【千字掌編】色なき風の土曜日に……。(土曜日の夜には……。#17)
鈴子は40代後半の独身女性。婚礼ももうないだろうと思う今日この頃である。仕事はできる方だが、恋愛となるとまったくだめだ。周りは朴念仁、と呼ぶ。
いつも後から気づく。ああ、あれは恋愛の始めだった、と。その頃にはもう相手は結婚しているか、恋人と人生を謳歌している。
バリバリと働いてはいるが、帰りにはよれよれになって帰宅する。貯めに貯めた財産で買ったマンションに戻る。
ふと、カラの花瓶に目が行った。
「花ぐらいあっても良いわよね」
鈴子はそう言ってはたと気になる。
「秋の七草の花って買えるの?」
そう思って調べ始めたその時、スマホがなった。航太、だった。
確か家族で花屋を経営していた人ね……。
今頃、何の用だろうか。彼も後で好意を持たれたと気づいたときには恋人がいた。普通に出かけたり食事をしていたけれど、気付けば音信不通だった。その時に連絡先を抹消するのを忘れていた。ほぼ、鈴子のスマホの連絡先はほったらかしだ。仕事先では専用のスマホがあるのだ。
だが、今調べている椛の花の事を聞く絶好のタイミングだ。スマホを手に取る。
「航太? あのね。秋の七草の花って手に入るの? 萩の花とか」
一瞬沈黙があった。
「鈴子さん。久しぶりに思い出して連絡すれば秋の七草? 萩はほぼ流通していないよ。そうだね、一般的なら撫子がいいね。鉢植えでも可愛いし。花言葉も純粋な愛とか器用、という言葉があるよ。そうだね。白の撫子の器用、は鈴子さんに合っているかもね」
爽やかに笑いながら言われても鈴子にはむなしいだけだった。
器用なら今頃暖かい家にいるわ。
礼を言ってスマホを切ろうとしたとき、航太が待って、と言う。
「白い撫子のポットうちの店で売っているんだ。ラスト一だから、鈴子さんの予約を入れるよ」
「航太?」
真意を測りかねる鈴子である。
これは、いわゆる引き止め、なの?
「鈴子さん、器用だけど、不器用なところもあるからこの花と一緒に俺の事も思いだして。俺がこんな秋の風が吹く日に鈴子さんを思い出したように……」
「そんな鉢植えと一緒なら嫌でも毎日思い出すわよ!」
なんだか、また朴念仁とからかわれているようで鈴子が怒りの声を出す。
「鈴子さん、怒っているの?」
「当たり前でしょ。仮にも好きだった事を後に思い出すぐらいの人からもらった鉢なんて嫌味もいいところだわ!」
スマホを床に放り投げそうに何って慌てて鈴子は我に返る。
私、どうしてこんなに怒っているの?
自分でも解らない心の動きがあった。
「わかった。今、時間ある? 外で食事しよう。言っとくけど、俺も花の独身貴族だから安心して。家庭なんて両親との暮らししかないから」
「外でって、化粧も服も……」
「そんなのどーでもいい。俺は鈴子さんに会いたい」
会いたい、を強調して航太は言う。
「わかったわ。ちょうど帰宅したところだったから。あの店あるの?」
よく行った洋食店の事だ。
「今もあるよ。あそこのママから怒られた。どうして鈴子さんを捕まえなかったのって。正解だったよ。まぁ、それは後で。じゃ、待ってるから」
慌てて鈴子は七分袖のワンピースに上着を羽織ってでる。
玄関の鍵を閉めるとき、ふっと風が鈴子の背中をなでていく。
「色なき風とはよく言ったものね。まったく航太の気持ちも見えないわ」
一句詠めそうな気もしたが、国語にはてんで、相性が宜しくない。無駄なあがきは止めて航太の元へ飛び出して行った。
色なき風が吹く日から始まった長い人生はこれからも鈴子の心を花で満たしてくれた。その恋物語はまた別の話である。
あとがき
ネタにつまり、歳時記を手に取る気力もなく、ChatGPTさんにテーマを聴くとしっかりとストーリーを書いてくれた。だが、私は設定に出した女性と男性の職業となまえぐらいしか頂かず、勝手に書き始めた。そこでふと、ChatGPTさんにあった萩の花は買えるのか? という疑問に行き着いてちょっと調べたらやっぱり、ほぼ流通してない花でした。秋の風とも書いていたので、最終的にやはり歳時記にあたりました。ついでに秋の七草の代わりになる一般的な花を。で、撫子は昔やったので赤の言葉は覚えていたのですが。他のものがわからない。のでまた検索。花言葉をいつものサイトで調べました。やはり、覚えていない花言葉でした。それであっという間に季語シリーズミニのできあがり。夏の分を提出していたので、秋も書きたいなと思っております。季語をテーマにしたものばかり集めた作品集を作ろうかと。ま。Kindleにする気も無いですが。
ChatGPTさんは人生の事について説いていましたが、やはり案の定恋物語にしてしまってました。それも伏線じみたものを引いて。
この続きはあるかないかはわかりません。しかし、ChatGPTさんは季語を知っているのか知らないのか。謎、です。