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【連載・不思議ファンタジー恋愛小説】聖なる旅人のシェアハウスは不思議でいっぱい 第二話 狭い道を歩く旅人 

前話

万里(まり)有(あ)は気に食わなかったが、大河(たいが)達の後押しで祖父と父に許可を得てルームシェアにこぎ着けた。

 

 後押しなんてマギーで十分だわ。

 

 それでも大河(たいが)達と一緒に行かされる。征(まさ)希(き)はまだ、高校生のため来年卒業してから、ということになった。想い人がいないなんて、と万里(まり)有(あ)はふてくされたが、窮屈な高級マンションから出られてほっ、としていた。

 マーガレットは来る日が解っていたらしく屋敷の鍵を開けてくれていた。よっこらしょ、と持たされた荷物を運び込む。

「まぁ。マリー。身一つじゃなかったの?」

 マーガレットが目を丸くしてびっくりしている。

「なんだけど・・・。いろんな人に持ってけ、と渡されて」

「マリーはいろんな人に好かれているのね」

「そうなの?」

 全部、仕事の内と思っていた。自分の事なんておもちゃ、だと。父や祖父はそう見ているから、使用人にもなめられていたと思っていた。

「人の心は案外、思っているものよ」

 そんな事を話していると、ベルが鳴る。古くさい音になんだか安堵を覚える万里有(まりあ)である。

 大河(たいが)達もやってきた。荷物は鞄一つである。

「そんなに少ないの?」

「ないものはこちらで用意すればよい」

 大樹(たいじゅ)が言う。金持ちの発想ね、と一蹴したくなったが、マーガレットは頷いている。

「重なるよりはましね。私も少しは用意しておいたから」

「それはありがたい」

「征希(まさき)は?」

 万里有(まりあ)が問う。

「学校だ。飛び級して大学に行くと朝から騒いでいた。あの成績ならできるだろう。征希(まさき)は万里有のお気に入りだからな。早々に引っ越してくるだろう」

 そこへチャイムが連打された。うるさい音に一斉に皆、耳塞ぐ。

 

 アイツだ。

 

 万里有(まりあ)の中ではすでにアイツ呼ばわりである。

「一姫(いちき)! 何度も鳴らさなくてもわかるわよ!」

 玄関を開けて万里有(まりあ)が言う。

「だったら、早く開けて頂戴。また大河(たいが)と大樹(たいじゅ)を独り占めにして!」

「また、増えるのですか?」

 マーガレットが先を読んで言う。

「たぶん、もう一人のキーパーソンも、ね」

 万里有が言うとマーガレットは頭を抱える。

「私はマリーにルームシェアと言いましたけど、こんなに大勢が来るなんて聞いてないですわ」

「だって、それがワンセットなんだもの」

 言っている側からまたチャイムがなった。万里有はドアを開ける。

「亜理愛(ありあ)!」

 万里有(まりあ)のように美しい長い黒髪の持ち主も現れた。やっぱり、来たのね、と言わんばかりだ。

「マリー、この人間関係を教えて頂戴!!」

「まず、私の許嫁の大河と大樹。その二人の内の一人を狙っているのが一姫(いちき)。そして亜理愛(ありあ)は私の従姉妹でどうも双子のどっちかを想ってる、ってとこかしら。征希(まさき)を入れて六角関係ね」

「六角!」

 マーガレットがこの世の終わりと、言わんばかりに言う。

「でも私達この六人で育ってきたからそんなにややこしくないのよ。あとはこの六人で三大派閥をカバーしてるってとこね。まず、私が吉野財閥、大河達が野口財閥、一姫が笹野財閥。三大、「野」、財閥よ。お父ちゃまも、おじいちゃまもあなたのお父様、おじい様達と交流があるみたいだし、そう他人でもないかもしれないわね。と、お客様みたいよ」

 万里有が言うのでそっと伺うと、あの例の看板当たりで女性がそわそわとしていた。

「マリー。行ってきて」

「人使い荒いわね」

「ルームメイトでしょ」

「はいはい」

 万里有(まりあ)は看板の当たりでうろうろしている女性に声をかける。

「この屋敷の者です。ご用があるなら通すように言われましたので」

「背中を押すって本当ですか?」

「ええ。私も押してもらった側です」

「そう」

 女性に安堵の表情が浮かぶ。

 その様子を見ていたマーガレットは居候人達を放り出して、紅茶を用意しにキッチンへと向かった。

 

 万里有(まりあ)が相談したときのテーブルはいつしかテラス席に置いてあった。もう晩春の日差しが暑い。中庭でなくて良かった、と万里有は思う。すでにマーガレットが水出しアイスティーをグラスに注いでいた。

「お連れしたわよ」

「まずは紅茶を楽しみましょう。お話はそれから」

 後ろから視線を感じる。大河(たいが)達が興味本位で覗いているのはわかっていた。それをガン無視して、水出しアイスティーを飲む。

 グリーンティーとピーチの味が晩春を爽やかにする。

「私は恋占いができないのですけど、それでもいいかしら?」

 幾分か時間が経ってからマーガレットが言う。

 ええ、と女性は言う。

「私は晴乃(はるの)と申します。名前を言うのを忘れていました。すみません」

 それを聞いたマーガレットがにっこり笑う。天使の微笑みだ。

「私はマギー。こっちはマリー。気軽に呼んで頂戴。で、恋占いではないというのは?」

「恋じゃないのです。あるいは恋に似ているかもしれないけど」

「恋に似ている?」

 万里有とマーガレットは顔を見合わす。

「来年、大学院を受けるのですけど、母の知り合いからお誘いを受けていて、その件と、入学当初から考えていた学科に編入で入るのと、今の学部のまま進学するか悩んでるのです。あれもこれも気になる性格で。広く深くしたいタイプなんです。そのせいでどれも中途半端になってしまって・・・」

「じゃぁ、少し見てみましょうか」

 マーガレットのリーディングが始まる。

 カードを鮮やかな手つきでシャッフルし出す。その鮮やかさには二度目の万里有もつい凝視したくなってしまう。もちろん、客もびっくりしながら見ている。そして十分にシャッフルが終わると弧を描くようにカードを並べる。

「どれか気になったカードを指し示してください。くれぐれもカードには触らないように」

 晴乃(はるの)は迷っていたが、すっ、とある一枚のカードの上を指をさした。

「Narrow Pathway」というカードだった。意味は「狭い道」。万里有はガイドブックを開く。マーガレットはカードの内容を覚えているため必要ない。勉強にと貸してもらったのだ。

「狭い道、とでましたね。注意深く行動しなさいとも書いてあります。どんな事も性急に決め手はいけません。注意深く行動しましょう。性急に行動すると困難に当たります。どうやらあちこち悩んでいるのをもっと熟考せよ、という事のようですね。それぞれのメリット、デメリットを考えて、自分が何をしたいのかを自分に問いかける必要があります。目移りするでしょうが、本当にしたいことを選んでください」

 マーガレットの言葉を聞いていた晴乃(はるの)の表情が明るくなっていく。

「そう。そうね。一番大事なことを忘れてました。自分が何したいのか、と。ゆっくり熟考するまでもないですが、カードの言うとおり、それぞれを考えます。今の私には今の学部のまま進みたいという気持ちが強いのです。でも、就職先が困るのです。宗教学科なので。しかも、私の信仰している宗教とは別系列のものなんです。でもそれがとても面白くて大学二年で他学部へ編入するのをやめたんです。それで良かったんですね。これからも、道を追求し続けます。すみません。お金は・・・?」

「いりません。ただのお話し相手に小さな旅の後押しですから。祖母が最初にやっていたのです。亡くなってから私が引き継ぎました。もっと、確実な事を占いたい場合は父や祖父を紹介できますが、そちらは無料ではないのでお勧めしません。また、遊びにきてください。この屋敷は当分、大人数ですから、あなたみたいな聡明な方とお茶会する方がうれしですわ」

 マーガレットの言葉に一姫がなんですってーと叫んでいたが、無視する。

「それじゃぁ、もうちょっとここでお茶会してもいいですか? この水出しアイスティーがおいしくて」

「では、おかわりを持ってきますね」

「マギー手伝うわ」

「いいの、マリーは晴乃(はるの)さんとおしゃべりしていて」

 重い銀のお盆を持ってふらふら歩く姿が危なげだが、いいというのならそのままにしておいた方がいい。マーガレットも一姫(いちき)並にプライドが高そうだ。久しぶりに会ったマーガレットに変わりはなかったが、どこか占い一族のプライドを保たなければというような感覚を受けた。

偉大なる家族を持つとそうなるものだ。万里有も父や祖父が偉大すぎて会うのも怖い。そしてその言いなりになるのも嫌だ。こういう所はマーガレットと性に合う所なのだろう。いいや、あの五人もそこそこのプライドの持ち主だ。亜理愛がこちらに来たそうにしている。話し、というより無類の紅茶好きで、うずうずしてるのだろう。

「亜理愛!」

 名を呼ぶ。すると飛んでやってくる。

「いいの? 飲んで?!」

「紅茶マニアでしょ? マギーも許してくれるわ。でも、たぶん、あなた、ここでアリーと呼び名が付くわよ」

「そんなのいいわよ。紅茶が飲めたら」

「今日はグリーンティーよ」

「フレーバーティーなんでしょ? 紅茶じゃないの」

「まぁ、そうだけど」

 万里有と亜理愛のとんちんかんな会話を聞いていた晴乃(はるの)がくすくす笑う。

「姉妹ですか?」

「いえ、従姉妹同士なんです。亜理愛(ありあ)はおとなしいからこうして私と一緒が落ち着くんです。ね? 亜理愛(ありあ)」

「ええ。早くアイスティー来ないかしら」

 後ろで一姫(いちき)が私もーと叫んでいるが大河(たいが)達によって引き離されていく。

「いい。お茶会になりそうね」

 時折、吹く風が髪をなでて心地いい。

「あら。亜理愛(ありあ)も?」

 マーガレットがおかわりを持ってきた。亜理愛(ありあ)に目線を移す。

「無類の紅茶好きなの。その代わり、アリーと呼ばせるのを承諾したわ」

 そう、とマーガレットは微笑む。その微笑みを亜理愛(ありあ)は、ぽーっ、と見つめる。

「何か付いてて? アリー」

 ううん、と首を横に振る。

「マーガレットって名前、綺麗ねぇ。お花みたい」

「馬鹿丸出しの言動はやめてよね」

「馬鹿って言わなくてもいいじゃないの」

「馬鹿は馬鹿よ」

「ケチ」

「ケチとは何よ。ケチとは。ちゃんとお茶会に呼んであげたのに」

「ケチはケチだもん。あーおいちぃ」

 水出しのグリーンティーを飲んで亜理愛(ありあ)が言う。

「本当に紅茶好きなのですね。これから紅茶の種類増やそうかしら」

「さんせーい。黄金ルール教えてあげる」

「ありがとう。アリー。じゃ、ガールズトークで盛り上がりましょうか」

「ちょっと! 私も仲間に入れなさいよ!」

 ついに一姫(いちき)がやってくる。

「グラスを増やしておいてよかったわ。どうぞ。一姫(いちき)」

「ありがとう。マーガレット」

「マギーよ。マーガレットは」

「ちなみに私は今日からアリーよ」

 亜理愛(ありあ)が嬉しそうに言う。

「一姫(いちき)は簡単に変えられないわね」

 マーガレットが考えながら言う。

「姫、でいいんじゃない? 一姫(いちき)の姫をとって」

「プリンセスとかはいやよ」

「だから姫、って」

「いいわね。そうしましょ」

 マーガレットの鶴の一声で一姫は、屋敷内では「姫」となった。

 

狭い道。思慮深く行動しなさい。

 

 小さな旅の神様は誰にも当てはまる注意を促す。長い人生の中では大腕を振って喜んで広い道をあるいてもいい時が来るかもしれない。だけど。時として進む道が狭くなるときがある。いつも大きな道で闊歩して歩くわけにはいかないのだ。

 

 カードの神様ありがとう。

 

 万里有は(まりあ)、カードデッキにいるであろう、神様に礼を言って、グラスに口をつけた。


あとがき
でました。美悠のねーちゃん。これを出したくて載せていたのでした。第一部は完結してるので安心して出せます。第二部が後半でつまってるんですよねー。大人な話で。いや、そこ通り越してる。見ればわかるけれど。さて、次はなんだったか。羽根ですかね。羽根更新して野球に集中ー。というか執筆。頭ぼけすぎてひらめかない。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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