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或る生活を憶う(22/夏の終わりのアルバム)

 私の祖父はいまいち掴めない人だ。何を考えているのか全くではないがいまいちわからない。衝突することも同居時代にはよくあった。ワガママな私と、不器用な祖父はいまいち噛み合わない組み合わせだったのかもしれない。

夜光

 そんな祖父も、祖父なりの愛情を孫である私に注いでくれたと思う。
 私がミルクを飲む年齢の頃には股間の上で不器用ながらも飲ませてくれた。戦隊モノが好きな年齢の頃には何かの付録として手に入れた当時放送中の某戦隊ヒーローモノのCDを流してくれた。習い事を始める年齢の頃には毎週送り迎えしてくれた。ファンタにハマる年齢の頃(大体中学の頃)には毎日のようにファンタグレープ味を買ってきてくれた。そのおかげでかなり太った。

或る生活を憶う

 祖父は元々人と話すタイプとはかけ離れていて、わりと孤独だった。友達も私が知る限りでは一人もいないし、家族以外の人との繋がりはほぼ無いに等しかった。私もそんな祖父と話すことがあるとすれば、やはり本、特にライトノベルの話だった。祖父は半分以上の単語について理解していなかったように思うけれど、それでも「とある魔術の禁書目録」や「さくら荘のペットな彼女」が好きで、禁書目録においては、とある時期までは最新刊まで買い揃えるくらいだった。きっと今の時代に生まれていたならば、とんでもないオタクになっていたのだろう。

 祖父は家族を含む他人に本音を見せないようにしていたように思う。人付き合いの下手な部分と直結しているのだろうけれど、そういう部分があった。そしてそれはなんとなく私にも引き継がれていると感じる。
 ただ、笑うときだけはいつも本心で笑っていたと思う。それもなんとなくである。

 そんな感じで、自分のこともロクに話さないような昭和生まれの頑固じーさんで、家族の皆も本当の部分はうまくわからないのだけれど、結局私はそんな祖父のことがうまく掴めないなりにも好きなのだと思う。

悠遠

 先日、祖父が他界した。
 実は逝く数日前に入院して、私もその時に帰ってから実家の方で仕事をしていたのだけれど、家族皆がいつ帰ってくるのだろうと思っていた。いや正確にはいつ家に帰って来れるのだろうかという気持ちと、年齢的に帰って来れないかもしれないという気持ちの両方があった。
 某ウイルス対策としてお見舞いに行っても会えない状況での突然の死に、どういう状況だったのかはわからないが、死顔はとても穏やかだった。昼寝の顔そのままだった。そのことからして、すごく綺麗に逝ったのだと思う。よくはないけどよかったというか、これもまたいまいちわからないのである。

散歩道

 正直、未だに実感がないというか、ふとした瞬間に祖父の存在を確認してしまう。夜中はトイレついでに家の見回りをしていた。高齢も高齢なのに畑仕事をして汗をかいていた。一人暮らしを始めてから、実家に帰るたびに「帰ったんか!」と祖父らしくない反応で出迎えてくれた。
 一番その事実に突きつけられたのは、祖父の遺品整理をしている時に、大昔に賞味期限が切れたぷっちょを見つけた時だった。そういえばファンタと同じようにぷっちょもよく買ってきてくれていた。
 祖父から沢山のものをもらったけれど、自分がそれと同じくらいのものを返せていたのか不安だ。それでも、私がバイトや今の会社の給料でプリンなどの食べ物(服などは嬉しくなさそうだったからいつからか食べ物しか贈らなくなった)を食べさせると、実は裏では喜んでいたようだった。祖母調べのためわからない。東京に行ったお土産も渡そうと思っていたタイミングで入院してしまったため、結局渡しそびれてしまい棺桶の中にぶち込んでおいた。天国行く道中でこれでも食べとけ。

目前

 残された家族、つまり自分に一体何ができるのだろうと考えた時に、やはり胸を張って今後の人生を生きることしかできないし、祖父にもらったものを今度は自分が他人に渡さなければと感じる。私にはあいにく創作の力が無く、こうして撮った写真を共有することしかできない。しかしこれを楽しんでくれる人がいるならば、今後も続けていきたいと思う。

睡魔

 これらの写真を撮ったカメラはなんと祖父の命日に届いたもの。すごく楽しみにしていたのにとても複雑だ。でも祖父のことを考えながら、祖父に縁のある地を撮ることができてある意味良かったのかもしれないとも思う。

今でもあなたはわたしの光
/ 米津玄師「Lemon」より
https://j-lyric.net/artist/a0579b7/l044ef6.html

 私の祖父はどっちかっていうと暗い人だったし、私にとっての光というわけではないだけれど、記憶という意味では確かに大切な思い出が光の粒子のようにそこら中に散らばっていた。

記憶の中の風景


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