詩『目を閉じて草原にログインする』

ネット回線は必要ない
何処にも存在しないからこそ
誰もが訪れることの出来る場所
目を閉じてログインする

氷壁を登攀しているクライマーも
絶望と戦う金髪コンビニ店員も
暗い海底を這う潜水艦のクルーも
不倫で人生を失ったOLも
羽を撃たれた親鴨も
口うるさい上司も
古代ギリシャの奴隷も
目を閉じ
自らを世界から隔離し
草原に立って微笑む

まだ憎しみが生まれていない世紀?
愛が原石のまま存在している世界線?
父親に抱かれ訪れた近所の草むら?

そこにある風のそよぎ
光の傾斜
土の匂い
描写できるのは唯一
貴方の瞼だけ
IDやパスワードを入力しようとしてはいけない
そんなことをすれば決してログインはできない
瞼と瞳の隙間に
少しだけ涙を貯めて
その温もりに身をゆだねるだけ

もし仮に本当に貴方がそうしてくれたなら
いつかボクはそのお礼をします
ボクの草原に招待するよ
ピンク色のペンギンが居眠りの邪魔をする
天井より低い空に覆われた草原に

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