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【新連載・ロマンス・和風ファンタジー小説(オマージュ)】あなただけ見つめている……。 第二部 次代の姫 第七話 明らかになる步夢の出自

前話

 步夢は夢の中をさまよっていた。あれもこれも悲しい記憶。つらかった記憶。どこをあるいてもつらい記憶しか出てこない。だけど、ふと下を見ると小さな光が落ちていた。そこから愛しい人の声が聞こえる。

”出てこい。步夢。抱きしめてやるから”

「当騎!」
 ばっと身を起こして周りを見る。隣に姫夏が眠っていた。そして、千輝が見ている。
「え? わたし……?」
「目を覚ましましたか。步夢。何か食べますか? 朝から何も食べてないんですよ」
「おか……」
 お母さんといいかけて口ごもる。この人は恐れ多い当主様だ。
「母ですよ。他の誰が何を言っても步夢は私の娘です。あなたはまた生まれたときに両親を亡くしていました。事故でした。その中で当主筋の力があなたを守ったのです。私はあなたを一目見てわかりました。過去にずっと守り続けてきた姉妹と。ですから、私が周りの反対を押して引き取ったのです。そしてあの人と結婚して優衣が生まれました。優衣はあなたの後を追ってはいはいしたりしていつも追いかけていました。いまでもそうでしょう? 優衣。血がつながっている、血がつながっていないなど、今更でしょう? 私たちは強い絆で結ばれてきたのですから。たまたま娘で姉妹でなかっただけ。今更よ。遠慮なんて。私と緋影の間にもまだ何もありません。成婚の儀式の後です。あなたたちが進んでる方よ」
 沙夜の言葉に步夢は真っ赤になって手で顔を覆う。その指の隙間からちらと、家族がいるのを認める。
「緋影もおと……おと……」
 お父さんと言えない。今まで沙夜を取り合っていたような仲だ。あの、天邪鬼な緋影が自分の親になるなどどうしていいかわからない。
「お父さんでいい。そなたを娘に持つとほんに大変だな。いきなり闇に支配されて倒れるのだから」
「じゃ、さっきの当騎の言葉!」
 ベッドから起き上がってドアに突き進もうとして優衣や沙夜に戻される。
「ごろにゃんは今夜は禁止。家族団らんをしましょう。姉様」
 優衣がしがみついてくる。見たのか。あの闇を。がたがた震えている。
「優衣」
「失うと思ったのはこれで二度目です。もう行かないでくださいまし」
「二度目?」
 何のことだかさっぱりわからない。
「あなたが異様な熱に浮かされて救急搬送されたときのことですよ。あのとき、優衣と智也がおとなしくおままごとしてくれていましたが、帰ってきたあなたを見て、お姉ちゃん、死んじゃやだ、と泣いてしがみついて離れなかったのですよ。ここまで思う妹を家族でないとは思わないでしょうね」
「沙夜。また鬼面じゃ」
「あら。步夢。こんな不器用な母でごめんなさい。それだけあなたが大事なのです。己の腹を痛めたわけでもないのにまるで産んだ苦しみさえ覚えているような感覚にとらわれるのです。まぎれもなく、あなたは吉野総本家の長女步夢、ですよ。彼の地に去るのならしかたありません、いい加減果たさねばならぬ約束ですからね。創世の世に入っているはずです。あちらは。だけど、今はそんなことを忘れて母と慕ってくれませんか? あなたを娘として抱きしめたい。その涙をぬぐってやりたい。母では不合格ですか?」
 悲しそうな沙夜の顔に步夢はぶんぶんと顔を横に振る。そして抱きつく。
「お母さんー。ずっと会いたかったの。お母さんって言いたかったの。さみしいよって。つらいよって。でも優衣の前では言えなかった。吉野の前でも。お母さん、茶化してごめんなさい。ごめんなさいー」
 步夢が泣きじゃくる。
「步夢。大丈夫ですよ。步夢のつらい心は母にいつも伝わっていました。眠りながらも母はあなたたちを抱きしめていました。優衣のつらい心も知っています。姉妹で力を合わせてここまで来たことも。智也の死があなたたちに大きな変化をもたらしたことも。運命の歯車が回り始めたことも承知しています。あなたたちが幸せになるまで母も成婚の儀をあげるつもりはありません」
 沙夜の言葉にだめ! と步夢が強く言う。
「おじいちゃん。私の結婚式もう準備してるのよ。お母さんが先にお嫁に行ってくれなきゃあげられないじゃないの。ウェディングドレス着るのよ。私。お父さんの手で当騎に渡してもらわなきゃ」
「步夢……」
 緋影が驚いたまなざしで步夢を見る。
「本当に私を父と?」
「いまさらじゃないの。おとうさん」
 おとうさんを強調して步夢は言う。勇気を出していったら言えた。これでいいんだ、と步夢はなっとくする。緋影は泣いている。男泣きだ。
「って。泣くのはやいよ。お父さん」
 今度は緋影の背中に抱きつく。そして肩をぽんぽんとたたく。
「苦労かけます。お父さん」
「步夢……」
「むー。当騎もそう呼んでるし」
「いや、当騎だけがそう呼んでいる。これをとれば、殺される」
「まさかー」
「いえ、本当ですわ。当騎は独占欲メラメラですわよ。今頃」
「今日一日は家族団らんしていたい。当騎は婿養子だから我慢してもらう。それに当騎のところに戻るのは元気になってから。優衣ともべたべたしちゃうもん」
 まるで幼子になったような純真な顔で優衣の頬に自分の頬を押しつける。ぐいぐいとして頭を優衣にあずける。
「今日は暖から優衣貸してもらう。ねぇ。お母さん。お父さん」
「步夢……」
 步夢の素直な声に先ほどの当騎の中和が効いているのが救いだった。あのままでは闇に取り込まれるところだった。姫夏は闇の姫だ。その影響を受けていたのだろう。沙夜はポケットからお守りを出すと步夢の首にかける。
「これをしばらくつけていなさい。闇の力はあなたには悪さはしないけれど、きっかけによっては破滅をもたらします。この先祖代々伝わっているお守りで守ってもらいなさい」
「これ……」
 遙か昔、自分が仲間に作ったかりそめのお守り。力のある子が生まれると必ずそれを作ってかけていた。まさか自分が使うなんて。時の巡りは不可思議なもの。足下で千輝が立って抱っこをねだっていた。
「はいはい。ちーちゃん。抱っこ」
「ぴぎぴぎ」
 うれしそうに千輝は顔をすりつけてくる。そこへ起きたのか姫夏のうーあーという声が聞こえる。
「姫ちゃん、おなかすかないの? おむつは?」
「姫夏は経験者におまかせなさい。あとで返してあげるから」
「えー。ばぁばのところにいくのー?」
 不服そうな步夢に沙夜は指を鼻の頭につきつける。
「まだ、闇の影響が残っています。もう一度、当騎に中和してもらいなさい。この家族の時間をとってからですよ。あなたはすぐ猪突猛進で突っ走ってしまうのだから」
「ひどいなぁ。それは暖よ」
「暖のはちゃんと意味があるんです」
 優衣が反論する。
「私のは……ないか」
 ガクッとする家族である。
「さぁ、気が済んだら少し休みなさい。今、パジャマを持ってきますから。おなかすいてるなら日史の筑前煮をくすねてきますよ」
「やったぁー。お母さん大好き!」
 はしゃぐ步夢にまた眉をよせる家族である。
「今のは本当にうれしかったの。日史の筑前に本当においしいんだもん」
「はいはい。あら。当騎、こんなところで寝て」
 扉が重いと思えば扉に寄っかかって当騎が居眠りしていた。横にそのまま倒れて頭をゴン、と床にぶつける。
「いて。あ。お母さん」
「本当に独占欲メラメラね」
「あ、いや、これは……」
「とうきーーーーーー!」
 步夢が当騎にダイビングジャンプする、
「おわ。男を押し倒すなー」
「当騎大好き。愛してるわ」
「その言葉は部屋の中で言うんだな。步夢はベッド。当騎は千輝を抱いてやれ。暁輝も連れてこよう。危機は脱したが、ミルクが姫夏並みだ」
「父様それなら私が行きます。姉様、ごろにゃんしててくださいませ」
「父親の目の前でできるか!」
「だったら結婚式のプラン練ろうよ。おじいちゃんまたあのぶりぶりのドレス着せるわよ」
 不服そうな花嫁候補だ。
「わかった。また部屋でカタログ取ってきてやるから寝てろ」
「はーい。緋影、じゃなかったお父さん一緒にはなそ」
 嫉妬で緋影を殺そうかと思ったが、父と呼んでることを考えるとましなのか、と思い步夢の部屋に入って家捜ししたのだった。

 吉野家総本家の家族の形はようやく決まりつつあった。光と闇。それは当たり前にあるもの。そして気をつけなくてはならないもの。陽極まり陰となし、陰極まり陽となす。いつでも反転してしまう、対の存在。改めて步夢も当騎も身を引き締めていた。


あとがき
はい。倒れております。合作マガジンはもう少ししたら、更新にパソコンに向かいます。合作マガジンではともに創作を読みあう方募集中。
と三行で終わります。このあとがきも。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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