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ちょっとした工夫で、映画『君は放課後インソムニア』実写版は原作漫画やアニメを改革した。

概要 池田千尋監督の『君は放課後インソムニア』は連載の続いている原作漫画、および、13話構成で放映されたアニメ版に、やや遅れて劇場公開されている。 いわゆる陰キャで不眠症の男子高校生(中見)は、同じく不眠症に苦しむ女子クラスメイト(伊咲)と、学校の使われていない天文台で出会い、自分たちにとって大事な場所を守るため、協力して「天文部」をやり始める。互いを傷めつけるこころの問題と向き合ううちに、2人の関係が恋愛(をも越えた信頼)にまで発展するというあらすじだ。 実写版も大筋で変

    • 3月末の京都旅行をまとめる 前編:松平莉奈個展「蛮」をめぐって

      1、序 2023年3月24日から翌日にかけて、私は京都への旅行をした。いきなり余談になるが、私は長い旅行というのが、どうも性に合わない。3日4日もつづく旅となると、自宅の寝床が恋しくなるのであって、どこか気疲れする。いささかもったいないとは思うが、1泊旅行をパンパンに詰め込むようなのが好きである。ところで、自分はいわゆるエッセンシャル・ワーカーというものに当たっており、コロナ禍になってからは、これがほぼ初めての外泊付き旅行であって、京都への旅も7-8年ぶりになるかと思う。

      • 清水エスパルス~再び1季でJ1復帰の高いハードルに挑む

        清水エスパルスが2023年シーズンの新体制を発表し、9日から三保で始動しました。昨季J1リーグ得点王となったチアゴ・サンタナや、日本代表で正GKを務めた昨季主将の権田選手ら、去就が確定していない4人の重要なプレーヤーの契約問題は残っているものの、選手の大量離脱までには至らず、十分な戦力を残すことで、1季でのJ1復帰という目標に向かって前向きな船出となった。 昨季のエスパルスは周知のとおり、あと一歩というところで勝ち点を逃す展開がつづき、2回目のJ2降格を味わった。カテゴリー間

        • 新国立劇場『ボリス・ゴドゥノフ』~複層的なずれから生じる新しい世界観 part.1

          新国立劇場のオペラ『ボリス・ゴドゥノフ』が、15日に初日を迎えた。予想以上の不人気もあるのか、13日のGPには感想のツィートをあげることを条件に、相当の人数が招待された上、プロモートの動画も多く出している。初日の終演後に指揮者と演出家によるアフタートークもつけるなど、劇場側も必死だ。私も劇場のキャンペーンに乗る形で、GPを拝見させて頂いたので、それに基づく考察を示す。このあと、有料で本公演を1回みる予定になっており、追々、内容を深めていくつもりである。 【欧州劇場との提携す

        ちょっとした工夫で、映画『君は放課後インソムニア』実写版は原作漫画やアニメを改革した。

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        • 清水エスパルス~再び1季でJ1復帰の高いハードルに挑む

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          グッバイ・クルエル・ワールド~よりよくみつめる意思がもたらすもの

          【撮影監督は問題を指摘していた】 9/9 に公開された、大森立嗣監督の映画『グッバイ・クルエル・ワールド』だが、まずまずの出足を集めてはいるものの、大好評という感じの評価にはなっておらず、公開規模に対してやや低空飛行が続き、公開3週目で上映館・回数も大きく減らしているようだ。元ヤクザ役で主演の西島秀俊、ヤミ金融で稼ぐ荒くれ者役に斎藤工、さらに、若手の人気株である玉城ティナ、宮沢氷魚らを起用した分厚いキャストからみて、期待される評価を得ていないが、本作を担当した撮影監督の辻智

          グッバイ・クルエル・ワールド~よりよくみつめる意思がもたらすもの

          巨匠は空間を支配した!~ボリス・ペトルシャンスキー ピアノ・リサイタル 東京文化会館「プラチナ・シリーズ」第1回

          【一体的な空間と演奏者とのシンクロ】 ボリス・ペトルシャンスキーは、数秒で空間を変えた。スクリャービンの『2つの詩曲 op.32』だが、聴き手とステージの間にあるという見えない幕を一瞬ですり抜け、早速、衝撃を与えた。ひとつ音が鳴れば、聴き手を吞み込んだ、ひとつの空間に変容する感覚は、ドビュッシーに通じる。これまで耳にしてきたスクリャービンと比べると、一味も、二味もちがう。これは凄いことになると、はっきり予測がきいた。 スクリャービンの作品群は続けて演奏され、4楽章(もしくは、

          巨匠は空間を支配した!~ボリス・ペトルシャンスキー ピアノ・リサイタル 東京文化会館「プラチナ・シリーズ」第1回

          国立近代美術館MOMATコレクション「戦争の時代ー修復を終えた戦争記録画を中心に」短評Ⅰ

          修復を終えた戦争記録画のまとまった展示を主目的に、国立近代美術館の MOMATコレクションに足を運んだ。目玉は、藤田嗣治の『哈爾哈河畔之戦闘』だろう。ウクライナ戦争が続くなか、ノモンハンでの戦闘の一部を描いた絵画は、いっそうリアリティを増している。戦車機動部隊と歩兵との戦い、さらに、平地での戦闘というのにもひるまず、ロシア軍戦車を襲う勇壮な日本兵が描かれているが、これと裏表のように、死体が横たわるような作品も書かれたと伝わっているそうだ。 以前、「美の巨人たち」でみた記憶が

          国立近代美術館MOMATコレクション「戦争の時代ー修復を終えた戦争記録画を中心に」短評Ⅰ

          大泉のせい?否、今回は北条のせい!~『鎌倉殿の13人』義高・藤内の誅殺をめぐって

          大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で、頼朝が御家人たちの騒動に責任がないとわかっていながら、上総介広常を誅殺する回は、上総(権)介を演じた佐藤浩市の演技のよさもあって、頼朝の残忍さが話題になった。頼朝役の個性的な役者の名をキーワードに「大泉のせい」と呟かれたことは記憶に新しいところだ。 このドラマが描くのは、独裁的な武断派の頼家が廃され、有力者13人による合議制が成立し、実朝が暗殺された後、承久の乱を経て、武家支配が確立すると、義時の息子、泰時が御成敗式目を制定して、幕府の法治体制

          大泉のせい?否、今回は北条のせい!~『鎌倉殿の13人』義高・藤内の誅殺をめぐって

          2つの映画を観てのシナジー効果を体感せよ 藤元明緒監督『白骨街道 ACT1』&『僕の帰る場所』~「映画を観て、ミャンマーを知る」試写会をみて

          藤元明緒監督が映画第3作として、『白骨街道 ACT1』を世の中に送り出す。4月16日からの公開を前に、Filmサポーター向けの試写会で拝見した。この「新作」は16分ほどの短編ということもあり、『僕の帰る場所』とのコンビネーションで、「映画を観て、ミャンマーを知る」という企画にまとめられている。ACT1 となっているように、アジアや戦争に関係する続編が構想されている中での、キックオフの意味も帯びているようだ。 ミャンマーつながりという安易な構成にも思えるだろうが、この2本を続け

          2つの映画を観てのシナジー効果を体感せよ 藤元明緒監督『白骨街道 ACT1』&『僕の帰る場所』~「映画を観て、ミャンマーを知る」試写会をみて

          打楽器だけが知る忘れられた音物語の新生~映画『戦慄せしめよ』劇場公開記念ライブより

          翌日に公開を控える映画『戦慄せしめよ』(豊田利晃監督)のプロモーションを兼ねた、渋谷WWWXでの「劇場公開記念ライブ」は、最後に和太鼓グループ「鼓童」のメンバー2人が大きな太鼓をはさみ、圧巻のパフォーマンスをおえたあと、「真冬の佐渡で一生懸命、祈りをこめて撮影したので、観てください」という趣旨の挨拶で締め括られた。正確な台詞は憶えてないが、その「祈り」という言葉は鮮烈に、私のあたまの中に残っている。やはり、という印象だったからだ。 生憎ではあるが、この映画が1月28日に東京と

          打楽器だけが知る忘れられた音物語の新生~映画『戦慄せしめよ』劇場公開記念ライブより

          珠玉のような芸術的作品~アニメ版『平家物語』(第1-2回)

          【概要】 『平家物語』がアニメ化されるという噂は、以前から聞いていた。河出から出ている古川日出男の訳に基づき、吉田玲子が脚本を書き、山田尚子が監督。昨秋、フジテレビ系のオンデマンドで公開されていたらしいが、1月から地上波の放送が始まって、話題を呼んでいる。吉田&山田のコンビは、京都アニメーション制作で、異色のアニメーション映画として話題を呼び、受賞を重ねた(*批判もあり)『聲の形』と同じコンビだ。 初回をみて、非常に驚いた。私はアニメーションに詳しいほうではないので、適切な

          珠玉のような芸術的作品~アニメ版『平家物語』(第1-2回)

          2021年 清水エスパルスの分析

          2021年の清水エスパルスは監督に国内外で実績ある戦術家のミゲル・アンヘル・ロティーナ監督とイヴァン・パランコ(アシスタント・コーチ)のコンビを呼び、大規模な補強を行うことで、血の入れ替えまでをも断行して、4クラブ降格のリスクを回避するとともに、上位進出までを視野に入れた準備を行っていた。 だが、期待されたプレ・シーズンからみると、散々な結果におわり、ロティーナ監督は退任、平岡コーチが再びファイアーマンを務めて、最終節まで残留すら決まらない低調なシーズンとなった。 本来のポテ

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          映画 街の上で ~人と人とが出会うこと

          映画『街の上で』は深みのある、娯楽作品である。 ひとりの平凡な青年が主人公であると同時に、下北沢という街がタイトル通りに存在感を発揮している。そもそも本作は第10回下北沢映画祭の記念作として構想され、今泉力哉監督の手に委ねられた。資金面ではクラウド・ファウンディングも募集され、200万円ちかくの支援金が集まったようだ。その経緯からすると、街そのものが何らかのモティーフとして登場することは必然であったろうが、褒められすぎることもなく、ちょうどいい、等身大の街の姿が、もう一方の

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          『青天を衝け』第5回&第6回    ~惇忠の流すデマと、ミルクのつながり

          NHKの大河ドラマ『青天を衝け』第5回と第6回について、もしかしたら、あまり指摘されていないことを、ここで取り上げたいと思う。 第5回は「栄一、揺れる」という副題の通り、安政江戸地震が描かれた回である。歴史的な要素としては、親藩の実力者として幕閣とぶつかり合う水戸斉昭と、その間に挟まって、精神的な紐帯も根太い主君を支える藤田東湖との、主従師弟の絆が印象的に描かれる。それが地震によって、無残にも断たれてしまうという物語であり、10年目の 3.11 にもっとも近い回として相応し

          『青天を衝け』第5回&第6回    ~惇忠の流すデマと、ミルクのつながり

          大河ドラマ『青天を衝け』~序盤の歴史的背景

          大河ドラマ『青天を衝け』が、異例の2月初回を迎えた。戦国に続いて人気のある幕末からスタートするものの、主役の渋沢栄一は維新後の人生のほうが長く、また、武人ではなく、経済の要人が主役とあって、苦戦も予想されたが、蓋を開けてみれば女性を中心とする視聴者数が伸び、世間的な反応も順風満帆な船出となった。その後、アゲインストも出ているが、歴史ものとしての評価はともかく、ドラマとしてはすこぶる上出来だ。 今作は吉沢亮演じるところの渋沢栄一が主役であるが、序盤は、のちに渋沢を登用すること

          大河ドラマ『青天を衝け』~序盤の歴史的背景

          多面体と均等性のサッカー~ロティーナ清水 初陣の分析

          2/27 Jリーグ開幕節で、ロティーナ=清水がアウェイ鹿島戦をスティールし、1-3と逆転勝ちして、初陣を飾った。 新加入7名が先発し、昨季からピッチにいるメンバーはキャプテンの竹内を筆頭に、CBのヴァウド、CF→LMFに立ち位置を変えたカルリーニョス・ジュニオのブラジル勢に加え、DMFの中村を含めた4人のみとなった。 半面では、ホームグロウン組は竹内のみとなり、チームの強さは増したものの、やや寂しさがないといえば噓になる。この状況を、新加入組に追い越されたメンバーたちが覆

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