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【読書録】火影に咲く

いつの世も同じ──。
幕末の志士たちも人を愛し、愛された。

新選組の沖田総司や土方歳三、吉田松陰門下生の高杉晋作や吉田稔麿、西郷隆盛らとともに戊辰戦争へと突き進む中村半次郎……。幕末の京を駆け抜けた志士たちも喜び、哀しみ、そして誰かを愛し、愛された。激動の歴史の陰にひっそりと咲く"かけがえのない一瞬"を鮮やかに描き出す全6編を収録した短編集。読み終えて、あなたはきっとこう思う──いつの世もやっぱり人は同じなのだ、と

※ネタバレを含むので未読の方はご注意。

人生初の時代小説。というのも、学生時代に歴史を大の苦手としていた私がここ数年でまさかの大河ドラマにハマったのがきっかけ。吉沢亮ならまあ見てみるか、という軽い気持ちで見始めた『青天を衝け』にどハマりし、翌年の『鎌倉殿の13人』で三谷幸喜に地獄を見せられ(めちゃくちゃ良い意味で)、昨年の『どうする家康』で誰もが知る史実がもしこうだったら?とフィクションで描かれる事の面白さを痛感。今年の『光る君へ』も全く馴染みの無い平安時代が舞台だけれど、だからこそ新鮮に楽しめている所。

そんな時に見つけたこの時代小説。原田マハさんの『ジヴェルニーの食卓』も数々の画家と女性達の生き様が綴られていたように、この『火影に咲く』も幕末の志士や詩人と共に生きた女性達の短編集。

私が特に好きだったのは『春疾風』という作品。長州藩士の高杉晋作に心奪われる祇園の芸妓の君尾。この「心奪われる」というのは決して恋慕ではなく「この人と肩を並べたい、この人に認められたい」という男女の垣根を超えた尊厳の話。

「女がみな、惚れたはれただけで生きとる思たら、大間違いどすえ」

こういう気位の高い女性、時代問わず大好きなんですわ。高杉が今どこで何を思い何をしているか知る為に他の男と深間になり、高杉と渡り合えるように寝る間も惜しんで書物を読み漁って政を学ぶ。それでも高杉がこの世を去る時に傍に沿う事は叶わず、彼が死して尚、彼と肩を並べる為には何をすればいいのか問う。彼女の逞しさと揺るがぬ思いがとても好ましかった。

他の話も全てハッピーエンドとは言えず物悲しい結末を辿るのだけれど、決して苦り切った最後ではなく、思い半ばで息絶えた人、大事な人の手を離した人、想い人に残された人、それぞれの心情が何とも心地良い作品だった。