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『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』感想メモ(12/10追記)

〈随時更新するかも〉


前置きというか自分のスタンス

・「ゲゲゲの鬼太郎」はアニメ第3期を観ていた。劇場版は『ゲゲゲの鬼太郎 激突!!異次元妖怪の大反乱』(ねずみ男とカロリーヌちゃんの話)が”癖”。ドラマ『のんのんばあとオレ』もむちゃくちゃ好きだった。幼少期兄も妖怪にハマり水木しげるの妖怪図鑑的な本を何冊も持っていて、母も水木しげるのエッセイとか持ってた気がするので、思い返せば水木しげるに比較的馴染みがある家庭だったかもしれない。

・今回の映画を観るにあたって『墓場鬼太郎』第一話と、『ゲゲゲの鬼太郎』第6期の第一話を観ました。墓場鬼太郎で水木が赤ん坊の鬼太郎ぶん投げて目を怪我させたり、好奇心から地獄に落ちたり、鬼太郎も鬼太郎で育ての親の水木に対する関心がほぼゼロだったりして、映画の水木をどう観たら良いか分からなくなったのがノイズになったので観なくても良かったかもなと思った。ここは好みと「鬼太郎」という作品のメディアミックスに対する解像度によるかもしれない。要は「鬼太郎誕生」のエピソードや「水木」というキャラクターのパラレル性というか。

・パンフレットはまだ入手出来ていない。公開3日後に東映オンラインショップで注文して一週間以上経つのに音沙汰がないので現場は修羅場なのかもと震えている。当初販売されたものと中身同じものが無事届くならいつでも良いからね…早く読みたいけど…。ということでパンフレットに答え書いてあることもあるかもしれないけどとりあえず自分の所感を書く。

思いつくままに感想

・完全に水木目当てで来たので野心に溢れ社長室に勝手に入ってくるなりベラベラ喋る水木が最高だった。私は黒髪タレ目の、ズケズケ喋る存在のかさばる男が好きなんだ。『おおきく振りかぶって』の阿部隆也とか、『青野くんに触りたいから死にたい』の藤本雅芳とか。

・水木スーツがダボッとしている…昭和のシルエットだ…。制作陣のこだわりを感じて嬉しくなっちゃう。

・列車の中でめっちゃ煙草吸ってる~。子供がめっちゃ咳してても容赦なく~。これも痺れる昭和描写だ。現代では新幹線の喫煙車どころか喫煙ルームすら廃止されるというのに。

・哭倉村に入ってからの雰囲気最高。音楽素晴らしい、風景美しい、夏日特有の影の濃さがじっとりとした不穏さを醸し出していて良い~。

・紗代ちゃんと時弥くんとのやりとりも水木には当然打算があって、「気取った感じのないサラッとした東京の男」を演出している感じなんだけれども、本人が本来持つ優しさとか素養なのかいやらしさがあまり感じられなくて見ているこちらも妙に心地よい。若くて野心はあるけどガツガツしすぎてないの良いね、水木。主人公が浅慮で無鉄砲すぎるタイプだとストレス感じるからな。

・龍賀家についたときの克典氏との会話もお互い微妙に腹の内を探ってるような緊張感と小気味良さがある。「嫌いじゃないよ、その身軽さ」って良い返しよね。紗代ちゃんや時弥くんのときと違って大人の会話って感じ。(小並感)

・親族が集まってる部屋に入ってきたときの雰囲気最高~~~、居心地最悪なの最高~~~。乙米さんにネチネチ言われても「誠実お悔やみ」スタンス崩さない水木ほーんと肝据わってる。

・ここで龍賀家の家系図、村長の長田、病床に伏していたと思われていた長男・時麿が健在であったことなどが明らかになり「えっと、相関図、相関図~~~!!!!」ってなるんだけど、最近インド映画でもっと複雑な相関図の作品(例:サーホー、K.G.F)に触れてきたせいで、「最初に全部覚えようとしなくて良い」「全員ヒゲのおじさんじゃないだけマシ」というある種の諦めを得たのであまり慌てずに済みました。(良いことなのか、それは)

・時麿、『犬神家の一族』的でありながら登場の画角が「シャフ度」だったな。面白かった。

・遺言状読み終わったあと代理人(弁護士?)に駆け寄る克典氏の異常なスピード感と、カバン持ってとっとと隅に逃げる水木の身軽さが最高。水木って身軽だけど軽薄すぎないバランスも良いんだよな。

・常軌を逸した時麿の慟哭がめちゃくちゃになった異常な空間ごと凍結させる場面も最高!!! この緩急たまりませんな!!! 引いてる水木の顔~~~やばい村に来ちまったぞ~~~の極致~~~~~~!!!!!

・はー、ねずみ男ありがとう。鬼太郎や猫娘などのお馴染みにキャラクターが出てこない分、チビねずみ男の存在にホッとするね。もっと身軽な男がここにいたよ。

・時麿死に方エグくていいね!

・ぶ、ぶ、ぶっとい縄で縛られている着流しの男が出てきた……こんなえっちな登場があってたまるかい、おやじ殿!!!! あーん、暴力は嫌いなんじゃみなで風呂にでも入らんかとか言うのおやじ殿すぎる~~~最高~~~~~

・あそこで水木が割って入るのはまあまず端から見たら異常な状況なのと見覚えのある男なのと、あと「大義名分のために切り捨てられる命」に多情になってしまうからとかかな。戦争帰りゆえの。

・アホなので2回観ても乙米さんが鎧武者のところから「何かが出来ず」疲弊して出てくるところ、何を試みていたのか分かってない。時麿も「父様の元で修業をしてきた」と言ってたけど、何してたんだろ。狂骨を使役する儀式とかかな? パンフくださ~い

・水木めっちゃご飯かっこむじゃん…早食いってやっぱ軍隊上がりの癖なのかな…つらいよ、でも早食いの水木が愛しいよ

・時弥くんとの会話、戦後昭和の男らしい未来を語る水木の考えと、もっと長い間時代を見つめてきたおやじ殿なりの老成した考えの双方がちゃんと明示されているのも良いし、そこを深刻に対立させないのも良い。強いメッセージ性を避けているというより、この作品の一貫した正義って「子供たちのためにいかに良い未来を残せるか」だから、そこさえブレなきゃそれ以外の思想は「人それぞれ」って温度感にしている気がする。

・これからバディ関係になることが匂わされている二人の痴話喧嘩は関係性のオタクの大好物だぜ!!!! 「おためごかしはおためごかしじゃ」っていう返しとかもなんか新鮮だな~良い意味で子供向けアニメっぽい台詞だなって思う。

・怒ったおやじ殿の仕返しが「寝てる水木を布団ごと牢に入れる(鍵は閉めない)」なの可愛すぎない? その仕返しを思いついたときのおやじ殿とスヤスヤ移動する水木を想像するだけで気が狂いそう。

・おやじ殿温泉入っとる!!!! しかも水木を誘っとる!!!!! 誘うな!!!!!!! オタクが泡吹いて倒れちゃうだろ!!!!!!!!!

・ザバァッ

・いそいそ帯締めてるおやじ殿可愛すぎか?

・紗代ちゃんに接近されても頬染めたり照れたりしない水木はほんと信用できる。なんなら克典氏の冷やかしに若干引いてる感じさえする。

・克典氏とウイスキーを飲み葉巻を貰う場面は、そのあとのおやじ殿と日本酒と紙たばこを分け合う場面の対比になっているんだろうな。ていうか水木お前ウイスキー飲んだとき頬染めたろ、ダメだぞそんなことしたら。オタクにスケベなことさせられるぞ。あと水木は葉巻をたばこみたいに肺で吸っちゃってる感じがするね。だからむせたのかな。

・オラ、理性的なキャラが、「チクショウ、バカにしやがって!」って怒るシーン、癖(へき)。

・♪~(´ε` )顔で小舟漕いでるおやじ殿可愛すぎるって!!!!!! キレそう!!!!!!!!!!

・まだゲゲ郎の身の上というか、妻を探してるってこと以外何も知らないのに、小島に向かうおやじ殿を必死に止めるあたり水木のお人よしぶりも大概だよ。というより「俺がかばった奴が村の禁を犯そうとしてる」ことに慌ててるだけか。

・霊力に当てられて鼻血出す描写大好き侍。漫画『さんかく窓の外側は夜』とか、映画『来る』でも観たことある。どちらも「霊力を使う側」の鼻血だったと思うけど。

・おやじ殿助けに来たじゃん!!!!!! かっこいい!!!!!!!!! 水木を!!!!!!!! おんぶ!!!!!!!!!

・飛び出た岩からジャンプするのと同時にリモコン下駄ぶっ放すアクション良すぎる。

・ダイナミック乗船からのジェットボート級の馬力(協力:河童の皆さん)で離脱する勢いとテンポの良さ凄いな。こんなスピード感の「逃っげろ~~~!!!!!」なかなかないだろ。斧乃木余接のアンリミテッドルールブックじゃん。

・殺された丙江さん、カラスに目玉食われて串刺しにされて高さもあって芸術点高い。そういえば龍賀兄妹って殺されるときみんな目を失ってるな。

・き・ぜ・つ!!! KI・ZE・TSU!!! 水木の気絶だ~~~!!!!!!

・おやじ殿が水木を助けた理由に「憐れみをかけた」と言ったのどういう意図だったんだろう。おやじ殿、飄々としてるけど無神経なわけじゃないからそんなこと言ったら水木を怒らせるの分かりそうなものだけど。どこかにまだぼんやり「人間は嫌い」があるのかなあ。

・水木とおやじ殿、協力関係を結ぶことになってから仲良くて良いな。互いに情報交換が始まって謎解きがググっと進む場面でもあるし。おやじ殿が子供に石ぶつけられて「コラ~~~!!」する水木もなんか良いし、二人でアイス食ってんのなんかツイッターの二次創作かと思ってたのに本編でやってるし。水木が川の水でハンカチ濡らして顔を拭うのとか、涼しげな風情のおやじ殿との対比にもなってる感じで嬉しくなっちゃうね。

・水木相変わらず紗代ちゃんに言い寄られても(以下略)。紗代ちゃんの身に起きていたことを思うと本当にあの場面は切実で、水木の答えはまた「おためごかし」だったかもしれないけど、それでもあの瞬間だけでも紗代ちゃんは満たされてたんじゃないかなと思いたい。身を寄せた紗代ちゃん越しに山の向こうに落ちる陽を見つめる水木もなんかすごい良かった。そしてあんな目に遭ってた紗代ちゃんが「はしたないですね」って惹かれた男性に言うの辛い。

・おやじ殿と水木が酒飲んで腹割って話すとこは、良いねえ…。泣き上戸のおやじ殿まじ可愛いし、水木がやっと吸いさしのたばこをおやじ殿にあげるところなんかは、利用し合う関係の克典氏と水木の葉巻とはまったく違う、対等な関係でいられていることの象徴的な描写だと思う。そしての水木の葉巻と違っておやじ殿がまーーー美味しそうにたばこ吸うんだ。良い……ッ!!

・翌朝水木「飲み過ぎたー」って言いながら手洗ってる。そんなに飲んだんか、そんなにおやじ殿と飲むの楽しかったんか、それは何よりだよ。

・孝三さん、紗代ちゃんの話では禁を犯して岩子さん(おやじ殿の奥さん)を助けようとしたって話じゃなかったっけ? だけど孝三さんが岩子さんの絵を描いてたのは長田いわく「夢の中の想い人」…? 声を荒げるおやじ殿に動悸が激しくなっちゃうのと、石田彰キャラがついにその面の皮を剥がす瞬間の興奮と、台詞の情報量が多さに脳の処理能力が追い付かなくて2回観たのにまだ分かってねえや、エヘヘ!!!  民俗学に明るくなりたいもんだぜ!!!!! しかし何よ「裏鬼道」って。言葉の意味分からないけど響きだけでめっちゃカッコいいじゃん。BLEACHかと思ったわ。

・孝三さんが急に飛び降りようと? してそれを水木とおやじ殿が止めようとするあたりから超絶アクション作画が始まっておる。おやじ殿パワー型なのマジで最高~。人掴んでぶん回したり刀を歯でとらえて折ったり手すりを腕力で引っぺがして振り回したり迫力満点。あまりに熱い。私が見ていた第3期のTVアニメシリーズの鬼太郎も各種飛び道具は使えど比較的武闘派のイメージで、まあここまですごくはなくても「鬼太郎の父親」はこのくらいバカ強であってほしいよ。マスコット的なキャラクターの本来の姿が超絶イケメンであったり最強であったりするのは定番だしアニメファンへのサービスじゃないですか。はーーー有難い有難い。

・またおやじ殿縛られている。今度は鎖で縛られておる。「自分はどうなってもいいから妻を開放して欲しい」と懇願するところがもう…辛いよう…。

・村に入ってきた部外者を捕らえて血液製剤づくりに利用していたというのが龍賀家の秘密の一つだけど、なんで水木見逃して貰えたんだろか。一応取引先だからかな。冒頭の水木の上司の話だと過去にも哭倉村に入った社員が戻らなかったことがあったみたいだけれど。まあおやじ殿の登場と跡継ぎ問題で龍賀家サイドもわりとそれどころではなくなったのかもな。

・近親相姦が行われていたことが明らかになる場面で、レーティング的な部分が大きいだろうが被害に遭ってる紗代ちゃんを直接的に描写しないの個人的に素晴らしいと思う。「考えるだけでおぞましい」ものを、この映画に限ってはわざわざ見せる必要はないだろうなと。『ミッドサマー』なんかは逆に「明確な示唆から想像できるおぞましさ」を「全部見せ」されることでギャーーーーー!!!! ってなる面白さがあるんだけど(あ、あれR15だったわ)、本作はそれをやる必要はないよねという所感。

・龍賀家で行われている近親相姦、時麿の「嫁取りも許されなかった」とか、丙江さんが駆け落ちから連れ戻されたとか聞くとまあ周到に管理されてきたのかなという最悪さがあるんだけど、そうなると観客的には「もうどれが誰の子供だか信じられない」という事態にもなるな。時弥くんってほんとに長田と庚子さんとの子かい…? とか。考えたくねえ~。

・おやじ殿が地下に運ばれて腕切られちゃいそうになるとこで、銃!!!!! 水木の銃撃!!!!!!!! ひゃっほーーーーい!!!!!!! マサラ上映だったら間違いなく紙吹雪投げてるわ!!!!!!!!!

・キービジュアルで水木が銃を肩に担いでるのでもっと撃ちまくって大立ち回りするのかと思っていたが、一発だけだったね。いや、うん、まあ、反戦のメッセージもある本作で水木が銃を多用するはちょっとアレか!

・畳みかけるように紗代ちゃんが龍賀兄妹殺しの犯人であることが明かされる場面、紗代ちゃんの絶望と悲しみと怨念がほんとに悲惨なんだけど、だからこそ「こんな村全部めちゃくちゃになってしまえ!!!」という力の解放に鳥肌が立つんだよな。初見のとき紗代ちゃんの死亡フラグはなんとなく感じていたんだけど、紗代ちゃん本人が「被害者」でもあり「災厄」でもある展開は震えたな~。言われてみたらベタな気はするし、こういう作品沢山観てる人なら予想ついてそうだけど、私は新鮮にヒエエ…となれてお得でした。

・紗代ちゃんに使役された狂骨の情け容赦なさが最高!!! 隅に逃げて謝る人々も蹂躙!!! 一番デカいやつは巨大ファンにぶち込んでぐちゃぐちゃにするぜ!!!! 景気が良い~~~~!!!!!!!!

・ここで改めて乙米さんと長田がデキてるのめちゃくちゃ良いなって思う。最悪すぎて。ダブル不倫だし(政略結婚っぽいしもうこの家に道徳的規範とか貞操観念とか作用してないだろうけど)、めちゃくちゃ悪いことしまくってて紗代ちゃんに殺されるのもあまりに当然の報いなのに、この期に及んで名前を呼び合う「純度の高さ」が、何年か前にあった「煽り運転のカップル」に近しい何かを感じて良い。警察に連行されるときまで「手を繋ぎたい!」と騒ぐ、端から見たら「お前らいい加減にせえよ」っていうしょうもなさなんだけど、でもあの二人にとっては「二人こそが世界の中心」で、「自分たちを邪魔する存在は愛を盛り上げる燃料」で、本人たちは「真剣な純愛」なんだよね。そういう行き過ぎた身勝手さにある種の美しさを感じるので面白いなって思う。別に煽り運転のカップルを美しいと思ったことないけど。

・紗代ちゃんが狂骨を使わずに自分の手で水木を殺めようとするところ、すっごく悲しいけどあれは紗代ちゃんなりの「特別扱い」を感じて切ない。最期に自分のことを目に焼き付けてもらいたかったのかなあ。

・隙をついて紗代ちゃんを倒したのが長田だったのは少し意外だったけど、彼女のことは哭倉村の人間が始末をつけた方が収まりが良いし、後述するけど本作の正義を踏まえるとおやじ殿と水木だけは「子供を攻撃する画」を絶対にやっちゃいけないと思うんだよね。ただここで改めて長田に沼る人々を増やしたろうなって感じもする。罪な男~。

・泣き叫んで消滅する紗代ちゃんと、水木が自分の無力を嘆くシーンはまさに『ゲゲゲの鬼太郎 激突!!異次元妖怪の大反乱』の、ねずみ男とカロリーヌちゃんの悲劇を思い出してしんどかった。

・水木が斧持っておやじ殿と地下道を走るところ、めっちゃ熱いんだけどもうちょっとアニメーションかっこよくしてほしかったかもな~。音楽も熱いだけに。いや贅沢な願望です、すみません。

・岩子さんの血で作られた深紅の巨大な桜の樹が美しいほどに「なんてことをしているんだ」という寒気が走るし、そして岩子さんは辛うじて生きているけれど幽霊族の先祖たちが木の根に絡めとられているのが、「桜の樹の下には」やオフィーリアを思わせて、死の匂いに満ちた明らかな「異界」で圧巻だししっかり怖い。素晴らしい。

・時弥くんの体が時貞に乗っ取られ、子供の体に老人の頭がついてるっていうなんとも気持ち悪いビジュアル!! ここについて初週の頃ちょいバズってた感想の中に「子供の姿のままの方が残酷だからそっちの方が良かった」的な意見を見た記憶があるのだけれど、ここなーーー。好みはそれぞれだし、恐らく制作側も「どうするのが憎たらしくおぞましいか」を試行錯誤されたんじゃないかと思うんだけど、ラスボスをおやじ殿と水木が倒す展開なら、それの姿が「しっかり子供の姿」は絶対やっちゃダメだと思うんだよな。紗代ちゃんの件でも書いたけど、この作品の主人公二人を繋ぐ正義って「子供は希望である」ことと、「子供と子供の未来を守るのが大人(父)の責任」ってところだから、仮に中身が時貞だったとしても時弥くんの姿をしている相手に対して水木が斧振り下ろしちゃいけないし、狂骨に頭噛ませちゃいけないと思うんだよね。そして時貞は「戦争で私腹を肥やした昭和の負の遺産」の象徴でもあるわけで、それはジジイの姿してないと困りますよ!!! ってところもあるし。

・岩子さんとおやじ殿が再会するシーン、愛と悲しみに満ちてて本気でこの二人の幸せを願うとこなんだけど、血まみれでぶっ倒れてる水木を画の手前に入れ込むの凄すぎる。

・子供を身籠ったまま何年も耐えてきた岩子さんは「妖怪的な強さ」と「母の強さ」の両方を感じてすごく神秘的で美しいなって思う。なんでその美しさの結晶を下らねえ人間どもに搾取されにゃならんのだ、殺すぞ!!!!!!! チクショウ私人間だった!!!!!!!!!!

・VS狂骨で長髪のおやじ殿が出ちゃって心臓をやられる。鬼太郎も髪の毛針はお馴染みなんだけど、ここでおやじ殿も髪を使って戦うフェーズが用意されているのあまりに心臓に負担のかかるサービス。

・激闘の末、桜の樹に捕らえられちゃうおやじ殿…この映画何回おやじ殿を縛れば気が済むんだ!!!!!!!

・おやじ殿が水木を「相棒」と呼ぶ激熱シーン、初見は結構びっくりしちゃったんだけど、2回目に観たときは「妖怪と人間が相棒たり得る」って岩子さんの願いでもあるんだよなと思ってめちゃくちゃグッと来た。おやじ殿と水木のバディ、つまり妖怪と人間でも友になれるっていうのは『ゲゲゲの鬼太郎』という作品に通底している「願い」でもあると思うし。いや、この映画すごいな…。

・時貞の「まだまだわしが教え、導いてやらねば」とか「良い服を着て良い車に乗って良い女を侍らせろ、それが人生だ」とかの役満レベルの老害的人生観を「あんた、つまんねえな!!」で一蹴する水木が最高にかっこいいよ。舞台となる昭和なんてまだまだこの価値観の方が一般的だったはずだけど、今観られる作品としてそこはしっかり蹴る。それを昭和の男である水木に蹴らせる。素晴らしい。

・「ツケは払わないとなあ!」って血まみれで笑う水木最高か? ただここ、勿論100%時貞に向かって言ってる言葉なんだろうけど、水木自身も大人としてどこかで「ツケを払わないといけない」ということに自覚的な感じがする。それは戦争のことなのか、紗代ちゃんのことなのかは分からないけど、大人が身勝手に世界を食い潰して上がり決め込んで逃げ切ろうとするのは、醜いしダサい。どの時代、世代であっても子供たちの未来のために「ツケは払わないとな」の精神ってちょっと持っておきたいかもと思った。はーーーー水木あんたイイ男だね!!!!!

・一仕事終えて時貞の死に様なんか関心無さそうに階段に座って歯捨ててる? 水木がワイルドすぎる。

・襲い掛かってくる狂骨を、赤ん坊の泣き声を聞いたご先祖さまたちが守って…!?!? ここもマジ素晴らし過ぎるんだよな。この映画「子は希望」っていう倫理だけは絶対にブレないんだよ。ほんとに信用出来る。

・おやじ殿…。父になる者として、これから子が生きる世界の脅威を少しでも抑えておきたいというのは、誰もが思うところだけれどなかなか出来ることではないよ…。ウルトラカッコいい…。今後目玉おやじの見る目変わっちゃう。でも今までも目玉おやじって鬼太郎のためなら全力なイメージはあって、息子大好きで、親バカで…ね…。あんなにカッコいいのに決してキャラ崩壊ではないのがすごいなあ。

・おやじ殿が骸から引き抜いてた棒? あれ時麿が殺されたときにも左目にささってたのと同じやつに見える。これもパンフが待たれるけども、あの棒が依り代で、紗代ちゃんも狂骨と同化していたからあの棒が扱えたのかな。「あの棒」て。名前教えてくれ。

・哭倉村壊滅シーンでフラフラしてる孝三さんが克典氏に轢き殺されて、克典氏も車ごと何かに衝突して死ぬとこ、「あーあー…もう…」って感じがしてすごい好き。あれだ、劇場版『東のエデン』の終盤で、復讐しに来た結城くんを物部が轢き殺すんだけど物部も物部で同時に結城くんから銃撃受けてて車突っ込んで死んじゃうシーン思い出した。誰に伝わるの、これ。

・『東のエデン』も「昭和の負の遺産」に立ち向かう話ではある。

・「子は希望」が正義の本作でも哭倉村の子供たちは全滅しちゃってるよねってところはあるんだけど、それはさすがにこの村の大人たちの責任であっておやじ殿と水木にはどうしようも出来ないことだからねえ…。村の壊滅は起こるべくして起きたものなので、可哀想だけどそこはしょうがない。もし村の子供たちだけでも…!みたいなやりとりがあったらさすがに「いやいやそれはもう良いって!!! いいから早く逃げろ!!!!!」って感じたと思う。それだけ「救う」とか「守る」ってほんと大変なことなんだよね。

・ツイッターで見かけた感想で気付いたけど、岩子さん抱いて逃げる水木、おやじ殿に着させられた妖毛ちゃんちゃんこを岩子さんに着せているんだね…。そういう、そういうとこ…。この映画いちいち「そういうとこ」がちゃんとしているね!!!!!

・現代パートに戻って出てくる狂骨が時弥くんなのも結構ビックリした。まあもうあまりにもひどい形で命と未来を奪われたものな。解放されてようやく天国に昇るとき、紗代ちゃんが見えるのが泣けた。紗代ちゃんの顔は見えないから本当に紗代ちゃんの霊魂かは濁してるんじゃないかと思うけど、それで時弥くんが安らぐならそれで良いんだよ…。

・しかしいまだに美脚のネコ娘にどぎまぎしてしまう。アッ綺麗なおねいさんがいる…ってなる。

・どうにか一命を取り留めた水木、記憶失って白髪に…でも、悲しみだけが…悲しみだけが残って…ウッ、ウウッ……。

・エンドロール、あれ「カランコロンの歌」のボーカル無しバージョンだったよな…? かなり静かな曲で、その中で描かれる水木の後日談すごいよな。いや『墓場鬼太郎』とか、『ゲゲゲの鬼太郎』で描かれていたことを改めてなぞっている感じなんだけど、意味が違う状態で見ているのでなんか息を飲むって言うか息を潜めてしまうっていうか。おやじ殿が追いかけて水木が逃げてるとこはうめき声出そうになる。

・打って変わって墓から鬼太郎が生まれるシーンは雷雨の音が凄くて、そして水木が鬼太郎を抱きしめて「鬼太郎誕生」のタイトルが出るとこで力強い音楽が流れて万感の終劇…。ここで泣いてしまう方は「客電が無慈悲」とよく言われているけど、私は正直ここまで長く愛されている作品の主人公の前日譚、誕生秘話としてあまりに見事すぎて呆然としている感じで、泣いてはないが「余韻…!!! まだ現実を認識したくない……!!!」とは思う。

・いやほんとエンドロールとその後についてはマジで凄すぎて自分が何を書いても陳腐に思えるから嫌だな。全然言葉が追いつかない。むしろ言語化しない方が良いまである。取って付けたような言葉で形にせずぐちゃぐちゃのまま抱きしめていたい。

・入場特典は運よく一種類だけ手に入れられて、水木だったんだけど、見続けると脳のどこかが破壊されそうであまり長時間直視できてない。ていうかあれ一種手に入れたらもう一種も絶対欲しくなる特典じゃん。だって鬼太郎には父が二人いたって話だろ。お父ちゃん二人とも欲しいだろうがよ。RRRのグッズはビームとラーマ両方買うだろうがよ!!!!!!

・なんか書いてる今ちょうど各劇場パンフレットが再入荷しているみたいで、となるとオンラインストアもぼちぼち発送されるかな~。週末はチネチッタのLZ行くのでパンフ読んだり再見しているうちにまた追加で感想書くかも。

・ま、また記事が一万字超えてる…。私のnoteなんですぐ一万字超えるんだよ…。

・あ、あと最後に。たまにツイッターとか映画レビューYouTuberから本作を「女性オタクにおもねっててキショい」みたいなこと言ってるの見かけるんだけど、多分『ゲゲゲの鬼太郎』ってコンテンツ自体そこそこオタク向けだろって思うんだけどな。3期のヒロイン夢子ちゃんの同人誌がなかったって言えんのかい。ネコ娘の同人誌なんかないって言えんのかい。なんだ? 言うか? 「そうやって男性オタクは自分たちの性が消費対象になった途端にコンテンツに対する嫌悪感示すんだな、自分たちが女性キャラクターを消費しまくっていたことは棚に上げて」っていう話、するか? そんな話しても落としどころなんかなんだろ、こんなのオタク同士の水掛け論でほとんど無意義なんだから。別にオタクをキショいって言うのは勝手だけど、それをまるで「作品に対するまともな批評」みたいな感じで宣うのはちょっと違うと思うぞ。ただのオタク同士の喧嘩。正当な批評じゃない。わざわざお里に下りてきてドヤ顔で言わなくていいよ。それぞれの山に帰ろうぜ。

・とりあえず終わり。

12/10追記の雑記と感想

・どうでもいいが前置きとして「鬼太郎3期見てた」と書いたが、調べたら放送期間が1985年から1988年で私生まれてなかった。レンタルビデオ借りて見てたのかな。すみません、生まれてなかったです。

・パンフレットが届いた! そして水木しげる先生の『総員玉砕せよ!』も読んだ。後者はじっとりと凹んだ。

・チネチッタのLIVE ZOUND、低音強くて迫力あって良きでした。ただ忘れてたけどチネのシアター8の中央ブロックの前方って意外と傾斜がないというか、背もたれが高いので低身長の私はほんと微妙に画面の下が前の座席の背もたれに遮られてしまって、急遽着てきたコードを丸めて尻に敷いたため尻肉を痛めた。N列あたりまで上がればその心配はなかった気がする。そしてかなりの入りで退場時は展示パネル前が混雑。高校生くらいの女の子3人組が多分初見だったのかパネル見て「ねえ、コイツコイツ!!」と指さしてはしゃいでて、写真撮ろうとしてる人たちの前を塞いじゃってたのに気付いて「はっ! どかなきゃ!」って慌ててたんだけど、なんかこう、パネル見て指さして「このキャラこうだったよね」と語らう姿がすごく原初的なオタク衝動って感じで、その少し周りの見えてなさも含めて微笑ましかった。微笑ましいのは若い子だけな。いい歳した大人はちゃんと周りに気を遣おうな。(自戒)

・イオンシネマ海老名のTHXも行った。なんとなくだけどLIVE ZOUNDは低音、THXは高音ってイメージで、水木が哭倉村に入ったときの音楽だったり、乙米さんや紗代ちゃんの断末魔がすごい綺麗に響くので鳥肌立った。最高だった。「人間の血のことは人間がなんとかしなくては」という気持ちに駆られ海老名献血センターに16:30で予約入れてたんだけど、上映16:20終了予定が実際は23分くらいですごい慌てた。あとイオン海老名って階数はないけど1フロアがド広くないですか…? 出口がどこか分からなくなっちゃって「助けて…ここから出して…」って涙目になったし、ようやく出られて駅の反対側の献血センターまで走って行ったら問診で脈拍数がアウトだった。しばらく時間おいて測り直して無事に血を400ml抜いてもらった。我の血をくれてやる。

・本編の話。何度見ても社長室に入るなり「克典氏ですよ」とベラベラ喋る水木がたまらん。昭和映画っぽくあえて早口にさせていたということなんだけど、この水木の口調で一気に「昭和」に胸倉を掴まれて引き寄せられるパワーがある。ここ10年アニメ作品に疎くなってきた(当社比)ので木内秀信さんってどういう声優さんかちょっとピンと来てなかったんだけど、ちょっと湿度低めで、それでいてどこか傷っぽいサラリーマンのお芝居をしっかりされるので本当に水木にピッタリだったんだなと思う。素敵~。

・あっ、木内秀信さん映画『BLUE GAINT』の天沼さん(大たちをフェスに呼んだちょっと偉そうな先輩)もやってらしたの!? 分かんないもんだな~、今度意識して観よ。

・バンバン喫煙してる列車の中で、「水木は咳込む子供に気付いて煙草に火をつけなかったのか?」のところがなんかちょっと議論になってる気配を感じるんだけど、個人的にここも面白いな…! と思っている。あそこで明らかに子供の咳を聞いて火をつけるのをためらう芝居を水木にさせてたら列車内の昭和~って感じの空気から逸脱しすぎてるし、「成り上がるためなら歯車になることさえ厭わない野心家」という水木の印象が提示された直後にそれをやられたら「甘すぎる」し「早すぎる」と感じたと思う。ただ水木が煙草に火を付けようとした時に少女の咳の声を明らかに手前に持ってきて目立たせているのも事実で、そこで水木が手を止めてるのも明らかで。でもその直後列車内が暗くなっておやじ殿が登場するので、「少女の咳で煙草をためらった」のか「異変の気配を先んじて感じて手が止まった」のか、どちらとも取れる微妙な芝居に”あえて”しているように見える。こういうのは個人的にとても好きだ。どっちつかずな描写は逆に気持ち悪いと感じる人もいるかもしれないけど、「水木は実は優しい奴なんだけど、物語の序盤で見せすぎるわけにはいかない、でもちょっとだけ”あれ? 今もしかして…?”くらいは思って欲しい」みたいな作り手側のせめぎ合いを勝手に感じて楽しくなってしまう。

・時麿が刺されてた棒、「御神槍」と言うのか(パンフ確認)。つまりご神体みたいなことだろうな。ただ民俗学にまったく明るくないので「なるほど」と思うだけで特に考察が捗るわけではない。

・時弥くんとお話したあとのおやじ殿と水木の会話の水木の口調が好きなんだよな~。もう龍賀家の前で取り繕わなくてもいいからすごい素っぽいっていうか、声色も表情も意外とコロコロ変わるのが、フッ…フゥィ~~~~……。あとやりとりの無駄がない感じも好き。子供相手なら喋るじゃないかって言われたおやじ殿が「話の通じん相手には話さんだけじゃ」って返すんだけど、水木はそこで別にムキになって売り言葉に買い言葉の口調にならず「時貞殺しがお前じゃないなら~」ってとっとと話を進めるときのちょっとローな感じの温度感とか…。ハア、ハア…。

・また水木の話しちゃうんだが、克典氏から葉巻貰ったときにむせちゃって、克典氏に笑われてバンバン背中叩かれたあとの、葉巻持った手の甲を口に当てて流し目で克典氏の方を見る水木、のカットを待ち受けにするんで公式から画像配布してください。PCの壁紙にもするのでデカデカ高画質でお願いします。

・おやじ殿の「憐れみをかけた」のところ。多分明確な正解はなくても良いっていうか、これも観た人が取りたいように想像すればいいんじゃないかって気がするんだけど、前の晩水木を牢屋に移動させるときに胸の傷とかが見えてなんとなく何か思うところがあったんじゃないか、みたいな想像をしたけどこれはさすがにしっかり二次創作だな、ごめんなさい。前半って水木2回くらいお着替えシーンあるしおやじ殿もサービスシーン(温泉)があるんだけど「み、見え…っ」ぐらいのタイミングで切るので最高だよね。

・おやじ殿と水木が墓場でお酒飲むシーン。なんかすごい今さらだけど「人間である水木が愛を諦めていて、妖怪のおやじ殿が愛を説く」っていう構図すごいなって改めて思う。特におやじ殿の「お主もいつか運命に巡り合う」と断言しているのがすっごく”愛”で、そしてこの大きな大きなあたたかい愛は岩子さんからもらったものなんだろうなって思うともう、はい。ありがとう。

・孝三さんの件、大体把握。
紗代ちゃん→叔父は禁を犯して心を病んだ
長田→孝三さんは囚われた幽霊族の岩子さんを禁域から連れ出そうとしたけど裏鬼道の術によって心が破壊され記憶を失った(だから岩子さんを知らないのは「嘘」ではない)
という感じだったかな。ていうことはよ、ていうことはよ!?!? の話は後述。

・おやじ殿のアクションシーンかっこよすぎて毎回記憶失うんだけど、なんというかパートごとに戦闘スタイルが変わる感じがして楽しいな。蹴り技のところで気持ちカポエイラっぽさが入るとかね。

・水木が龍賀家の醜悪さを乙米さんに向かって糾弾しようとするけど長田に一発もらって気絶するとこ、「長田、体重何キロあんのかな…」って思うくらいエグい音してる。こわーい、絶対バキバキだよ、あいつ。

・目玉おやじ以外で野沢雅子さんが出てるところがあるって話あったけど、ひょっとして地下室で紗代ちゃんが使役する狂骨が暴れたときに「お許しを~」って言ってた老婆かな。声では野沢さんか全然確信ないんだけど、あの鷲鼻の老婆それよりも前のシーンからちょこちょこ見切れててちょっと何か匂わせキャラっぽいんだよな。

・隠れ妖怪は記憶の限り一個も見つけられてない。

・おやじ殿アクションシーンの狂骨も、紗代ちゃんが使役した狂骨も「ビジュアルこんなもんか~」って思ってたら最後に出てくる狂骨のビジュがかっこ良くて「これのために抑えてたのかな!」と納得することにした。ラスボス狂骨、あんなデカいのにちょっと魚っぽくくるって回ったりする動きが好き。あとおやじ殿が長い髪で後ろから頭抑えてたのにその後ろからまた頭が出てくるっていう「それアリ!?」みたいな「生理に合わないキモい挙動」などもすごく好き。

・水木、「ツケは払わないとなあ!」じゃなくて「ツケは払わなきゃなあ!」だったかも。より当事者性がある。好き。

・狂骨たちが村人を襲う場面で火のような何かで焼かれている人々が湖に飛び込んで足掻いているのが映るんだけど、あそこはやっぱ空襲や原爆が浮かんで、わざとなのかなあ~って思いつつ、あからさま「すぎない」のがこの作品の良いところなんだよな。示唆示唆しすぎてないっていうか。

・初見のとき時弥くんの「忘れないで」が「お、うん…良い話(?)だけど随分ミニマムな感じになった気がするな…?」って印象があってちょっとピンと来てなかったんだけど、アトロクで宇多丸さんが語ってたように「戦争や歴史の中で虐げられ踏みつけにされた人々がいたことを忘れないで」というのもあっただろうし、なんというか思っていたよりも広義的で深い場面なんだなと気付いた。それに鬼太郎が「忘れない」と応えるのがすっごく重要なわけで。『総員玉砕せよ!』を読んだのもあってグッと来た、というよりはずしんと重いものをちゃんと受け取った感じだ。

・哭倉村を出たときの水木についてちょっと思ったんだけど、「禁域から岩子さんを連れ出す」という行為の末路のロールモデルになってるのが孝三さんなんじゃないかと思っていて、長田いわく「記憶と心を失って」さらに白髪になってしまったのが孝三さんの末路。対して水木は「記憶を失って白髪に」までは同じで、でも涙を流して「悲しい」と感じているので心は失ってないと分かる。おやじ殿が霊毛ちゃんちゃんこを着せて「これを着けていれば狂骨に襲われても心までは奪われない」みたいなことを言ってたと思うんだけど、そうなると2パターンが考えられて。
「霊毛ちゃんちゃんこを最後まで水木が着ていれば記憶も心も守れたけど、途中岩子さんを着せたので引き換えに記憶は失ってしまった」あるいは
「霊毛ちゃんちゃんこだけでは全てを守ることは出来ないけど、心だけは失わないようにおやじ殿が着せた」とも考えられる。

・なんかこの辺、自分なりに確信できる何かがあったら良いんだけど、まあ考察はほどほどにくらいが丁度良いんだよな。もちろん作品から受け取れるものは大切にしたいんだけど、行き過ぎた解釈や考察は作品の中から更に「お宝」を掘り起こそうとする自分の「強欲」から来るものだから。描かれていないところまで「もっとあるんだろう、出せよ!!!!」とカツアゲしているのと同じようなものだから。

・もし上記の仮説が後者だったら、おやじ殿は水木がいずれ記憶を失うことは分かっていて、その上で生きて帰ると約束し、鬼太郎を託したということになるのでなんかそれもすごい、あの、すみません捗りますね。強欲。

・初見のとき水木が記憶を失うのは原作にある鬼太郎誕生と繋がるようにするための「ご都合」な印象をちょっぴり受けたのがあって、だからそこに個人的な願望としてちゃんと意味を見出したいというところもあるのかもしれない。「忘れないで」という時弥くんと、忘れてしまった水木。それでも鬼太郎を抱きしめる水木。(私も含めて)戦争の記憶を都合よく変えたり忘れようとしている日本の空気に対する何かかもな~と思いつつ、実際のところこの作品から説教臭さはほとんど感じない。それは「日本が戦争で強い時期があったのは国力なんかではなく他種族を搾取して得た力があったからだった」という(ひょっとしたらメタファー的なところもあるかもしれないが)創作と、「戦争は弱者を食い潰したむごく虚しいものだったけど、それを利用して私腹を肥やした権力者もたくさんいる」という、国としてもちゃんと不都合なところも描いているからだと思う。

・おやじ殿が水木に言ってた「いつか運命に巡り合う」というのはおやじ殿のことでも良いんだけど個人的には「鬼太郎」との運命性の方がぶっといというか因果がエグい感じがする。おやじ殿の運命の出会いは岩子さんだったんだろうけど、水木に説く「運命の出会い」を性愛とは限らないニュアンスで言っていた感じも好きだ。私も「運命の相手」って恋愛関係だけじゃなくて、友達とかそういうのでも存在すると思っているから。自分の世界を変えてくれるような「運命の相手」。

・サントラを聴けてない(サブスク配信してくれ!!)からちょっと確信は持てないんだけど、エンドロールで流れる音楽って作中で水木とおやじ殿が一緒にいる場面(村の中を歩いてアイス食べたりしてたシーン、墓場でお酒を飲むシーン、地下道を二人で駆けるシーン)で流れる曲で繰り返されるモチーフと、「カランコロンの歌」のフレーズのミックスになってるっぽい。おいおい、こりゃすごいな!! まさに「おやじ殿と水木と、鬼太郎誕生の物語」を明確に表してる曲じゃない…。

・そこも含めて、この作品の「描きたいこと」のブレなさと丁寧さが凄くて、作品としての強度も大変なことになっているんだと思う。語彙を諦めるな。

・そういやエンドロール前の泣いてる水木の後ろに一瞬軍服(同期の影?)が映るってツイッターで流れてきて、今まで全く気付かなかったので頑張って目を凝らして見たんだけどマジで一瞬しか映らなくて、水木が手を頭に当ててそれを外したときには消えてるから軍服かも分からなくて(なんか網っぽい何かがほんの一瞬だけ見える)、分かるかい、こんなの!!!! って腰抜かした。このレベルで作中に隠し妖怪仕込んでるの…? Blu-rayで一時停止しまくりながら観ないと把握できない自信がある!!!!

・ということで上映はこれからも続いてほしいし、Blu-rayも(出ないわきゃないだろうけど)出てほしいし、第二弾入場者特典が配布開始の翌日の夜回では配布終了しててもらえなくて無念の狂骨になりかけているので、全く同じものは無理だろうけどグッズ化とかブックレットに収録するなどをしてもらいたい。もう絵柄見ちゃったんだけどさ、水木半袖シャツ着てたな、オイ!!!! ください!!!!!!

・とりあえず追記終わり。また観に行きたいな〜。

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