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沖縄と海とクラプトン

コロナ禍でステイホームや他地域との往来自粛が呼びかけられ、行きたい場所に自由に行けないこのご時世、「今行きたい場所は?」と聞かれたら秒速で「沖縄!」と答える。

わたしは夏生まれで夏と海が好きなので(ただし日焼けは大嫌い)、沖縄の島で毎日海を眺めてギターを弾き、本を読み、エアコンを切り肌に汗をにじませながら海を横目に細野晴臣のトロピカル・ダンディーを聴き、大瀧詠一のA LONG VACATIONを聴きながら裸足で浜辺を散歩する、というひとつの夢がある。青い海とそれを想像させるような音楽、まるでドラマや映画のワンシーンのよう。

頭の中で恋するカレンなど流しながらそんな妄想を毎日繰り広げているけど、自分の中で沖縄といえば細野晴臣でも大瀧詠一でもなく、エリック・クラプトンなのである。

高校の修学旅行で沖縄に行ったときも、わたしは学校でいつもそうしていたようにウォークマンで音楽を聴いていた。iPodやウォークマンの持ち込みは禁止だったけど、移動のバスで先生の目を盗んでウォークマンで音楽を聴いていた。

泊まったホテルは前年にできたばかりの、プライベートビーチがあるきれいなホテルだった。砂浜の砂はいわゆる星の砂で、松田聖子の青い珊瑚礁を歌いながら友達と走って遊んでたとき、砂がクロックスに流れ込んできてめちゃくちゃ痛かったのを覚えている。

午後から夕方までビーチで遊び、夕食を食べたあとの自由時間にホテルの部屋で友達とたくさんおしゃべりをしたり、写真を撮ったり、次の日の準備などをしていた。わたしはウォークマンでクラプトンのアルバムを聴きながら、ベッドの上で身の回りの支度をしていた。そのときちょうど流れてきたのがWonderful Tonightで、同時に聞こえてきた友達の笑い声を聞いて「ああなんて楽しい夜だろう、一生こんな楽しい日々が続けばいいな」って心から思った。

だから今もクラプトンを、特にWonderful Tonightを聴けば友達の笑い声、窓の外の夜の海、青い空、うちなーぐち、初めて弾いた三線の音、まとわりつくような熱い空気、道路沿いに立つ鳥の羽みたいな葉を付けたのっぽの木々、払い下げられたアメリカ軍のアーミーグッズやアメリカンなグッズが雑多に並べられたアメリカンビレッジのショップ、首里城から見た低い屋根屋根の建物の上を流れる時間の風─初めての沖縄で過ごした5日間の出来事や景色をありありと思い出す。あの夜はまさしくWonderfulなTonightだった。

ああ、沖縄に行きたい。あのWonderfulなTonightを超えるような、時間と風が止まったような景色の中を、心が満たされる穏やかで濃密な時間を肌で感じたい─と、このひりついた日常の中で、いつも思いながら毎日を消化するように過ごしている。

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