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「ゴミ」つながりの課題本!?~古屋美登里 × 豊崎 由美、呉明益『複眼人』(KADOKAWA)を読む~

2021年8月の月刊ALLREVIEWS、フィクション部門は古屋美登里さんを迎えて、呉明益『複眼人』をを読み解きます。翻訳者の古屋さんが月刊ARに登場するのは2回目で、前回はジェーン・オースティンの『高慢と偏見』を取り上げました。古屋さんの小尾芙佐愛が炸裂した対談でした。
今回は、台湾の小説。英語翻訳者の古屋さんはどのように読み解くのでしょうか。
※対談は2021年8月29日に行われました。
※対談はアーカイブ視聴が可能です。

時間軸と空間軸を組み合わせた素晴らしい小説

呉明益は『歩道橋の魔術師』、『自転車泥棒』で知られる台湾の作家。1971年生まれで、現代の台湾文学を代表する作家です。課題作『複眼人』は台湾の少数民族の話、台湾に来たデンマーク人、そして架空のワヨワヨ島の話など、複数の話が絡み合った小説。ストーリーは時間と空間を自由自在に動いていきます。

台湾語、デンマーク語、英語、ワヨワヨ語など様々な言語にも配慮した書き方に翻訳者の古屋さんは感心します。古屋さんが気に入った表現がワヨワヨ島に出てくる「掌海師」、「掌地師」という、土地の長老を指す言葉。英語読みの古屋さん英語で何と訳されているかを調べると ”Sea Sage ”、”Earth Sage"だったそうです。この英語の翻訳も素晴らしいと古屋さん。

台湾文学の豊かさを示す小説

豊崎さんは、課題本が、台湾文学の主流にいる呉明益が少数民族の問題を現代小説に落とし込んでいることは台湾文学の豊かさを示していると感銘します。日本にも、アイヌや沖縄の問題はあるけど、それを、現代の小説に落とし込む作品はなかなか出てこない。

また、ワヨワヨ島という架空の設定の細やかさも評価。ワヨワヨ島という「大きな嘘」を成り立たせるためにのディテールの細やかさが生きています。

「ゴミ」で『堆塵館』とつながる

古屋さんはエドワード・ケアリーの翻訳者として知られています。『複眼人』の中で、「ゴミの島」は大きな役割を果たしているのですが、エドワード・ケアリーの『堆塵館』は、まさにゴミで一大財産を築いたアイマンガ―一族の物語。豊崎さんから「ゴミつながり?」と言われましたが、『堆塵館』も面白い小説です。

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対談では、豊崎さんの李琴峰さんへの期待と激励、『自転車泥棒』を訳した天野健太郎さんの追悼、古屋さんの倉橋由美子愛など、『複眼人』を軸に話題が縦横無尽に飛んでいきます。課題本の核心に触れる質問が出た時、ネタバレしないように回答するお二人の術もすごいです。そして最後は「飲みに行きたい!」と豊崎さん。「人の作ったものが食べたい!」と古屋さん。コロナが1日も早くおさまりますように!!

対談はアーカイブで堪能できます。

最後にお二人から告知。古屋さんの最新のお仕事はこちら。

豊崎さんからはYouTubeで大森望さんとの「芥川賞・直木賞選評メッタ斬り」のお知らせ。ぜひチャンネル登録を。

【記事を書いた人:くるくる】​

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