映画『デビルマン』を2017年にもなってようやく観た。
気の迷いで映画デビルマンを観た。
もっと早くに観ていても良かった気がするが、この映画に一円でも払うのは人倫にもとるし、かといって不法動画で見るのも美学にもとるので、Amazonプライムで公開から13年も経ってからようやく観た。
敢えて出来の悪いものを観て、まあこれはこんなにも酷いわとわざわざあげつらうのは余り趣味の良い行いではないので控えているのだが、とはいえデビルマンくらい神格化されている作品だと一つの基準として一度体験しても良いと思った訳だ。
実際に観てみると、やはり伝説となるだけのことはあり、不出来さも突き詰めるとある種神々しさがでるものだなあと変な感慨を持った。
ここまで来ると『どこが悪い』とか『ここをこうすれば』とかいう余地も全くない。
わたしたちはとかく賢ぶってこうした話題の時に「この映画の難点はいろいろあるが作り手の不誠実さだろう」とか「邦画実写ブームが全ての元凶」とかいっちょ一言で総括してやろうとしてしまうが、この映画の場合にはそれはあまり適切ではない。
劇毒を飲まされた末期癌患者をヘッドショットして高層ビルの屋上から落とすようなもので、どれが死因か?といえばどれも正解なのだが、ここで正しくあろうとするならば愚直に列挙するしかない気がする。
余りにも語られ尽くした映画なので、何を言ってももはや後追いだが、それでも自分の怒りで語りたくなってしまう妙な魔力があるので、おれも映画を見ながら思ったことを並べていく。
・冒頭、暖炉の前で不動明と飛鳥了の子供時代が話しているシーン。この手の映画だと子役の演技だけは上手いというのが定番だが、この2人に関しては子役の演技もぎこちない。
・2人が読んでいる『世界の妖怪・悪魔』みたいな絵本、イラストの構図が凝っててカッコいい。この映画の数少ない良心。
・そのまま悲惨なタイトルロゴ。ダークな感じにするのを完全に失敗して小汚いだけになっている。
・明と了が双子という最低最悪のキャスティング。この映画のメインキャストの大半が地獄のような演技力だが、この主役2人(フレイム弟とフレイム兄)には演技の概念が一切なく、そして恐るべきことに終盤になればなるほど下手になっている。これ、多分途中で撮影に飽きてる。
・ひとつひとつ上げていくとキリがないがストーリーの大筋に関わらないシーンでも、ちょっとしたセリフや編集が完全に破綻しているので、何気ないシーンほど見ていて気持ち悪くなってくる。
・飛鳥了の実家の地下室シーン、セットが安っぽすぎて卒倒しかけるが、そのあと出てきたデーモン化した親父がさらにコスプレ未満の出来で卒倒しかける。
・前後して親父が自撮りで南極基地の惨状をかたるシーン、映像の周りにかかるハイテクっぽいエフェクトが死ぬほどダサい!自撮りのくせに編集されてるのもうんざりする。
・寺田克也のデビルマンデザインはかっこいいけど、フレイム弟と体格も顔も何もかも違うから変身というよりただの別人だぞ!そして何より、映画の大半はフレイム弟が特殊メイクしためちゃくちゃカッコ悪い中間形態で進む。
・この映画、全体を通して特殊メイクのクオリティが死ぬほど低くて、マジでタレントに汚いゴムを貼り付けただけになっている。現場の凄まじい士気の低さが伝わってくる。
・不動明がデビルマンになると、突然知らないデーモンがやってくる。不動明は全く知らなかったデーモンへの敵意を剥き出しにして、ワンパンで知らないデーモンを倒す。(誇張無くこういうシーンです。突然知らないデーモンが出てきてびっくりした)
あとこの映画のアクションは基本的にワンパン。
・無駄に多い登場人物とサブプロット。メインのストーリーラインは『不動明=デビルマンと飛鳥了=サタンの因縁と戦い』、『デーモンの復活により混乱して破滅する世界』の二本だが、ここに牧村家のヒューマンドラマと、牧村娘を狙うストーカーの話と、明の友達がジンメンに殺されるくだりと、特に脈絡なく襲って来るシレーヌと、学校のいじめられっ子ミーコと被虐待児童の逃避行が絡んで来る。多すぎる!
・そして最も本編と関係ない最後のプロットがやたら長い尺を消費するのでメインプロットの破綻は更に加速する。だけど、ミーコプロットは他のメインキャストがほぼ出ないのと、子役がほとんど唯一まともな演技をするし渋谷飛鳥も『ひどい演技』で済んでいるので相対的に一番まともなパートという歪さ。でも終盤のミーコのアクションシーンは渋谷飛鳥のアクションも撮り方も美術も目眩がするほど酷い。
・世界情勢が混乱していくシーンは全てニュースだけで済まされるが、このニュースキャスターがボブ・サップ。完全に気が狂っている。ただボブサップ本人はかなりのインテリなのでそつなくこなしており、この映画の登場人物の中だとトップクラスの演技力だ。
だけどニュース画面の美術の品質がとてつもなく低いし、ニュース原稿も素人丸出しなので、せっかくのボブ・サップの頑張りが台無しだ。この映画はそれっぽいシーンをそれっぽく見せるためのそれっぽい美術が全編通して壊滅しているので、どんなシーンもよくてコントにしかならない。
そもそも、こういう世界的な動きをニュースで誤魔化すシーンって普通、世界各国複数のニュース映像をザッピングさせてスケール感を出すもんじゃないの?ボブのニュースしか終始流れないので、本当に映画の視野が狭い。
・飲食店をコスプレしたメタラーが襲う。メタラーはデーモンだった。通りがかった明は中途半端なデビルマンに変身して壁を壊して飲食店に殴り込む!このシーン、背景が真っ暗なのと中途半端なスモークのおかげで全編通してコント感が凄いこの映画の中でも特に安っぽい。
メタラーを倒すシーンは例によってワンパンだが、このシーンはデビルマンでなくフレイム弟のワンパンなので本当にかっこ悪いぞ。
・あとこの映画は槇村娘のストーカーだったり、アポカリプスデブだったり、差別的なステレオタイプ描写が多くて不愉快。ポリコレに媚びる必要なんてクソ食らえだが、これはただただ無神経な下品さによるステレオタイプだ。
・ボブ・サップがデーモンの存在をニュースで世界中に衝撃映像とともに伝えるシーン。銃を持った犯罪者と警察の銃撃戦をカメラマンが捉えている最中、犯人がデーモンだと判明するシーンで、これも地味だけど相当にひどい。
警察と犯罪者が銃撃戦をしている→カメラマンは銃を持ったままの犯人に普通に近づく→犯人がデーモンに変わる→カメラマンは撃たれる って、
そりゃデーモンじゃなくても撃たれるだろ!
ここは、警察と犯罪者が銃撃戦をして犯人が撃たれる→銃を取り落して倒れた犯人にカメラマンが近づく→死んだはずの犯人がデーモンに変身してカメラマンが襲われるってシーンじゃなきゃおかしいだろ!映画に法律はないけど文法と定石はあるぞ。
・うしくん(映画オリキャラの明の友人)がジンメンに喰われる。この辺のプロットの唐突さは今更おいておくとして、うしくんの顔とジンメンの合成があまりにひどい!どこまでが合成かはっきりわかる上に、位置が頻繁にずれる。
・ヒドいヒドいと評判のシレーヌは本当に酷かった。冨永愛のコスプレ衣装での格闘シーンは完全に「ごっつええ感じ」のコントの絵面だが、デビルマンと冨永愛が変身してからはマシになるだろうと思ったらここがまた地獄だった。CGの使い方が『冨永愛のアクションを補正する』ではなくて、冨永愛の体を丸々CGで作っているので、当然不自然になるというか不自然過ぎ!高速でガチャガチャ動く見づらいシーンなのに、一瞬でモデリングもアニメーションもテクスチャもヒドイってわかるの相当だぞ。「PS1並のCGwww」という表現はあほの定型句ですが、実際・・・PSのプリレンダムービーか、XBOX360のリアルタイムモデルモデル(それも出来が悪い方)くらいの見栄えですね・・・・
・ミーコを探して家を訪ねた明たちに、たまたま通りかかった小林幸子がミーコ一家の悪口を伝えるだけのシーン。この映画は全体的に不愉快極まる作りだが、こうした空気を読まない芸能人のカメオ出演が観客の心を更に逆撫でする。小林幸子の演技は違和感ないんだけど、この人は映るだけで画面が面白くなるタイプの人なので、悪い意味で浮きまくっている。でもこち亀やハットリくんだったら良い方に働いてたはずだし、こち亀やハットリくんなら大惨事に至っても、まあギャグはすべることもあるよなという感があるが、お前よりにもよってこれデビルマンやぞという点がまた本作の許されなさに拍車を掛けている。
・世界はデーモンの存在によって大混乱になっているはずだが、明たちは農場で超豪華な弁当を食べている。この映画は全ての描写がこんな感じでチグハグだ。
・デーモンだとバレた不動明はデーモン特捜隊に磔で(!)連行されそのまま銃殺されるが、銃殺役の隊員が何と二丁拳銃で明を撃つ。二丁拳銃って『いかにも映画的なシチュエーションで大暴れするヒーロー』か『いかにも映画的なシチュエーションで大暴れするヒーローの真似をする、銃の扱いのわかってない馬鹿』のための記号であって、この場で使う描写じゃない!
・デーモン特捜隊本部の看板が、絶対に有り得ないフォントチョイス
・デーモン特捜隊をその辺の草むらから襲撃する飛鳥了はサブマシンガン二丁持ちのガン=カタで戦う。これは『いかにも映画的なシチュエーションで大暴れするヒーロー』に類するシーンなので、ここでの二挺持ちは演出上は間違ってない。だけど動きが信じられないほどダサい!絶対弾当たってない!あと設定のフォローのないガン=カタ駄目絶対。
・原作におけるサイコジェニーに相当する役回りが存在しないので、了が最初っからサタン。(サイコジェニーを出せって行ってるわけじゃないよ) この映画、シーン単位で中途半端に再現する癖に、物語の関節部分にあたる箇所がわざとかと思うほど抜けているので、こっちがめちゃくちゃ気を使ってあげないといけない。
・なんやかんやあって世界は滅び(本当になんやかんやとしか言いようがない)、世界は廃墟の中に人間の体で出来た竜巻が巻き起こる地獄と化した。
この描写自体は黙示録的で嫌いじゃないんだけど、アップになると皆肌がスベスベで健康的だし、ワキワキ動いてる。元気そう!
・ラスト、デビルマンとサタンの戦闘シーン。サタンの攻撃で吹っ飛んだデビルマンが壁にぶつかると、コンクリートが丸く抉れる。それは、球状のエネルギーフィールドで押し付けられてる時の描写で、普通にデビルマンが壁にぶつかったら壁は普通に割れるよ!
・あとシレーヌ戦でも合った描写だが、マトリックスが横回転ならこっちは縦回転だ!ってことでカメラが縦に回転するが本当にクソ見づらいだけなのでやめたほうがいいです。
・滅びた世界でサタン率いるデーモン軍団とデビルマンは最後の決戦に挑む。デーモンの軍団は凄い数だが、突然巨大化したデビルマンがワンパンするとサタン以外のデーモン軍団は全滅した。そしてデビルマンとサタンの一騎討ちもワンパンで終了。本当にワンパンが好きな映画だ。いまさらどうでもいいけど、そもそもデビルマン軍団の下りがないのなら、ミーコ自体もいらないのでは?
・最後、原作の有名なラストシーンだが、とくに脈絡なく月が割れている。
世界が滅んでも月は割れないんじゃないかな・・・?
さっきの丸く抉れるコンクリやガンカタやその他もろもろ、この映画の描写は映画自体と関係ないなんとな~く見た目をパクっただけのなんとな~くの借り物なので、元ネタでカッコいいシーンでも尋常じゃなくダサくなる。
他にもキリはないが、おれはつかれた。
ここまで何一つ褒めるところのない映画というのも珍しく、やはり映画というよりも情報災害の類だと思う。
インターネットでちょっとしたクソ映画が出るたびに「デビルマン級wwww」と観てもいないあほが騒ぎ、その都度実際にデビルマンに罹災した人がキレるというのは恒例行事となりつつあるが、実際に観てみて理解した。
デビルマンを観た人の妙な連帯感というのは選民思想やマウンティングでなく、悲惨な出来事のサバイバー特有の結束というだけなので、別にあなたは観ていないことに劣等感や罪悪感を持つ必要はない。ただ、幸せだというだけだ。
あと、デビルマンの話題になると『これよりヒドい映画があるマン』もだいたい発生するが、何かの間違いで商業ベースに乗ってしまった個人が裏庭で撮ったような作品というのは確かに存在し、それは実際にヒドいが、この映画は邦画としては超大作の部類の制作費で、デビルマンという日本最高レベルのIPを用いてこのザマだということは考慮する必要がある。
つまり、クソはクソでも道端に落ちている犬のクソと、高級レストランの調理場にぶち撒けられたクソとは評価軸が異なるので『フムフム栄養状態が悪いのでこっちの犬のクソの方が悪いクソですね』という話をされても、そこに大した意味はないということだ。
結局デビルマンを観たその晩は、余りの酷さにその日は痛飲の挙句昏倒してしまい、その週の仕事に大いに支障をきたした。やはりひどい映画は見るものでない。
終わりです。
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