篝火を輝り返しつつウズメを左右に真っ二つにしてゆく。そして切っ先がウズメの顔を降ったときアマテラスは剣の切っ先に何かが絡むのを見た。芋虫のように蠢いているのはウズメの舌だった。ウズメは刃の裏側を根元から舌で舐め上げていたのだった。得意げに口角を持ち上げたウズメはすぐに芝居っ気たっぷりに眉根を寄せた悩ましい顔つきとなって煌めく剣を荒ぶる男根に見立て、その切っ先を咥え吸ふ。切れ切れに唾を啜る音が松明を揺らした。タヂカラが小さく唸った。己の堪え性のなさに怒りが募ったのだ。ウズメは直立した剣を崇めるようにして一つ間違えば生き血を迸らす危うい遊びを繰り広げた。

半闇を彩っていた楽の音色が消えた。余韻が去った後には誰のものとも知れぬ浅い息遣いだけがかすかに残った。タヂカラはそれを己の息遣いと思って懸命に抑え込もうとした。冷たい微笑みを凍りつかせたアマテラスの小鼻も微かに蠢いていた。影に控えた女官らは見えないように互いに手を取り合って息を殺していた。
性の興奮の熱がゆっくりと鎮まりかけていたそのとき、突如として靄のような影が隅々から湧き上がった。異変に素早く応じて立ち上がりかけたタヂカラを女王が鋭い気合で制した。妖異の影は威嚇するようにぶわっと背を伸ばした。そして丈を縮めてゆくとともに一つながりとなって舞台を取り囲む大輪を成した。無論その中心にはウズメがいた。影は夜と同じ色にからだを染めた人型だった。自らの影との区別も難しい異形のものどもの輪はみるみる縮んでウズメを取り囲んだ。影どもが伸び縮みするのは奇怪な舞いを舞っているためだった。ウズメは息を呑みながらも決然たる眼差しで怪異に対峙した。隙あらば血路を切り開く気構えだった。影どもがウズメの周りを音を立てずに回るとウズメのからだはまだらに見えた。松明の後ろの壁に背の高い影が物狂いの絵描きの灯篭絵のように膨らみ縮みしながら踊り始めた。伸び縮みしつつ目の前をよぎってゆく奇妙な人型の文様には確かに毒気があった。それに中らぬようにウズメは気合を入れ眼を細めくちびるをかみしめた。しかしからだの内側から熱いものがこみ上げてくるのにウズメはすでに気づいていた。それは大きく脈打ちながらウズメの胸の奥から次第にからだを下ってゆくのだった。

「妖かしどもが」

ウズメは腰だめになって周囲を取り巻く影を睨みつけた。少年のようなりりしい顔立ちにうっすらと朱が差していた。くちびるがわなわなと震えるのは怒りなのか興りなのか分からなかった。
影どもはウズメを取り巻いていたが指先一つ触れてはいなかった。しかしウズメのからだを何かが通り抜け、その度に痺れるような疼きが残った。ウズメは腹や背筋を走るその疼きが女の命を弄ばれたときのものと同じであることにようやく思い当たった。危殆に身構えていたために心が応じるのが遅れたのだった。まさかこういう形で攻め込まれるとは、とウズメは歯噛みしたがすでに手遅れだった。ウズメのからだは自分ではどうにもできなくなっていた。眼の前を影がよぎるたびに脈打つ快感は強まった。もがこうとして何かに強く縛られていることにも気づいた。糖蜜の樽に浸かったように自由の利かないまま目だけを動かして見下ろしても汗の光るからだにふれるものはなかった。ぐんぐんと押し寄せる快感の波にウズメは呻きながら腿をよじりあわせた。もう気合の構えを取ることはできなかった。手淫や男との交わりは外から受ける刺激を体内に深く送り込んでそれにからだが応えるのを繰り返して上り下りの果に悦楽の頂に達し生の浄福を堪能するが、今ウズメを捉えているのはひたすらにからだの中の奥底から込み上げてくる生々しく純粋な脈動だった。からだ中に散る快楽の秘なる経穴すべてが喜びの鬨の声をあげているようだった。ウズメは否応なしに甘酒に溺れた。そしてこれまで経験したことのない熱い快感の渦に呑み込まれていった。沈むような夜のしじまは毒々しい色合いの淫夢に塗りかえられていった。ウズメ自身が一つの性器と化して蜜を吸い蜜を滴らせた。

「あっ、いやじゃっ、みだらなっ」

それでもウズメの健常な心の欠片が抗い続けていた。とろとろに蕩け肉色の泡立ちに揉みしだかれてからだの芯まで毒されながらもウズメは異状を訴え続けた。しかしもう牝の本能が火を吹き上げ始めていた。

「ああっ、かような、許せ、許せ、おおお」

ウズメはからだをねじりながらのけ反った。乳房が汗を散らして跳ねた。頭上に腕を伸ばしたウズメは一本の紐のようによじられていた。影たちはウズメが倒れ伏すことを許さなかった。すでにその足先は床を離れていた。宙に浮いたウズメは取り囲んだ影たちにからだ中をまさぐられ撫でまわされていた。這い回る虫のような指先は経穴を見つけると食らいついて女の生き血に毒を揉み込んだ。その毒が沁みわたるにつれてウズメの肌は薄桃色に染まっていった。あめ色の乳首がきちきちに固まりその先端から甘露が滴った。眉根を寄せたウズメの白いのどが震えて涎が一筋つぅっときらめきながら落ちていった。

「うんっ、うんっ、あっ、いやっ」

女の経穴を知り尽くした影神らの容赦ない愛撫にウズメの哀願は空しかった。剰えその拒絶の声音に鼻にかかった甘みが沁み出ていた。切ない訴えは邪な熱で茹で上げられ揉みしだかれて被虐の歓喜へと置き替えられていった。ウズメのそこは柘榴のように割れて赤く腫れたはらわたを晒し脈打ちながら白濁した神酒を迸らせた。

「いやっ、してっ、もっと」

影たちの巡りが緩まるとウズメは露骨に眉をひそめてぴちぴちと張り切った尻を突き出し揺らした。不服気に口をとがらせるさまは乙女の羞恥を忘れて夜毎の多淫に酔う妻女さながらだった。犯される喜びに狂ったウズメは牝の欲をさらけ出すのに何の躊躇いもなくなっていた。影たちはウズメの豹変ぶりをせせら笑うように波打ちながらその巡りを再び狭めていった。

「ああっ、いい、いい」

ウズメは見えないものにまたがり見えないものから尻を突き上げられてからだを激しく揺らした。見えないものを愛し気にしゃぶった。そしてその手に見えないものをつかまされて小器用に手首を繰った。ウズメは女の滴をしとどに漏らし深い吐息とともに潮を吹き上げた。舞台に女の匂いが満ちた。
いまや女そのものを奥から揺さぶる熱く甘い刺激に応じるうちに胸を張り尻を突き上げる格好になったウズメはついに感極まった。

「ああっ、いくっ」

自ら乳房を持ちあげて折れるほどからだをのけ反らすとウズメはその姿勢のままぶるっと大きく震えてゆっくりと床に崩れ落ちた。押し寄せる愉悦の大波の余韻にウズメのからだががくんがくんと跳ねた。影神たちは指一本ふれることなくウズメを玩び心根を打ち砕き牝の性の絶頂へと押し上げたのだった。


「まこと奇怪なものどもよ」

影神たちが音もなく立ち去るとアマテラスはつぶやいた。土地神とも高天原とも異なる闇のものどもについては多くは知られていなかった。しかしアマテラスらが降臨してまもなくから影神たちは名の通り影のように控えて神々に仕えていた。影神たちは本草の力を利して人のからだを自在に操った。影神の悍ましい振る舞いは、忠誠から出たとはいえ越権したウズメへのアマテラスのささやかな懲罰なのかもしれなかった。跳梁する影神の魔力で一度弱まった篝火が再び燃え上がった。橙色に照り返る床の中央には巨人の手で丸められて打ち捨てられたようにウズメが倒れていた。その背は荒い息遣いとともに波打っていた。側女らは音もなくウズメにすり寄るとそのからだを重衣で包んだ。

「かように玩ばれてもまだまだ満たされぬよの、ウズメ」

床に手を突いたものの起き上がり切れないウズメは衣を掻き合わせつつも肩で息するばかりで言葉を返せなかった。ウズメを気遣う言葉の調子とは裏腹にアマテラスが細めた眼に異様な光があった。姫神は自分の嗜虐心を満たす術を十分心得ていたし、そのために威光を及ぼすことに何の躊躇いもなかった。

「タヂカラ、ウズメを慰めよ」

声高に無造作に放り投げられた言葉にタヂカラはむっとくちびるを噛んで眼を見開いた。そして肩を震わせながら平伏してその場を動かなかった。

「まぐわって忌まわしきものの悪戯の毒気を漱ぐのじゃ」

自らの物言いの露骨さに苦笑しつつ姫神は言いかえた。タヂカラは無言だった。男神は懸命の念が女王の気紛れを逸らせないかと願っていた。

「ここで男女神の誠の愛を露わにしてわらわに捧げよと申しておる」

タヂカラの思いを十分知りながらたたみかける悪辣さは王の心ではなく多情な女の性の根に巣食っていた。

「しかし、ウズメには」

タヂカラが呻くように声を絞り出した。たとえ一度切りになろうと断固たる拒否を表明したかった。

「すでに契りを結んだものがおるのか」

万事目から鼻に抜ける聡明さはこの女王ならではである。不言実行の鑑のようなタヂカラらしからぬ違背の理由は忽ち女王の腑に落ちていた。

「わが朋友でありまする」
「ならば、よいではないか、友と一人の女を分け合うのであれば」
「畏れ多くもわたくしには」
「そちはわらわに誠を捧げられぬと申すか」

アマテラスの声は音のない雷鳴のように高きところから冴え冴えと響いた。偉丈夫は鳩尾に強い冷気を感じて慄いた。帝王の威厳が刺さったのだった。タヂカラのこめかみが脈打ちもみあげにすがりついていた汗が放れて堕ちた。タヂカラは一度深く平伏すると跪坐から少し腰を上げてすべるようにウズメに近寄った。否の表明は奏功しなかったがアマテラスの胸に多少のしこりは残したに違いない、タヂカラはそれを免罪にするしかなかった。ふと甘い香りが襲った。それは強張ったタヂカラの胸に染み入った。その香りがウズメの肌から醸されていると気づいたときタヂカラは音を立てんばかりにからだを震わせた。震えは背信の怖れとともに純粋な肉の悦びの現れでもあった。

タヂカラはウズメを愛していた。その健やかな命にあふれた瑞々しいからだを。少年のように凛々しい眉と桜草のようなくちびるが奔放に描く愛らしい表情を。春の風のように気ままで可憐な立ち居振る舞いを。虚飾のない懸命な王姫への献身を。勲と肉欲が自然と表裏一つに結びつく武勇の神々には珍しくタヂカラは多淫を好まず禁欲的だった。タヂカラは盟友のサルタがウズメに思いを寄せウズメもそれに応えて若い命を滾らせていることを知ってからは自らの思いを胸の奥深くに封印していた。

「サルタ、すまぬ」

タヂカラは誰にも聞けない声でそうつぶやくと魔性に誑かされて目の覚めきらぬウズメの肩に手をかけた。向き直らされたウズメは酔ったような面差しでタヂカラをみつめ、そしてようやく男の逞しい手が自分にふれているのに気づいたようだった。タヂカラの大きなこぶしがウズメの果実のような白足をおさえた。ウズメの眼が見開いた。

「タヂカラ様」

自分の身に起ころうとしていることに気づくとウズメは必死に胸元の衣をかき合せた。ウズメの表情に打ち捨てられた子犬のような哀れが宿った。タヂカラは見開いた眼の焦点をどこにも合わさないままウズメの両足に手をかけた。そしてぐいっと足を開かせた。まくれあがった裳裾から女の腿が青白く浮かび上がった。その強引ともいえる振る舞いにもかかわらずタヂカラの眼にはいつもと同じ穏やかさがあった。ウズメはその優し気な眼にすがった。

「いけませぬ、タヂカラ様」

ウズメの血の気の引いたくちびるから諫めの言葉が漏れた。影神らにさんざん弄られてタヂカラの前で痴態を晒したが、これは譲れなかった。しかしウズメはさらに抗う力を籠めようとしたところであっと小さく叫ぶと目を閉じてしまった。自分の足の間に建膝をついたタヂカラの股の間の屹立を眼にしてしまったからだった。それは逞しかった。いや猛々しかった。ウズメは影神によって心ならずもかき立てられた欲情の炎がまだ燻っているのに気づいた。だめ、そんなこと、サルタ様に、いけない、わたしの操、だめ、ウズメが必死に抑えようとすればするほどに魔焔はきらめきを増し再び燃え盛り始めるのだった。体内にいまだ残った毒も手伝って胸の奥が疼いた。疼きはなめらかにからだを下るとウズメの女芯で脈打った。血潮が泡立った。ウズメはあまりの切なさにもだえ苦しみつつ蜜を滴らせ始めていた。ウズメはくちびるをかみしめて顔を背けた。しかしからだはタヂカラの腕力のなすままに開いてゆくのだった。女の熱く甘酸っぱい香りが強まった。男神は奮い立った。

顔を背けたウズメはすぐさまあっと声を上げて跳ね起きた。後ずさりができなかった。熱いささやきが耳をかすめた。

「みごとじゃな」

アマテラスだった。アマテラスは影のようにウズメの背後に忍び寄って退路を断っていた。眼を細めて笑みをたたえるアマテラスの表情から黄泉の鬼神すらたじろがせるほどの邪気がほとばしっていた。女王の手が衣の胸元をかき合わせたウズメの手にそっと重ねられた。ウズメはその手が襟元をゆっくりと開いてゆくのを目の当たりにしたが凍りついていた。たわわな乳房が白々と露わになった。アマテラスの手はその白磁のふくらみをゆったりとささえた。乳頭がきりりと締まってあめ色を濃くしているのは薄暗い中でもはっきりとわかった。金縛りの息苦しさにウズメは呻いた。

「大きいわ」
「ひ、姫様」
「いやらしい、これを揺らしてわらわを誘っていたな」

アマテラスの眼に自分のものよりも遥かに重量感のある乳房に対する嫉妬の色があった。それは多分に稚気のようでいていつ牙を剥くか分からない不気味な感情だった。

「そ、そのような」
「ウズメよ、いいかげんに己の枷を外せ」
「ああっ」

アマテラスの両指先が娘の左右の乳首をそれぞれきゅぅっとつまんだ。乳首は種を含むように固くしこっていた。

「いけませぬ、そのような」
「影神どももこうしたであろう」

ウズメは衝き上げる快感に仰向いて白い頤を晒した。手練の神姫の手業でくりくりと乳首を弄われるのは耐えがたかった。食いしばる歯の間から漏れる息はもう途轍もなく熱かった。

「ああっ、うんっ」
「慣れておるな、よく鳴くこと」
「お、やめくださいませ、あっ、いやっ」

アマテラスの差すような視線がウズメのきりりと立ち上がった乳首に向かった。長い舌をのぞかせつつ女王は可憐に揺れる若娘の蕾に迫った。真っ赤に濡れそぼった舌先が蕾にふれた瞬間、踊り子のからだに電撃が走った。女王の舌は刈り取るように蕾を包み薄いくちびるが乳暈に貼りついた。

「あっ、ぐぅう、姫様ぁ」

からだを捩って悶えるウズメを無視して女王は口腔の粘膜を駆使して女の乳房を玩んだ。乳頭に浮かんだ粟立ち一つ一つを舐め、しゃぶり、弄い、すでに責めのおかげで腫れ上がった乳暈をこれでもかと荒々しく吸い上げた。たまらなくなったウズメはからだを揺らし始めた。いや腰を振り始めた。

「ああ、いや、だめぇ」

タヂカラはウズメの足首を押さえたまま息を呑んで女たちの痴戯を見つめていた。神姫に乳房を責められて喘ぐウズメは美しかった。のけ反るたびに馬の尾のようにまとめた髪が跳ねた。アマテラスの甘噛みと吸淫が白桃に脈打つ経絡を丹念にたどって針を打つような痛痒い刺激を与え続けるとウズメはさらにのけ反った。頭上に伸びた手が空をかいた。耐えがたさにからだをよじれば、神姫はさらに強く吸い上げつつ、石のように固まったもう一方の乳首を掌でそろそろと撫で回した。

「よきや」
「おお、姫様、お許しを」
「かように乱れて今更何を申すか」
「切のうございます、あっ、ゆ、許して」

やがてウズメの喘ぎに甘みが交じるようになり喉元から乳房への肌に淡い赤の模様が浮かび上がった。ウズメは再び蕩け始めていた。乳首を攻めていたアマテラスの舌が首筋から頬へと這い上がるとウズメは自らそれを求めて首をひねった。二つのくちびるはささやきとともに躊躇いなく近づいていった。

「愛いやつよ」
「… 姫様」

ウズメの頬が染まった。花びらのように開いたくちびるから愛らしい舌先がのぞいた。二つの輪が静かにふれあった。女神たちは白桃色の貝肉のような舌を絡ませあい吸いあった。互いの蜜を味わった。アマテラスの濃紅の爪先はウズメの重い乳房に食い込んだままだった。指先が蠢いて乳房をゆっくりと揉み上げていた。ウズメは苦し気に息をついた。ひとしきり淫らな音を立てながらもつれた舌と舌が離れるとつぅーと糸が引かれた。ウズメの眼はすでに淫夢にうるみ、切なげに眉根を寄せて神姫のくちびるが離れるのを厭ってむずかった。

「ああ、いや」

そのさまに意を得たアマテラスは怪しい笑みを浮かべた。姫神の唾液をたっぷりと吸ったウズメはアマテラスの操り人形と化して豊満なからだを誇示するように揺らしていた。

「これへ」

アマテラスはタヂカラに声をかけた。男神は呆然としたまま腰を上げて絡み合う女神たちの前に立った。女神たちの痴態を眼にして男神のそれはすでに限界近くまで膨れ上がり切っ先を揺らしていた。

「おう、兆しておるではないか」

アマテラスは悦びを抑えきれない風情でそういうとウズメの耳元に寄った。

「そなたが弄うのはこれじゃ、たっぷりと吸って慈しめ」

神姫の魔性の巧言に導かれるまま、ウズメは奮い立つ男に近づいた。男の量感と力強さに快楽に酔ったウズメの眼が見開かれた。牡の獣の香りが強まった。ウズメのからだに蜜が満ちた。ウズメは再び少女のような薄桃色の輪を開いて今度は猛る男を含んでいった。ウズメのくちびるがふれた瞬間男神は天に向かって怒号を上げた。

そそり立つ赤黒いものをウズメは心底愛した。逃がすまいと指をからめながらその根元から鈴頭までをじっくりと味わった。男神の唸り声に満ち足りながら恐ろしいまでに膨らんだ鈴頭を含んだ。舌は口腔でよく動いて男神の粘膜を弄った。女を見下ろしたタヂカラと見上げるウズメの眼線が会った。ウズメは男を口に含んだまま口角を上げて眼だけで笑った。そしてタヂカラを見つめたまま淫らにくちびるを蠢かせた。男神は食いしばった歯の間から呻き声を絞り出した。

アマテラスは頬に熱を感じていた。それは胸から昇る血の高まりだった。吐息にまみれて懸命に男を愛するウズメの熱が伝染ったようだった。

「こちらが面映ゆくなるほどの淫らなさまよ」

姫神は堰の切れたウズメの執拗なまでの舌とくちびるの愛撫を目を凝らして見ながら深く息をついた。男神のものは一つの生き物として何かを主張するように松明の灯りでギラギラと光った。アマテラスは自分でも気づかぬうちに御統を握りしめていた。その手がすっかり強張っていた。タヂカラのそれはウズメが咥えてもなお逞しい茎を余していた。茎は唾液でてらてらとぬめっていた。なめらかだったその表面には醜い葉脈が浮かび出ていたがそれすらもウズメは悦んで舐め上げていた。今ウズメは頭を振るに連れて膨らんでいく鈴頭をじっくりと味わっていた。ああ、ううんというウズメの満足げな呻きが姫神を揺らがせた。あまつさえウズメの手は男神の後ろに回って勲の根元や御玉をねっとりと愛撫していた。男神が再び低く呻いた。
アマテラスは自分でも気づかぬうちに熱く睦む二人の傍らへと迫っていた。姫神の手が空に伸びた。その指先が目指す先に気づくとウズメは眼だけで笑って茎の根元から自らの手指を退けた。自然アマテラスの指先が勲にふれた。男神は息を呑んで無言を貫いた。男の強張りに指が巻きついた途端姫神の中で何かが弾けた。

「硬い」

男は硬かった。その硬さの奥底が脈打っていた。姫神の眼の光が何かに覆われたように鈍った。青白く尖った印象の頬に薄赤い血が差した。くちびるが虚ろに開いた。肉茎を手にしたアマテラスは伸ばした舌先で男を弄っているウズメに寄り添った。ウズメはそれに気づくと鈴頭から離れてアマテラスに頬ずりした。突き出されたままのウズメの舌をアマテラスが吸った。二人は一つの逞しいものにつかまりながらくちびるの愛を交わして互いの思いと欲望を感じ合った。

「姫神様」
「ウズメ、ああ、ウズメよ」

ひとしきり舌をからめあうとウズメにうながされるようにしてアマテラスは男神の力に満ちた鈴頭に口づけした。濡れた舌が器用に蠢いて敏感な場所をまさぐると男神は唸り声をあげその茎はさらに一回り膨れ上がった。姫神のうすいくちびるが大きく開いて男神を含み命を吸い上げ始めた。アマテラスの頬は深くへこんだ。長い舌は茎を巻いた。唾液をすすり上げる音が響いた。ウズメは姫神が欲望の虜となったことに気づくとともに一つの逞しい肉塊に二人で奉仕できることに途轍もない悦びが湧き上がるのを感じた。男を吸うアマテラスと眼を合わせると自らも再びそれに近づいて舌先を伸ばした。女神たちは仁王立ちした男神の腰に左右から取りすがり天を貫く勢いで勃ち上がった勲を愛し始めた。二柱の女神は男根をさんざんに含み、舐り、突き、それに飽くと乳を合わせてくちびるを吸い、また男根を愛した。

「姫神様、お許しを」
「いくのか、よいぞ、思いの丈を放つのじゃ」
「畏れ多き」
「いまさら何を言うのじゃ、それ、吐け」
「ひ、姫様、もう」

姫神のこぶしが猛烈な勢いで動いた。男神の筋張った腿に手を置いたウズメは剛毛の下に激しい血の脈動を感じて息を呑んでいた。頬から首筋まで産毛が逆立った。男神の鈴頭は女神のこぶしよりも膨らんでいた。ああ、すごい、すごいわ、大きい、ウズメの手は我知らず自らの股間をまさぐった。女の芯が熱かった。花びらは開き熟し切って饐えた果汁が滴っていた。ああ、出るのね、タヂカラ、出して、見せて、出して、わたしに出して、ほしい、ほしいの、ウズメの胸に肉欲の波が押し寄せていた。

「見たいのじゃ、見たい、見せて、ね、お前の」

ウズメは耳を疑った。それは姫神だった。姫神が女になっていた。いつのまにかすっかり険の落ちた姫神は眉根を寄せて切なげに男神を見上げた。頬を掃くような睫毛と黒目の勝った眼が放つ艶気がタヂカラを貫いた。ここでウズメの血が逆流した。一気に沸き上がったのは理のない嫉妬だった。この女、この女、わたしの男を、わたしの前で、口惜しい、ウズメはダヂカラへの思いを初めて自ら認めた。ダヂカラへの愛は肉欲から始まる愛だった。雄々しく逞しい雄の力への賛美であり、被征服の予感に震えがくるほどの無上の悦びがこみ上げていた。こんな女、穢してやって、この女を貴方の聖液で、卑しいこの女のかんばせに熱いものをぶちまけて、穢してやって、惑乱したウズメは呟きながら男神の太腿に寄り縋って爪を立てた。

「あ、ぐぅっ、姫様」
「たくさん出して、ね、見せて」

アマテラスの沈むようなささやき声が拍車をかけた。赤黒く膨れた鈴頭がさらに膨れ上がった。男神が怒号のような唸り声を上げた。姫神は自らのこぶしが弾き飛ばされたと思った。一際強く脈打ったそれはぶるっと大きく跳ねると姫神の細面に向けて命の精を激しく吹き上げた。姫神は次々と打ち出される灼熱の男精を浴びて満足げに目を細め、くちびるにしたたるものを指でそっと口腔へと押し入れては熱く吐息をついた。その顔つきからは女神らしい驕慢さは消え失せ、男の味に馴染み始めた若妻のように初々しくも悩まし気な風情が現れていた。

つづく

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