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【千字掌編】土曜の夜には香水瓶を……。(土曜日の夜には……。#14)

 40代後半、行き遅れのあとはハイミス確定の亜希子はカラフルな商店街を休日歩いていた。たまたま土曜日に休みが与えられ、する事もない亜希子はふらふらと歩いていた。 ふと目に入ったアンティーク店「サクラ」。ふらりと入ってみたくなった。
 古きよき時代を残す扉を開けると、少女がにっこり出迎える。
「あなたがここの店主なの?」
 驚きの余り上から目線で話してしまう。悪い癖だ。
「いえ、店主は祖父です。私は土曜日だけ祖父のコレクションから何点かもらって真贋問わずにお渡しする店を開いるんです。どうですか? 少し見て行きませんか?」
 ストレートの艶のある長い髪に思わず憧れながらもその少女の店が気になった。
「見せて頂ける?」
 今度は年相応の言葉が出た。
「こんなガレの月光色の花瓶もありますし、アールデコの香水瓶もありますよ。お姉様ならこんな香水瓶どうでしょうか?」
 少女がすっと香水瓶を渡す。アールデコなんて言葉も知らない亜希子だが、その香水瓶は手にすっとなじんだ。
「いいわね」
 何度か持っては離し持つ動作を繰り返す。
「でも空だと中身はどうするの?」
 そうですねぇ、と少女が答える。
「近くの花屋elfeeLPiaの奥さんがアロマで作った香水を売っています。この香水瓶は無料でお渡しできますけど、香水は買わないと……。本当なら中身も入った物をお渡しできれば良いのでしょうけれど……」
「そんなにしゅん、としなくても大丈夫よ。その花屋さんの道を教えてくれる?」
「はい!」
 亜希子が優しく言うと少女は明るく返事して名刺を出してきた。
「この名刺の地図と表の名前の萌衣さんを花屋elfeeLPiaで呼び出して頂ければお話は通じます。桜子が渡した、と仰れば大丈夫です。どうか真贋問わずに頂いてくれた方にアンティークの幸運がありますように」
 桜子と言った少女が祈るように香水瓶に触れて袋に入れる。そして亜希子は地図の通りに行って香水を中に入れてもらった。あの花屋にも何かあるような気がするが、この香水瓶が気になって早く部屋に飾りたかった。
 夜、飾って見てみる。夜空の光に照らされて不思議な雰囲気を放っている。
「こんな私にも恋の出会いはあるの?」
 香水を手に取って手首に塗ってみる。花の純粋なオイルで作られた香水。良い香りがする。枕元にティッシュに一滴しみこませるとゆっくり眠る事ができるという。亜希子はしみこませたティッシュを眺めながら寝落ちした。
 朝、おきて部屋の香水瓶を見つめる。あれは夢では無かった。
 その香水を塗って出社する。すると、同じく行き遅れ男の先輩に声を掛けられる。
「いい香りだね」
「ええ」
 亜希子は微笑む。男性社員はしばらく動かなかった。
「先輩?」
「あ、いや、何でも無い。それじゃ、仕事無理しないようにね」
「先輩?」
 ひょこひょこと独特な歩き方をして先輩社員は去って行く。その背中にすがりたい、と思って自分で驚愕する。
 
 今、何考えたの?!
 
 それは、亜希子と先輩社員、瞬のなんとも遅い人生の幕開けだった。


あとがき
漢検の勉強しても集中しないし、野球も今日は一回表から見てるのにのめり込めない。かといって創作もなかなか書けない。という中で思い出した「今日土曜日やん!」。あわてて書いてました。なぜか花屋elfeeLPia軍団の桜子ちゃんのお話が登場しました。界隈で店がオープンしっぱなしです。花屋はこれ以上でないと思いますが。それは別シリーズなので。なんとなく今回も夏の季語をと歳時記をめくっていると「香水」、という文字が。俳句を作るときには見向きもしなかった生活の中の季語が珍しく気を引いたのでした。
夏に香水なんだーと始終人が使っている感覚だったので意外でした。
で、花屋elfeeLPiaのくだりは省略したので、いつか萌衣さんも主人公になれる物語を書いてみたいものです。で、萌衣さんもいっちゃんも名字がない事に気づきました。名前だけで終わってる。あとで考えようと思います。どこかで書いてなかったかしら? というのも気になるので。調べるしかない。最初の方に出るなら出ると思うけれど。
急いで作ったので、改稿もありです。明日、もう一度見直します。とりあえず投下!

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