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パンク(・ロック)って?

 イギリスの、70年代3大パンク・バンドというと、決まって言われるのがピストルズ・クラッシュ・ダムドなのだろう。5大パンクになると、確かヒュー・コーンウェルが、+ストラングラーズ(まあ自分のバンドを挙げるのは当然か)とジャムを挙げていた。ある人は+ジェネレーションXにシャム69だよとか言っていた。イギリスのパンクの評論家で有名なジョン・サヴェージなんかはジャムよりもバズコックスの方が重要だと語っているが、どうなのであろうか。
 私は16歳のときにピストルズからパンクに入ったという、よくあるパターンでパンクにはまったわけだが、ピストルズはそもそも音源が少ないこともあったのか、怪しげなライヴものとかスタジオのアウトテイクが一時やたらと出ていて、とてもじゃないが全部集める気にはなれなかったが、『スパンク』とかグレン・マトロック時代のライヴ(日本でもvapから出ていた)は買って聴いた。クラッシュの『ロンドン・コーリング』はよく聴いていたし、ジャムのオリジナル・アルバムは全部聴いた。シャム69はベスト盤しかなく、オリジナル・アルバムはたまに中古盤店にあってもやたらと高くて一通り聴けるようになったのは結構後であった。ストラングラーズはハナからメジャーなレコード会社にいたから聴くのは容易であった。ジェネレーションXはビリー・アイドルがソロでバカ売れした関係からか、これも入手が容易であった。―問題なのは金銭であり、聴く時間の確保であった・・・・、と長々書いてしまったが、上記のバンドのアルバムは20歳くらいまでには一通り全部聴いたのである。
 しかし、50代も半ばになった今、我が家にこれらのバンドのアルバムは、ほぼ、ない。高邁な、ストイックな、理想主義的なウンチクを前面に押し出すバンド、革ジャンにツンツンのヘアースタイルを見せびらかすバンド、そんな連中の音を聴くのがしんどくなっていったのだ。いくらかっこいいメッセージをかましたところで、そのほとんどが絵空事にしか見えなくなっていったのだ。動物虐待やめろ?じゃあ、あんたの着ている服は何だい?戦争反対か?お前の乗っているバイクの部品を作っている会社、実はかの国の武器の流通にも・・・・ってなもんなのだ。全てのパンクスのメッセ―ジがダメと言っているのではない。中には傾聴に値するのもある。けれど、多くが私には白々しいのである。加えて健康状態が芳しくなく、ラウドな音を聴き続けていられなくなってというのもある。なんだかパンクとヒッピーのムーヴメントはある意味地続きだという気がして仕方がない。ともに連帯しようとか清くあれとか。でも一皮むけば・・・・なのだ。全然リアルではないのだ。それより「この世にもう愛は存在しないんだ」と叫んだピート・シェリー(バズコックス)の歌の方がよっぽど説得力がある。少なくともある時期からの私には、そうなったのである。
 栄森陽一氏だったか、自分にとってパンクとはクラッシュよりもダムドであり、自分の感情を、恥部も含めて思いっきりさらけ出す音楽だという意味の事を述べておられたのを読んだことがある。我が意を得たりと思ったものだ。そしてピート・シェリー自身により語られた次の言葉に、これがパンクの精神なんだよと深く共感したのである。

「人の心ってものすごく猛々しく暴力的になりうるものだよ。世間は上辺をキレイに取り繕いがちだよね。ラヴ・ソングは軽率なもんだととられがちにもなる。特にパンクの時代は皆、政治に傾いていたし。でも人の心のありようほど政治的なものはないと思うね。階級闘争とか社会問題や経済問題より人間同士の日常での関わりの方がはるかに重要なんだよ」(ピート・シェリー/ルイ・シェリー『ever fallen in love-the lost Buzzcocks tapes』、2021年、133ページ。訳文は筆者)

 ちょっと視点を変えるが、馬の合わない奴はどこにでもいるものだ。けど気に入らんつぶしてしまえ、では世の中成り立たないのだし、結局は自分にも跳ね返ってくるのだ。嫌なら関わりを持たなければいいだけのことである。相手が嫌がっているならそっとしておけばいいのである。己の、特定の人の存在意義を他者に認めさせよう、それも無理やりになんて言うのは行き過ぎである。思い上がりである。自分にとって糞でも、相手にとっては黄金の価値がある、ってことがあるものだ。逆もまた然り。押し付け合わなければ済むことなのである。
 上に記したパンクの事も、人によっては素晴らしいものなのだろう。それはそれで結構である。私には合わないだけである。だから今の私はそういう音楽は聴かないということなのである。ちなみに、クラッシュは全ての曲を否定しているわけではない。曲としての「ロンドン・コーリング」は今でも好きである。ストラングラーズも「ゲット・ア・グリップ」などはたまに聴いたりもする。ジャムはぱっと「スタート」とかのメロディが浮かんだりする。そういうものなのである。
 パンク(・ロック)って何だろう?人それぞれ?そうなのであろう。これ以上はくだくだしくなるだけだ。ただもう一言。個人の感情のありようをないがしろにする社会・人間関係、音楽(アートといってもよい)は断じてパンク(・ロック)ではない。

 ちなみに、上に掲げた画はイギリスの画家・グウェン・ジョンのもの。どこがパンクだって?私にとってはパンクなのだよ。