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パシフィック・リム×詰将棋!極上の"一時しのぎ"ゲーム『into the breach』の洗練性におれはわななきそして狂い死ぬ

謎の昆虫型巨大生物”Vek”によって滅亡の淵に立たされた人類、その運命を変えるために絶望的な時間遡行戦に挑むタイムトラベラーたち、そして人類の希望、彼らの駆る三体の巨大ロボット。

この設定を聞いてあなたが想像するゲームはどのようなものでしょうか?スーパーロボット大戦のようなゴージャスなSLG?ゼノシリーズのようなドラマチックなRPG?それともホライゾン・ゼロ・ドーンのようなAAAアクションでしょうか?

結果として出てきたものは8×8マス、手駒は僅か3枚の超ミニマムな詰将棋でした。

グラフィックだけなら、まるでフリーのブラウザゲームだ!
それ面白いのか?まあちょっと聞いてってくださいよ。

はじめまして。アロハ天狗と申します。PCでプレイ可能なシミュレーションゲーム『into the breach』がめちゃくちゃ面白いのでその話をします。


なお、この作品はPCゲームプラットフォームのsteamから簡単に購入できますし、スペックの高くないPCでも容易に動作します。値段も1500円とお手頃で、プレイまでへの障壁が低い点も魅力です。

into the breachはプレイヤーと敵が一ターンずつ(not一手ずつ)ユニットを交互に動かして攻撃しあうタイプのシミュレーションゲーム(SLG)です。こう聞くと、例えばスーパーロボット大戦やファイアーエムブレム、ファミコンウォーズのような一般的なSLGを想像するかもしれません。

ただ、本作はシステムの核となる数箇所に極めて大胆なエッセンスを取り入れることで、シミュレーションというジャンルそのものを再定義するような、斬新で洗練されたプレイ感覚をもたらすことに成功しています。

まず、ここが一番のキモなんで最初に言いますが、このゲームですね、敵の行動が全て自ターンの最初に宣言されるんですよ。行動順からターゲット、ダメージまで完全に予告されます。

SLGでそれって無敵では?と思われるかもしれないのですが、ここで次の要素が入ってきます。

敵がですね、自分より多いんですよ、ちょっとだけ。こちらはゲーム中通して3体しか自軍ユニットがいないんですが、敵は4体とか5体とか平気で出てくるんですね。しかもステージ途中でジャブジャブ追加湧きします。少しずつ楽しくなってきましたね。

そして、このゲームを更に特徴付ける点がですね、このゲームの目的は殲滅戦ではないんです。どんなマップも、敵が何体残っていようが、5ターン経過した時点で強制的にこちらの勝利で終了となるんですよ。
敵の狙いはあなたが操る3体のロボではなく、人類の生存者なんですね。マップに点在するビルこそが、敵のターゲットであり、あなたがゲーム全体を通じて守り・管理することになるライフそのものです。あなたなんか二の次で、敵はこれらを狙ってきます。

その結果どうなるかというとですね、これはもう、詰将棋です。ギッチギチの詰将棋となります。

こちらのユニットは3体しかいないのに、敵は4,5体が一目散にビルを狙っています。こちらの攻撃が敵を一撃で倒せるような攻撃力を持っていることは稀です。詰みでは?敵の行動が予告されて入る分、避けられない敗北が見えているだけでは?

ところがぎっちょん、こちらの攻撃の大半は純粋なダメージの他に、付加効果を持っています。今にもビルに突進しようとしている敵を殴って一マス押し出せば、そいつをそのまま湖に突撃して溺れ死なせることができます。砲撃しようとしている敵をフックでこちらに引きつければ、敵を同士討ちさせることもできます。

氷漬けにした敵にはダメージこそ通りませんが、事実上戦線離脱させることができます。炎上した敵は、毎ターンダメージを受け続けることでしょう。それぞれのマップ特有の自然現象は、あなたも敵も無差別に飲み込みます。

一見完全に詰んでいる状況でも、状況さえ把握しきれば、大群だった敵は壊滅し、残る敵の攻撃は空を切り、同士討ちし、吹き飛ばされた敵が地上から湧く新手を塞ぐでしょう。

動かせるユニットはわずか3体なんですが、その攻撃力と、付加効果、地形、さらには敵の動きすらも組み合わせることで毎ターン毎ターン、どう考えても無理な状況から、奇跡的な大逆転をひねり出すゲームになっているんですね。

実はこのゲーム、命中率や回避率のようなランダム要素はほとんど存在しません。敵の攻撃は必ず当たりますし、こちらの攻撃も必中です。ダメージだって完全固定です。

Into the breachにおけるあらゆる成功はあなたの鋭敏な頭脳から産み出された奇跡の一手による大逆転であり、同時に,あらゆる失敗はおまえのクサレ脳みそのひり出した寝ぼけた愚策による大惨事です。

唯一、こちらのビルにだけは回避率が設定されていますが、それは戦術に組み込めるような信頼度ではなく、あくまで発動したらラッキー程度。唯一のランダム要素が『プレイヤーの有利になる点』だけなのも理不尽さがなくてとても良いです。
ここまで言うと、めちゃくちゃ複雑で難しいゲームなのでは?という気もしますが、むしろ逆で、超シンプルで直感的なゲームなんですね。

付加効果も押出(押し出す)とか、炎上(あつい)とか、凍結(カチコチ)とかの単純なものですし、ライフやダメージも2とか3とかそういう単位なので、数値計算も簡単です。

このゲームのとにかく良いところは、人間はそれほど能力が高くない、という事実を受け入れているところにあります。

このスキルの消費コストは13で毎ターン自動回復があるから本来4ターンに2回しか使えないけどアイテムのパッシブ効果で自動回復量に8.5%のバフがかかるから、4ターンに3回使えるので、重ねがけ効果で敵の装甲値が257から204まで減衰するのでクリティカル率が18%上がるから・・(blah blah blah

というようなゲームにはめちゃくちゃ憧れるんですが、情報量や数字や算数が多すぎるゲームというのは、楽しむのには充分な訓練と根気と能力と電卓が必要なんですよね。

私は銃をバンバン撃つと人が死ぬゲームばかりやっているのであまりお脳がよろしくなく、このような数字がいっぱい出てくるゲームは正直、苦手です。

ただInto the breachはめちゃくちゃシンプルで、上に述べたように副次効果もきわめて直感的ですし、ダメージやライフも3とか5とかそういう単位なので、二桁以上の引き算ができないわたしのようなあほにもあんしんです👺

そして、もう一つ、プレイヤーの能力がさほど高くないという事実に対して、このゲームは真摯な回答をくれます。敵の行動が完全に宣言されてますね、このゲーム。つまるところ敵の行動を”読む”必要が全くないんですよ。

例えば対人戦なら相手の心理、一人プレイならAIの癖。上手い人はさも当然のようにそれらをほいほい読んだりしますが、正直、恥ずかしながらわたしは”読めた“試しがありません。

ただ、このゲームはそれが不要なんですね。毎ターン提示される『崖っぷち』を全力投球するだけで良いです。5ターンで強制終了というシステムもそれを後押ししていて、敵が何体残っていようと、どれだけユニットにダメージを受けようと、最後のターンにビルが無傷で立っていればあなたの大勝利です。

つまり、あなたが求められていることは常に全力でそのターンを凌ぎきることだけです。このゲームは『そのターンの冒頭の絶望を逆転すること』だけにゲーム体験の軸を明確に定められた、極めて鋭利に研ぎ澄まされた作品なのです。

そして、極端に狭いマップとターン制限故に、このゲームは最初のターンからいきなり大ピンチのフルスロットル、最後のターンまで完全燃焼の全力疾走です。冒頭ただ移動するだけのターンや、終盤に一匹残った敵をダラダラリンチするような展開は構造上発生せず、常に密度の濃い知的挑戦が楽しめます。

その一方で、各マップ、各ターンの戦闘そのものがランダム要素のほぼない濃密な戦闘なのに対し、ゲーム全体のマクロ構造は驚くほどライトでカジュアル

5マップほどの島で構成されるステージが4島と、最終ステージというシンプルな構成で、マップ一つ一つに時間がかからないことも含めて、ついつい後一ターンが後一マップになり、後一ステージのはずがあと一周クリアになり、夜が明け、あなたの業務に支障をきたします。

1ターン1ターンは極めて濃密なのに、それがサクサクと積み重なっていくのは、まるでヘロインの如き中毒性。

このように、クリアまでは意外とサラッと行けてしまうのですが…このゲーム、更に恐ろしいことにストーリー上もゲームプレイ上も周回前提にしているので、クリアしてもやめどきが全然見つからないんですよ。

オーソドックスな打撃・砲撃の揃った初期部隊から、敵をブンブン投げ飛ばして同士討ちを狙うような位置取り特化部隊、マップを火の海にする炎上特化部隊味方の犠牲もおかまい無しの大量破壊部隊など、全く異なる戦術を要求される部隊が多数あり、周回プレイへの欲求を強烈に喚起します。

さて、インディーズゲーム黄金期と呼んでも差し支えない昨今でも抜群の存在感を放つ本作ですが、この開発元の前作の『FTL』という作品もまた、伝説的なタイトルです

宇宙戦艦での砲撃戦をゲームのメインに据えながら、敢えて戦闘を一体一のタイマンに割り切り、クルーの管理や刻一刻と変化する船内の状況(ああっ酸素システムに火事が!うわっ砲撃システムの外殻に大穴が!あひっメインオペレーターが窒息死した!)に対応するのが非常に楽しいゲームでした。
リアルタイム進行でありながら、常時ポーズ可能という点でスムーズさと思考の余裕を両立させ、砲撃戦をタイマンに割り切ったことはむしろ戦闘の複雑性と可能性を高める結果となりました。

かくして、FTLは幅広いゲームファンから大絶賛を浴び、インディーズゲームのマスターピースの一角として君臨し続けた訳ですが、彼らは六年間に渡り沈黙しました。そして…ゲーマーからの期待を受けて発売されたのが本作Into the breachです。

6年間という期間、彼らがどれほどこのシステムとバランスを練りに練ってきたかはもはや私の想像を遥かに越えています。ですが、あなたも一度プレイしてみれば、このゲームの見た目からは想像も出来ないほどの洗練性と、奥深さと、そして凄まじい熱量の密度を理解いただけることでしょう。

願わくば、あなたがこのゲームをプレイし、天才的な閃きによる大逆転で大いに満ち足りた気分でゲームを終えた満足感を聞かせていただきたい…わかりました、白状しましょう。あなたが致命的な凡ミスによる大惨事でわななき憤死するところを、ゲラゲラ笑いながら見たい一心で書きました。

一人でも、この小さく、研ぎ澄まされ、そして完璧なゲームと出会う切っ掛けとなれればこれ幸いです。


(おわり)



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