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さんかく

※ネタバレを含むので未読の方はご注意。

「おいしいね」を分け合える,そんな人に、出会ってしまった。古い京町家で暮らす夕香と同居することになった正和。理由は“食の趣味”が合うから。ただそれだけ。なのに、恋人の華には言えなくて……。

三角関係未満の揺れ動く女、男、女の物語。恋はもういらないと言うデザイナーの夕香。夕香の“まかないが”が忘れられない営業職の正和。食事より彼氏より、研究一筋の日々を送る華。一人で立っているはずだった。二人になると、寂しさに気づいてしまう。三人が過ごした季節の先に待つものとはー。

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今年一発目の千早茜さん。やっぱりこの方の作品好きだわあ。皆どこか狡くて、どこか寂しい。恋愛はもういいと言いながらかつての不倫相手との関係を断ち切れなかったり、自分より若い男に受け入れられたいと思ってしまう夕香。華を普通じゃないと言いながら、自分も夕香との同居を普通じゃないと思っていたからこそ言えなかった正和。恋愛よりも仕事を最優先にするけれど、恋人という存在は欲する華。「誰かに必要とされたい」という呪いにも近い願いから三者それぞれが新しい道を見つけていく季節の流れが章ごとに丁寧に描かれていた。

千早さんご自身が食に対してものすごい熱量を持っている方だからか、作品の随所にも美味しそうな食べ物が溢れているのがまた幸せ。すりおろした人参と梅干しで作るあけぼのご飯、この春の内に私も是非試してみたい。ベトナム料理をたらふく食べてから「バインセオ!」で別れるともちゃんと華もすごく良かったし、夕香と正和が最後に一緒に食べるちょっといいお刺身で作る手巻き寿司も全部美味しそうだった。食に対しての向き合い方は夕香が一番自分に近いかもしれない。

仕事だけしていると自分を肯定できなくなっていく。

本文

「ヒトってさ、自分にとって都合が悪いものを変だって言うんだよ」

本文

「選べる自由って一番を見失うよね」

本文

心に残った台詞、ほとんど華の友達のともちゃんの言葉だった。小さい頃から動物への探究心が深く、母親や友人から変わり者として扱われてきた華。自分の好きな事をしているだけなのに、普通の女の子と自身の間に隔たる壁に苦しむ。私も極力「普通」という言葉を最近使わないようにしているんだけど、ついつい口走っちゃうから恐ろしいよね。「普通」って一体どこの誰が決めるんだ。

きっと読み返す度に登場人物への愛が増える優しい本だと思った。資生堂パーラーに行きたくなってきたぞ。