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商品開発ストーリー|[アルテマイスター×能作]錫100%の常花「SUZUNA」ができるまで

年の瀬も迫り、慌ただしい日々を過ごされている方も多いかと思います。当社も年末年始へ向けて各部署業務に励む毎日です。

さて、去る10月初旬、当社から新商品が発売されました。すず100%の常花じょうかSUZUNAスズナ」です。落ち着いた銀色の輝きが美しい、品のある佇まいに仕上げられています。

(画像)SUZUNA 左:コスモス/右:サクラ
コンパクトなデザインで、高さは11cm程

この記事では、SUZUNAの開発ストーリーをお伝えします。


常花じょうかとは? すずとは?

耳慣れない単語が多いかと思いますので、少し説明させていただきます。

常花じょうかとは仏具の一種

常花とは「枯れない花」「永遠に咲き続ける花」を意味する仏具の一種です。アルミ・銅製で、ハスをかたどったものがよく使われます。伝統的な仏壇の荘厳具(仏壇や仏像を重厚美麗に飾るもの)として供えられることが多く、宗派の教えや地域の風習によって扱い方には違いがあります。

(左)大きな仏壇で使われるシーン
(右)蓮をかたどった伝統的な常花

すずは高価で柔らかい金属

錫は金・銀に次ぐ高価な金属として知られています。すぐれた抗菌作用があり、古くから茶器や酒器の材料に用いられてきました。さらに形状にもよりますが、100%の錫は手で容易に曲げ伸ばしできる柔らかさがあります。

SUZUNAの茎は自由に曲げられます

SUZUNA開発ストーリー

アルミや銅ではなく錫を用いたオリジナルデザインの常花をつくるのは、今回が初めての試み。開発を担当したのは開発部の木須さん・三澤さんのお二人です。発売に至るまでにどんな経緯があったのでしょうか? お話しをお聞きしました。

SUZUNAの開発を担当した
三澤さん(写真左)・木須さん(写真右)

開発のきっかけ

木須さんと三澤さんがSUZUNAの開発に着手したのは、2021年が明けて間もない頃。西日本支社の営業部からの要望がきっかけでした。内容は「卸販売向けの"高級志向でコンパクトな常花"の開発」。手元供養など小さな祈りの場が広がりを見せている今、使う人の気持ちに寄り添ってご提案できるものが欲しいという要望でした。

小さな祈りの場としてお使いいただける、
当社製の厨子

この要望を受けたとき、木須さんの脳裏に以前からのアイディアが浮かんだそうです。

「10年ほど前から金物仏具の鋳造で株式会社能作様(富山県高岡市)とお付き合いがあり、錫を使った常花が作れるんじゃないかという案が出ていたんです。これを機会に、実際に商品化してみようと思いました」

短期間で発売まで至る予定だったが……?

当時、同時進行の案件を複数抱えていた開発部。SUZUNAはその中でも比較的短期間で発売に至るスケジュールで進行していました。

しかし、一般的な鋳造方法では表現したいデザインを再現することが難しく、コスト面も合わず……。能作様と試行錯誤しながら、なんとかプロトタイプが完成しました。伝統的な常花では蓮の花がかたどられることが一般的ですが、SUZUNAでは四季の花を展開しようという方向で開発が進められました。

開発途中の試作とスケッチ。
台座も当初は木製の予定でした。

そして開発着手から約10カ月後に迎えた、社内決裁のプレゼンテーションの場。

結果から言うと、ここで決裁が下りることはありませんでした。本社営業部からは「売れないと思う」と非常に辛口な反応。「商品と価格が見合っていないのでは」という声も上がりました。

それを受けて社長からも「伝統的な常花のかたちにこだわりすぎず、一般の生活者視点をもっと強めること。もっとコンパクトで当社製の厨子にも合わせやすく、日常生活の中でも使いたいと思えるような方向にして欲しい」と修正指示がありました。

「伝統的な常花のかたちに則って前を向かせた花の形が不自然であるとか、茎が太すぎるとか、他にもいろいろとご意見をいただきました」
「このときのプレゼンでお見せしたのは1種類。あそこで決裁をいただけたら他の種類もすぐ展開するつもりでしたが、難しかったですね」

当時を思い返し苦笑いのお二人。
ここから、更に長い試行錯誤の期間へと突入することになったのでした。

リトライ! 目指せ商品化

木須さんがまず取り掛かったのは、鋳型の原型彫刻の彫り直し依頼。三澤さんのデザインスケッチをもとに鋳型の原型を彫り上げたのは、ベテラン彫刻師の角田さんです。

当社の彫刻師・角田さん
(左)彫刻中の様子
(右)「よく気分転換に来る好きな場所」という、
物流センター3Fの食堂からの眺め

コンパクトなサイズへ修正するには、原型も小さく彫り直す必要がありました。原型彫刻の木目や毛羽立ちは鋳造に影響するため、細心の注意を必要とする繊細な作業です。

原型彫刻試作

角田さんが彫り上げた原型彫刻をもとに、能作様へ鋳造を再依頼。始めは茎が細すぎて歩留まりが悪すぎるという結果になり、ならばと茎を太くしたものの全体サイズが大きくなってしまうということも。
微調整を繰り返し、全体サイズはコンパクトなまま、製造工程的にもプロポーション的にも、なんとか理想とするバランスへ着地させました。その後さらに"その花らしく"するために、茎に彫跡を残すなど、細かな表情も追加されました。

原型彫刻と鋳造サンプル

しかし、更なる課題が出現。 トラブルを乗り越える社員同士の協力

鋳造工程を無事に乗り越えたと思った矢先、仕上げの工程でも課題が出現。
錫特有の輝きを抑えるために、始めはマット塗装をかけて仕上げる予定でした。サンプルを作成し問題なく……と思いきや、塗装の剥離が発生。錫の性質を生かした"曲げ伸ばしできる常花"という商品特性も考慮すると、塗装ではない仕上げ方に変更する必要がありました。

代案として挙げられたのは「ブラスト加工」という方法。対象物へ細かい研磨材を打ち付ける加工方法で、錫などの金属に施すと艶を抑えたマットな輝きを生み出すことができます。

ブラスト加工機。足元のペダルを操作しつつ、
のぞき窓の中で手作業を行います。

ブラスト加工機の担当者へ試作を依頼すると、うまくいきそうだという返答がありました。しかしその担当者が通常業務と並行してSUZUNAの加工を行うことは難しいため、SUZUNAの生産管理を行う仏具事業部のメンバーが機械技術を習得することに。

なかなか扱いが難しいこの機械。美しい仕上がりになるまでに、繰り返し練習が必要だったと言います。
「使い慣れてる人はささっとやれちゃうけど、最初は全然うまくいかなかった。機械の使い方を教えてくれた方が治具も用意してフォローしてくれて、練習するうち徐々にできるようになりましたね」

作業にあたる仏具事業部の佐藤さん(左)と青柳さん(右)。一本一本丁寧に仕上りを確認します
ブラスト加工後に並べられたSUZUNA

こうして様々な社内外の協力を得て、ようやく生まれ変わったSUZUNAが完成したのでした。

いざ、2度目の社内決裁。 そしてお客様からの反応は?

2度目の社内決裁の場は、前回から約1年半後の2023年春。コンパクトなサイズ感を実現し、その花らしさまで表現したSUZUNAは、無事に決裁を得ることができました。そのまま、春の卸販売店様向け展示販売会でお披露目をすることに。

卸販売店様向け展示販売会(2023年春)

展示会では「かわいい」「各店舗で扱いたい」など、好意的な声が多く寄せられる結果となりました。茎を曲げられるという特性に対しては驚きの反応が多く、曲げるときのパキパキという音(TinCry-錫鳴きと呼ばれる錫の特性)と共に扱い方をお伝えすると「なるほど」と頷いてくださる方が多くいらっしゃいました。

そんなお客様の声を受けて、営業部の販促にも力が入るように。その後、秋に西日本支社で実施された展示販売会でも、前向きな反応をいただくことができました。

様々な協力を得て新しい製品を生み出す

なかなか難航し、2年半近い歳月をかけて発売まで至ったSUZUNA。能作様のご協力はもちろんのこと、普段は直接連携することが少ない社内の事業部同士が協力することで、世に送り出すことができました。

最後に、開発を担当したお二人へ感想をお聞きしました。

「開発当初は常花の既成概念にとらわれていましたが、最終的には錫という素材の特性を生かした新しい提案ができたと思います。今後も、新しい祈りのかたちにふさわしい商品を開発していけたらと思います」

慌ただしい年の瀬ですが、ほっと一息つける空間づくりに、当社のSUZUNAをお迎えされてみてはいかがでしょうか。

文/まつどめ



SUZUNA商品情報

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