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熟語本位英和中辞典を覗く12
映画「情事の終り」
ペチコートとスリップの大きな写真を見たら、映画「情事の終り」に出ていた、セーラ役のジュリアン・ムーアを思い出した。ここで少し脱線して、大きなスクリーンから、スリップ姿の魅力的な女性を紹介してもいいだろう。
ナチスドイツによるロンドン空襲のさなか、被爆した愛人の命が助かるようにと、ベッドのそばで必死に祈る場面は、マイケル・ナイマンの音楽と共に忘れがたい。
この時、セーラは神と契約を交わしていた。あの人の命を救ってくださるなら、もう決して逢瀬を重ねませんと。だから、てっきり死んだと思っていたモーリスが、ケガを負いながら、階段から姿を現したときは、どんなに驚いたことか。
モーリスの命を救ってくださり、神よ、感謝します。契約どおり、情事は終りにしますと、セーラは神にささやいていたに違いない。
モーリス(レイフ・ファインズ)がセーラにストッキングを履かせながら、交わす次の会話なんか、実に洒落ている。
このストッキングがうらやましい。
どうして。
僕にできないことをするから。君の脚全体にキスを。このボタンにも嫉妬を感じる。
つまらない、何の罪もないボタン。
罪がないなんて、四六時中、君と一緒じゃないか。僕はちがう。
じゃ、わたしの靴にも妬いているのね、きっと。
ああ。
なぜ。
僕の元から君をさらってしまう。
この国でも、恋人たちは、こんな会話を交わしあっているのだろうか。やはり、この箇所は、拙訳よりも英語で読みたいと願う人もいるにちがいない。IMDBの力を借りて、紹介しよう。
Maurice Bendrix: I'm jealous of this stocking.
Sarah Miles: Why?
Maurice Bendrix: Because it does what I can't. Kisses your whole leg. And I'm jealous of this button.
Sarah Miles: Poor, innocent button.
Maurice Bendrix: It's not innocent at all. It's with you all day. I'm not.
Sarah Miles: I suppose you're jealous of my shoes?
Maurice Bendrix: Yes.
Sarah Miles: Why?
Maurice Bendrix: Because they'll take you away from me.
似たようなセリフが、シェイクスピアにあったような気もするので、調べてみると、バルコニーの手摺に頬杖をつくジュリエットを見て、ロミオがつぶやく場面があった。
Shakespeare, Romeo and Juliet 2:2.
See how she leans her cheek upon her hand.
O that I were a glove upon that hand,
That I might touch that cheek.
おお、あの片手にほおをよせかけた姿! かなう願いなら、いっそあの手をつつむ手袋になってみたい、そしてあのほおにふれていたいのだ!
以下、すべて中野好夫の訳を使う。
「ロミオとジュリエット」からの台詞をどのくらい、校注者が秀三郎の辞典の中に見つけたのか調べてみると、5件ヒットした。
Mab[mæb]【固名】Queen~,1)仙女(fairy)の女王,人に夢を見せると言う.1)もとはイギリスの民間伝承の妖精の女王(Enyclopedia Britannica).シェイクスピの作品から広く知られるようになったという:
Shakespeare, Romeo and Juliet 1:4. “Mer. O, then, I see Queen Mab hath been with you./She is the fairiesʼ midwife, and she comes/In shape no bigger than an agate stone/On the fore-finger of an alderman, … .” P. B. Shelleyの詩に“Queen Mab” (1813)がある
第1幕第4場
マキューシオ じゃ、てっきり、きさま、マブの女王と同衾したな。あいつはね、妖精どもの取上げ婆だ。市(まち)役人の人差し指に光っている、あの瑪瑙の小石みたいなかわいい姿でやってきてさ、・・・
meat[miːt【]名(】食用の)獣肉.(卵の)実5)・・略・・The book is as full of errors as an egg is of meat.6)(誤り)だらけ ・・・略・・・
5)⦅米⦆.「(くだものの)果 肉」なども含む
6)Shakespeare, Romeo and Juliet 3:1. “Thy head is as full of quarrels as an egg is of meat.” meatは「卵の(殻に対して)黄身・白身」(OED, s.v. MEAT, 1e)
第3幕第1場
マキューシオ きさまの頭ってのはな、卵の中の黄身みてえに、喧嘩でいっぱいにつまってるんだ。
out[aut]【副】外へ(出る又は出す).・・・略・・・【熟語】He is out and away(=by far)the best scholar(. 人よりも) 遥はる か に擢ぬ きんでて居る.Out upon(=fie upon, shame on)you !1)ああ可笑おかしい(皆笑え笑え)1)⦅古⦆Shakespeare, Romeo and Juliet 2:4. “Out upon you! What a man are you?"
第2幕第4場
乳母 まあ、いやらしい! なんて方でしょうねえ、この人は!
rule[ruːl]【他動】(帝王が国や民を)治める,統治する,支配する.・・・略・・・Be ruled by me. 僕の言う事を聴け Shakespeare, Romeo and Juliet 1:1. “Be ruled by me, forget to think of her.” 彼女のことは忘れろ
第1幕第1場
ベンヴォーリオ ぼくの言うことを聞くんだね、その女(ひと)のことは忘れたまえ。
God[ɡɔd]【固 名】(一)神,上 帝,天 帝.・・略・・
God save the mark!15 )(斯こんな事を申して)御容赦有れ (無駄事むだ ごと御免).15)⦅まれ⦆
mark[mɑːk]【名】しるし(印,章,標,号,符),表章,標章,印章, 刻印,記号,符号.(より―門閥などの)特徴,目標,目じるし. (又競走などの出発点を示す)線,分界線.・・略・・God save(or bless) the mark!(こんな無駄事云って)御容赦を乞う.
save[seiv]【他動】(one’s life―one from death or ruin)助ける,救 う,救助する,救済する.・・略・・
God save the mark!2)(多くの事を並べた揚句に)無駄事御免⦅文語⦆.
2)斎藤の説明とは異なり,忌まわしい言葉を使った後の魔除けの言葉(OED, s.v. MARK n. 18).シェイクスピア作品に由来:Romeo and Juliet 3:2. “I saw the wound, I saw it with mine/eyes, …/God save the mark! ― here on his manly breast ; … .” God は時に省略.OED は,mark は産婆が新生児の「印」を見て言った言葉という説:
第3幕第2場
乳母 乳母はちゃんと傷口まで見てまいりました、ああ、思い出してもおそろしい!ーあの男らしいお胸のここに、乳母はちゃんとこの眼で見てまいったのでございます。
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