見出し画像

Composability of AMM〜無期限オプション、LPプロテクション、無限レバレッジ〜

はじめに

これまでの記事は、Voltz Protocolに始まり、CurveUSDやTrader Joe v2など具体的なプロジェクトに言及してきましたが、今回はもう少し広範な概念、仕組みを取り扱おうと思います。具体的にはAMMを活用したDeFiサービスの概要や仕組みをいくつかのプロジェクトを元に、概観できればと思っております。また、これまでは、数式の説明等に終始する場合も多く、自分自身が読みづらいと思うことも多々あったので、基本的にあまり数式は用いずに、なるべく直感的な説明をできればと思っています。いまやAMMを活用したDeFiプロダクトは、枚挙にいとまがないわけですが、今回は、表題にもある通りAMMを用いたデリバティブ、特にオプションについてPanoptic、Gamma swap、Infinity Poolといった具体的なプロジェクトと共に私自身の所感を述べていきたいと思います。またこれらのプロジェクトはまだ実際には利用できませんので注意が必要ですし、記事執筆時点から何らかの仕様変更がある点に注意してください。

注意

  1. 本noteは、情報提供のみを目的として作成されており、いかなる金融商品及び暗号資産の購入や売却を推奨するものではありません。またいかなる金融商品及び暗号資産の売買の勧誘を意図しておりません。

  2. 本noteに記載している情報に起因するいかなる損失または損害についても、私自身が責任を負うものではありません。もちろん正確な情報発信を心がけておりますが、情報の正確性について保証をするものではございません。

  3. 本noteは税務、法務、投資アドバイスとなる情報提供を行う用途で作成されたものではありません。

  4. その他、誤り等もあるかと思いますので、コメント欄などでご指摘いただければと思います。

AMMの概要

さて、AMM(Uniswap v3を基本的には想定します。)とオプションといわれると、多くの人は全く関連性がないもののように捉えがちです。しかしながら実は両者はある観点から密接に関係しているのです。DeFiの運用手法には様々なものがありますが、皆さんは流動性提供を行なったことがあるでしょうか。流動性提供というは、平たくいえばUniswapやCurveといったDEX(分散型取引所)に多くの場合ペアでトークンを預け入れて、その流動性提供の見返りとしてトレーダーのスワップ手数料を得るというものです。流動性提供者はスワップ手数料を得て、DEXとしては、その流動性によってトレーダーがスワップ取引をより効率的に実行できるようになります。しかしながら実際に流動性提供者としてDEXを利用してみると思ったように想定される年利を稼ぐことができないですし、ともすると大幅に損失を抱えてしまうでしょう。

この理由は、純粋に預けた資産の価格が下落するということもありますが、それに加え流動性提供者が負うインパーマネントネントロスというDEX特有の要因がこれに拍車をかけます。インパーマネントネントロスというのは、流動性提供者とHodler(LPを組んだりせず、例えばETH-USDCであればそれをそのまま保有しておくという意味です。)の間で生じてしまう価格変化による損失のことです。というのもDEXにおいて価格が変化するということは、DEX内のプールのトークン構成比が変化することを示します。トレーダーがトークンAとトークンBを交換する場合、トークンAをプールにデポジットし、トークンBが引き出すことになります。したがってLPは常に相対的に価値が低いトークンを保持することになります。例えばETH-USDCというトークンペアで、流動性提供を行なった場合、ETHの価値が上がれば、DEXプール内のETH枚数はどんどん減少します。つまりUSDCを抱え込むということです。一方、ETHの価値が下がればプール内のETHの枚数が増えてしまいます。反対にHodlerは、価格の変化の影響は受けますが、数量の変化は受けません。かなり説明を端折りますが、つまり数学的にいうと両者の関係は相加相乗平均といえるのです。

インパーマネントロスとオプション戦略との関連性

出典 : Beginner’s Guide to (Getting Rekt by) Impermanent Loss by  Nate Hindman

上記の図はETH-USDCでペアを組んだ場合に発生するインパーマネントロスを示したものです。ETH-USDCで流動性を提供した場合、どちら側に転んでも、損失が発生します。(補足1 : 正確には値上がり発生した場合は、Hodlerとの"収益機会損失"が発生する。純粋な損失が発生するわけではない。)
ここからわかることは流動性提供者というのは、トークンの価格変動に賭けない戦略つまり、ボラティリティをショートする戦略を取っているのに近いといえます。(補足2 : 実際にはLP提供後に、流動性の提供範囲内で、大きな価格変動が発生して、LP解体時に提供時の価格に戻るというのが手数料を稼ぐ上ではLPにとって最適です。したがって厳密にボラティリティが低いことが、望ましいわけではないが、この点を議論し出すとややこしくなるので、これ以上の言及は避けます。)

出典 : Uniswap v3 Simulator

そしてボラティリティをショートするという行為を、インパーマネントロスという観点から見れば、オプション戦略の一つであるショートストラドルという戦略をとることに近いのです。そしてドル建てで、その資産の推移を踏まえれば、カバードコール戦略を実行することとほぼ同義です。したがって以下では、オプションの基礎的な事項と、もう一段階レベルアップしてオプションを活用したいくつかの戦略について概観できればと思います。

オプション基礎

オプションの取引に慣れていない読者の方(私自身も慣れているわけではない)のために、基本的なオプション取引の手法を紹介します。

出典 : JTG証券 日経225オプション取引例

1つ目は、コールオプションの買いです。これは権利行使価格とオプションのプレミアム(補足3 : 要はオプションを購入するための手数料です。)を超えて原資産が値上がりすることにかける戦略です。ここではETHのコールオプションを買う戦略を想定します。現在価格が1000ドル、権利行使価格を1500ドル、オプションの現在のプレミアム価格を100ドルと仮定します。仮にAさんがそのオプションを購入した場合、満期日に損益分岐点である1500ドル(権利行使価格)+100ドル(プレミアム)つまり1600ドルを超えていれば利益をその上昇分に比例して得ることができます。オプションは権利なので損益分岐点を越えなければ、行使しなければ良いわけです。2つ目はコールオプションの売りで、買い手にオプションを売って、手数料であるプレミアムを得るというものです。これは、原資産の値上がりに賭けない戦略で、権利行使価格を越えなければ、買い手はオプションを行使しないわけなので、プレミアムをそのまま得ることができます。ただオプションの売り手は買い手が権利を行使してきた場合に、それに対応する義務がありますのでその点は注意が必要です。例え1ETHが10000ドルになろうともオプションの売り手は、買い手の行使に対応しなければならず、特にコールオプションの売りは無限大に損失が膨らむ可能性があります。
(補足4 : DeFiの場合は、事実上カウンターパーティリスクがないものも多いですが、注意は必要です。)
プットオプションは上記の逆、つまり原資産の値下がりに関係しますが、それら含め、他のサイトが詳細に扱っていると思いますので、これ以上の言及は避けます。そのほかにも権利行使の種類による分類として、ヨーロピアン、アメリカン、さらにはバミューダンオプションなども存在しますが、こちらも今回の内容に逸れますので、深い言及は致しません。

オプション戦略

上記の4種類の取引手法を組み合わせることによって、様々なオプション戦略を構築することができます。今回は、そのうち以下の3種類を紹介したいと思います。

ロングストラドル戦略

出典 : 北浜投資塾

1つ目は、ロングストラドル戦略です。これは、同じ権利行使価格で先ほどのコールオプションとプットオプションの買うことで、原資産のボラティリティ自体に賭ける戦略と見ることができます。つまり価格がどちらに転んでも利益を得ることができます。注意点として、オプションのプレミアムを2重に払わなければならないいのと、ATM(アットザマネー)のオプションはプレミアムが高いので、原資産の価格がそこそこ動かないと損失となります。

ショートストラドル戦略

出典 : 北浜投資塾

2つ目は、ショートストラドル戦略です。これは、同じ権利行使価格でコールオプションとプットオプションの売ることで、ボラティリティをショートする戦略と見ることができます。つまり原資産の価格があまり動かなければプレミアム分の利益を得られます。ただ暗号資産のボラティリティは、株式と比較して一般に高いですので、株式以上に実行する際には注意が必要な戦略です。

カバードコール戦略

出典 : オプション戦略で分配力を上乗せ!注目のカバードコール型ファンド特集!

3つ目は、カバードコール戦略です。これは原資産を保有しつつ、保有している資産のコールオプションを売却する投資戦略です。コールオプションを売却することによって、保有する資産の権利行使価格を超える値上がり益を放棄する代わりに、オプションプレミアムを獲得することができます。この戦略は、売却したコールオプションの原資産が権利行使価格を超えない水準で推移する場合に有効な戦略です。原資産の水準が短期的に大きく変動しないと予想される時に、原資産価格が大きく上昇した場合の収益を限定して、オプションプレミアムを獲得することにより、リターンの向上を狙います。改めて上記を比較すると、インパーマネントロスとショートストラドル、集中流動性提供とカバードコールがなんとなーく似ているなということがわかっていただけたかと思います。ここまでで重要なのは、ただ一つで、なんとなく似ているということは集中流動性含め、AMMのLPをうまいこと使ったら、いい感じにオプションのペイオフを複製できるのではという発想です。これだけ分かれば実際、大丈夫です。もっと雑にいうとAMMのLPとかを活用したらオプションつくれるでしょという話です。

AMMを活用してオプションのペイオフを複製する仕組みとPanoptic

出典 : Panoptic: a perpetual, oracle-free options protocol

さてここからは、AMMを活用した無期限オプションプロジェクトであるPanopticを例にどのような仕組みでオプションが構築されているかについて、考えていければと思います。(補足5 : 現状は、Ethereum上での展開が予定されています。)
AMMをベースにしたオプションプロジェクトは、Panoptic以外にも当然存在し、それぞれが独自の仕組みでオプションを構築しているため、他プロジェクトも検討が必要ですが、大まかな雰囲気は掴めるかと思います。これまでAMMに関しては具体的なプロジェクトに言及してきませんでしたが、これ以降は、集中流動性を要するUniswap v3を基本として話を進めていきたいと思います。Uniswap v3でなくても構いませんが、集中流動性が採用されているDEXである必要はあるかと思います。では具体的にどのようにオプションを構築するのかについてPanopticのホワイトペーパーにあるグラフを元に、理解を深めていければと思います。

出典 : Panoptic: a perpetual, oracle-free options protocol

プットオプションの売り手

全部説明するのは大変なので、とりあえず左から2番目の図のプットオプションをショートした場合について考えていければと思います。まずPanopticには3つの主体が存在します。流動性を提供するLiquidity Provider、オプションを売るOption sellers、そしてオプションを買うOption buyersです。例えば、ETH-DAIのペアでオプションを組成する例を考えます。プットオプションの売り手は、Liquidity ProviderがPanopticのプールに提供してくれた流動性を借り、Uniswap v3を用いて指定したレンジで流動性を提供します。プットオプションの売り手が権利行使価格Kを1000ドル、幅を10%のプットオプションを1単位だけ売った場合を想定します。したがってETH-DAI Uniswap v3プール内に903ドルから1101ドルの範囲で流動性を提供します。

出典 : Uniswap v3 simulator

写真の通り、現在価格が1101ドル以上の場合、当該ポジションはアウト・ザ・マネー(OTM)であるため、流動性は全てDAIで提供することとなります。このポジションは最初はOTMであるため、手数料を得ることはできません。Panopticではこの手数料がオプションのプレミアムの代わりとなるのです。つまり価格が下落し、現在価格が流動性の範囲内に収まると(補足6 : 今回の場合903ドルから1101ドルの範囲内)、Uniswap v3で発生するスワップ取引に応じて手数料を獲得することができます。

出典 : Uniswap v3 simulator

(補足7 : 画像は、1781ドルから1950ドルに流動性を提供していることになっていますが、これはUniswap v3 Simulatorにおいて現在価格を操作できないためです。ここで理解していただきたいのは、現在価格が流動性提供範囲を超えるとすべてETHになるということです。)
価格が903ドル以下になると、そのポジションは完全にイン・ザ・マネー(ITM)となり、ポジションは全てETHとなります。ただオプションの売り手がITMのままポジションを解消する場合、Panopticの流動性プールから借りた1000DAIを返さなければなりません。しかしながら現在提供している流動性は、すべてETHであり、現在価格は903ドル以下な訳ですから、仮に1ETHを使ってDAIにスワップし、Panopticのプールに返却しようにも、多くとも903DAIにしかならない訳ですから、資金が足りません。よって97DAI以上の資金を追加で返却する必要があり、Panopticの場合には、取引の開始時にPanopticへ預ける証拠金から支払いが実行されます。このことから、オプションの売り手としての取引戦略は、ポジションを解消する際に、流動性提供の範囲内で獲得した取引手数料を上回らない程度の原資産の価格変動に収まっていなければなりません。今回の例でいえば、オプションの売り手が仮に902ドルでポジションを解消する場合、98DAIを追加でPanopticのプールに返却する必要があります。したがって取引手数料で98ドル以上を獲得できていないと損失を被ります。また流動性プールから資産を借りる際に、LPに対しても手数料を支払う必要があり、加えてガス代等も考慮に入れると現実的にはもう少し、手数料を稼いでおく必要があります。よって実行していることはほぼUniswap v3に流動性を提供するのと変わらない印象です。ただ、個人的にオプションの売り手はかなり厳しいかなという印象で、正直Uniswap v3に流動性を提供するよりもしんどいと考えています。確かにオプションの売り手は、従来と異なり、買い手を必要としないため、いつでもどんなトークンでも流動性さえ提供されていれば、オプションを売ることができるというのは魅力であると考えます。しかしながら従来のオプションでは、権利行使価格、正確にいえば損益分岐点を越えなければ、プレミアムだけを獲得して、損失は被りません。一方Panopticの場合、プレミアムを稼ぐためには、ある程度流動性を提供した範囲で価格が推移して、しかもあまり下落してもいけないというかなりしんどい道を歩かされるわけです。従来のプットオプションの売り手の場合、上記の例でいえば、ETH価格が1500ドルに到達した場合、ほぼ勝ち確でプレミアムをいただけます。一方Panopticの場合、同じく証拠金に手がつくみたいなリスクは確かにほとんどないですが、その分プレミアムとなる手数料も稼げにないので、うーんという感じかなと思います。加えてPanopticは無期限のオプションですので、予めプレミアムを計算して得るということは困難です。これは従来のオプションには満期日つまり期間が設定されていることに由来します。ただ従来のオプションのプライシング関しては、私自身の理解が不十分で、申し上げれることも少ないため、ここでは触れません。さて話が長くなってしまいましたので、オプションの買い手の仕組みを解説してGamma Swapへと話を移していきたいと思います。

プットオプションの買い手

プットオプションの買い手は、反対にUniswap v3のプールから流動性を引き出しして、Panopticのプールに戻します。(補足8 : 上記の例の場合DAI、上図参照)
またオプションを売る場合にはいつでも、どんなトークンでも、どんな価格にも対応することができますが、オプションを買う場合には、そのオプションが予め売られている場合のみ、購入することができる点に注意が必要です。例えば、権利行使価格Kを1000ドル、幅10%という先ほどのプットオプションを購入する例を考えてみたいと思います。

このプットオプションを買うということは、903ドルから1101ドルの間に展開されているDAIの流動性がUniswap v3プールから取り出され、Panopticのプールに戻されることを意味します。したがってオプションの売り手が本来受け取るはずであったUniswap v3上の取引手数料、つまりプレミアムをあたかもそこに流動性が存在していたものとして計算し、オプションの買い手がそれを支払います。オプション購入時の価格が1101ドルを超えている場合、そのポジションはOTMとなり、プレミアムは発生しません。また原資産の価格が903ドルから1101ドルの範囲に入らない場合、スワップ手数料が発生しないため、当該オプションのプレミアムはゼロのままです。したがってオプションの買い手は、プレミアムを支払う必要がありません。

一方、原資産(ETH)の価格が1101ドルを下回ると、Uniswap v3上では、スワップ取引が発生するため、プレミアムの支払いが必要となります。そして価格が903ドルを下回ると、ポジションはイン・ザ・マネー(ITM)となり、手数料は再び発生しなくなります。その一方でオプションの買い手はそのオプションを行使することを選択できます。オプションの権利行使の際には、買い手は、売り手から借りた流動性をUniswap v3のプールに再び配置しなければなりませんが、これはDAIではなく、ETH建てとなります。オプションの買い手は、850ドルで1単位分のETHを獲得することができるのです。したがって権利行使価格と現在の原資産価格との差がプットオプションの買い手の利益となります。(補足9 : 正確にはプレミアムと流動性提供者への手数料を差し引く必要がある。)
オプションの買い手側はなかなか良い条件でトレードできるなと思うのは私だけでしょうか。

ボラティリティトレードとLPプロテクションを実現するGamma Swapとは

出典 : What is GammaSwap? The First Arbitrum Hidden Gem To Apply Gamma Strategies

さて次はLPプロテクションという考え方から、GammaSwapについて理解を深めていきたいと思います。このほかにもSmileeという似たようなプロジェクトもあるので興味のある方は、参照いただければと思います。これまではPanopticを例に、LPトークンを配置したり、取り除いたりすることで、オプションを再現するという仕組みを取り扱ってきました。ではLPトークン自体に何か工夫を加えたら(この表現はいまいちな気もしますが)どのような挙動になるのかという点を、Gamma Swapを例に解説していきます。GammaSwapは、Arbitrum上で展開が予定されるボラティリティのトレードにフォーカスしたDEXプロジェクトです。トレーダーは、原資産のボラティリティが上昇すると思えば、ボラティリティをロングすればよいし、ある程度落ち着くと考えるならショートすればよいわけです。このGammaSwapではLPのポジションを借りて、解体することで、つまりLPトークンを空売りするような形でボラティリティのトレードを可能とします。何を言っているのかよくわからないという方は、オプション戦略のロングストラドルとショートストラドルを改めてご覧ください。つまり、DEXに流動性を提供するという行為は、ボラティリティをショートする行為に近いのでしたね。GammaSwapでも同様で、流動性提供者、つまりボラティリティーをショートするトレーダーは、GammaSwapを通じてUniswapやSushiswapなどのDEXに流動性を提供します。流動性提供によって得られたLPトークンは、Gamma Swap上で保持されます。下記で解説しますが、このLPトークンを、ボラティリティをロングするトレーダーに貸し出すことにより、これまでのスワップ手数料収入に加え、追加の金利収入を得ることが出来ます。これにより、IL(インパーマネントロス)の軽減が期待されるというものです。


出典 : GammaSwap Protocol
出典 : GammaSwap Protocol
出典 : GammaSwap Protocol

ボラティリティをロングするトレーダーは、GammaSwapにETHとUSDCを担保としてデポジットします。その担保を元にGammaSwapプールで保持されているUniswap ETH-USDCペアのLPトークンを借り入れます。そしてそのLPトークンを解体してETHとUSDCを保持します。つまりLPトークンを用いて反対にHodlerの動きができます。具体的な仕組みは下記の図を参照してください。


出典 : GammaSwap Protocol
出典 : GammaSwap Protocol
出典 : GammaSwap Protocol

以上によりボラティリティーをロングするポジションを構築できます。ETHの価格が激しく変動した場合には、ボラティリティーをショートするトレーダーがILを被り、ボラティリティーをロングするトレーダーがインパーマネントゲイン(Impermanent Gain)を得ることができます。これまでロングストラドル戦略を展開できるプロジェクトはありましたが、このような仕組みでボラティリティをトレードできるのは、GammaSwapが初めての試みかと思います。上記でも記述しましたが、NewOrderに支援を受けているSmileeなどがあり、これから競争が始まっていくものと思われます。

ただ注意しなければならない点は、Gamma Swapに流動性提供をしたからといって、必ずしも十分にILが軽減されるというわけではありません。ILを軽減する金利を支払うのは、ボラティリティをロングするトレーダーです。しかしボラティリティをロングするという行為は、ロングストラドル戦略とほぼ同義であり、このことは、上段で確認した通りです。一方、そのロングストラドル戦略を実行できるプロジェクトは、枚挙にいとまがありません。 (補足10 : 自らコールオプションとプットオプションを買っても良いわけです。)
よってGammaSwapは、ロングストラドル戦略を実行するトレーダーに選ばれる仕組みを構築しなければなりません。つまりより多くのトレーダーがGammaSwapを使ってロングストラドル戦略を実行して、金利を支払ってくれる必要があります。


出典 : GMX <> GammaSwap Proposal
その一部です

これを踏まえるとGamma SwapとGMXのコラボレーションについても違った見方ができるかもしれません。プロポーザルによるとUniswap v3上でETH/GMXのペアについてGammaSwapが活用されます。このことは、確かに当該プールの流動性を高め、ILを軽減してくれると思います。ただGammaSwapの仕組みをもう一度考えてみましょう。GammaSwapはボラティリティをトレードできるプロジェクトですが、このボラティリティの源泉はILにあるのです。つまりILが高くなければ、ペア同士のボラティリティは高くなりません。よってボラティリティが低ければボラティリティをロングするトレーダーが減りますので、金利収入が相対的に得られません。するとILヘッジの効果が減少してしまいます。ではILが最も高くなりそうなペアは何かというとステーブルとアルトコインのペアが代名詞かなと思います。言い換えるとUSDC-ETHといったトークンの同士の相関性が低いペアです。(補足11 : 相関係数が-1になるようなものがベストですが、一般的なトークンではないかなと思います。そもそもこれでは市場が成立しませんが)
このようなペアは、ボラティリティをロングするトレーダーも当然多いと思います。しかしながらGMX-ETHのペアは、アルトコインのペアなので、ステーブルコインとアルトコインのペアと比較するとILは低い傾向にあります。したがってボラティリティトレーダーがこのペアでボラティリティをロングするかというと、ボラティリティに賭けるならUSDC-ETHペアでボラティリティロングのポジションを構築するはずです。なので、GMX-ETHの金利収入は、相対的に少ないと考えられますし、そもそもILが軽減されても、ETH、GMXのトークン価格が下落し、ドル建てで資産を減らす可能性も十二分にあるので、脳死でinするのは控えた方がいいかなと思います。

ETHよりももっと変動が期待される、プロジェクトトークンなどは、GammaSwapを通じて流動性提供をすることに適していると考えます。ただUSDC-プロジェクトトークンペアではなく、ETH-プロジェクトトークンペアなどの方が多いのでそこは検討が必要だと思います。というのもUSDC-プロジェクトトークンは、ボラティリティがETH以上に高いので、ボラティリティをロングしたいトレーダー相対的に多いと考えます。逆にプロジェクト側やプロジェクトトークンを保持する必要のある人は、Gamma Swapを通じて流動性を提供しておくと、激しいILの影響を幾許か軽減できると考えます。

またGamma Swapはディペッグ保険のような商品を提供することも可能です。例えば、今は亡きUST-USDC、FRAX-USDC、stETH-ETHなどの流動性をGamma Swapに提供したとします。Gamma Swapは、その流動性をCurveに提供します。ここでいう流動性提供者が、要は保険会社です。そしてディペッグするリスクをヘッジしたい保険加入者は、ボラティリティをロングする側に周り、LPトークンを借りる金利を保険料として支払います。ある日、大きなディペッグが発生すれば、ILが発生するわけで、保険を買っていた側は、ディペッグによって利益を得ます。保険系のプロジェクトは、審査があったり、ほぼギャンブルみたいなプロジェクトも多いので、一つの選択肢として有用かなと思います。

無限レバレッジを可能にするInfinity Pools

出典 : Infinity Pools

最後に理論上、無限のレバレッジをかけることができるInfinity Poolsについて紹介し、この記事を終わりたいと思います。(補足12 : 仕様上、最大2000倍までレバレッジをかけられるとのことでした。)
Panopticでは、流動性の配置や取り除き方を工夫することで、オプションを再現しましたが、また違った工夫を加えることで、今度は無限レバレッジを実現することが出来ます。
(補足13 : 違った工夫というか、Panopticとほぼ同じような仕組みではありますが)
AMMの世界は深く素晴らしいですね。
では早速Infinity Poolsが清算なしに無限レバレッジを実現する仕組みについて理解を深めていきたいと思います。


出典 : InfinityPools Whitepaper

Infinity Pools自体は、上記の通りUniswap v3、個人的にはTrader Joe v2と同じような仕組みのDEXで集中流動性(FloatPoolと表現)を備え、トレーダーは、現物取引の他にもレバレッジ取引を実行することができます。現物取引については、従来のDEXと変わらないので、ここでは、無限レバレッジを実現する仕組みについて理解を深めていければと思います。この無限レバレッジの仕組みを理解するにあたっては簡単なシナリオをもとに深堀をするのが有用かと思いますので、以下に展開します。

条件としてETHの現在価格が1000ドルの時に、流動性提供者が、ETH-USDCペアのInfinityPoolsに1000USDCを提供、つまり貸し出したとします。そしてこの流動性は900ドル部分の価格ティックに配置されたと仮定します。そこにあるトレーダーが、ETHのロングレバレッジポジションを構築したいと考えています。ここからがInfinity Poolsのポイントとなっていきますが、この場合、先ほど流動性提供者が提供したLPトークン、つまり1000USDCをトレーダーが借りて、ETHに交換します。仮定からETHの現在価格は、1000USDCですので、トレーダーはちょうど1ETHにスワップすることが可能です。(補足14 : 正確には手数料とスリッページを差し引いた金額で議論することが適切ですが、ややこしくなるので一旦省略します。)

ここからさらに3パターンの状況を考えてみましょう。
状況1
ETHの価格が、めでたく上昇し1200ドルに到達した場合
トレーダーは、1ETHの一部を1000USDCにスワップし、流動性提供者に返却します。具体的には0.83ETHを1000USDCにスワップし、残りの0.17ETHが
トレーダーの利益となります。

状況2
ETHの価格が、残念ながら下落し、901ドルになってしまった場合
トレーダーは、1ETHをUSDCへスワップしますが、ETHの現在価格は、901ドルです。流動性提供者からは、1000USDCを借りているわけですから、99USDC足りません。したがってInfinity Poolsでは、最大で100ドルの証拠金が必要となります。
(補足15 : 本当は900ドルで議論したいのですが、そうすると面倒なことが起きるので、一旦901ドルとします。ただ本当は900.0000000001ぐらいを想定しています。)
これは言い換えるとレバレッジ10倍で取引が行えるということを意味します。しかしながら読者の皆さんは、もっとETH価格が下落したらどうするんだ、証拠金の最大額100ドルなんて間違いに決まっていると思うかもしれません。これは下記の状況3で議論したいと思います。

状況3
ETH価格が500ドルになった場合
トレーダーは、流動性提供者への返却のためETHをUSDCにスワップし、と言いたいところですが、現在価格は500ドルになったことで返却すべきトークンはUSDCからETHへと変わっているのです。この点が非常に大きなポイントです。つまり返却しなければならなかったLPのポジションは1ETH = 900USDCというレートでETHに変わっています。今回の想定でLPは、900ドルの価格帯に1000USDCを流動性として提供しているので、ETH建てで1.11ETHを返却する必要があります。ここで、勘の良い方はカラクリがわかったかと思います。現在のETH価格は1ETH = 500ドルな訳です。そして手元には一番最初にUSDCからETHへと変換した1ETHがあります。したがってトレーダーが追加で返却すべきなのは、0.11ETHということになります。この部分が追加として、つまり証拠金なわけですが、これが最大になるのは、900ドル瞬間です。なぜなら流動性は900ドルの価格帯に1000USDC提供されているので、900ドル以下にETH価格が下落した場合は、事実上常に1.11ETHにスワップされて、流動性提供者に返却する必要があります。トレーダーは、借りてスワップした1ETHをそもそも所持しているので、流動性提供者に返却するにあたっては、0.11ETHを市場から取得する必要があります。この際に、ETH価格はなるべく低い方がいいわけで、一方レートが1ETH = 900USDC以上であれば状況2が適用されます。
(補足16 : 正確には900.0000001、日本語に未満の逆がないのでこのような表現をしていますが、ニュアンスを汲み取っていただければと思います。)
したがって900ドルが最大であり、価格レートを1ETH = 900USDCとすると、0.11ETHを取得するにはおよそ100ドルが必要です。このことからよってETH価格がどう変化しようとも証拠金は100ドルしか必要がないことがわかります。また100ドルさえ保持していれば清算も発生しません。
(補足17 : トレーダーは、流動性提供者に金利を支払う必要があるので、それらを含めるのこの限りではありませんが、この点は以下で議論します。)
この仕組みは、聞いてしまえば単純なわけですが、本当に素晴らしい発想ですよね。以下のグラフは、下記の状況を図示したものです。若干WhitePaperの例を改編しているので、辻褄の合わない箇所があるかもしれません。

出典 : InfinityPools Whitepaper
出典 : InfinityPools Whitepaper

では無限レバレッジ、平たく言えばもっとレバレッジをかけるためには、どうすれば良いでしょうか。それはより現在価格に近い場所の流動性を借りることです。先ほどの仮定はそのままに、999ドル部分に提供されている1000USDCを借りたとします。1ETHは999USDCのレートでスワップされるので、1000USDCを借りて現在価格が下落した場合、1.001ETHを返却する必要があります。もうお分かりだと思いますが、この場合の証拠金は1ドルで十分です。したがってレバレッジは1000倍です。これを流動性を借りる価格帯を限りなく1000ドルに近づけていけば、無限レバレッジが達成されるのです。逆にレバレッジのショートポジションを構築するためには、この逆をすればいいわけです。つまり、1100から1000ドルに近づけていくみたいな感覚です。左微分、右微分のイメージといえば話が早いでしょうか。

流動性提供者への影響
トレーダーにとっては、なかなか嬉しく、興味深い仕組みなわけですが、このパターンは、逆に流動性提供者側に大変な負担を強いるというのが、多々あります。しかしながらInfinity Poolsの場合は、Uniswap v3以上によい条件で流動性提供をすることが出来るのです。Infinity Poolsでは、流動性提供者が例えば500ドルから1500ドルに流動性を提供した場合、Trader Joe v2のように、それぞれの価格ティックに流動性が提供されます。Infinity Poolsは、無限レバレッジができるとは
言っても通常DEXでもありますから、まずスワップ手数料が発生します。ここまではUniswap v3やTrader Joe v2と変わりません。しかしInfinity Poolsではトレーダーがレバレッジのために、提供された流動性を借りるので、そこで金利が発生します。したがってスワップ手数料に加えて、流動性の貸出による金利収入も見込めるのです。貸出が増えれば、金利が上昇する仕組みなので、流動性提供者は、増えるでしょう。また、先ほどの例を再度考えますが、仮にトレーダーが、900ドル部分の流動性を借りまくったとしてもInfinity Poolsの場合は850ドルと950ドルの流動性を足し合わせて900ドル部分の流動性として貸し出すことで、流動性の枯渇を防止します。
(枯渇する前からバランスよくさまざまな場所の流動性を使うとは思いますが)
つまり、流動性がある場合には、スワップ手数料が稼げるし、流動性が借りられれば金利手数料を得ることができます。また流動性の借りられ方も上記の通り柔軟に対応できるので効率よく金利収入を得ることができます。

注意が必要ですが、レバレッジ何倍ということや、清算がないというのは、あくまで金利などの手数料の支払いを考慮に入れない場合で、清算が発生しうる場合もありあます。金利には2種類があり、低いレバレッジ(1から40倍)でトレードするユーザーに向けては、期間が設定されたFixed term loanが適用されます。一方高いレバレッジでトレードするユーザーにはRevolving loanが適用されます。これは金利が高い分、いつでも終了することができるローンになっています。
Infinity Poolsの仕組みはワクワクさせるものなのですが、今後のユースケースとして、マルチブロックアービトラージやフラッシュローン、無期限のストラチャード商品での活用がWhitepaperでは紹介されていました。

以上がComposability of AMM〜無期限オプション、LPプロテクション、無限レバレッジ〜の内容です。InfinityPoolsに関してはもう少し書ける内容もありますが、いかんせん量が多いので今回はこのあたりに致します。そもそもInfinity PoolsがConposabilityに当たるのかという議論はあるかと思います。よって何分誤り等もあるかと思いますので、コメント欄などでご指摘いただければと思います。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?