陽のあたる菜園

 家から歩いてほんの3分くらいのところに小さな菜園があって、お料理で使った野菜の皮などをそこにあるコンポストゴミ箱に入れに行くようになってかれこれ数ヶ月。そこの菜園の持ち主のおばさまに誘われて今はコミュニティ菜園メンバーになった。
 自分からぐいぐい知らない人と仲良くなっていくタイプではないので、メンバーになったからといってなにができるのかわからないけれど、そこでできたラズベリーを摘ませてもらってジャムにしたり、ちょっとした生活の質が小さく微笑むようなレベルで上がったなぁと思う。もう少ししたら菜園のお手伝いとか、家に余っている野菜の種とかを植えたりできるようになるのかも。そうしたらもっと楽しいね。植物を育てるというのは本当におもしろい。いろんなことが学べるし、まずは愛情をかけてあげないといけないというのが中心。愛でるというのは本当に大事。
 夏至を過ぎたといってもまだ22時近くまで明るい。夕方を過ぎてからまぶしいくらいの日差しになったので、菜園に飲み物持参で食前酒タイムに赴く。飲み終わるまでの時間はゆったりとした時間。なにをするでもない。健康に育った様々な植物に囲まれて、いろんな虫が飛び交う。虫は苦手だけど、毎回来るたびに成長してる植物観察は楽しいことこの上ない。
 「そういえばフランスの首相が変わったらしいよ。」唐突にパートナーが語り始めた。彼はイギリス人、わたしは日本人なのでフランス情勢には疎い。それでも前首相に関してはわたしですらどんな顔かすぐに頭に浮かぶ。「あ、あの白黒はっきりのヒゲのおじさんね?」「そうそう、それそれ。」「そうなんだ?あの人いいと思ってたけどどうして?」「わからないけどね。でも、彼はすごく頭が切れてできる感じがするよね。一眼見たらわかるよ。」「あー、わかるわかる。やっぱり顔つきに出るよね。それもなんでかわかんないけど。わたしもあのおじさんからは悪いオーラ感じなかったよ。」とまぁ、雰囲気でもの言ってる二人ですが、これぞ人間の本能。動物の本能。パッと見の第一印象ってわりと当たるんだよね。
 長い陽が沈んでから東京に住んでいる母に電話する。両親の飼っている犬が入院していたので心配。犬も心配だけど、両親も心配。元気が家の中で減ってるのは良くない。犬とはいっても家族の一人だし、老夫婦にとって元気と笑顔の源であるからとても大切。
 早急の手術と数日の入院、その他もろもろで合計うん十万円掛かったとのことですが、幸いペット保険に入ってたそうなので全額ではないけれども戻ってくるそう。いやしかし高い!「でもこれで元気になってくれるなら」という言葉を裏返せば、たかがお金っていうことなのだよね。ほんとそう。
 数日前に入院報告をしてきた電話の声とは打って変わって明るくてほっとした。笑顔でいれることは、本当にかけがえないことなのだなぁ。両親の犬はもちろんだけど、電話嫌いのわたしから電話をかけるってこと、犬と両親を心配してるわたしっていうのも両親を笑顔にしているっていうのも伝わってくる。ほんとにほんのちょっとのことで人間はちょっとだけ幸せになれる。そんな母はわたしのことも少し笑顔にしてくれた。「お父さんとお母さんは選挙で山本太郎に入れてくるからね。」いやぁ、すごく嬉しかったなぁ。他人を応援することでこんなに心動かされたことなんてないんじゃないかな。この体験だけでもすごいと思う。彼はすごいな、ほんとに。

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