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双子のインコチャレンジ

コロナ禍になってしばらく経ったころの話だが、我が家の家族が増えた。ピー助という名のセキセイインコだ。

うちの双子は、以前からインコを飼いたいと言っていた。何度かダメと返事して、もうあきらめたかと思っていたが、彼らはあきらめてはいなかった。

「お父さん、今度のテストで2人が全教科90点以上とったら、インコ飼ってもいい?」

双子がそう訊いてきた。甘い奴らなのだ。

「いやいや、2人とも全教科90点以上って、それ無理やろ? 1教科でも90点未満やったら、そこでアウトやで。なんでそんな条件を自分から言い出すの? アラブの商人なら、そこは2人の平均点が60点超えたらとかから、交渉はじめると思うけどな」

私は中東諸国を旅しているとき、平気で法外な金額をふっかけてくる、たくましき物売りたちと幾度となく戦ってきたのだ。

「そしたら相手は60点っておかしいやろ、平均点で90以上な、いやいや90って厳しすぎやん、せめて70にしてや、なんでやねん、70って易しすぎやろ、ほな85な? 75、84、76、83・・・てな感じで、相手から譲歩を引き出していくねん、わかる?」

これには双子も大いに納得したようだった。

「お母さんと相談するわ。ちょっと返事は待って」

そう双子に伝え、妻と相談した。そして、双子のインコチャレンジを認めることにした。

双子の言うテストとは、中学1年の1学期の期末テストのことだった。コロナで中間テストが吹っ飛んだため、中学になり最初に迎えるテストだ。過去の実績がないため、双子が何点ぐらい取れそうなのか、見当もつかなかった。

双子の2つ上の長女が、中1時代のテストを保管していたので、それを読み込んでみた。1学期のテストは、比較的難易度低めに設定されていると思われた。中学入学早々に難しいテストで勉学の意欲を削ぐこともなかろうという配慮があるのかもしれない。

いろいろ考えて、簡単ではないが、がんばったら届くかもしれないという点数を設定した。2人の5教科テストの合計点数が〇〇〇点以上という条件だ。何かの教科でしくじっても、他の教科で挽回できるかも。双子の1人がへこんでも、別の1人がカバーできるように。

双子は大喜びして、インターネットでインコのことをいろいろ検索して調べ出した。インコの名前まで考えはじめた。インコってどこで買うの?とも訊いてきた。

「自転車で10分くらいのところに、藤田愛鳥店ってところがあるで。そこで買えると思うけど」
「見にいく!!」
「いやいや、まず勉強したら?」

そんなやりとりを経てから、双子はテスト勉強をはじめた。勉強の合間にインコのことを調べたりしていたが。強気やな、キミたち。

そしてテストの日を迎えた。2日間のテスト期間だ。1日目は希望はまだある的なようすで帰宅してきたが、2日目には双子の女の方が意気消沈して帰ってきた。

「どうしたん?テストでけへんかったん?」
「もうあかん、社会のテスト、名前書くの忘れた! 0点やわ、名前書かなかったら0点って、先生言ってたもん」

あほやなあ。

「まあそこは先生ゆるしてくれるんちゃう? ゆるしてくれるとして、皮算用してみよか」

私はそう言って、双子に5教科テストの予想点数を聞き出していった。双子男がそれを紙に書き留めていく。

「合計点数どうなってる?」
「あかん、15点足りてへん、どうしよう!」
「点足りひんかったら、インコ飼ったらあかんの?」
「あかん」

飼わせてあげたいという気持ちは大いにあったが、約束は約束なのだ。

落ち込む双子を、まだわからへん、テスト返ってきたら予想よりいい点かもしれへんやろ、となぐさめた。

双子は何やら話し合っていた。そして机に向かって何かしていると思ったら、以下のような手紙を書いていた。

万策尽きて神頼み、というか神脅し?
(「ボブ」とは、その当時双子が考えていたインコの名前なり)

次の週にテスト結果が返ってくる。1日にすべての結果がわかるわけではなく、何日かにに分けて戻ってくる。

双子女の社会は0点にはなっていなかった。そしてテストの点数を一覧表に記載していく。そして、残りは双子男の理科のみとなった。

「どう?いけそう?」
「最後の理科が○○点以上やったら、クリアできる」

それは双子男が自分で予想していた点数+5点のラインだった。ちょっと難しいかもな。

そして翌日、双子男の理科の結果が出た。

「どうやった?」
「〇〇点やった」

その点数は、私が設定した点数を3点オーバーする点数だった。

「インコ!、インコ!、インコ!、インコ!、インコ!・・・・・」

小躍りしながら双子が叫ぶ。よかった、私もうれしかった。

数日後、藤田愛鳥店にインコを見に行った。そこでインコの雛と飼育用のカゴや餌を買った。オスで、名前は「ピー助」と双子が名付けた。

まだ生後1ヶ月に満たない雛なので、3時間おきぐらいに給餌が必要だった。双子が学校に行く間は、私がピー助の面倒を見ることになる。そのころ私はコロナ失業中、妻は仕事なので、家にいるのは私だけだったのだ。

双子は学校に行くときに、恨めしそうに言った。

「お父さんいいなあ、ずっとピー助と一緒にいれて」
「いいなあ失業者」
「ずっるー、この失業者」

そんな暴言を吐きながら、未練たらたらで学校に行っていた。まあ気持ちはわかるから、許したろ。


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