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子供をクライミング選手にする・1

いまさらですが、すこしだけ自己紹介します。
名前は消していますが、スポーツクライミングの指導員資格を持っています。正直、この資格を取ること自体は、そんなに難しくないので、威張れるものではありません。

ですが、わたしなりの経験に基づいてお話させて頂いていることは、お伝えしておきたいと思います。

それから、ここから書くことは、すでにスポーツ・クライミングの世界で実績を持っているお子さんや、しっかりとした方針で指導されている保護者やコーチの方々には、お役に立てることはございません。

その点だけ、ご了承ください。

さて、本題です。
これを真剣に読んでいる方は、お子さんたちを「どうやって選手として結果が出るようになるだろう」と真剣に考えていると思います。
そういう方々は、すでにシューズも購入、いつも登るジムが決まっていて、何冊か本を本でいるかもしれませんね。
そういう下地があると考えてお話を進めることを先にお断りします。

■練習の頻度

よく「どれくらい練習すればいいですか」と聞かれますが、それぞれの体力や技術レベルにもよりますから一概に言えません。
でも、ひとついえるのは、他の子供たちがやっているような「外遊び」を犠牲にしてまでクライミングジムに行く必要はありません。

これを言うとご家族からは「本当ですか?」疑われますし、クライミング・ジムの関係者からは「余計なことを言うな」と怒られそうですが。

ちょっと話は横道にそれますが。
昔、あるクライミング・ジムのキッズ・スクールを手伝ったことがありました。
たまたまなのかもしれませんが、10人中8人くらいが「スポーツが苦手」だったり、ほかのスポーツに挑戦したものの、ついていけなくて、クライミングにやってきた、という子供たちばかりでした。
クライミングがやりたくて来ている、というよりも、父兄の方々が「何かスポーツをさせなくちゃ」という理由でクライミングジムのキッズ・スクールに入会させたような感じで、子供たちから「やりたい」という気持ちがあまり伝わってきませんでした。

週に1回か2回、スクールでは登るのですが、自主的に練習することはなく、空いている他の日に何をやってるのか尋ねると、家でゲームをしたり、テレビを見ることが多く、他のスポーツをやっている子供はいませんでした。
なのに、父兄からは「なかなか上達しない」「もう1ヶ月も挑戦している課題があるのに完登できない」と、ややクレーム気味の意見を頂くこともありました。

考えてみてください。
ピアノも英会話もそうですが、教室に通うだけでは上達しませんよね。
クライミングだけではなくスポーツも同じです。
自分でトレーニングしない限り、上達はしません。

そして、一番肝心なことですが、子供のうちは、クライミングばかりではなく、外遊び、あるいは他のスポーツも並行して取り組むべきです。

子供時代は、黙っていても身体が成長する時期ですから、通えば通うほど、クライミングも上達します。

しかし、クライミングの自主練習は練習というより、自分が好きなことだけを好きなようにやることが多いです。やりたくない課題は触らない、苦手な課題には見向きもしない。そんなことを繰り返していると、成長の度合いが偏ったり、大きな障害の原因となる可能性があります。

御存知の通り、子供は体重が軽いので、大人よりもヒョイヒョイと簡単に課題を登っていきます。大人が難しいこともやるものだから、周りの大人たちが面白がって「あれもやってみろ」「これはどうだ?」などと、大人と一緒に登ったりします。
それ自体は悪くないのですが、小さいホールド、特に「カチ」と呼ばれるホールドを握っていくと、関節に大きな障害を残すことがあります。

全国でもトップクラス、世界でも1位2位を争うユース選手の中にも、関節を傷めた経験のある選手は少なくありませんし、事実上、選手生命を絶たれた子供たちを何人も見ています。
私が直接知っているだけで10人近くの子供たちが障害や後遺症に悩まされているのですから、もっと沢山の子供たちが同じ目にあっているはずです。

クライミングは、沢山の課題を登っていれば自然に上達する、という意見もあります。たしかにそういう面もあるでしょう。
しかし、クライミングを競技としてみた場合、本当にそれが正しいのであれば、トップ選手たちは毎日クライミング・ジムで練習しています。

ところが、現実はそうではなく、日本代表選手たちは、クライミングジムで課題を登るだけではなく、課題を登るための「身体づくり」にも重点を置いています。

子供たちも同じです。
子供だからこそ、まずは身体づくりから始めるべきです。

練習するための体力がなければ、ムーヴがいい加減になって、元気な時にはありえないような落ち方をしてケガをします。

ランジで遠くのホールドまで届くためには、足腰を鍛えることが必要です。

柔軟性があれば、小さな体格でも遠くのホールドまで手足が届くかもしれません。

そういう能力は、クライミング・ジムで練習するよりも、友達と外をかけ回ったり、他のスポーツも並行して取り組むことで、より早く身につきます。
そして、いろいろな子供たちを見ていますが「クライミング・ジムでの練習」と外遊びや他のスポーツを並行している方が、毎日、ジムに来ている子供たちよりも成長が早いことが多いです。

数年前、ある日本代表選手もインタビューで「ほかのスポーツや運動は苦手だけど、不思議とクライミングだけは得意です」と言っていましたが、昨今はコーディネーションやランニングなど、課題にも多くの”仕掛け”がありますので、その選手たちもトレーナーの指導を仰ぎながら、新しいタイプの課題克服に取り組んでいます。


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