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ほんのわずかな山行記録 3

憧れの稜線

「山と渓谷(ヤマケイ)」という有名な山雑誌があるのですが、2011年9月号は『近くてよい山、谷川岳』というタイトルで谷川連峰の山々を紹介する特集を組んでいました。

登山を始めて間もなく1年という2011年8月、飽きもせず丹沢や箱根ばかりせっせと通っておりましたが、その頃はちょっと違う山にも行きたいな、でもいきなり八ヶ岳とかアルプスとかは怖いよ、こんな臆病なおれでも行ける手頃な山はないもんかね?と、関東周辺の山を物色しておりました。

そんな時に前述のヤマケイの特集が目に留まったわけなんですが、その特集ページを開くと一人の登山者がデカい山をバックに笹で覆われた稜線上にある一筋のか細いトレイルを歩いてる写真が目に飛び込んできた。

下界から切り離された広く深い山の中。そのど真ん中を黙々と歩く孤独な登山者…そんな雰囲気。
その、か細いトレイルは奥のバカでかい山から続いていて、頂上付近でフェードアウトしているが、そのさらに奥の幾重にも重なる山々まで続いているようだ。

視界を遮るもののない吹きっさらしの稜線上にどこまでも続く一筋のトレイル。

「ここを歩きたい!」

そう思った次の瞬間、しっかりとレジに並んでました。

家に帰って繰り返し読みました。そして、どうやらこの山域はステップアップを目指す自分にもってこいだという結論に達しました。そして最初に目指すピークを谷川岳に設定しました。

さて、ルートはどうするか。ベーシックなルートがいくつか載っていたのですが、悪いことに「日本三大急登の西黒尾根」という文字が目に留まってしまった。超有名なルートのようなんだけど、結構厳しいらしい。単に急登ということだけでなく鎖場やクライミング的な要素がある箇所があったりとバラエティに富んだルートのようだ。YouTubeでも見てみたがなかなか大変そう。でもかなり面白そう。

そんなわけで身の程知らずのアラフォー登山者は登りのルートとして西黒尾根を使うことに決めてしまったのでした。

まぁ、確かに西黒尾根は厳しそうだが、下山にはロープウェイを使う選択肢があり、わたしにとっては次のステップである泊り登山にもってこいだと思ったんですね。

とにかくあの稜線を歩く孤独感を味わいたい、ということでとりあえず縦走の前に偵察を兼ねて登りは西黒尾根、下りは天神尾根を使い天神平からロープウェイというルートで谷川岳を目指すことにしたんです。

ヤマケイの特集では気象の変化が激しく、多くのクライマーが命を落としていることから(世界最多人数)、魔の山とも呼ばれていることが書かれていたが、それを少なからず実感する登山となった。
ちなみに、私が登るところや一般的な登山道で死者が多いのではない。谷川連峰にはロープと各種確保機材を使って岩場を登るクライミングをする大岩壁があり、そこでの死者が非常に多いということ。私はてくてく歩いて登る、いわゆるレクリエーション登山だ。

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有名な土合駅のホームから地上への階段を見上げる
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登山口着:この緊張感はなんともいえません
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西黒尾根の樹林帯の切れ間:谷川岳の頂上付近以外はこんないい天気(写真は天神平)

土合駅に着いてクライマーズハイの主人公よろしく、有名な462段の階段をゆっくりと登り徒歩で西黒尾根登山口へ。天気は良かったんだけど、湯檜曽川に架かる土合橋から見た谷川岳の頂上はガスに覆われて視認できない状態。いかにも魔の山の雰囲気だな、などと感心しながら歩いているとほどなくして登山口に到着。

登り始めるとのっけからえらい急勾配で、しばらくは息を整えるのに必死だったんだけど30分ほどで体が慣れてきて自分のペースに。
この「自分のペース」ってのがこの後効いてきます。

西黒尾根は大倉尾根よりも標高差では100m程高いだけなんだけど、地図上の直線距離は2キロ前後も短い。これは大倉尾根に比べてかなり急勾配だということを意味する。この急勾配については当然認識してたんだけど、経験がないのでどの程度のペースが適切なのか計算ができなかったんですね。結局はぶっつけ本番になるんですがこの認識の甘さが反省点の一つですね。

高度感ある尾根をドキドキしながらよじ登ります
上は嫌な感じ…
鎖場をゆく若者
ザンゲ岩がぼぉっと現れる
雨が冷たい!
これ見たときうれしかったな~ もうすぐだーっ!みたいな
谷川岳は双耳峰とよばれピークが2か所ある
標高はこちらが高い
さっさと下りる

自分のペースを掴んだのもつかの間、この急勾配は予想以上の速さで体力を奪っていき、ラクダの背に着いた頃にはもう結構疲労が溜まってました。
丹沢を登る時の「自分のペース」で登ってしまったことを後悔したけど後の祭り。

さらにラクダの背を超えて核心部に入るとしばらくして雲の中へ突入し、ただでさえ体力が限界に近づいてきているところに強い風と冷たい雨が追い打ちをかける。

そうしてヘロヘロになりながらも何とかオキの耳、トマの耳と呼ばれる両ピークに立つことができた。

よっしゃー!

・・・なんて勢いは全くなく、いや、達成感は確かに感じてはいるんだけど、どんより暗い雲の中では疲労感が圧勝。少しの休憩を取って早々に下山開始。ピークにいる時間がこんなに短かったのはこれまでで初めてじゃないかな。

雲から出るといい天気だ!
上で見たかったこの眺望
俎嵓を乗り越えてくる怪しい雲
おぉ、虹が~
右に伸びる尾根が西黒尾根

帰りはロープウェイを利用するので天神平を目指して天神尾根を下っていきます。どんどん下ってようやく雲の下に出ると目の前に素晴らしい眺望が広がっていて疲れ切った体と心を癒してくれた。

しかし振り返って見上げてみると、俎嵓(まないたぐら)の稜線を群馬側に乗り越えようとする巨大な雲。スローモーションを見ているようにゆっくりと動くそれは、何か意志を持っているようで異様だ。

そんな雲を見ながら、さっきまであの雲の中にいたのかと思うとじわじわと再び達成感がわいてきて少しうれしくなったり。
おまけに熊穴沢避難小屋の先の巻き道では白毛門をバックに虹まで現れてまたうれしくなって。
小さくて存在感の薄い虹だったけど、しんどかった分きれいに見えたかもしれない。

あ~つかれた…

今回は初めての谷川岳でしかも西黒尾根ということで大変だったけど、ステップアップの山としては最適だったんじゃないだろうか。しんどかったけど全然無理!というほどではなく、とはいえ丹沢とはさすがに一味も二味も違うというか。

とにかくあまり日を空けずに今度は晴天の日を狙ってもう一度同じルートで登ってみることに。
それで問題なければその次に谷川岳から平票山までの主脈を縦走することを決心。

こうしていよいよ本格的に登山にのめり込んでいくのでした。

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