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ミセス・ハリス、パリへ行く

※ネタバレ有りなので、鑑賞予定の方はご注意を。

1950年代、第2次世界大戦後のロンドン。夫を戦争で亡くした家政婦ミセス・ハリスは、勤め先でディオールのドレスに出会う。その美しさに魅せられた彼女は、フランスへドレスを買いに行くことを決意。どうにか資金を集めてパリのディオール本店を訪れたものの、威圧的な支配人コルベールに追い出されそうになってしまう。しかし夢を決して諦めないハリスの姿は会計士アンドレやモデルのナターシャ、シャサーニュ公爵ら、出会った人々の心を動かしていく。
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Diorが全面協力、『クルエラ』のジェニー・ビーヴァンが衣装デザイン、これは観るしかないと思って大してストーリーも知らずに劇場へ足を運んだら、フランスの労働者によるストやハイブランドが抱える財政問題等、意外にも社会的に斬り込む作品だった。

しかし、総じて壮年のシンデレラストーリー感。割りと好意的なレビューが多く見受けられるけど、個人的にはあまりハマれなかったなあ。

▼ハマれなかった点

ドレスを買う為に一生懸命稼いだお金を、ドッグレースで周囲全員が止める中「オートクチュール」という名前だけで£100注ぎ込んだ挙句に刷ってしまう。


かと思えば戦死した夫の遺族年金や道で拾ったイヤリングを届けた御礼金、ドッグレースの窓口をやってた友達が掛け金から抜き取った£10で大勝ちした賞金が舞い込んできて、あっという間にパリへ行けちゃうご都合展開。


やっとパリに着いたけれど宿無しなので、Nord駅の待合室のベンチで爆睡。(絶対怖くて出来ない。)


当時は完全招待制で顧客しか入れないオートクチュールのショーに誤って迷い込んだ挙句、どんどん会場に入場していく顧客の脇で「私の方が先に来たのに!」とゴネる。


なんやかんやあって作ってもらったオートクチュールのドレスをロンドンへ帰ってきて早々、まだ自分も袖を通す前に軽薄な女の子に貸してしまう。そもそも全く体型が違うのに着れてしまう矛盾。クチュリエ達があんなに丁寧に採寸して縫製してきたシーンを根底から覆す。挙句その子がドレスを台無しにしてしまい、テムズ川に投げ捨てる。


保守派のマダム・コルベールが悪役かのように描かれているけど、ムッシュの下でずっと働いてきたのであればブランドの尊厳を第一に考えるのは納得。むしろマダム意外のスタッフがほぼほぼ全員最初からミセス・ハリスの味方なのがびっくり。

▼良かった点

Nord駅の待合室にいた労働者のおじさん達のエスプリが効いててとてもフランス人らしい。最後までこの人達は良かった。


初めてムッシュを目の当たりにしたミセス・ハリス「(うちの近所の)牛乳屋に似てる!」


オートクチュールのショーのシーンは素晴らしいの一言に尽きる。伝説のバースーツを始め、ムッシュデザインのドレスはどれも最高に美しい。これぞ我らがChristian Dior!というのを見せつけられる。


アトリエでクチュリエ達が作業するシーンも素敵。『Dior&I』に通ずるものがある。


「透明人間」と揶揄される労働者達がストを起こした事によってパリの街がゴミに溢れ、目に見えて可視化される表現が秀逸。Diorのディスプレイの前に広がるゴミの山。ハイブランドを買い漁る限られた富裕層と自分達の存在を社会に認めさせるべく奮闘する労働者が混在するパリが上手く描かれていた。


ミセス・ハリスこと主人公のエイダを取り巻く友達のバイやアーチーが素敵。

アーチー役の俳優さんがルシウス役のジェイソン・アイザックだったのが地味にびっくり。ルシウスと違ってめっちゃ良い奴だったよアーチー。