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【Album Review】 Kanye West, 《My Beautiful Dark Twisted Fantasy》 (2010)

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Artist : Kanye West
Album : My Beautiful Dark Twisted Fantasy
Released : 2010.11.22.
Label : Def Jam, Roc-A-Fella
Genre : Hip-Hop


今からちょうど10年前、Kanye Westの五つ目のスタジオアルバムである本作、《My Beautiful Dark Twisted Fantasy》が世に現れた。そしてPitchforkとRolling Stone誌などをはじめ、様々な評論誌から満点に近い絶賛を受け、その登場から時代を貫く名盤の王座を背負った。-これが、本作に関心を持つ人なら必ず一度以上は耳にする『神話』だろう。

このように、いわゆる『完璧だ』と言われる名盤がある。代表的に、The Beatles 《Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band》(1967)が長い間その座を守っていて、Pink Floyd 《Dark Side of the Moon》(1973)と、Radiohead 《OK Computer》(1997)などに至るまで。完璧な、無欠な、圧倒的な、みたいな修辞が付いてくる。(ヒップホップのジャンルでよく『完璧』と呼ばれる名盤は代表的にNas 《Illmatic》(1994)があるが、これは『圧倒的な』と言うより、『しっかりした』完成度として見られて、少し違う論議として見てみたい。)

では、気になるところがある:完璧とは?!

聴き続けているうちにいつの間にか一の人生名盤になったアルバムだが、最初はそこまですごいとは思えなかった。そもそも当時、海外ヒップホップに聴きなれていないのもある。もし最初からヒップホップ文法に慣れていたら最初から好きになっただろうか?と仮定すると、たぶんそうだろうとは思うけど、とにかく自分にそう言った『神がかる』経験はなかった。僕は最初からあの『神話』を耳にした後にようやく聴き始め、今でも蓄積されていく聴取経験はその神話を『証明』しているわけだ。「宗教でもあるまいし…」と突っ込みたいところだが、カニエ兄弟は次の作品《Yeezus》(2013)で不敬なことに「I Am a God」と宣言する…。

個人的にはこの『完璧』という基準、というか概念にいつか突っ込みたい気持ちは満々だが、それを証明するくらいの知識は足りない。その代わり、「何がそんなにすごいですか?」という視線をもって、本作の要素を探ってみたいと思う。

告白すると、さっき『完璧な名盤』の例として言及したアルバムのほとんどは自分にあまり直観的に伝わらない感じがある。まだロックに慣れてないのもあるし、その中で《Sgt. Pepper's…》くらいがポップなメロディーと多様なスタイル、直観的な実験性などの要素で好んでいる。《Dark Side of the Moon》と《OK Computer》の場合は、『それ自体で一種の完璧な基準になった』ような感じで、それを少なくとも自分の力量の中で内部の直観的な要素を通じて証明できる方法が見えないからか、嗜好の一部としても受容しにくい感じだと思われる。(しかもヒップホップ名盤《Illmatic》さえも、好いてはいるが、やはり自らのことばでそれを証明するのは難しい。)

それに対して本作は『露骨に完璧になろうとする欲望』が現る、というか溢れ出す。最初のトラック〈Dark Fantasy〉からそうだ。「Can we get much higher?」そしてそれを包むコーラスとバロック式オールガン。なんか、その、壮大な感じでしょ、バロック…?〈Power〉ではアフリカ民俗音楽とプログレッシブロックのサンプルを同時に融合させながら、なんか『権力』について言いながらオバマをけなしたり…。〈All of the Lights〉ではすごい数のポップスターたちをフィーチャーリングに起用し、オーケストラ合唱団のように使ってマイケル・ジャクソンを(すごく問題のある歌詞で)追悼したり…。〈Monster〉はループ一つに様々なサンプルを使ってめまいさせる中、ラップのパフォーマンスで圧倒したり…。〈Runaway〉を聴くと、おお、長い!すごい!なんか言ってることは情けないセクハラ事件の告白だけど…『ヒップホップ』なのだし別によくないかな?!(※良くないです。)

どこか素晴らしいところを見つけると、またすごく不快な部分が付いてくる。ほら、人はよく自身の弱いところを隠すために外部の成功を求めるというじゃないか。これもそんな感じに見える。壮大な音を持ち込んで、みっともない自信を包もうとする…。よくある話で、その意図が見え見えなのにも関わらず、なぜ「へえ、カニエくんスゴイね!」は、「えっ、カニエくん最低…」を勝ってしまうのか。いやまあ自己判断によって別にどんな意見を持ってもかまわないけど、とにかくなんでみんなそんな感じなのか。

話を戻して、Kanye Westは『名盤神話』に必要な要素を全部入れ込む。本当、ジャンルを問わず色んな所からもちいったサンプル。その配置はすごく繊細だ。そして、それを華麗な『ポップ』として昇華する。

本作はラップアルバムだが、同時にメロディーが記憶に残るポップアルバムでもある。さっきも引用した〈Dark Fantasy〉の「Can we get much higher?」をはじめ、〈Gorgeous〉で繰り返されるKid Cudiのサビ。後半部の〈Hell of a Life〉-〈Blame Game〉-〈Lost in the World〉の三連打もやはり先に思い出されるのはメロディーの方じゃないか?ラップ・サイファー曲の〈Monster〉もその砲門を開けるのはフォークバンドBon Iverのボーカル、Justin Vernon。〈Runaway〉の場合、Kanyeのパフォーマンスは全部シンイングで処理している。ポップ性の総集合と見れるのはやはり〈All of the Lights〉で、Rihannaの導入から始め、John Legendのブリッジ、Alicia Keysのコーラスまで、メロディーを華やかに咲かす。ここで面白いのは、言及したメロディーの半分近くがまたサンプリングで行われたというところだ。

Kanye Westはいつもポップをしてきた。キャリアーの序盤、Jay-Zにプロデューサーとして起用されたときにさえも満足せず、彼はラッパーとして有名になりたがった。ストリート経験のない彼をラップシーンは無視したが、そのステレオタイプを巨大なエゴで塗りつぶした。彼は名声を欲しがって、名声を得て、現在も熱い論争の話題にされている。その名声を正当化するために。憧れのMichael Jacksonの座に、踊れない彼が上るために。Taylor Swiftの舞台乱入事件で全世界を敵に回した彼が再起するために。亡くなった母、Donda Westのために。本作は『完璧にならなければいけなかった』と伝われる。

本作の制作に用いられた「ソングキャンプ」(Song Camp)という独特な方式-以後、英米ポップではもちろん、K-Popでさえ重要に定着する方式-は、Kanyeがスーパー音楽軍団を指揮する座に上ったという偉大さとしてよく伝われるが、それくらい強迫的な完璧主義に追いつかれる様子としても見られる。とにかく、本作のために色んな人が参加し、様々なアイデアが発揮され、壮大な歴史がサンプリングを通じて発現された。その脈絡の中で「カニエ」は作られたが、その栄光は結局誰のもの?「See, I invented Kanye.

My child-like creativity, purity and honesty is honestly being prodded by these grown thoughts.」(〈Power〉中)

ひとりの時間に育つ考えから作られていく、子供のような想像力、純粋さ、率直さ。その句は国家権力を論する曲で挿入された。そして10年後、Kanyeは『Birthday Party』を組織し、米大統領選挙の候補に出る。個人のエゴが世に及ぼす巨大な影響力。それは今まで僕らが習ってきた、資本主義的な『夢』の形で、それが大衆文化系を『本当に』掌握した彼が2010年代一番偉大なアーティストとして記録されるべき理由で会って、またその誰かの夢が『政治権力』になった時の姿を、やはり彼と親しかった一人の企業家から見られた。

ここまで至ると、いきなり知ってしまった人生名盤の10周年を記念するなどと言ってあたふた作成し出したレビューに限界が来る。実を言うと、僕は本作に対して、ひたすら『音』の側面にだけ注目しようとした。単純にその感覚、活用、配置、音階、落差に関する称賛酒で本作の『神話』を説明できると夢見たのだ。実際、本作を聴きながら感嘆するところは、音の使用であって、背景にはあまり目を向けたこともないのだ。では、また、「何が完璧なのだ?」偉大になりたかったから、偉大になるべきだったから、偉大になった。でも、誰だってそうなるわけではない。そして、完璧という絶対的な基準もない。それらを人々に『完璧だ』とだましてみせるその要因。それを説明するために結局は個人的な経験に、外部的な脈絡に依存することになる。いや、もしかすると、それが『マジで』素晴らしいから、むしろ正面から接近できず、周辺部に砕け散っていっているのかもしれない…。


おすすめ度:★★★★★



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