見出し画像

偏愛ステートメント、銭湯編

日々忙殺されていると、ふとアイデンティティの輪郭を見失う気がする。

ひたすら手を動かすことに思考停止して、今何を考えているのか感じているのか、心の声を聴く余裕はもてない。セルフケアというほどではないが、代わりにポジティブな感情の棚卸しをする。

ただ自分の好きなものについて書きまくって「こういうものが好き!」と宣言するだけなので、偏愛ステートメントということで。

今回は銭湯について書いてみよう。

1人暮らしを始めてから、お風呂が好きだと気づく

銭湯が好きになる前の話から。実家には趣味として、お風呂が好きな人はいなかった。銭湯やスーパー銭湯、温泉を目的に出かけた記憶もない。入浴剤も排水溝が詰まるから禁止、とされており、特にお風呂にこだわることなく育つ。大学時代も周囲に銭湯好きな人がいるのも知っていたけれど、1回だけ友達と銭湯に行ってみて「まあこんなものか」と思ったくらい。

就職して1人暮らしを始めた頃から、風向きが変わった気がする。実家ではできなかった、好きなタイミングで好きなように入ることが叶った。楽しくて仕方ない。時間ある日はちょっと早めから1時間くらい湯舟に浸かってもいい、なんなら何時間入っててもいい。好きなだけ歌っても怒られないし、ゆったりしたい日はちょっと浴室を暗くして映画を見ても良い。

ずっと念願だった入浴剤も毎日気分で変えたりして、とにかく目につくものは何でも試した。今はクナイプを使うことが多いけれど、もうドラッグストアや出先で見つけた入浴剤は端から端まで買った。わりと入手しやすい市販品はだいたい試した自負がある。

手あたり次第、買いまくっていた時期の入浴剤たち

水風呂を越えていけ

そんな感じで、ああ実はお風呂が好きだったんだ、と気がついてからは銭湯に興味が出てきた。それから友達に連れて行ってもらった代々木上原の大黒湯で水風呂に入った時、戻れないラインを踏み越えた気がする。それまで水風呂にちゃんと入ったことなかったし、むしろ苦手だと思ってたいたのに、今では「水風呂のためにサウナに入ってます」とまで豪語するようになった。

昔ながらの銭湯はあまり行かないが、大黒湯は落ち着いてるので好き

画像出典:銭湯図解-大黒湯(東京・代々木上原)

水風呂に入らない・入れない人はみんな思うだろうが、「あんな冷たい水に全身浸かれるわけがない」「心臓がびっくりしちゃいそうで怖い」と、とにかく畏怖の対象でしかなかった。しかし大黒湯で友達に勧められるがままに、おっかなびっくりいざ入ってみると。思ったより平気だったし、しばらく浸かるうちに冷たいという感覚も麻痺してくる。水風呂というスリルを乗り越えた達成感でその日は終わった。

その後にあつ湯→水風呂→休憩を繰り返す、交互浴というものがあると知ってから、のめり込むように銭湯に入った。交互浴の後はさっぱりして体調も良いし、交互浴した後の寝つきや睡眠の質が格段にいい。後から知ったのだが、自律神経が整うので、自立神経乱れまくりの自分にはだんだんなくてはならないものになった。

銭湯は感覚に集中できる場所

家からそれなりに近くにある銭湯に通い出したのもこの頃から。後のホーム銭湯である。イマドキの言葉でいうとサードプレイス、自分だけの落ち着く場所。徒歩では行けないので、仕方なく数駅電車に乗っている。そこまでしても通いたい。家の近くにあったら良かったが、少し離れているのも悪くない。帰り道は特に、夜風に揺られて歩く時間も嫌いじゃない。

やはり銭湯は、カフェや映画館ともまた違う場所というか。まあどう見ても同じ場所ではないが、銭湯にしかない魅力に惹かれている。電子機器を持ち込めないおかげで、強制的に情報や現実からシャットアウトしてくれる。そして熱いとか冷たいとか身体感覚からのインプットが強い場所なので、他のことを考えずにひたすらお湯や水と向き合える。

銭湯は感覚に集中できる場所だから好き。熱いお湯に浸かって気持ち良いときのあ゛あ゛あ゛あ゛って声出したくなる衝動。水風呂に浸かった時に冷たい以外に何も考えられなくなるあの感じとか。38度くらいの炭酸泉に入ってゆっくりしているときの穏やかな時間も良い。あとは湯気が浴室内の光と混じって視界がぼんやりするのも好きだ。

そんな感じで仕事が早く終わった日の楽しみとして行くこともあるし、物足りない休日のシメにすることもある。仕事や何かやらかしたときも、1回切り替えるために行くときもある。健やかなる時も病める時も銭湯は変わらずそこにあって、あつ湯は熱いし水風呂は冷たい。いつ行っても同じであることが、不安定な私を支えてくれる場所なのかもしれない。

やっぱりデザイナーズ銭湯が好き

久松湯はとにかくモダンで洗練された雰囲気、プロジェクションマッピングもしている

画像出典:ニフティ温泉 - 久松湯

銭湯好きでも好みは人によるが、私は昔ながらの銭湯よりも、デザイナーズ銭湯が好き。思うに建築物やデザインとして好きなのもあるし、従来の銭湯へのイメージの既成概念を壊してくれたから好き、というのもある。練馬にある久松湯がいちばんのお気に入り。ホーム銭湯以外でひとつ選べといったら迷わずにこの銭湯を選ぶ。微妙に行きづらいので頻繁には行けないが、特別な場所。

建物がグッドデザイン賞をもらっているだけあり、とにかくモダンで洗練された感じが良い。浴室は黒と白のモノトーンで統一されていて、天井が高いので開放感がある。天然温泉の露天風呂も作り込まれていて、ライティングからBGMまで統一された世界観を感じる。たまたま空いてるタイミングで1人で浸かれると、至福以外の何物でもない。銭湯界隈で知り合った人に「ここの露天は都内でいちばんだと思う」と言ってる人がいて、まあ全部入ったわけではないが、群を抜いて素晴らしい露天の温泉だと思う。

久松湯以外だとやっぱり、今井健太郎さんの作品が良いと思う。最近の有名なデザイナーズ銭湯を手掛けている人といえば、という立ち位置の方。中野のえごた湯、八王子の松の湯、椎名町の五色湯、池尻大橋の文化浴泉、…と挙げればキリがない。まあ正直この方の作品が飽和気味っていうのもあるけど、本当に素敵な作品があるのもまた事実。

列挙したなかでは、中野のえごた湯を偏愛している。地下にある銭湯で「GEO銭湯」をテーマに地球内部にいるような雰囲気がコンセプト。照明も落ち着いていて、ムーディーな感じが好き。渋谷の改良湯も似た雰囲気だけど、えごた湯の方が光が柔らかい感じがして好きかも。あと改良湯はいつ行っても混んでいて、反面えごた湯は行きづらい場所なので時間狙っていけば快適に入れる。

えごた湯は落ち着いた照。照明が心地良くて、エリアによって色も分かれてい

画像出典:えごた湯

最後に

銭湯の好きなところ色々書いてみたが、総合して趣味と実益のバランスとれているのが最高。料金も銭湯組合入っているところなら、基本的に入浴も500円ぽっきりだし。サウナやタオルをつけても1000円くらいで、かかるお金の上限が見えている。また銭湯によって特色も異なるし、相当な数があるので開拓に困らない。家だと入浴はタスク化しがちだが、銭湯に来ると入浴は趣味の時間に転換できるのも良い。毎日ほぼ絶対入るものだから、少しでも豊かな時間にしたいと思う。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?