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日本の中絶はどんな道をたどってきたのか②

いま、「 #経口中絶薬の高価格設定に反対します  」という声が日本のTwitterトレンドに食い込んでいる。現時点(2021/12/24/02:43)では12,396件ものツイートがなされている。フェミニストのみならず、主婦や漫画家まで幅広い層を巻き込んだ、大きな渦が出来上がっている。

本記事は、「#経口中絶薬の高価格設定に反対します」というTwitterトレンドの盛り上がりで争点になるのは何か、そして経口中絶薬の話題が日本に渡るまでに、日本国内の中絶の歴史はどう進んできたのかを述べるものである。今回は前回の記事に続いて第二段目だ。

本記事で経口中絶薬論争ついての更なる知識や、議論の切れ端を提供できたら良いと思っている。積極的にシェアやコメントをしていただき、更なる議論の発展になることを望んでいる。

今回は、「#経口中絶薬の高価格設定に反対します」という盛り上がりは何が論点となっているのか、そのうちの「日本産婦人科医会が中絶ビジネスで利益を得ようとしているのは本当か?」を書いていこうと思う。


このツイートは2000いいね以上集めた主張の、ほんの一部である。

「#経口中絶薬の高価格設定に反対します」というハッシュタグはフェミニストのみならず、主婦や漫画家や政治家まで、幅広い層から反応がある。

膨大なツイートを分析していく中で、「#経口中絶薬の高価格設定に反対します」という主張はいくつかのセクトにわかれるようだ。

①「10万円という価格はぼったくりで、日本産婦人科医会は利益を得ようとしている」
②「経済的に困難な女性の中絶にアクセスできる機会を奪いかねない」
③「女性の身体は女性のものであり、男性が口を出す領域ではない」
④「望まない妊娠で生まれた子供が可哀想だ」

より根源を探っていくと、

①中絶ビジネス化する層
②貧困問題
③リプロダクティブライツ
④反出生主義

をセクトの根源とした主張がなされているようだ。そこで各主張を細やかにみていこうと思う。

今回は①についての記事だ。

「産婦人科医会は利益を得るために中絶ビジネスをしている」は本当なのか?

公益社団法人、日本産婦人科医会

日本産婦人科医会は公益社団法人である。「公益社団法人とはなにか?」を理解するためには、一般社団法人と公益社団法人の違いを知ることが重要だ。

一般社団法人とは、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」を根拠に設立される非営利法人である。非営利に基づいているため、たとえ利益が出たとしても社員に分配されることはない。

目的のために「社員がどんな活動をするのか」に重点が置かれるため、設立時の資金の寡多は問われない。法人として得た利益は、社員に分配されることなく、活動目的のために回されるのが特徴だ。

そして、公益社団法人とは、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」に基づいて設立され、公益事業を行う法人である。

公益社団法人を設立するためには、先ほどの「一般社団法人」を既に設立していなければならない。公益社団法人を設立時には「法律で定められた23の公益目的事業」のどれかに当てはまるかが、行政庁によって厳しく審査される。

1.学術及び科学技術の振興を目的とする事業
2.文化及び芸術の振興を目的とする事業
3.障害者若しくは生活困窮者又は事故、災害若しくは犯罪による被害者の支援を目的とする事業
4.高齢者の福祉の増進を目的とする事業
5.勤労意欲のある者に対する就労の支援を目的とする事業
6.公衆衛生の向上を目的とする事業
7.児童又は青少年の健全な育成を目的とする事業
8.勤労者の福祉の向上を目的とする事業
9.教育、スポーツ等を通じて国民の心身の健全な発達に寄与し、又は豊かな人間性を涵養することを目的 とする事業
10.犯罪の防止又は治安の維持を目的とする事業
11.事故又は災害の防止を目的とする事業
12.人種、性別その他の事由による不当な差別又は偏見の防止及び根絶を目的とする事業 
13.思想及び良心の自由、信教の自由又は表現の自由の尊重又は擁護を目的とする事業 
14.男女共同参画社会の形成その他のより良い社会の形成の推進を目的とする事業
15.国際相互理解の促進及び開発途上にある海外の地域に対する経済協力を目的とする事業
16.地球環境の保全又は自然環境の保護及び整備を目的とする事業
17.国土の利用、整備又は保全を目的とする事業
18.国政の健全な運営の確保に資することを目的とする事業
19.地域社会の健全な発展を目的とする事業
20.公正かつ自由な経済活動の機会の確保及び促進並びにその活性化による国民生活の安定向上を目的とする事業
21.国民生活に不可欠な物資、エネルギー等の安定供給の確保を目的とする事業
22.一般消費者の利益の擁護又は増進を目的とする事業
23.前各号に掲げるもののほか、公益に関する事業として政令で定めるもの

上記のような規定のもと、日本産婦人科医界は公益社団法人として認定されている。

法人番号:5011105004814
ニホンサンフジンカイカイ
公益社団法人日本産婦人科医会
東京都新宿区市谷八幡町14番地市ヶ谷中央ビル
最終更新年月日:平成30年6月27日
https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/henkorireki-johoto.html?selHouzinNo=5011105004814

日本産婦人科医会は「公益財団法人」ではなく「公益社団法人」であるので、法人格は「財産そのもの」ではなく「人の集まり」になる。

日本産婦人科医会が利益を得るとしても、その利益は活動目的のために充てられ、社員個人の懐が大きくなるということはない。

公益社団法人の性質上、目的は公益のためにあらなければならず、その上利益が社員個人の分配アップに使われることはないため、「日本産婦人科医会が中絶ビジネスをもとにして利益を得ている」とは言い難いだろう。

公益はどこにあるべきか?

日本産婦人科医会の木下勝之会長は「医学の進歩による新しい方法であり、治験を行ったうえで安全だということならば、中絶薬の導入は仕方がないと思っている。しかし、薬で簡単に中絶できるという捉え方をされないか懸念している。薬を服用し、夜間に自宅で出血した場合に心配になる女性もいると思う。そうした場合にすぐに対応できる体制も必要だ」と述べました。

日本産婦人科医会は、処方は当面、入院が可能な医療機関で、中絶を行う資格のある医師だけが行うべきだとしていて、木下会長は「医師は薬を処方するだけでなく、排出されなかった場合の外科的手術など、その後の管理も行うので相応の管理料が必要だ」と述べて、薬の処方にかかる費用について10万円程度かかる手術と同等の料金設定が望ましいとする考えを示しました。(参考)

上記にもある通り、木下会長の言葉通りに理解するのならば、「薬の処方とその後の管理を考えた10万円」である。

日本の中絶はどのような道をたどってきたのか①にもあるように、経口中絶薬は「飲んで終わり」のものではない。

ミフェプレックスを服用した女性100人中2~7人程度が、中絶を完了するため又は膣からの多量出血のため、手術を必要とします。(米国食品医薬品庁FDA)
腹痛と膣からの出血は、薬剤による中絶において予想される症状です。通常、これらの症状は薬剤の効果があることを示します。しかし、時には腹痛や出血が認められても、中絶が完了せず、妊娠が継続していることがあります。このため、使用者はミフェプレックス使用後約7~14日後に医師を受診し、フォローアップを受ける必要があります。(米国食品医薬品庁FDA)

経口中絶薬の服用後は、母体の安全性のため、医師への受診が絶対である。

これを踏まえて「それでも10万はぼったくりだ」と主張する人々ももちろんいるが、彼女らが指摘しているのは、「公益社団法人の指す公益性とはどこにあるのか」であろう。

要するに、「中絶に関する一連の薬の処方、診察、処置に10万件」は、公益性の観点からは妥当なのか?という問いである。

日本のリブ的な文脈から言えば、「産む•産まないは女の権利」であり「性と生殖の自由reproductive freedom」を、国家は人権のもとに保障すべきだという主張だ。(詳しくは以降の記事で論じる)

であるから、リブの主張を引き継いだフェミニストは「産む・産まないは女の権利」「性と生殖の自由」を、公益性に組み込んで考える。

23の公益目的事業の中から抜出するとすれば、下記をフェミニズムは上げるであろう。

12.人種、性別その他の事由による不当な差別又は偏見の防止及び根絶を目的とする事業 

14.男女共同参画社会の形成その他のより良い社会の形成の推進を目的とする事業

さらにラディカルなフェミニズムでは、「23の公益目的事業でさえも、男社会の中で決められた男性至上主義的な枠組みであるのだから、そもそも私たちがこれを基準にものを考えなければならないこと自体がおかしい」と言う。

そもそも23の公益目的事業というのは平等観点ではなく、公平観点に寄っている。女性は子供を産む身体を持っており、男性は子宮を持っていない。男女は差異なく平等であることはできないのだから、よりよい社会のために公平であることが重要である。

しかしながら、フェミニズムで主流派となっているセクトは平等観念からアプローチをする。「バイアグラが安価であるのに、アフターピルや経口中絶薬が高価であるのは平等ではない」という主張も、平等観念による考え方だ。

その中でも「23の公益目的事業でさえも、男社会の中で決められた男性至上主義的な枠組みであるのだから、そもそも私たちがこれを基準にものを考えなければならないこと自体がおかしい」というような、ここまでラディカルな平等観念を主張している人間は極々少数である。

しかし、こうした「フェミニズム理論における平等観念からの公益性」と、「一般的な日本産婦人科医会における公平観念からの公益性」の違いが、「10万円」という壁を作り出したということを知っておいてほしい。

もっと適切な表現をするのならば、「10万円という設定を壁化した」ということを知っておいてほしい。フェミニズムは本来イデオロギーではなかったものを、イデオロギー化する思想である。本来問題にされてこなかったものを、問題化する思想である。

「#経口中絶薬の高価格設定に反対します 」の主張者は、あくまで、公益性を自己決定権における女性の権利にあてている。

対して、日本産婦人科医会が考える経口中絶薬の位置付けと公益性は、「自己責任であることを説明して処方すれば全く問題なし、とまでは言えない」であろう。

日本産婦人科医会のコラムではこう述べられている。

 コロナの影響で講演会は激減し、あってもオンライン講演会ばかりの時代となりました。聴講する側としては便利で、似た内容の講演だったら飛ばせるので大歓迎です。
 最近になって、たまに製薬会社からの講演を引き受けると、「国内未承認薬については話さないでください」と書かれた内容の書面にサインをさせられることがあります。

 企業としてのコンプライアンスの問題があるのでしょうが、聴講される先生方は、普段の臨床に直接役立つ内容だけではなく、教養として関連するUp-to-dateな情報も仕入れたいから、わざわざ自分の時間を割いていると思われます。しかし、企業によって「1歩先」までの情報のみ提供されて、「3歩先」の情報は統制されているのが現状です。

 あと、関連学会等である程度議論されていないと、特に女性医学領域では大学スタッフや勤務医が全く知らない国内未承認薬が、開業医を中心に個人輸入または輸入代行業者を通じて、日常的に多くの施設で処方されている実態もありそうです。

 国内未承認薬だと、有害事象発生の際に規制当局(厚労省やPMDA)の責任がないだけで、自己責任であることを説明して処方すれば全く問題なし、とまでは言えなさそうです。また、臨床研究として処方するにしても、最近はヒト臨床研究に対する法整備が進んでおり、申請や研修等を整備するのが相当煩雑で、小規模施設で臨床研究をきちんと行うには高いハードルが存在します。

 それなりに信念をお持ちの先生方にとっては、ドラッグラグに対する草の根運動とも解釈できますが、勤務医の立場から申しますと、日常臨床において国内未承認薬を安易に個人輸入や輸入代行による自己責任で処方するのは推奨できず、あくまで教養や将来への心構えとして国内未承認薬の情報を収集することが望まれます。

(中略)

 あと、経口中絶薬(ミフェプリストン)は、母体保護法との関連、厚労省から個人輸入に関する注意喚起文書が発出されていることから、国内で市販されるまで処方は御法度です。

(14.学術講演会では触れられない国内未認可の性ホルモン関連薬剤より)

実は、医師が患者の治療に用いるために、未承認薬を日本へ輸入する行為は合法である。実際、日本でもミフェプリストン(経口中絶薬)を使った治験がなされている。

日本産婦人科医会は、厚生労働省や米国食品医薬品庁FDAの喚起に従い、自己責任による経口中絶薬の処方に、慎重な態度を示した。

経口中絶薬と権利はどこへ向かう?

日本では母体保護法により、母体保護法指定医以外の中絶は認められていない。現行法では、母体が自己判断で経口中絶薬を服用すると、堕胎罪に触法する。

「妊娠中絶薬で堕胎容疑、女を書類送検「親に迷惑かけたくなかった…」
国内未承認の経口妊娠中絶薬を服用して堕胎したとして、警視庁新宿署は19日、堕胎の疑いで、東京都内の無職の女(22)を書類送検した。同署によると、女は「交際相手からおろしてほしいといわれた。これまでにも中絶したことがあり、病院の費用を親に借りて迷惑をかけたくなかった」と容疑を認めているという。
捜査関係者によると、薬物を使用して中絶した本人が立件されるのは異例だという。女は当時、妊娠20週で、病院での診察は受けていなかった。中絶薬はインターネットを通じて約2万5千円で購入したという。
送検容疑は昨年5月下旬の3日間、自宅で「ミフェプリストン」と「ミソプロストール」という2種類の薬約10錠を飲み、同6月下旬に堕胎したとしている。
女は服用後に激しく出血するなどしたため、医療機関で診察を受け、医師に服用を打ち明けたという。医師から通報を受けた新宿署が捜査していた。
ミフェプリストンは国内未承認で、譲渡や販売は薬事法で禁止されている。厚労省は16年10月、子宮破裂などの危険性があるとしてホームページなどで注意喚起していた。
女に薬を販売したとされる自営業の男(51)は、北海道警に薬事法違反容疑で逮捕されている。

(産経新聞11月19日より)
福岡県警は22日、妊娠した交際相手の女性に国内未承認の中絶薬を飲ませ、流産させようとしたとして、不同意堕胎未遂容疑で、福岡市内の20代の男を逮捕した。
(日本西新聞 2021/2/23より)

公益性の折り合いのみならず、現行法に堕胎罪があることが、経口中絶薬を医師の管理なしに販売できない理由である。

フェミニズムは今後、経口中絶薬の低価格化とともに、市販化に向けて堕胎罪の改正に向けて、主張していく方向だと予想される。

今回、書き綴ってきたのは、「#経口中絶薬の高価格設定に反対します」の盛り上がりの論点として「日本産婦人科医会が中絶ビジネスで利益を得ようとしているのは本当か?」というものであった。

次回は「経済的に困難な女性の中絶にアクセスできる機会を奪いかねない、貧困問題」という視点を探っていく。

ただいま不法行為に悩まされ、裁判のお金を作るのに苦しい状態が続いています。       当方も学生身分で、大学受験を控えた高校生の身分なのでお小遣いがとても厳しいです。そこで、ここまで読んでくださったみなさまに、ご協力をお願いしたいと思いまた。          もし、「記事がわかりやすいな」と思ってくれたり「裁判頑張れ!」と応援してくださる方がいらっしゃいましたら、是非「投げ銭、スキ、シェア、サポート」をよろしくお願いします🙇‍♀️

うーたゃ

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