見出し画像

【再掲連載小説】ファンタジー恋愛小説:最後の眠り姫 (6)

前話

 クルトはまるでボールのように飛び出して行った。少しクルトのいた隣が寒かった。変ね。心を譲り渡したわけでもないのに、寒いだなんて。寂しい、とさっきのわがままと一緒だわ。
 そうして、一人物思いにふけっていると、控えめなノックの音が聞こえた。クルトならもっと大きな音だし、いきなり入ってくるかもしれない。
「フリーデ?」
 扉をそっと開けて名を呼ぶ。はい、とか細い声が聞こえた。目の前には使用人の服を着た同じ頃合いの女性がいた。少女と見まごうばかりだけど、クルトは少し年齢が高いと言っていた。だから女性と言うべきだろう。
「どうぞ、入って。どこに何があるかは知らないけれど」
「それには及びません。私の家系はこの宮殿が建てられた時からお仕えしております。姫様こそ、わからぬ点があるならなんなりと思うしつけてください」
 そう言って最高級の礼をする。あわてて私も合わす。
「あ。フリーデ来てくれてたんだね。エミーリエ。これが例の手紙だよ。でも、もう時間も遅いね。先に夕食にしようか。正式な食卓はあるけれど、二人なら私的な方を使おうか。こっちだよ」
 クルトが先頭になって歩く。先ほどお茶を楽しんでいた次の間にその部屋はあった。
「ごくごく親しい人しか入れちゃだめだよ。俺は別としてね」
「クルトだけ、例外?」
「そりゃ、未来の夫だもの」
 しれっと言いのけるその神経がうらやましい。
「ああ。フリーデも入っていいよ。この日のためだけに行儀作法を学んできたんだから。一緒にエミーリエを支えていこう。フリーデの家系はね・・・」
「知ってるわ。この宮殿が出来てからここにだけ使えてきた一族、でしょう?」
 私が言うと、少し、真剣な表情でクルトは言う。
「じゃぁ、フリーデの家の長女はこの宮殿と結婚して誰とも結婚できなかったのは知ってる?」
 だれ・・・とも?
 私の目が驚きで見開いていく。フリーデの肩をつかんで揺さぶる。
「あなた。この先、誰とも結婚できなくていいの? 今ならこの役を解いてもらえるわ。私がお願いすれば!」
「エミーリエ。強く揺すりすぎだよ。言ったのは俺だけど」
「でも!」
 好きな人がいてもその人は別の人と結婚する。それを甘んじて見ないといけない役割って・・・!
「エミーリエ様。心配して頂いてありがたいのですが、私の心はこの宮殿とともにあります。そして、始めて宮の主人となるエミーリエ様にお仕えできる。一族にとってこれほど嬉し事はありませんわ」
「じゃぁ、どうしてその顔は曇っているの?」
「くも・・・てる?」
「そうよ。無表情だわ。まるでお面をかぶったかのように何もみえないわ。そんな心で人に仕えられるかしら?」
「あ・・・」
 フリーデが動きを止める。自分の頬に触れる。
「私はどんな感情も見せてはいけないと育ってきました。だから、嬉しくても嬉しい表情が出来ないのです」
「いいえ。あなたに好きな人が出来て、その人から愛を告白されれば自然と笑みがこぼれるはずよ。私と違ってね」
「エミーリエ」
 たしなめるようにクルトが言う。
「私の問題はいいのよ。ここに住むか野垂れ死ぬかのどちらかなんだから。現状は。フリーデに自由を与えたいわ。そして友達になって。主従の関係なんて今更な、話よ。私は家来なんていらないわ」
 その言葉にフリーデの目が潤んだ。私は抱きしめる。
「この世にたった一人なの。私。使用人じゃなくて、お姉さんになって」
 わっとフリーデは私の腕の中で泣き始めたのだった。新しい生活に彩る人が一人増えたのだった。


あとがき
ほんと名前には苦労させられました。ドイツ語とかスウェーデン語とかの名前の載っているページで気に入った名前をつけて。最後の名字はお任せ機能で気に入る名前が出るまでクリックし続ける。フルネーム風にすればミドルネームまで入るので、それを延々として紙にメモってやってました。

それが、今や。ChatGPTさんにドイツ語風の名前とかファンタジー風にアレンジしてとかやって簡単に名称がはいるんですから。こんな楽なことはありません。でも。それで自分の小説のオリジナリティーが失われてるような気もしないではありません。類想的な物語の設定も山ほど作りましたし。設定だけ在るフォルダが幾つもあります。いずれそれにも手をつけると思いますが、今は今書いている物が終わってから。新作に手をつけたいとは朝活手帳に書いてはいるのですけど。今進めたいプロジェクトに「星彩の運命と情熱」と「風響の守護者と見習い賢者の妹」が上がっているため手をつける暇もなく。そして途中の魔法の遺産とか緑の魔法と恋の奇跡とかあるし。煌星の使命と運命の絆も残ってるし。難しさで言えばその作品でしょうね。そしてパクリと言われがちな世界観。星の世界で星の守護者とかいるし。アレって守護聖様とかぶるやんけーと突っ込みながらも変更する言葉が見つからずそのまま。と、パワーナップが不十分で寝たいと思っていた更新時間に突入ー。まぁ、漢検がまるまる一時間必要で無いため少し外れても大丈夫。ということでこれを今日の更新最後で置いておきます。
ここまで読んで下さってありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?