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【Track Review】 Creepy Nuts, 「Bling-Bang-Bang-Born」 (2024)

1MC 1DJで構成されたヒップホップデュオCreepy Nutsのラッパー、R-指定のラップ・パフォーマンスは、現在、日本語ラップで想像できる最高水準の境地に達したように見える。これを構成する要素としては、連音を積極的に利用した緻密なライム配置で、グルーヴと打撃感を交互に駆使し、声のトーンを自由自在に変化させる技術で緩急を呆れるように調節することにある。スピードが速いのも一役買おう。いつか「日本最高のヴァース」というタイトルで広がった映像の主人公が彼である事実も—タイトルの主張がとても気まずいのは置いといて—彼の技量に対する反応として読まれる。

彼はボーカリストとしても優秀な姿を見せて、例えばCreepy Nutsの直前ヒット曲「堕天 (DATEN)」(2022)なんかはボーカルパフォーマンスが中心となる曲だ。メロディー作曲能力と声のトーン調節技術が適切に合わせたポップアピール能力を見せるのだ。しかし、このような点は、Creepy Nutsがいわゆるメジャー活動を通じて、むしろ「ラップ」シーンの中心とは多少かけ離れた様子を見せてきたのも事実だろう。

したがって、魔法と超能力が飛び交う世界で、敵と生身で対峙する『MASHLE』の主人公マッシュに、巨大な歌謡界を生身で切り抜けていく自分たちを投影した本曲は、面白いメタ層位を作り出し、しばしば対立的なものとして表現されたりする「大衆 vs マニア」図式を巧みに乱す曲になる。「マジで? コレおま全部生身で?」 語り手が(おそらく)マッシュに(漫画のセリフのように)驚く一行は、曲が駆使するユーモアを一気に表わす。「Bling-Bang-Bang-Born」が2024年現在共有されている最も愉快なトラックのうち1つである理由は、このようにマッシュのギャップのあるダンスが楽曲内容と、楽曲を借用したアニメ作品のストーリー及びキャラクター層位、そして楽曲アーティスト層位まで全部連結して作る冗談だからだ。

だから、アーティスト本人の話をする2節よりは、マッシュと友達のストーリーを振り返る—ちょうどTVサイズで放映される—1節が形式と内容のあらゆる面でよっぽど興味深い。最初の8小節をイントロで打つ時、「実力を発揮し切る前に」で始まる1節は16小節をほぼ同じ韻律形式を繰り返すが、やはり声に変化を与えたり、ダブルリングを打って休止部を形成、「あ、キレてる / 呆れてる周り」のようなの注目を引くダジャレなどであちこちに変奏を追加して華やかに飾る。また、サビは3つのサブセクションに分けられるけど、最初のセクションだけでも「鏡よ、鏡よ、答えちゃって / Who's the best? I'm the best! Oh yeah」というこの2行で仮声と合唱が交互に登場し、これは2番目(「bling-bang-bang,...」)と3番目(「Eyday 俺のままでいるだけで 超flex...」)セクションでラップ-シンギングのように発声する方式とテクスチャーを異にして違いを生み出す。

汎国家的に流行中のジャージークラブになぞって作ったビートは、Lil Uzi Vert「Just Wanna Rock」(2022)がアシッドなダンスフロアを再現するのとは目的が違うように見える。「Bling-Bang-Bang-Born」はそれより約3ヶ月前に発売されたシングル「ビリケン (BIRIKEN)」(2023)とジャージークラブリズムからフック音節までほぼ同じフォーマットで作られた。この曲は、以前のシングル「堕天」と違って、厚いベースドラムに速射砲ラップを加減なく駆使するラップ曲で、その年の日本で最も優れたラップパフォーマンスを盛り込んだトラックの一つに挙げられた。

一方「Bling-Bang-Bang-Born」はアニメ『MASHLE – 2nd Season』とのタイアッププロジェクトであることを考慮してか、ベース重量を果敢に減らして、その場に軽く跳ねる木繚の音とジャージークラブ特有の軋むサンプルなどをきっちりと入れた。(だからむしろ前回よりもっとジャージークラブの文法に近づいた感もある。)さらに重要なのは、パフォーマー・R-指定が様々な声のトーンをまるでコラージュでもするように配置したということだ。130BPMを超えるトラックの上にR-シテイのラップ節は、びっしりとテキストを爆撃する区間と、グルーヴィーにメロディーを呟く区間を適切に交差させる。その過程でR-指定がボーカリストとして持つ技量まで動員して、ラップとボーカルがお互いに緩急を調節する方式で混ざり合い、さらに興味深い成果物として誕生する。

YOASOBI「アイドル (IDOL)」(2023)がそうだったように、アニメタイアップをしてショートビデオで中毒性のあるフックと簡単なダンスを拡散させる方式は現代J-Popがヒットする凡例中の凡例だ。楽曲が何をきっかけに爆発的に拡散したのか突き止めるのは難しいだろうけど、とにかく人気に火がついてから、彼らは精一杯油を注いだ。例えば、YouTubeで本曲を広めるのはアニメのオープニング映像で、ショートビデオ用のダンスを踊るのはCreepy Nutsではなく、オープニングの中のマッシュだ。Creepy Nuts公式YouTubeチャンネルは熱心にアニメ映像を利用してショーツを切り抜き、その後フルバージョンのミュージックビデオも—実写版もあるが—アニメを利用して再生回数1億回以上を達成する。このように楽曲をアニメプロジェクトの下に積極的に従属させる様相は現在のJ-Popヒット公式を改めて確認させる。いろんなウタイテとVTuberのカバー対象に上がったのもアニメカルチャーの影響が大きいだろう。ただ、その対象が日本語ラップ曲という点は特別だ。日本語ラップで最も象徴的なラップバトルシーン出身のアーティストが、最も優れたレベルで駆使するパフォーマンスを、最も軽い形で、最も広くグローバルに浸透させる事例となるからだ。

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