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来月は

4月も下旬、暑くなり始めたある日のこと。
新年度が始まってすぐの慌ただしさも落ち着き、この時期の僕達学生が話題にすることといえば、

「体育祭だよな!」

「違うよゴールデンウィークだよ」

おるばくんは何の行事でも全力投球でえらいね。僕は体育祭の日付ちゃんと覚えてないよ。予備日も総練習も。おるばくんは連休も楽しみだな!と微笑む。

「5月に体育祭やる学校と、9月に体育祭やる学校があるけど、秋は文化祭やら修学旅行やらがあるから、うちの学校は5月なんだよな。」

「5月も9月も暑いことに変わりはないからどっちでもいいけど、せめて体育祭の後の体育でプール清掃するのはやめて欲しい…体力が…」

「プール清掃も面白いけど、疲れるよな!
ところで、ましゅは今年どの種目に出る予定?」

「どの種目か…」

と言ったって、100m走や400mリレーなどの競技で活躍出来るわけが無いし、綱引きとか男子騎馬戦とかは全員参加だし。他に何があるんだっけ?

「特に考えてなかったや。おるばくんは?」

「俺?この間の100mのタイム的にリレーかな」

「さすがだね」

おるばくんは陸上部として走っても遜色ない脚力の持ち主。同じ種目に出ることは初めから諦めている。

「ましゅは借り物競争とかいいんじゃないか?玉入れとか障害物競走とか好きじゃなさそう」

「何でもわかってるね。もっと言えば体育祭自体そんなに好きじゃないんだよ」

僕がめんどくさいオーラを出していても、おるばくんはお構い無し。太陽のような人なのである。

「どんなテーマでも無理やりこじつけてくれれば、俺が走って一緒にゴールまで行くよ!小道具だって色々持っていくからさ」

「テーマが『おかん』とかでもおるばくんなら許されそうだもんね」

2人で笑いながら話しているけど、ふと僕はあることが一瞬脳裏をよぎる。

もし、

もし、テーマが『好きな人』だったら、僕はどうしたらいい?

たまにこういうイロモノみたいなテーマも入っていて、それはそれは盛り上がりを見せるのである。きっと今年もこういうテーマがあるだろう。


みんなの前でおるばくんを呼ぶ?

みんなの前でおるばくんのことが好きだと公開できる?

分からない。

それをして、おるばくんとの関係が変わってしまったら怖い。

でも、好きな人としておるばくんを選べないのも、おるばくんを裏切るようで嫌だ。

「今年は…」

「今年は?」

「今年は、玉入れに出ようかな。チーム戦だからそこまで目立たないだろうし。借り物競争はその、テーマによっては…恥ずかしいのもあるからさ」

「…なるほどな。良いと思うぜ!種目決めるの明後日のホームルームだから、その時までにジャンケン強くなっておかないとな」

「え、玉入れってそんなに倍率高いの?」

「今年うちのクラス野球部とかバスケ部とかが多いから、人気出そうじゃない?」

「知らなかった…野球部とかバスケ部が多いんだ」

正直もうゴールデンウィークのことなんて考えられないくらい、体育祭のことで頭がいっぱいだった。負けてもいいから何事もなく過ぎ去って欲しい、ただそれだけ。


しかし悲しいことに、種目決めのときにジャンケン1本目で即負けをし、あっという間に借り物競争の選手になってしまった。

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