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THE 1975 / A Brief Inquiry into Online Relationships

 2018年11月30日、人生を通して聴いていくと確信ができるアルバムがリリースされた。イギリス、マンチェスター出身のロックバンド、THE 1975の3rdアルバム「A Brief Inquiry into Online Relationships」だ。THE 1975といえば、SUMMER SONIC 2022でヘッドライナーを務め、大熱狂のまま1時間30分のステージを行ったことが記憶に新しいだろう。これは私個人の意見として受け取ってほしいところだけれど、『2000年以降のバンドシーンで最もアツいバンド』だ。

 そもそもTHE 1975を知ったのはこのアルバム(以降ABIIOR)がきっかけだった。2018年の暮れになんとなく買ってみた雑誌ロッキングオンを、なんとなく大学の図書館で読み、2018年ベストアルバムとして選ばれていたABIIORを、なんとなくApple Musicで再生しなければ、もしかすると今でも知らないままだったかもしれない(おそらくそれはないが……)。ただあの時、他所よりは静かだった図書館で、1曲目かつアルバムのイントロでもあるThe 1975を再生し、神の息のような“Go Down Soft Sound”を聴かなければ、今の私は絶対に存在しなかった、ということだけは確かである。

 私は2018年の終わりに出会ってからというもの、ずっとこのアルバムに助けられてきた。音楽はただの音楽であって、誰かを救うことないと考えていたが、どうやら自分自身が何かを成そうとする時、音楽はそれを支えてくれるらしい。
 大学2年生の頃、友人達と2週間の合宿免許に行った。元々車のような大きいものを操作するということに抵抗があり、いくら友達と一緒といえども2週間丸々嫌々で号泣の毎日。鬼のような教官には毎日ボロカス言われ、特に最初の数日なんて慣れないというレベルではなかったから、今ではもう覚えていないほどぐしゃぐしゃになりながら通った。
 今考えても、あの精神状態でよく通ったなと思えるくらい辛かった思い出がある。そんな辛い数日の間にも、ABIIORが近くにあった。サマソニ2019でのあの最高のステージを観た直後の免許合宿で、ちょうどこれまでで1番レベルにTHE 1975の虜になっていた時期だ。ほぼサマソニの思い出とTHE 1975の楽曲に支えられて地獄を生き抜いた。毎日ホテル〜車校の往復でABIIORを聴き、Love It If We Made Itで拳を突き上げたあの日を思い出し、毎朝のアラームはPeople。完璧だった。運転技術以外は。
 あと卒業試験に合格して、やっとの思いで実家に帰り聴くABIIORもそれはそれは素晴らしいものだった。It's Not Living (If It's Not With You)が流れた時なんて帰ってきたんだ……という実感が頭の中いっぱいに咲いて、ミニMattyが踊り始めた。“It's not living if it's not with you”とまではいかなくとも、THE 1975を聴くことで生きていると感じられる。

 時は進んで、世はまさにウイルス時代で、色々なことが制限され、ライブという楽しみも奪われた頃、私はついに就職のために動き出さなくてはならなかった。着慣れないスーツを着て、首輪のようなネクタイを目一杯に締め、1年後の社畜人生スタートの準備運動が始まったのだ。
 私の専攻分野は就職口自体は割とあり、言うほど困ることはなかった(ような気がする)。それでもインターンシップや説明会、ましてや面接なんてものはクソッタレであり、何も楽しくない。楽しくないだけならまだいい、とにかくクソッタレなのである。流石に合宿免許でいたような鬼教官チックな人間はいなかったけれども、やはり圧迫感のある面接をされたことはあるし、周りのどこからそんなやる気が出てくるのかというイカれた優秀な就活生に圧倒され、成すすべもなかった。
 しかし、ここでもTHE 1975パワーは炸裂する。面接の始まる前には必ずABIIORで戦闘体制に入る。そうするとなんとなくやる気が湧いてくるのである。ABIIORのお陰か、それとも面接帰りに聴いていたBBHFの「BBHF1 -南下する青年-」のお陰か、はたまた自分の精一杯のやる気アピールかは定かではないけれど、やはり頑張りたいと思う時にはABIIORを聴いていたことだけは確かだ。

 現在は大学生ではなく、一社会人として社会の荒波に揉まれているような、いないような、という感じで日々を過ごしている。

 そこで、最近少し変わったことがある。私はABIIORを聴くという行為に対し躊躇うことが増えた。理由は聴くたびに色んな感情がぐちゃぐちゃに混ざり合って、どうも必要以上に神経を使ってしまうからである。まるでカフェインのよう。寝る前に聴こうものなら次の日は寝不足覚悟だ。

 そんな中行われたのが、SUMMER SONIC 2022だった。出演したTHE 1975はヘッドライナーということもあり、1時間30分にも及ぶ長時間のステージを行った。
 なんの疑いもなくこれまで通りThe 1975(曲)始まりだと思っていたら、最初から4thアルバムのキラーソング、If You're Too Shy (Let Me Know)で大盛り上がりスタートをかまし、そこから怒涛のヒットソングメドレー。かと思えばまさかのParis演奏。いややっぱりキラーチューン祭り。新曲もやっちゃったりして、気分は最高だったのだけれど、とある曲でついに私に限界が訪れた。
 I Always Wanna Die (Sometimes)を生で聴くのはこれで2度目だった。1度目は出会って、好きになってまだ1年も経っていない時に観たサマソニ2019のステージ。夕暮れに包まれながら会場全体がシンガロングして、夏の終わりを感じる雰囲気だった。そして今回は、そんな前回とは全く異なったものだったと思う。汗か雨かもわからないビショビショの状態、オーディエンスも歌えない状況で、真っ暗な夜に聴くI Always Wanna Die (Sometimes)は、前回よりもより歌詞にフォーカスが当たるムードだった。
 正直、本当の意味での男泣きだった。他の今聴きたい! という曲ではどうもなかったのに、既に一度ライブで聴いたことがあるナンバーで決壊してしまったのだ。
 ABIIORを〆る最高の一曲ことI Always Wanna Die (Sometimes)はタイトルからして無茶苦茶な曲。「いつも死にたい。時々。」だなんて、こんな矛盾があるだろうか。私はそんな矛盾にすら共感してしまう。
 THE 1975は悲しみや怒り、幸福といった喜怒哀楽を曲にすることがとても上手い。ポップでありつつも、いつも悲観的であり、いつも愛情に溢れている。それはメンバーの経験からくるものなのだろうけれど、私はそれに支えられている。
 このI Always Wanna Die (Sometimes)でも「死にたい」と言うが、決してネガティブな曲ではないと私は思う。これは哀しい曲であり、希望の曲なのだ。
 つまり私が泣いてしまったのは、この3年の間の色々な辛い経験やしんどかった体験などがフラッシュバックして、でもついに、やっと、再びTHE 1975をこの目で観ることができたんだぞ、というそれだけの気持ちが爆発したのだと思う。"I always wanna die"と思う時がいくつもあった。でもそれを乗り越え、もう一度I Always Wanna Die (Sometimes)を聴くことができた(シンガロングはできないけどね)。

 大きく話は逸れてしまったけれど、私にとって「A Brief Inquiry into Online Relationships」とはリリースから数年でも数え切れないくらい沢山の共に過ごした思い出があって、収録曲ひとつひとつに涙腺が緩むくらい重い感情を持ってしまってうまく聴けない場合もあるけれども、それでも世界一、いや宇宙一大好きなアルバムなのである。

 私は、ABIIORに、そのほかのアルバムに、そしてTHE 1975に支えられて、"I always wanna die"の後に"sometimes"と、冗談っぽく言えるのだと思う。


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