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【Track Review】欅坂46, 〈黒い羊〉 (2019)

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Artist : 欅坂46
Track : 黒い羊
Released : 2019.02.27.
Label : Sony Music Entertainment Japan
Genre : J-Pop

まず明かすべきなのは、これを書いている本人はJ-Popの主要なリスナーではないということで、記事で扱おうとする欅坂46グループについてもわずかで断片的な情報しかもっていない点だ。秋元康プロデュースのグループであること、「笑わないアイドル」というコンセプトを含め、反抗する思春期を演技するということくらいしか把握できておらず、実質グループとファンダムの間で作られているストーリーについて知っているのは何もない。

それで、徹底的に外部からの視線で見ると、彼女らのデビューシングル〈サイレントマジョリティー〉の「大人たちに支配されるな」という歌詞を、そのシステムを作り上げた「大人」の手から書かれたことを考えると、やはり混乱してしまうのだ。メロディーのリズムが不安定に組まれて、没入すべき落差が発生しなかったのもあまり慣れない作られ方で困惑した。最近、秋元康が制作に参加したと聞くアニメーションシリーズ《22/7》をちょっとだけ観ながら欅坂46の反抗的な感性、その上に君臨する「大人たちのシステム」などのコンセプトが一脈相通だと感じたが、両方とも似た理由で発生する矛盾を耐えづらかった。

そしておよそ3年後、グループ八つ目で、「欅坂」としては最後のシングルである本曲は、デビュー曲と似ているところが多い。ロックとオーケストレーションが結ばれたプロダクションと、絶対多数の偽善に対抗する話者のコンセプトなどがそうだ。デビュー曲と比べてみると、本曲ではテンポにもう少し余裕を与えてグルーブと落差を形成する区間を作り、ベースギターとピアノなどのセッションがもっとジャジーに展開される。それで、今までのシングルと共に考えてみると、話者自身を「黒い羊」という具体的な対象と等置させて、少なくとも本曲のナラティブ内だけでは「少数」としてのスピーカー機能を遂行できる位置に立ち、〈サイレントマジョリティー〉から追求してきたと思った。

だからこそ、ミュージックビデオにて、話者を群れから排除したまま去っていく最後の場面は衝撃的だった。本曲の最後まで少数者としての正体性を応援するわりには、彼女を取り巻く世界の変化可能性を閉じてしまったラストシーン。「不協和音なんて怖くない」(〈不協和音〉)と歌っていた彼女らではないか。と言っても、その〈不協和音〉にも「仲間からも撃たれると思わなかった」と告白するし、それは本曲で「自らの真実を捨て白い羊のふりをする者」の偽善とも連携して見られるはずだ。

結局「世界」に溶解された「ニセ・白い羊」は(おそらく)同町圧力によってまたもや「黒い羊」を嘲笑う。その構図が実際の(学校を含める)社会組織で起きるイジメの形を現しているのはわかる。しかし、メッセージはその次を見る問題だ。不協和音は続き、世界は永遠に敵と規定されるのか?彼女らの名前で最初から最後まで扱ってきた少数と多数、黒と白の構図は、政策当事者との乖離から生まれる気慢性と、にもかかわらずそこに説得力を付与してきたパフォーマーたちのカリスマまで加わって、複雑なはてなを残す。

おすすめ度:Good


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