「バズり報告: めっちゃ面白いSF短編の紹介により、ツイートインプレッション数が11万件に激増した事象について」
バズり報告: めっちゃ面白いSF短編の紹介により、ツイートインプレッション数が11万件に激増した事象について
要旨
本稿は、とあるめっちゃ面白いSF短編小説を紹介するツイートを行ったことにより、いいねが1500件、RTが1122件(2022年8月30日現在)行われ、結果、当該ツイートのインプレッション数が11万件に至った事象についてをまとめたものである。
なお、元となった小説はそれ単体で以前からバズっており、当該ツイートの寄与は決して高くない。本稿は小説自体のバズりではなく、あくまで小説を紹介したある弱小アカウントのツイートのバズりに関して報告するものである。
経緯
時系列は以下
2022年 8月24日 18:00 SFメディア「anon press」上において、長谷川京氏の「障害報告: システム不具合により、内閣総理大臣が40万人に激増した事象について」と題された短編SF小説が期間限定で無料公開される
2022年8月24日 18:06 作者の長谷川京氏によって小説がTwitter上で紹介される
2022年8月25日 07:31 @alltale2037 という Twitter 弱小アカウントを運用する担当者(以下 運用担当者。なお本 note アカウントも運用)が小説を読み、紹介ツイート(以下 当該ツイート)を投稿する
2022年8月26日 07:03 当該ツイートへのいいね数が100件を突破
2022年8月26日 20:00頃 当該ツイートへのいいね数が500件を突破
2022年8月27日 20:00頃 当該ツイートへのいいね数が1000件を突破
2022年8月30日 22:00頃 当該ツイートへのいいね数が1500件を突破
2022年8月31日 18:00 小説の無料公開期間の終了。以降は有料配信となる
バズり規模
上記の事象により、当該ツイートは2022年8月30日現在でおよそ1500件のいいね、1100件のRTを獲得し、インプレッション数は11万件、エンゲージメント数はおよそ12000件であった(図1)。この程度のいいね、RTはTwitterでは特段珍しいものではないが、数件のいいねでバズったと思うような弱小アカウントにとっては空前絶後の反応であった。このアカウントの固定ツイートのエンゲージメント数は2年半で1409件だが、そのおよそ9倍の規模のエンゲージメントをわずか数日で達成したことになる。
最盛期である8月26日夜には数分に1回程度の頻度で反応があった。運用担当者にヒアリングを行ったところ、増え続ける数字と鳴り止まない通知に「増え続ける総理アカウントをモニタする国民皆管理統合データベース(国管DB)の管理責任者のような心持ちであった」との証言があった。2022年8月30日現在、反応はほぼ収束しているが、それでも依然として通常期よりは高頻度で反応が見られている。
原因及び小説本体のバズりとの因果関係
当該ツイート自体の文面には面白い要素はまったくなく、リンク先にあった小説そのものの持つ面白さがひとえにバズりの原因である。
実際、小説自体が8月24日 22:25の時点ですでにバズっていることがanon press編集部の樋口恭介氏から報告されている。
樋口恭介氏は精力的に感想をRTされており、他にも多数のアカウントがこの小説を高く評価していることが見てとれる。さらにちょうどこの週末には日本SF大会(F-CON)でSF関係者が一堂に会しており、会場での直接の拡散も行われていた。そのため、当該ツイートが小説自体へのエンゲージメントに寄与した割合はさほど大きくないと推測される。
多数のアカウントがこの小説を紹介するなかで、なぜ当該ツイートに多数のいいね、RTが集中したのかは現在のところ不明である。このアカウントは影響力皆無の弱小アカウントであり、インフルエンサーとの接点はまったくない。運用担当者の体感では樋口恭介氏にRTいただいたあたりから反応が増え始めたという証言があったが、樋口氏は他の言及ツイートも等しくRTしておられるため、当該ツイートに反応が集中したことを説明できない。おそらく単なる確率事象であり、この世界線では「たまたま」当該ツイートがバズっただけであった可能性が高い。
どのようにツイートが拡散していったのかをTwitter APIを叩くことで解析することも検討されたが、APIリクエスト数の制限と運用担当者のスキル不足により断念された。
当該ツイートのバズり方の特徴
当該ツイートには、一般的なバズツイートに比べてRT数の割合が多いという特徴があった。これは「フォロワーに伝えたい」「拡散したい」という感情が喚起された結果であり、もとの小説がそれだけ魅力的だったことの証左であると考えられる。
また、いわゆる「クソリプ」「炎上」「マウント」等が皆無であり、コメントも好意的なものばかりであったことも特徴的であった。これについて運用担当者は「炎上だけはしたくないと思っていたので、きわめて平和というとても幸せなタイプのバズりを経験させていただいた」「自分の好きなSFというジャンルでたくさんの人達が大喜びしているのは精神衛生上良いものだった」と証言している。
運用担当者の暫定対応
本来、いいねやRTなどの称賛は作者である長谷川京氏が受け取るべきもので、紹介しただけの人間が作者を差し置いて受け取るのは筋違いというものであり、いわば主人公よりエキストラが注目を集めてしまうような歪な状況が生まれていた。また当該ツイートには作品へのリンクはあったが、作者ご本人の存在を、当該ツイートを見た層にまったく伝えることができていなかった。クリエイターの方々にとって、自身よりも紹介した人間が注目されてしまう状況はパクツイ問題などにも通じるゆゆしき事態であり、人様の作品でバズってしまうのはあまりに申し訳ないと判断した。
そこで「バズったら宣伝」システムを活用し、リプツリーに長谷川京氏の紹介を追加することで少しでも作者の存在感を主張するという暫定措置を講じることとした。
この暫定措置は長谷川京氏にご迷惑をおかけする可能性もあり諸刃の剣であった。またリプツリーのエンゲージメント数は実際にはそれほど増加しなかった。しかし長谷川氏からは大変温かいリプライをいただき、事態を悪化させるような状況は避けることができた。長谷川氏にはその後も、運用担当者の厄介ファンムーブやイキり悪ノリに対し寛大な対応を賜り、感謝の念に堪えない。
TLおよび運用担当者への影響
通常時の運用担当者のアカウントはエンゲージメントがほとんどゼロであるため、フォロワーからは「ぱねぇ」などの声が多くあった。またTL上では古来より伝わる儀式を促す投稿が行われ(図2)、ハンドシェイクプロトコルにしたがって厳かに執行された(図3)。
もう一つの様式美である「バズったら宣伝」については、別に自分自身のツイートが面白いわけではないこと、すでに宣伝枠を使用したことからしばらく静観していたが、フォロワーから後押しをいただきあらためて実施することとなった。運用担当者は『HELLO WORLD』(藤井太洋先生じゃなくて野﨑まど先生のほう)というSF映画を観て以来「ハロワ芸人」として生きているが、この映画は内容的にもタイトル的にもSF者やIT関係者への訴求力が高く、当該ツイートへのエンゲージ層との親和性が高いため、今回題材として選択した。また運用担当者が初めて長谷川京氏の作品『パンデモニウム・ダラー』を読んだきっかけが、映画と共通する要素「京都駅ビル大階段」であったことも大きい。
バズりが落ち着いてからの投稿ということもあり、この宣伝ツイートはあまりエンゲージメントを得られなかったが、なんと長谷川京氏がRTしてくださり、その配慮の心はTLの「ハロワ民」に深い感銘を与えることとなった。
さらに長谷川氏からいただいた
というリプライは、同じく『know』に人生を狂わされた運用担当者に大きな衝撃を与えた。運用担当者は「ファンサだとしてもあまりに出来過ぎている」「道理で自分に刺さるSF成分が近いと思っていた」などと興奮を隠せない様子であったが、過去の記録を再調査したところ本年6月の時点で氏の作品に強く刺さった片鱗が見られており(図4)、このような事象の積み重ねが最終的に今回の事象を誘発した可能性は否定できない。
なお運用担当者は人様の作品のおかげでバズっただけなのに明らかにはしゃぎ過ぎであり、今後厄介ファンとしてさらなる奇行に走り長谷川氏や関係者に迷惑をかけることのないよう、運用担当者には三ヶ月の(おやつ代の)減俸、始末書の提出を命じ、厳重な処置を施した。
今後の恒久的な対応に向けて
極めて遺憾ながら、今回のバズり現象は確率的事象である可能性が高く、次の作品が発表されても今回のようなエンゲージメント数の激増を運用担当者のアカウントに期待することは困難である。しかし、作品そのものに力がある限り、必ずやまた別のアカウントが同じ役割を担い、同様に多数のエンゲージメント数を獲得するだろうと期待される。その際、本報告書がバズりという事象に対するLessons Learnedとなれば幸いである。「バズりの裏には必ず物語がある」。
運用担当者にはnote上でのanon pressアカウントのフォローを命じるとともに、長谷川京氏のファンとしての自覚を再認識させた。今後、お気に入りの作家の一人として、長谷川京氏の作品を追いかけていくこととなるだろう。
本事象に際し、素晴らしい作品を生み出して下さった長谷川京様とanon pressの樋口恭介様および関係者の皆様、Twitter上で長谷川様の作品に触れるきっかけを与えてくださったゲンロン大森望SF創作講座の邸和歌様と関係者の皆様、「儀式」に協力下さったssh様とNal様、一緒に盛り上がって下さったフォロワーの皆様、そして11万のインプレッションと1万2千のエンゲージメントをくださり「バズる」という貴重な体験をさせてくださった全ての方々にこの場を借りて御礼申し上げます。
付録
本報告書はもともと非公開としていたが、つい出来心でスクショをツイートしてしまったところ関係者の目に止まり、公開の運びとなったものである。
一ファンの悪ノリに乗っかってくださり、親身な言葉と共に背中を押してくださった樋口さんと長谷川さんに、再度、心より感謝申し上げます。
(本家より長いのってどうなんだ)
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