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気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました。

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昔に書いていた1話千字程度のファンタジー恋愛小説の再編集版から最新話を載せるマガジンです。当分、再編集版が載ります。159話まで行っても終わらないので困ってます。姫と王太子の婚礼… もっと読む
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#ユング

【新連載小説】恋愛ファンタジー小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました(66)+【エッセイの勉強】

前話 「ヘレーネ。こっちよ」  ヘレーネのリードを持ちながら、私は街の荒廃ぶりに衝撃を受けていた。まだ市場は活気があった。人の生活のにおいがした。だけど、下町に近いここには虚無が住んでいた。あちこちに悲しみがあふれていた。もしかして、アルポおじいさんも……、なんて事がよぎった。その角を曲がれば本屋さんだ。角を曲がって、本屋には灯りがなかった。私は思わず、立ち止まった。先を歩いたウルガーが振り向く。 「ゼルマ?」 「ウルガー、アルポおじいさんは……」 「ああ。そうか。忘れたの

【連載小説】恋愛ファンタジー小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました(66)+裏話

前話  ヨハネスお父様は、故国に帰れなくなったマチルダ様を保護すべきか離婚すべきか悩んでいらしたみたい。離婚用紙はすでに用意されていた。マチルダ様は本当の事なのかしら、と信じられなさそうに用紙を見つめていたけれど、意を決してサインなされた。それからダーウィット様から今度は婚姻届を出されて私達も度肝を抜かれた。 「いつのまにそんな準備を」 「宰相たるものあらゆる事を想定せねばなるまいからな。お前達の様子を見てしっかり用意していた」 「恐れ入ります」  マチルダ様が頭を下げる。

【過去掲載小説】恋愛ファンタジー小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (16)再編集版

お姉様の婚礼が終わった。嫁ぎ先の侯爵家はお父様の家からそう遠く離れていない。もちろん、生活があるから出仕時間を一時間遅らせた。すると、今度はお姉様が妹といる時間が減ると言って抗議する。  いや、新婚生活を満喫してもらわないと、と言って無理矢理遅くしている。あんまり早めたら遅くするために私がとことこ歩いて行く、と言えば収まった。私もあんまり熱々のカップルの朝に出くわしたくはない。結婚してもまだ恋煩いのようなカップルなんだもの。目の毒だわ。特に、ウルガーには。予告なしのちゅー

【過去掲載小説】恋愛ファンタジー小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (15)再編集版

お姉様の婚礼準備が終わった。あとは良き日を判断して婚礼の日を迎えるだけだ。私の場合は、城下町を走る車、というか馬車というか、わけのわからない融合物体に乗ってパレードがあるらしく、その設計で宮殿の技術士達はてんやわんやの大騒ぎ。その間にも、ドレスやら日常に着る服やら夜着やらなんやら、採寸されて大いに疲れる。はては履く靴の材質まで決る。アクセサリーを見るときは心躍ったけれど、それも国の人の税金でまかなわれていると思うと複雑だ。私の物のようで、私の物ではない。お母様は気にしない方

【再掲載連載小説】気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (13)再編集版

前話  王妃様は言いよどんでいたけれど、ついに口を開いた。 「私の一族は物語師と言って様々な物語を紡いで世界を動かす影の一族だったの。でも、その強大な力を恐れた人々は私の一族を抹殺した。唯一生き残った私は、この国の姫として養子で育った。そしてあなた達のお父様に嫁いだの。この国にはまだ物語師の影があるわ。誰かはわからないけれど、ゼルマ姫が書いた物語と、この世界の物語を結んだ人がいるわ。この世界のどこかに。そしてウルガーは闇を背負い、そしてゼルマ姫にであった。ゼルマ姫の書いた物

【再掲載連載小説】気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (12)再編集版

 「ふーん。そういった本がウルガーは好きなんだ」  東屋に来てから時間が経って、二人きりに慣れない私達は持ってきた本をお互い読むだけになっていた。おしゃべりする目的はなくなっていた。たまにウルガーは果物に手を伸ばすが一つの種類に絞られていた。 「ウルガーは葡萄が好きなんだ」 「ああ。それが?」 「私も葡萄が好きなの。皮ごと食べられて種のないものが」 「そんなものがあるのか?」  何気なく話しただけなのにウルガーが大きく反応した。 「この国はないの? こんなに発達してるのに」

【再掲連載小説】ファンタジー恋愛小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (11)再編集版

前話 「はぁー。美味しかった」  最初にウルガーはアーダとフローラに追い出され、お風呂に入った。よく考えれば、この宮には風呂部屋があったと思い出した。ウルガーを追い出す必要はなかったけれど、やっぱりすぐ側で待ってられるのは落ち着かない。ということで着替えついでに長風呂を味わった。薔薇の花弁をちらして豪勢なお風呂だった。服に着替えても、まだその香が残っていた。 「ゼルマー。ちゅー」  ウルガーが声をかける。私はお姉様と顔を見合わせてローズウッドのお盆を用意する。 「入ってもい

【再掲連載小説】ファンタジー恋愛小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (10)再編集版

前話  夕食が終わって、皆、ばたばたと元の持ち場に戻る。残ったのはウルガーと私。改めて二人きりになるとどうしていいかわからない。ちらちら二人とも見ているんだけど、微妙な距離がある。手を伸ばせば届くけど、ぎゅっと抱きしめるには距離がありすぎる。言ったもののどんな顔でぎゅーすればいいかわからない。急に自分の恋心に気づいてから特にわからない。あの故郷の国で王子に熱を上げていたのは違う感情があった。 「えと・・・」 「ぎゅーっ」 「え?」  ウルガーが先に私を抱きしめた。私がするん

【再掲連載小説】ファンタジー恋愛小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫になっていました。(9)再編集版

前話  翌朝、ウルガーはやってきた。私が着替え終わったちょうどその頃に。そして部屋へ入るとアーダとエルノー夫婦、アルバンも、さらにはフローラも呼び集めると、座ってみんなで朝食を取ると言い出した。  アーダ達はそんな身分違いなことを、とかなんとか言っていたけれど、全員が大きめのテーブルに囲むように座って朝食になった。 「はい。ゼルマ、かけ声かけて」 「かけ声って・・・」  不意に「いただきます」、という言葉が浮かんだ。私は手を合わせて言う。 「いただきます」 「はい。みんなも

【再掲連載小説】ファンタジー恋愛小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (7)再編集版

前話  私は徹底抗戦を始めた。文字通り食事を取らないストライキを始めたのだ。  だれが、あんなヤツと結婚なんか。  喪が明けると待っている婚礼にもかかわらず、私はまだ意固地に思っていた。もう。闇の目は見たくない。苦しくなる。治してあげたいのにそれすらできない。ただ。相手の苦しむ様子を見てるだけなんて・・・。  気づいたら泣いていた。そんな私にウルガーが扉の向こうから声をかける。 「ゼルマ。それじゃ。父君の望んだことは叶わないよ」 「お父様が何を望んだというのっ!」 「父君は

【再掲連載小説】ファンタジー恋愛小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (6)再編集版

前話  「別々だったらさー。あの王子、君を襲いに来るよ。確実に。もう側室何人かいるみたいだから、君の嫌いな側室になっちゃうよ? でもって、王太子妃婚約者の姫君が寝取られたら戦争もんだし。ここは清く正しく美しく帰国するために婚礼をひかえている男女なのでベッドは別々にってお願いしてこのような状況なわけ。少しは苦労を認めてよ」  む~、と言わんばかりにすねる。それが妙に可愛くてもっとすねさせたくなる。って、私、異常? 自分もツンデレなのに相手のツンデレぶりが可愛いなんて。きゃー。

【再掲連載小説】ファンタジー恋愛小説: 気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (5)再編集版

前話   その日、私はウルガーの急襲を受けた。 「ゼルマ。産まれたよ! はい。女の子の子犬!」 「ん? ぎゃー。何しに来てるのっ。まだ夜着のままなのにっ」  ごん、と鉄拳制裁を出す。 「落ちるだろう? ほら。この子だよ。名前つけてあげて」 「って。産まれたばかりの子連れてきたの?」  私は呆れて物も言えない。 「そうだけど?」 「お馬鹿ね。お母さんのミルクを飲んで離乳食が始まってからが飼うときよ。お母さんから引き離したら可哀想じゃないの。お腹も空いてみゃーみゃー言ってるじゃ

【再掲連載小説】ファンタジー恋愛小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (2)再編集版

前話  私は父の眠っている寝台の横に椅子を持ってきて見守る。お願い、また私の前に戻ってきて、と祈りながら。それにしても、と思考が移動する。誰が、父に毒を盛ったのだろうか。父は良心的な公爵で、王の信頼も厚かった。領民も慕っていた。なんら恨みを買う覚えはない。何か、父は隠しているのだろうか?  確かに今年は不作だった。それで苦心していたのは知っている。それが、何か? 「・・・め。・・・姫っ」 「え・・・。ああ。ウルガー王子」  いつの間にかウルガーが部屋にいた。 「一晩付き添う

【再掲連載小説】ファンタジー恋愛小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました(1)再編集版

 ふいに私は気づいた。ここ、私が書いた小説と同じ世界だ。どーいうこと? 書いた世界に入っちゃったの?? あ。あの方は! 遠くの方で王子を見かけた。この人が私の考えた姫君の恋人。このまま行けば、踊りを申し込まれるはず。そしてお互い一目惚れして結婚するのよっ。  私は、興奮気味になって王子様を見つめていた。  ところが、ところがよっ。なんと王子様は敵国の姫君に踊りを申し込んでいた。  おーい。私はー?  背伸びして一生懸命アピールしていると誰かが肩をつつく。 「俺と踊らない?」