詩集『詩集』

『鰓と肺』
キミのセカイでは生きてゆけないボク
ボクのセカイでは生きてゆけないキミ
鰓と肺
キミのセカイに潜る
水浸しの肺で告げる
「愛してる」
言葉にならなくてもいい
ぷかぷか浮かびながら見つめる
キミの美しい背鰭
輪っかのない土星のような瞳で


『魚の裁き方』
まな板の上
濁った瞳
動かない鰓
濡れタオル
そつ置かれた包丁
微笑み
「もう愛していない」
一瞬澄み渡りいる瞳
流せない涙



やはり涙

まだ愛している

絶望と後悔
鰓と肺
触れる指
逆手に持つ包丁
アナタは今から
最愛の人を裁く
この詩の終わりと共に


『私を棄てる曜日』

燃えるの火木
燃えないの水

誰か分別して私を
身体は火金?
心は?
この思いは?
燃えるけど燃え尽くせない
どの曜日に棄てればいい?

あの人の笑顔が存在した曜日
鼻歌必要無いのに〇で囲った曜日
カレンダーから消えた曜日
指で探る


その曜日に

私を
棄てたい



『週末ポニーテール』

実際月金死んでる
会えないからゾンビ

でも土曜の朝必ず
ヘアバンド咥えてにやけるの

貴方だけの
週末ポニーテール


イップスかもしれない
生きるという競技の


きみのこと
きらいになれない
じぶんがきらい


周りからは「持って三ヶ月」なんて言われていた
正直僕もそんなもんかと思ってた
心のどこかで

でもまさか
永遠になるなんてね


殺人の動機を尋ねられ一言
「太陽が眩しかったから」
カミュ著『異邦人』の一節

まったく同じ動機で僕
君を愛している


Siri
彼女にメールして
「好きだよ」
送信予約
三万年後


そのポニーテール
確信犯だな?
身柄を拘束する!
この腕でぎゅっと
明日の朝まで


「好きだよ」は「おぎゃあ」の複線回収


一生の……いや一瞬のお願い!
この愛を受け止めて!


猫に小判
猫に小判
小判ならいくらでも払います
だからお願いです
肉球触らせてぇー!


『ぽつぽつ』

鼓動に寄り添いたい
この高鳴り
雨音に紛らせて


『螺旋臓器』

僕ら皆 悪玉感情の濁流によって血管を自傷
公的機関によって隠蔽された未発表の病に罹患
「まっとうな人生」とやらのカリカチュア
週刊!強制収監
焼きピーマンのように咽るリノリウム張り
穢白色の病棟 失踪する担架
僕らを乗ーせーて
怒鳴怒鳴

老鶏の如く一天へ嗚咽す しゃ嗄れた声帯
「死にたくない……だからどうか産まれなかったことにしてください」

癒えると言える日を
遥か春かと待ち侘びて


『涙わたり』

肩抱き顔寄せ
君の涙 僕の頬へ渡らせる
透明に揺らめく滴
半滴でもいいからシェアさせて
温もりをあげるから


『すきすぎのみ』

うっかり食べた悪魔の実
その名は切実

世界最強の力で貴女を想う能力
僕は手に入れたよ

でもその能力と引き換え
すぐ溺れる体質になっちゃった
貴女に


信じてもらえないかもしれない
れもねーど
君を愛している

辛い時もある
れもねーど
君が側に居てくれるなら
僕はきっと乗り越える

傷つけてしまうかもしれない
れもね
君を離さない
自分勝手だけど離さない

愛している
ぐれねーど愛している
いや とるねーど愛している

「分かってほしい」

受け取ってくれこの指輪を
だぴおか死が二人を分かつとも
愛は永遠


縁石に背もたれて軍手
折れた指霜と排ガス
きっと出会うと信じてる朝


電線の影群青の五線譜
足跡で音符連ねる朝帰り
全音符の雀が見てる


産地直送活きた蟹
有線放送子供の嬌声
豆腐に昆布に長葱白菜
ビニールぐっ圧す甲羅の力
希望


外はさくさく中しっとり
「ポン・デ・ショコラのポンて何?」
卓上に翳し覗く穴
もうそこにない笑顔
甘くて苦いフレーム


道行かば
消えて浮かびて
嗤う逃げ水
われに構わず
ゴールに至れ


土筆の子
吾が描いたか
乳房雲


目配せし
君と競いし
桜狩り
瞳に映せし
色は負けじと


風暖か
ガードレールに
添えし花
知らぬ人とて
偲び目を伏す


散る桜
命報せる
花時計
ひらり一秒
重ねて一生


新緑の
進む枝先
しんがり桜
次の命を
見届けて散る


臥す床に
冴え返る風
寄越す天
光を延べて
ここに届けよ


夜深く
眠り妨ぐ
猫情事
鳴くに泣かれぬ
我は独りぞ


忍べば散らざりき
偲べば散るらむ


子どもらの
声に押されて
行く笹船よ
去り行く早さを
競うかなしみ


「さ」は砂糖
「し」は塩
「す」は酢
「せ」は醤油(せうゆ)
「そ」は傍にいてギュッと抱きしめて(朝が来るまで)


か とりーぬ
き んぱつびじょの
く りすてぃん
け いともそふぃーも
こ いのまぼろし


ぱ いおつを
ぴ ったりよせて
ぷ りんぷりん
ぺ ろぺろなめて
ぽ えむにうたう


詩の工場に勤めたい


若者は考える前に動く
老人は考えて動かない


『詩は罫線を待たない』

墓場があるこの脳の中に
言葉が埋葬されている墓場

詩になれなかった言葉
愛になれなかった言葉
感情に届かない言葉
罫線に出会えなかった言葉

墓場があるこの脳の中に
言葉が埋葬されている墓場

いつの日かきっと
僕もそこに埋められることを
切望してやまない


僕の”孤”にコロ付けて
こころにする
君の方へ転がしていいかな?
しゃーって


苦しさを分け合い
愛しさを与え合い
寂しさを奪い合う


『ドキッ!ワザと見せてる!?いつもベランダから勝手に侵入してくる幼馴染のあの子の笑顔に似た花を一瞬の車窓に見た夏のエクソダスは人工的とも言えるほど青い海のギラつきを背景にして浮かんだ悲しいほど小さなヒマワリ、その傾げた首の傾斜が本当、図書館でよく見せるあの子の憂いと同じ角度だったという一連のemotionが僕を旅に向かわせた原因に違いないのだ。確信犯的に僕の網膜を焼いた笑顔、八つ裂かれた心一切れ、猫が咥えて何処かへ行ってしまった。ギリギリモザイク3時間Special』


『Kangaroo lyric』

音ズレの訪れ
環状の感情
カブトムシの下部を無視
脱衣の殺意
濁音を抱く女
神社のジンジャー
輝きの加賀焼きの蒲焼き
眼球にThank you
秩父の父の乳の恥部
マロンの浪漫
我慢の漫画
U型の夕方
徳利を使ったトリック
痛いほど君と居たいと言いたいあと胃痛い
ハートに付けられた歯跡
いい檸檬の入れもん
薔薇薔薇殺人
君の死体に出したい
未完成な蜜柑星
カレーライス
あゝ異常なり愛情
今度産むコンドーム
くたびれたくびれ
唇の口ぶり
神のカミングアウト
雨中の宇宙

世界の正解求め
ことばのことばかり
考えるガンガル-


ひまわりが太陽を追い抜く瞬間


セ  カンドバッグを運ぶ集金  人
ミ  ニスカート揺らす女子大  生
ノ  ーネクタイの背広の社会  人
イ  ンタビュー無視する高校  生
ノ  リだけがいい保険の募集  人
チ  ック症に悩んでいる受験  生


切なさの切れ味


今夜
お前の鼓膜の処女を破る
三半規管に爪立てて

脳細胞にbiteせよ
意識のパイプを絶て
十字切る間を与えるな

譫妄がrocket diveする
ダイナマイトな涙
腐り散り行け!潰せ!

捕らわれた蝶の命乞い
「翼よりも牙が欲しい」
真っ逆様に睨む空

桃色粘糸を吐き散らす
『ワレハピンクスパイダー』


散文詩『鴉』

 僕は鴉。綺羅綺羅した物が大好き。

 光る物に惹かれる。自分の物にしたくなる。触れたい!爪でつっつきたい!啄んだり蹴ったり放り投げたりしたい!実感したいんだ。簡単には傷付かないことを。そして嬉しくなる。乱暴に扱うことで普遍性を確かめるんだ。でも分かって!綺羅綺羅した物は、僕にとって玩具ではなく宝物。

 すごくすごく大事に思っている。永遠に離さずにいたい。願っている。いつまでも壊れずに輝いていることを。でもちょっぴり妬んでもいる。あまりにもそれが綺羅綺羅しているから、意地悪をして傷を付けて、光の反射具合が歪にゆがむのを見てみたい。僕の付けた傷で、光の向きが変わるなんて、素敵じゃあないか。

 だから僕は傷つける。罪悪感はある。でも止められない。惹かれすぎているから、止められない。狂おしくてどうしょうもないから、シンプルに狂うことにしたんだ。
 でも夜にはきっと、優しく抱き締める。だから許して欲しい。君の心――傷付けてゴメンね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?