そうやってわたしは母になる

ねえ、

君は今、空を見上げて
何しているの

体に似合わないちいさなリュックに
あたまをもたげて

ねぇ

となりのわたしはさ、
痛み堪えて、
読みかけの本のせかいにどっぷりつかって
愛する人の言葉のボタンにひっかかって
泣いて晒した目を擦ってさ
ぬまにはまらぬように
じっと目を瞑っていたのに

何か隣でちょこちょこ
うごく気配を
感じてしまったの

君は
その無邪気な君は

「これから
どんな愛を紡ぐんだろう」
なんて、
きっと、考えて空を見てないよね

ただ
「お腹すいた」
「あ、光だ」
かもね。

君はわたしの子でもないし

どんな生活してるかも知らない

でも、こうしてただ偶然に隣り合わせに
電車に揺られたのよ

ただ

それだけ

あぁ、こんなかわいい子どもが
未来を楽しく生きて欲しい

ただ

そんな自分の中にある母性が

燻るだけ

あぁ、そうなの

こうしてわたしは

母になる

世界の誰かの。