聴く力を身につける


小学校から高校までの12年間で、国語の時間に、先生の読む文章の書き取りをした記憶がない。聴く能力の開発は、教育になじまないと考えているのだろうか。

しかし、話すだけでは、円滑なコミュケーションは成立しない。話す以上に聴く力が大切なのではあるまいか。

自分の話す時間よりも、相手の話を聴く時間のほうが倍になるように、口はひとつ、耳はふたつあると考えることもできる。

この国の学校で、聴く力をつける訓練は不必要といえるほど、生徒はみんな素晴らしい耳をしているといえるのだろうか。

筆者はそうは思わない。むしろ、普段から退屈な話を無理に聞かされているので、ざる耳になっている生徒のほうが多いと思う。

この国で勉強しているオランダからの留学生は、日本人は音に鈍感なのではないかと言っていた。

電車の入ってくるホームでは、「まもなく、電車が・・・」とスピーカーは、がなりたてるし、デパートのエスカレーター乗り口では、「黄色い線の内側に・・・」と命令される。

また、左折するトラックは、「左に曲がります」と自転車に注意を促すし、政治家を志す候補者は、走る車から騒音を撒き散らす。

こんな生活環境で育てば、だれもがざる耳になるにちがいない。

日本のテレビの特徴だと思うのは、出演者のセリフが画面下に,表示されることが珍しくないことである。

これも、日本人の視聴者は、ざる耳の人が多いことを如実に語っているのではあるまいか。

学校で聴く力を鍛えてくれないなら、独学で身につけるしかない。こんなのは、どうだろうか。

ネット検索して、音声だけのポッドキャストの中から自分の好きなものを幾つか選び、毎日、目を閉じて必ず1回は聴くように努めること。

「読書百遍意自ずから通ず」というから、これを人の話に応用しても、効き目はあるのではないか。

ポッドキャストには落語もあるようだから、これなら繰り返し聴いても飽きることはないだろう。

また、古典落語なら図書館に行けば、活字化されたものがあるので、書物を読んでから、音声で楽しむというのもいいだろう。

ポッドキャストで、日本語による講義を配信している大学もあるので、自分の興味に合うものを、いろいろと聴き比べるのも面白いかもしれない。

自宅にラジオしかないなら、放送大学の講義やNHKの高校講座から好みのものを選ぶという手もある。

講義が嫌いなら、ラジオドラマを目を閉じて聴くのは、いかがだろうか。登場人物のひとりになりきって楽しむことができる。

これも録音できれば、何度でも繰り返し聴くこと。もっとも、これは自分の好みにあうドラマであることが必要だが。

ポッドキャストで配信しているラジオドラマもあるので、独学で聴く力を身につける材料は、まだまだいくらでも掘り出せるようだ。

さて、聴くときの心構えを述べることにしよう。意識を音だけに集中させるためには、目を閉じるか部屋を暗くするのが効果的ではないか。

それから、最初に聴くときは、先の結論を予想しながら2度目以降は、論の展開に無理はないか、もっといい結論は引き出すことができないかどうか、考えながらやるといいだろう。

オーディオドラマを楽しむ場合、登場人物のひとりになりきり、相手のセリフを予想しながら、ドラマに参加する気持ちで聴くとき、役者の醍醐味を味わえる。



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