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〜カブトムシ/インプロの現在地〜

メンバー藤井です。
2023年、4月19日の”Wolke”、26日の”K/A/T/O MASSACRE”、2週続いたエクスペリメンタルセットのために制作したライブエレクトロニクスのシステムについて、標題の通り〜カブトムシ、インプロの現在地〜というバイブスで紹介していきます。長くなりそうな予感がしますが、お付き合いください。

”K/AT/O MASSACRE”でのライブ映像をYouTubeに公開しました!
ライブ見れなかった方も、是非チェックして見てくださいね。

ライブ・エレクトロニクスとは?

ライブ・エレクトロニクスというのは、楽器に対しマイク等で拾った音に対し、電気的な変調等によって音響の拡張を行ったり、センシングに用いて、リアルタイムに音楽的な操作を行う電子音楽のテクニックのことです。

カブトムシは、エクスペリメンタルな即興ライブを行うとき、ライブエレクトロニクスを使うことが多いです。デレク・ベイリーも言っていますが、毎回同じ人で即興をやると、即興の開拓性、スリルとも呼べるようなものが失われていきます。そこで、カブトムシはライブ・エレクトロニクス[=自分たちの出した音を特定のアルゴリズムの中で解釈させ、音あるいはイベントシーケンスの移行役などとして即興演奏に介入させること]で、音楽コミュニケーションを意図的に破綻させ、スリルを取り戻しているのです。

YouTubeで見れる「宝船クロス2」のライブもそうです。今回とはサウンドがまるっきり違いますが、事前にメンバーでライブのイメージ、コンセプトを話し合って、毎回新しいシステムを制作しているためです。

「宝船クロス2」も伝説的なライブですので是非チェックしてみてください。

コンセプト雲散霧消 OK.

話し合いで決めていた今回のコンセプト・イメージは、
「だんだんテクノになっていくルーパーを用いたフォーキーなインプロ」
だったのですが、制作しているうちに方向性が変わってきて、結果全然違うものになりました。
いわば、
「ギリ・テクノ・イズ・探してる・パストラル・紡ぐ言葉は・等身大」
そういうのもOK.というスタンスでやっているので、OK.です。

カブトムシ・インプロの進化

今回特筆すべきは、4人全員が楽器を演奏していたことだと思います。
「普通じゃん」
と思われるかもしれませんが、ライブ・エレクトロニクスでは、通常パソコンを操作するマニピュレーターという役割が必要になってきます。ですのでカブトムシのこれまでのライブ・エレクトロニクス・インプロでは、僕がパソコンの操作に従事していました。しかし、このままでは僕の中で燃えたぎる即興魂が永遠に日の目を浴びないことになります。なんとか全員が演奏しつつ、かつインタラクティブな変容が可能なシステムができないかというところが今回のシステム制作のスタートでした。

ライブを最前列で見ていた方は気づかれたかもしれませんが、あるエフェクトの操作のために4人それぞれの足元にフットスイッチを用意しました。そう、フットスイッチを用いることで、演奏しながらの操作を可能にしたのです。
ちなみに使用したのはBOSSのデュアルフットスイッチ。LEDが明るく電池駆動タイプなのでライブでの使用にぴったりでした。スイッチの信号はArduinoを使用してMax/MSPに取り込んでいます。この作業は桒原に頼みました。

使用したソフトウェア

詳しい説明は割愛しますが、今回ライブエレクトロニクスシステム構築はMax/MSPというビジュアル・プログラミング・ソフトで行いました。感覚的にプログラミングできるので、様々なアーティストに使われています。

Max/MSPで制作した今回のパッチのメインウィンドウ

では実際にMax/MSPで制作したエフェクトとシステムを紹介していきたいと思います。

「変なルーパー」

今回使用した2つの自作エフェクトモジュールの紹介に移ります。
1つ目は変なルーパー。REC/PLAYはフットスイッチで操作していました。踏んでいる間の演奏が録音され、離すとループが始まります。普通ですね。変ポイントは、ループを後から指定したBPMにクオンタイズできるようにしたところです。クオンタイズのかかり具合も変更できるしようにしています。(これを使ってそれぞれのルーパーのリズムがだんだんと一定のBPMにクオンタイズされていき、カオスが比較的「踊れる」もの(テクノ)に変容していくというようなことを目論んでいましたが、今回はこの効果があまり発揮しませんでした。機会があれば修正してもう一度挑戦したい!)

「アディティブ・ペダル」

2つ目は、僕が去年制作したモジュールで、名前は適当ですが「アディティブ・ペダル」とか「アディティブ・ゴースト」というふうに呼んでます。
「アディティブ・ペダル」も、フットスイッチで操作できるようにしていて、踏まれたタイミングの音響をアディティブシンセシスで複製し、踏まれている間再生するというもの。効果を簡単に例えると、ピアノの真ん中のペダル(ソステヌートペダル)みたいなかんじです。複製対象となる音響はIrcamが作成した"iana~"という音響心理学に基づくスペクトラム削減システムを実装しているオブジェクトで解析をしています。このエフェクトの凄さはほとんど"iana~"のおかげと言っても過言ではないです。上手く調整すればめちゃくちゃそっくりに複製できます。

「アディティブ・ゴースト」

「アディティブ・ペダル」はとてもシンプルなモジュールですが、エフェクターとしての実用性は半端ないです。ですが、グラニュラーのFreezerも似たような効果がありますし(音はだいぶ違いますが)、やってることはFFT-freezerとだいたい同じですし、比較するとアディティブシンセシスを用いていることに回りくどさもあります。が、むしろこれを生かした操作・効果がめちゃくちゃ面白いんです。「アディティブ・ペダル」のフリーズ効果を発揮している音響は解析データを用いてシンセで生成しているので、通常のアディティブシンセと同様に扱えるのです。つまり、解析データを書き換えることで、ヴィブラートをかけたり、音程を変えたり、あるいは特定の部分音(倍音)だけ音量を上げたり、下げたりすることもできます。(耳鳴りやハウリングに似た音響効果が作れます。)声とかに使う場合は、倍音ごとのゲイン比なんかをコントロールして、フォルマント操作なんかも面白そうですね。(やってないけど)

これが、「アディティブ・ペダル」の派生、そっくりに生成した音響を変容させていく、人影が人から開放されて勝手に動き出すような奇妙さを演出するというニュアンスで「アディティブ・ゴースト」と呼んでいるものです。
これは結構面白いです。パソコンで音遊びする人は是非試してみてください。

フットスイッチ操作以外

「変なルーパー」「アディティブ・ペダル」この2つのエフェクトの操作をフットスイッチで行っていました。

でも、他にも色々起こってましたよね。僕らが「テクノ・タイム」と呼んでいるシーンでは、ルーパーを指定したBPMにクオンタイズさせたり、そのBPMでシーケンスを走らせ、キックサンプルを鳴らしたり、水滴の落ちる音の物理モデリングシンセを鳴らしたりしています。

それら含むフットスイッチ以外の音響的なイベントは、即興演奏の「状態」に応じて発生するように、仕込んでいました。※即興演奏の「状態」は各マイクのセンシングデータから複雑な場合分けを行い、定義したものです。

そんな感じ&ジャズ

と、結構色々やってる感じです。
書いてみたら意外に熱が入ってとっ散らかってしまいました。頑張って平たく書いたつもりですが、分かりにくかったらすみません。

書いていて思ったんですが、プログラムって、即興の真逆ですよね。
システムを持ち込むことは、一見消極的な「秩序」の導入にも見えます。
即興に制約をもたせるという意味では、ジャズ・インプロにおける「ルール」にも似ています。しかし実際には、また違った地平が見えてきました。
今回の「システム」には、あえて音楽的でない秩序や定義も組み込みました。演奏に音楽的秩序を見出す反面で、全く違う「秩序」を投げ込んでほしいと思ったからです。結果それがスリルとなり、異化となり、転換となり、僕たちの意識に浮かび上がって、即興を新たな地平へ誘ってくれました。

今後もカブトムシは、新たなる音楽の地平を求めて試行錯誤していきます。
応援よろしくお願いします。

追記:難しい事書きましたが、バイブス伝わってればOK.ってバイブスです。

藤井登生


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