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肝臓の数値が気になる方へ!【あなたの健康のためにお酒について知っておこう】

「お酒が好きでよく飲んでいるけど、肝臓の具合が心配・・」
「来月健診で肝臓の数値が上がっていないか気になる・・。直前に禁酒しようかな。」

お酒と病気の中でも、肝臓の具合が気になる方は特に多いのではないでしょうか。私も入職時の健診でγ-GTPの値が高くなっていて、「ありゃ?」と思ったものです。

実際のところ、お酒と肝疾患はどのように関係しているのでしょうか。日本で発表されている論文を参考にまとめてみました。

今回は以下のポイントについて解説します。

アルコールはどのようにしてカラダから抜けていくの?

アルコール(そのうちお酒に含まれるのはエタノール)の代謝は、エタノール→アセトアルデヒド→酢酸→二酸化炭素+水、といった流れで代謝されていきます。(術後、お酒飲んでいいですか?参照)

エタノールからアセトアルデヒドへの代謝(酸化)はアルコール脱水素酵素(ADH)、ミクロソームエタノール酸化系(MEOS)やカタラーゼでの酸化が関与します。

アセトアルデヒドから酢酸への代謝(酸化)はアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)が有名です。

図にしてみると以下の通りです。

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NADPやNADは「補酵素」と呼ばれるもので、そんなもんがあるんだな、程度に考えておいてください。NADHは還元型NAD、NADPHは還元型NADPとも表現されます。

ここではザックリと、「H(水素イオン)がなくなること」が「酸化」、「H(水素イオン)がつくこと」が「還元」だと思ってもらえばいいです。

エタノールは約90%が肝臓で酢酸まで分解されます。酢酸は血液に乗って筋肉や心臓に移動してさらに分解され、最終的には炭酸ガスと水になり、カラダから抜けていきます。

お酒を飲むと脂肪肝になるの?

結論から言えば、脂肪肝になります。

お酒と一緒に高カロリーのおつまみを食べるから太る、という話は有名かもしれません。食事の影響という意味で脂肪肝に影響する点以外にも、エタノールの代謝そのものも脂肪肝の発生に影響します。食事から摂取した脂肪(脂肪酸)は「クエン酸回路(TCAサイクル)」というプロセスによって酸化され、水素イオンが発生します。

一方、上の図でエタノールに対してアルコール脱水素酵素(ADH)が働くこと(アルコール酸化)で、NADが減ってNADHが増えることで水素イオンが発生します。

ところで人体は、「生体のエネルギー通貨」とも呼ばれている「ATP」という高エネルギー化合物を利用するため、様々な方法でATPを合成しています。細胞内のミトコンドリアの中では、「電子伝達系」というプロセスによって、ATPが合成されます。細かいことは省きますが、このプロセスを進めるために、例の水素イオンが必要になります。

さて、ここで「電子伝達系」を進めるための水素イオンは脂肪酸の酸化過程で発生したものを利用するわけですが、慢性的に飲酒をしている人では、アルコール酸化によって生じた水素イオンが利用されるようになります。結果として脂肪酸の酸化が阻害され、脂肪肝が発現することになります。

脂肪を燃やそうと思っていたのに、アルコールを燃やすのに忙しくなって脂肪がたまってしまう、という感じでしょうか。

肝臓の数値が上がるとは?

飲酒によって数値が上がる項目として、「γ-GTP」、「AST/ALT 比」、「平均赤血球容積(MCV)」が挙げられます。アルコール性肝障害を起こしている方の93.2%でγ-GTPが高いことが知られています。γ-GTP、有用です。一方で、γ-GTPは胆道疾患や薬物の長期服用など様々な誘因で上昇するため、γ-GTP高値だからアルコールが原因とは言い切れない点に注意が必要です。

ASTもALTも肝酵素と呼ばれ、主に肝細胞内に存在していますが、細胞が壊れることで血液中に出てきます。アルコール性脂肪肝では、肥満を含めた非アルコール性脂肪肝と異なり、ASTの方がALTより上昇することが多いといわれています。アルコール性肝障害では細胞内のASTに加え、細胞内に存在するミトコンドリア由来のASTも血液中に流れ出るためといわれています。実際にアルコール性肝障害を起こしている方のうち、ASTの方がALTより高値(AST/ALT 比 >1)となるのは67%で、それほど頻度は高くありません。しかし、非アルコール性肝障害ではほとんどケースでALTの方が高値になるため、ASTの方が高い場合はアルコール性の可能性が高いと考えられます。

MCVは聞きなれない値かもしれませんが、健診の採血結果をよく見ると、ヘモグロビン(Hg)の近くに書いてあったりします。MCVが96μm3以上を示す頻度は46%と低く、お酒を飲んでいない人と差がないのであまり有用ではないと報告されています・・

変化してしまった肝臓や肝臓の数値は治るの?

日本酒換算で5合程度を1週間継続するとアルコール性脂肪肝が発生しますが、2-4週間の禁酒により、この脂肪肝は消失すると報告されています。普段からお酒を飲んでいる方で肝障害の症状がない方は2-3週間の禁酒で血清γ-GTPが正常化するといわれています。

一方でアルコール性肝硬変がある方は血清γ-GTPが正常化するまでに少なくとも2か月の禁酒が必要であったといわれています。(むしろ普段から禁酒してください)

よって、健診直前に禁酒してもあまり効果はなさそうです。

そもそも飲みすぎを自覚している方は、普段からの飲酒量を控えることが王道でしょう。脂肪肝から肝硬変になってしまうと、肝臓は元に戻らなくなってしまうので、早いうちに生活習慣を見直すことをオススメします。(自分に向かって言っています)

くれぐれも1か月禁酒すれば健診を乗り切れるのか、などと考えないように・・

医療やお酒の話を消化器外科医の目線でお伝えする、外科医のアル研(Twitter / stand.fm / Instagram)です。

<参考文献>

堤 幹宏. 【アルコール依存症】検査とその読み方 アルコール性肝障害. 臨床検査. 2012;56(13):1435-1440
厚生労働省 e-ヘルスネット(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-02-002.html)
河合 忠, 尾形 稔, 伊藤 喜久(編): 異常値の出るメカニズム 第5版. 医学書院 2011; 249-253


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